357 / 607
第九章 異世界訪問編
第18話 新しい依頼
しおりを挟む神樹メアリー様がいる森から学園都市へ帰ると、俺はすぐに仕入れた情報をギルドとメラディス首席、ダンに報告した。
メラディス首席とダンには念話で、マウシーには直接会って伝える。
その日のうちに、マウシーが、エルファリアのギルド本部から出された、依頼を持ってきた。
パーティ・ポンポコリンへの指名依頼だ。
依頼主は、エルファリアのギルド本部、依頼内容は、世界群にある神樹の調査だ。
依頼書には「神樹の調査」とあるが、本当は、エミリーが神樹メアリー様に行ったことを他の世界でもしてほしいということだろう。
俺は、条件つきでその依頼を受けた。
条件と言うのは、一旦エミリーを地球世界に帰すことだ。
彼女は、もともとこちらには治療のために来ているからね。
父親のハーディ卿も彼女の帰りを心待ちにしているはずだ。
また、この件で、翔太はパーティ・ポンポコリンに所属することになる。
彼が、エミリーの『守り手』であるから仕方なくだ。
翔太本人は、とても喜んでいたけどね。
メラディス首席に頼んで、昨日会ったジョイとその上司を地球世界に招くことにした。
それによって、学園都市世界の科学を地球世界に取りこむことができる。
それが地球の「枯れクズ」研究を何歩も進めるはずだ。
もちろん、地球の研究者の中で希望する者を学園都市世界へ呼ぶことも考えている。
学園都市世界のポンポコ商会に、コケット素材の緑苔とお酒『フェアリスの涙』を置いておく。
そういえば、『枯れクズ』の研究所は、かつて賢人達が使っていた秘密施設跡が選ばれた。
俺はそこに、土魔術で総二階建ての研究施設十棟を建てた。
中央に円形の大きな建物を置き、そこから三方向へ三棟ずつ放射状に延びるように配してある。
研究所は、この世界の神樹様にちなみ、『メアリー研究所』と名づけた。
俺は、学園都市世界を出発する準備を始めた。
◇
翔太、エミリー、俺、それに、ジョイとその上司ステファンが出発の用意を整えている。
場所は、ギルド本部のポータル部屋だ。
部屋にはメラディス首席、ダン、元気になったホープを抱いたドーラの姿があった。
「おい、次はもう少し長くいてくれよ」
「ああ、神樹様をたのんだぞ、ダン」
神樹メアリー様の近くには、監視小屋を設置し、ポンポコ商会、行政府がそれを見張ることになっている。
「シローさん、『枯れクズ』の無償提供ありがとうございます」
「メラディス首席、無償なのは研究用だけですから、お気にせず。
あと、地球世界からの研究者受入れの件、よろしくお願いしますよ」
「分かっております。
すでに、研究施設はあるわけですから、造作もないことです」
「シロー、次はウチにも泊ってね」
俺は、ドーラの腕に抱かれ眠っている、赤ちゃんの頭を撫でる。
「ああ、ホープに会いにくるよ」
「待ってるわ」
エミリーと翔太が、ホープの可愛さに夢中になっている。
「二人とも、シローさんに迷惑かけないようにね」
メラディス首席が、地球世界まで行く予定の研究者二人に声を掛ける。
「分かっております、首席」
「全力を尽くします」
彼らの『枯れクズ』研究は、学園都市世界の命運を握っている。
二人の意気込みは、凄いものがある。
「じゃ、もう行くよ。
エミリー、翔太、皆さんとホープにご挨拶して」
二人は、みんなに挨拶したあと、ホープの側で名残惜しそうにしていた。
こうして、肩にブランを乗せた俺、エミリー、翔太、研究者二人は、アリストがあるパンゲア世界へのポータルを潜った。
◇
学園都市世界とパンゲア世界を繋ぐポータルは、サザール湖の岸近くに浮かぶ小島にある。
俺たちがポータルから出ると、そこには友人が待っていた。
「「「シロー、お帰り」」」
ブレットのパーティ、ハピィフェローだ。
五人は、俺と言葉を交わしたあと、エミリーと翔太に向かい深々と礼をした。
「プリンス、聖女様。
お帰りなさい」
「あれ?
ブレット、なんで翔太のあだ名を知ってるの?」
「ああ、お前が留守の間に、国の方で、翔太様は『アリスト王国プリンス』、エミリー様は『聖女様』と、正式に決まったんんだ」
畑山さん、何やってんの!
