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第九章 異世界訪問編

第18話 新しい依頼

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 神樹メアリー様がいる森から学園都市へ帰ると、俺はすぐに仕入れた情報をギルドとメラディス首席、ダンに報告した。

 メラディス首席とダンには念話で、マウシーには直接会って伝える。
 その日のうちに、マウシーが、エルファリアのギルド本部から出された、依頼を持ってきた。
 パーティ・ポンポコリンへの指名依頼だ。
 依頼主は、エルファリアのギルド本部、依頼内容は、世界群にある神樹の調査だ。

 依頼書には「神樹の調査」とあるが、本当は、エミリーが神樹メアリー様に行ったことを他の世界でもしてほしいということだろう。

 俺は、条件つきでその依頼を受けた。
 条件と言うのは、一旦エミリーを地球世界に帰すことだ。

 彼女は、もともとこちらには治療のために来ているからね。
 父親のハーディ卿も彼女の帰りを心待ちにしているはずだ。

 また、この件で、翔太はパーティ・ポンポコリンに所属することになる。
 彼が、エミリーの『守り手』であるから仕方なくだ。
 翔太本人は、とても喜んでいたけどね。

 メラディス首席に頼んで、昨日会ったジョイとその上司を地球世界に招くことにした。
 それによって、学園都市世界の科学を地球世界に取りこむことができる。
 それが地球の「枯れクズ」研究を何歩も進めるはずだ。
 もちろん、地球の研究者の中で希望する者を学園都市世界へ呼ぶことも考えている。

 学園都市世界のポンポコ商会に、コケット素材の緑苔とお酒『フェアリスの涙』を置いておく。
 そういえば、『枯れクズ』の研究所は、かつて賢人達が使っていた秘密施設跡が選ばれた。
 俺はそこに、土魔術で総二階建ての研究施設十棟を建てた。
 中央に円形の大きな建物を置き、そこから三方向へ三棟ずつ放射状に延びるように配してある。
 研究所は、この世界の神樹様にちなみ、『メアリー研究所』と名づけた。


 俺は、学園都市世界を出発する準備を始めた。

 ◇

 翔太、エミリー、俺、それに、ジョイとその上司ステファンが出発の用意を整えている。

 場所は、ギルド本部のポータル部屋だ。
 部屋にはメラディス首席、ダン、元気になったホープを抱いたドーラの姿があった。

「おい、次はもう少し長くいてくれよ」

「ああ、神樹様をたのんだぞ、ダン」

 神樹メアリー様の近くには、監視小屋を設置し、ポンポコ商会、行政府がそれを見張ることになっている。

「シローさん、『枯れクズ』の無償提供ありがとうございます」

「メラディス首席、無償なのは研究用だけですから、お気にせず。
 あと、地球世界からの研究者受入れの件、よろしくお願いしますよ」

「分かっております。
 すでに、研究施設はあるわけですから、造作もないことです」

「シロー、次はウチにも泊ってね」

 俺は、ドーラの腕に抱かれ眠っている、赤ちゃんの頭を撫でる。

「ああ、ホープに会いにくるよ」

「待ってるわ」

 エミリーと翔太が、ホープの可愛さに夢中になっている。

「二人とも、シローさんに迷惑かけないようにね」

 メラディス首席が、地球世界まで行く予定の研究者二人に声を掛ける。

「分かっております、首席」
「全力を尽くします」

 彼らの『枯れクズ』研究は、学園都市世界の命運を握っている。
 二人の意気込みは、凄いものがある。

「じゃ、もう行くよ。
 エミリー、翔太、皆さんとホープにご挨拶して」

 二人は、みんなに挨拶したあと、ホープの側で名残惜しそうにしていた。

 こうして、肩にブランを乗せた俺、エミリー、翔太、研究者二人は、アリストがあるパンゲア世界へのポータルを潜った。

 ◇

 学園都市世界とパンゲア世界を繋ぐポータルは、サザール湖の岸近くに浮かぶ小島にある。

 俺たちがポータルから出ると、そこには友人が待っていた。

「「「シロー、お帰り」」」

 ブレットのパーティ、ハピィフェローだ。
 五人は、俺と言葉を交わしたあと、エミリーと翔太に向かい深々と礼をした。

「プリンス、聖女様。
 お帰りなさい」

「あれ? 
 ブレット、なんで翔太のあだ名を知ってるの?」

「ああ、お前が留守の間に、国の方で、翔太様は『アリスト王国プリンス』、エミリー様は『聖女様』と、正式に決まったんんだ」

 畑山さん、何やってんの!
 しかし、翔太が、本物のプリンスになっちゃったよ。

 聞きなれない名で呼ばれた、翔太とエミリーのぎこちない表情が初々しい。
 俺は、ブレットたちに、二人の研究者を紹介すると、マスケドニア国の紋章がついた船に乗りこんだ。

「こんな豪華な船、初めて乗った」

 体が大きなダンは、船の豪華さに、少し居心地が悪そうだ。
 彼によると、島までは、普通の船で来たそうだ。
 エミリーと翔太は船室に入らず、甲板で湖の景色を眺めている。

「凄く綺麗ね」
「うん、ホント」

 最初は、余り会話が無かった二人だが、多言語理解の指輪による助けもあり、最近はよく話をするようになった。
 これからは、『聖樹の巫女』とその『守り手』として、行動を共にすることが多くなるだろうから、これは良い傾向だ。

 岸に着くと、王宮からの馬車が待っていた。
 俺、エミリー、翔太と研究者二人は別々の馬車に乗り、それぞれに護衛としてハピィフェローが分乗した。

 王宮に着くと、貴賓室に通された。ハピィフェローの面々は、控室で待機している。
 マスケドニア国王とショーカが王族に対する礼をする。
 もちろん、エミリーと翔太に向けてだ。

「初めてお目にかかります、軍師ショーカです。
 聖女様、アリスト国プリンスには、遥々わが国まで来ていただき光栄です。
 本来、正式なご挨拶をするべきですが、お忍びの旅ということで、この部屋に席を用意させました」

「余がマスケドニアの王じゃ、聖女様、プリンス、よう参られた。
 ここを我が家と思い、くつろがれよ」

 挨拶を受けた二人は、明らかに高貴な身分の二人から、そんな挨拶を受けて固まっている。
 しょうがないから、俺が紹介する。

「エミリー、翔太、こちらの方は、この国の国王陛下と軍師様だよ。
 ご挨拶して」

「は、初めまして」
「こ、こんにちは」

 二人は、とっさの事に、しどろもどろになっている。
 そんな二人も、テーブルに着くと、やっと人心地ついたようだ。
 それというのも、加藤とヒロ姉が入ってきたからだ。

「ボー、旅はどうだった?」

「ああ、順調だったが、大切な仕事ができたよ。
 後で、陛下とお前、ショーカさんに話があるから」

「おい、お前が真面目な顔をするってどういうことだ。
 ちょっと怖いぞ」

 実際、怖い話をするんだけどね。
 ヒロ姉は、さっそくショータの隣に座り、旅の様子を根掘り葉掘り聞いている。
 エミリーは、そんな二人の様子を見てニコニコしている。

 その後、みなが食事を終えると、ショーカに頼み、人払いしてもらう。
 エミリーと翔太は、別室でハピィフェロー、ヒロ姉と一緒だ。

「で、シロー、話とは何じゃ」

 俺の様子から、ただならぬものを感じたのだろう。
 陛下も、いつものような気さくな声ではない。
 俺は、聖樹様から聞いた話を二人にした。

「ふむ。
 それでお主は、その危機を、どのようなものだと考えている」

「あくまで、俺の予想ですが、ポータルズ世界群の消滅だと思います」

「な、なにっ!」
「そ、そんな馬鹿な!」
「おい、ボー、マジか!」

 これを聞いて驚かない方が、おかしいよね。

「ということは、聖女様のお役目は、それを防ぐことですね?」

 さすが、軍師ショーカ、打てば響くというやつだ。

「ええ、彼女は、すでに学園都市世界で、その片鱗を見せました」

 俺は、神樹メアリー様とエミリーのやり取りを話した。

「なるほどのお。
 神樹様の存在が、カギなのじゃな?」

「はい、陛下。
 神樹様の力を取りもどすこと、その数を増やすことで、危機は遠ざかると考えています」

「分かった。
 我が国も、総力で事に当たらせてもらおう。
 何か、できることはないか?」

 俺は、手始めに、『枯れクズ』の研究機関を作るようお願いした。
 この国には、優れた錬金術師がいる。
 錬金術からのアプローチで『枯れクズ』を研究するということだ。

「シロー、そのような貴重なもの、場合によっては、アリストの脅威になるかもしれぬものを、我々に渡していいのですか?」

 ショーカは、そこに気づいたようだ。

「ええ、貸しだす『枯れクズ』には、他に転用したりできない仕掛けを組みこんであります。
 それに、研究用以外は、有償になりますから」

「さすがに、抜け目ないですね」

 ショーカが、感心したように言う。

「陛下、研究所については、秘密厳守のため、一か所に絞ってください。
 建物の方は、よろしければ、俺が造っておきます」

「よかろう。
 場所は、明日知らせる。
 今日はゆっくりするがよい」

「ありがとうございます」

 こうして、俺たちは、その夜、マスケドニア王宮に泊まることになった。
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