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第九章 異世界訪問編
第13話 キャロの里帰り1
しおりを挟むルル、コルナ、コリーダに笑顔が戻ったので、俺はエルファリア行きの準備を始めた。
今回の旅行は、アリスト(パンゲア)を出発して、ケーナイ(グレイル)、聖樹の島(エルファリア)、学園都市(アルカデミア)、マスケドニア(パンゲア)と回り、最後にアリストに帰るというものになる。
いくら世界間は、セルフポータル、世界内では瞬間移動が使えるとはいえ、気候も風土も違う土地をこれだけ巡るのだから、服装を始め、いろいろなモノを準備しなければならない。
それに加え、各地の友人知人へのお土産が加わるのだから、整理が大変だ。
こんなことになるんだったら、地球でお土産を買った時に、その場で点収納にタグをつけておくんだった。
例えば、「お土産 アマンダさん」としておけば良かったのだ。
相変わらずの、うっかりだね。
その上、予定が少し早まるような連絡がキャロからもたらされた。
『シロー、聞こえる』
『ああ、キャロ、どうした?』
『ケーナイギルドからの連絡で、予定より少し早めに来てほしいということなの』
『どういう用件だった?』
『コルネさんが大切な話があるからということだったわ。
彼女は二三日で、ケーナイに着くそうよ』
そうか。彼女は、『聖樹の巫女』について、神樹様におうかがいを立てるため、狐人領に帰っていたからね。
神樹様から何かお告げを受けたのだろう。
『分かった。
だけど、俺が出発を早めるということは、君とフィロさんの出発も早まるということだけど、それは大丈夫かい?』
『ええ、コルネさんから連絡が来てすぐに、マックさんに頼んであるわ』
それなら大丈夫だろう。
『では、二日後の朝、ギルドに迎えに行くから』
『助かるわ。
じゃ、お願いね』
俺は、コルネが受けたであろうお告げの事を考えながら念話を切った。
◇
二日後の朝、俺は家族に声を掛けてから、ギルド前に瞬間移動した。
ギルド前では、キャロとフィロさんが、それぞれ大きな荷物を用意し、待っていた。
荷物を点収納に入れる。
俺たち三人は、ギルドの個室に入ると、そこから鉱山都市のポータル前に瞬間移動し、ポータルを渡った。
ケーナイにある舞子の屋敷に着く。
こちらは、昼も遅い時刻だった。
来客用の大部屋で待っていると、部屋の外から聞きなれた足音がして舞子が入ってくる。
「史郎君!」
舞子が抱きついてくる。
「あー、舞子、こちらアリストのギルドマスター、キャロさん。
それから、そのお父さんのフィロさんだよ」
他にも人がいたと気づき、舞子がぱっと俺から離れる。
「あ、キャロさん、お久しぶりです。
フィロさん、舞子と言います。
初めまして」
「お久しぶりです、聖女様」
「初めまして」
俺たちが、ソファーに座ると、すかさず犬耳メイドさんが、お茶を持ってくる。
さすが聖女つきのメイドだ。
お茶を少し飲んだところで、ノックの音がして、ピエロッティが入ってきた。
後ろには、翔太とエミリーを連れている。
ブランは、俺の肩から降りると、ささっと翔太の胸にとびこんだ。
「ピエロッティさん、こんにちは。
翔太に魔術を教えていただいてありがとうございます」
「とんでもないです。
ショータは素晴らしい生徒ですよ」
先生から褒められ、翔太の顔がぱっと輝く。
「シローさん、ボクの魔術見てくれるでしょ?」
「ああ、ぜひ見てみたいね」
翔太がニコニコしている。
「エミリー、君も元気にしてたかい?」
「はい。
でも、舞子お姉ちゃんから治癒魔術を教えてもらっても、全然できませんでした」
エミリーは、元気が無い。
彼女は、さっそく舞子に抱きついて慰めてもらっている。
俺は、彼女がなぜ治癒魔術が使えないか、その理由について、なんとなく考えていることがあった。
「史郎君、今回はゆっくり滞在できるの?」
「いや、明日には、エルファリアに発つつもりなんだ」
「ええっ!
明日……」
「コルネが来ていないからはっきりしたことは言えないけど、たぶんそうなると思うよ。
今回は、翔太とエミリーも連れていくつもりだよ」
「えっ? 私も?」
エミリーが驚くのも無理はない。
エルファリアなど、一度も聞いたことが無いのだから。
「うん、多分。
コルネという人が来たらはっきりするだろう」
そこで、ピエロッティが声を掛けてくる。
「シローさん」
「何でしょう」
「この後、ショータの事でおりいってご相談があります」
「分かりました」
気を利かせたのだろう。舞子は、翔太、エミリー、キャロ、フィロさんを連れ、部屋から出ていった。
◇
「ピエロッティさん、翔太の事でお話とは?」
ピエロッティは、肩に下げたカバンから、ソフトボール大の透明な球を出した。
彼が呪文を唱えると、それに文字が浮かびあがる。
「この数値を見てください」
大きな数字の横に、小さな数字が並んでいる。
ピエロッティは、一番上にある数字を指さした。
「これがレベルで、その横にある数字が、レベル内での獲得経験値です。
ショータ君が私と訓練を始める前、経験値はこうなっていました」
ピエロッティは、かなり長い数字をすらすらと口にした。
さすが魔術の専門家だ。
その数字は、目の前の数字とほとんど変わりが無かった。
「翔太は、あまり魔術が上達していないということですか?」
「いいえ。
彼の上達には、目を見張るものがあります。
問題は、経験値が獲得しにくいというところにあります」
「どういう問題なのでしょう?」
「かつて、ショータと同じような経験値獲得を示した魔術師がいました。
彼の名前はヴォーモーン。
ポータルズ世界群、歴史上最大の魔術師です」
なんか、話が大きくなってきたな。
ピエロッティは、話を続けた。
「特に、二つ以上の魔術を組み合わせる複合魔術は、彼だけにしか使えませんでした」
複合魔術? どこかで聞いたことがあるぞ。
「今では魔術の研究が進み、複数の魔術師が詠唱を組みあわせることで、疑似的に複合魔術を唱えられることが知られています」
複数の魔術師が詠唱? 聞いたこと、見たことがあるぞ。
「ピエロッティさん、ひょっとして『メテオ』という魔術をご存知ですか?」
「もちろんです。
その『メテオ』こそ、ヴォーモーンが作った最大の攻撃魔術です」
「しかし、彼は、どうやってそんなものを開発できたのですか?」
「ヴォーモーンは、マナ、つまり魔術の素が見えたと言われています。
その特質を利用して複合魔術を生みだしたようです。
さきほどの、『メテオ』にしても、彼は単独で唱えることができたそうです」
あの魔術を、単独で! とんでもないな。
「今日お話ししたかったのは、ショータが誤ってそういった魔術を暴走させないように、魔術学校できちんと教育を受けるようにお勧めすることでした」
「ピエロッティさんが教えるのでは、いけないのでしょうか?」
「基礎はともかく、私の魔術は攻撃系に特化しています。
ですから、よけいに危ないでしょう」
なるほど、広範な魔術知識により、暴走を防ごうというんだな。
「お話は分かりました。
翔太とも相談したうえ、先生からアドバイスしていただいた方向で考えたいと思います」
「ショータは、唯一無二の生徒です。
どうかよろしくお願いいたします」
「とんでもないです。
彼の事を心配していただき、本当にありがとうございます」
俺は、翔太のこれからのことに、あれこれ考えをめぐらすのだった。
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