しかし、翔太が、本物のプリンスになっちゃったよ。
聞きなれない名で呼ばれた、翔太とエミリーのぎこちない表情が初々しい。
俺は、ブレットたちに、二人の研究者を紹介すると、マスケドニア国の紋章がついた船に乗りこんだ。
「こんな豪華な船、初めて乗った」
体が大きなダンは、船の豪華さに、少し居心地が悪そうだ。
彼によると、島までは、普通の船で来たそうだ。
エミリーと翔太は船室に入らず、甲板で湖の景色を眺めている。
「凄く綺麗ね」
「うん、ホント」
最初は、余り会話が無かった二人だが、多言語理解の指輪による助けもあり、最近はよく話をするようになった。
これからは、『聖樹の巫女』とその『守り手』として、行動を共にすることが多くなるだろうから、これは良い傾向だ。
岸に着くと、王宮からの馬車が待っていた。
俺、エミリー、翔太と研究者二人は別々の馬車に乗り、それぞれに護衛としてハピィフェローが分乗した。
王宮に着くと、貴賓室に通された。ハピィフェローの面々は、控室で待機している。
マスケドニア国王とショーカが王族に対する礼をする。
もちろん、エミリーと翔太に向けてだ。
「初めてお目にかかります、軍師ショーカです。
聖女様、アリスト国プリンスには、遥々わが国まで来ていただき光栄です。
本来、正式なご挨拶をするべきですが、お忍びの旅ということで、この部屋に席を用意させました」
「余がマスケドニアの王じゃ、聖女様、プリンス、よう参られた。
ここを我が家と思い、くつろがれよ」
挨拶を受けた二人は、明らかに高貴な身分の二人から、そんな挨拶を受けて固まっている。
しょうがないから、俺が紹介する。
「エミリー、翔太、こちらの方は、この国の国王陛下と軍師様だよ。
ご挨拶して」
「は、初めまして」
「こ、こんにちは」
二人は、とっさの事に、しどろもどろになっている。
そんな二人も、テーブルに着くと、やっと人心地ついたようだ。
それというのも、加藤とヒロ姉が入ってきたからだ。
「ボー、旅はどうだった?」
「ああ、順調だったが、大切な仕事ができたよ。
後で、陛下とお前、ショーカさんに話があるから」
「おい、お前が真面目な顔をするってどういうことだ。
ちょっと怖いぞ」
実際、怖い話をするんだけどね。
ヒロ姉は、さっそくショータの隣に座り、旅の様子を根掘り葉掘り聞いている。
エミリーは、そんな二人の様子を見てニコニコしている。
その後、みなが食事を終えると、ショーカに頼み、人払いしてもらう。
エミリーと翔太は、別室でハピィフェロー、ヒロ姉と一緒だ。
「で、シロー、話とは何じゃ」
俺の様子から、ただならぬものを感じたのだろう。
陛下も、いつものような気さくな声ではない。
俺は、聖樹様から聞いた話を二人にした。
「ふむ。
それでお主は、その危機を、どのようなものだと考えている」
「あくまで、俺の予想ですが、ポータルズ世界群の消滅だと思います」
「な、なにっ!」
「そ、そんな馬鹿な!」
「おい、ボー、マジか!」
これを聞いて驚かない方が、おかしいよね。
「ということは、聖女様のお役目は、それを防ぐことですね?」
さすが、軍師ショーカ、打てば響くというやつだ。
「ええ、彼女は、すでに学園都市世界で、その片鱗を見せました」
俺は、神樹メアリー様とエミリーのやり取りを話した。
「なるほどのお。
神樹様の存在が、カギなのじゃな?」
「はい、陛下。
神樹様の力を取りもどすこと、その数を増やすことで、危機は遠ざかると考えています」
「分かった。
我が国も、総力で事に当たらせてもらおう。
何か、できることはないか?」
俺は、手始めに、『枯れクズ』の研究機関を作るようお願いした。
この国には、優れた錬金術師がいる。
錬金術からのアプローチで『枯れクズ』を研究するということだ。
「シロー、そのような貴重なもの、場合によっては、アリストの脅威になるかもしれぬものを、我々に渡していいのですか?」
ショーカは、そこに気づいたようだ。
「ええ、貸しだす『枯れクズ』には、他に転用したりできない仕掛けを組みこんであります。
それに、研究用以外は、有償になりますから」
「さすがに、抜け目ないですね」
ショーカが、感心したように言う。
「陛下、研究所については、秘密厳守のため、一か所に絞ってください。
建物の方は、よろしければ、俺が造っておきます」
「よかろう。
場所は、明日知らせる。
今日はゆっくりするがよい」
「ありがとうございます」
こうして、俺たちは、その夜、マスケドニア王宮に泊まることになった。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる