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第九章 異世界訪問編

第7話 天竜国再び

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 舞子、彼女の両親、エミリー、翔太君と史郎は、ケーナイ郊外の舞子の屋敷に到着した。コルネと御者役のアンデも一緒だ。

 ピエロッティが、いそいそと舞子の荷物を持つ。
 メイド達が、舞子の両親や、エミリー、翔太君の荷物を持った。

 来客室に入ってソファーにくつろぐ。

 舞子が家族やエミリー、翔太君に宿泊する部屋を案内しているから、ここにはアンデとコルネしかいない。

「コルネ、さっき言ってた話だが」

「はい、何でしょう」

 素直なコルネは、かえって話しづらいな。

「舞子が連れてた女の子がいただろう」

「はい、綺麗な青い目をした人族の子ですね」

「そう。
 話というのは彼女が覚醒した職業についてなんだ」

「どんな職業についたのですか?」

 俺は、アンデとコルネに耳を寄せるように言った。点魔法のシールドで、周囲も覆う。

「それがね、『聖樹の巫女』っていうんだけど、何のことか分かるかい?」

 アンデは、驚いただけだが、コルネは、まるで幽霊をみたかのような顔になった。
 目を大きく見開き、口をパクパクさせている。
 まっ青になり、ブルブル震えだした。
 そんな彼女を、アンデが慌ててソファーに横たえる。
 コルネは意識を失った。

 どうやら、『聖樹の巫女』というのは、とんでもない職業らしい。
 そして、それがどうとんでもないのか、コルネは知っているという事か。

 アンデに頼み、コルネをお客さん用の寝室に運んでもらった。
 もちろん、部屋には厳重にシールドを張ってある。
 ついでに、エミリーや、舞子の両親の客室も同様にした。

 舞子がみんなを連れ、二階から降りてくる。

「史郎君、食事するくらいの時間はある?」

「そうだな。
 俺は、とりあえず、家族を迎えに行くよ。
 舞子、コルネが調子を崩してるから、アンデから事情を聴いてほしい」

「うん、分かった」

「後、俺が帰るまで、エミリーの事を頼むよ」

「史郎君、気をつけてね」

 舞子が俺に抱きつく。バイク旅行から、彼女はそういう事をするようになった。
 ハグを返して離れる。

「じゃ、二三日したら戻る。
 翔太は連れていくからね」

「行ってらっしゃい」

 俺は、翔太に歩みよる。彼は旅の疲れからか、あくびをしている。
 しかし、ここは心を鬼にして、彼を連れていく。

「翔太、俺の家族が他の世界にいるから、寝るのはそこに着いてからになるよ」

「えっ? 
 魔術の先生は、ここにいるんでしょ?」

「ああ、先生がいるのはここだけど、その前にやることがあるんだよ」

「分かりました」

「見たことないようなものが、たくさん見られるよ」

「うん! 
 行ってみる」

「じゃ、行くよ」

 俺は、翔太を連れ、セルフポータルを渡った。

 ◇

 史郎と翔太君、あと一人は、天竜国の真竜廟第三層に開いたポータルから出てきた。

「しかし、ヒロ姉、その恰好は……」

「あんたが、寝てる所を連れてきたんでしょうが」

 ヒロ姉は、パジャマ姿で、目をこすっている。

「後で行くところがあるって、ちゃんと言ったよ」

「明日とか、明後日とかだと思ったのよ」

「翔太、どう思う?」

「お姉ちゃん、なんでパジャマで来ちゃたの?」

「プ、プリンス~、お許しをー」

 ヒロ姉が、ひざまずいて首を垂れている。
 しょうがないから、点収納から俺用の上着を出す。

「とりあえず、これ羽織っといてください」

 ヒロ姉は、スッピンの顔を翔太君に見られるのが恥ずかしいのか、俺の後ろに隠れた。

「じゃ、行きますよ」

 三人は、森の中を歩きはじめた。

 ◇

「ギャー! 
 出たー!」

 ヒロ姉が絶叫するのは何度目だろうか。
 ジャイアントスネークが出るたび、この反応だもんね。

 点ちゃんに頼み、ブランには、かなり後ろを歩くよう言ってもらった。
 彼女がいると、蛇は怖がって出てこないからね。

 大蛇は、俺が張ったシールドに、大きな口を何度もぶつけている。
 この旅は、ヒロ姉の不注意な行動を反省させる意味もあるから、ここは我慢してもらおう。
 翔太君は、ヒロ姉が怖がる度にクスクス笑っている。
 彼は俺の魔法をどれだけ信頼してるんだろう。
 ちょっと、怖いね。

 森の中心にある泉の所まで来たので、そこから竜王様がいる部屋の前まで瞬間移動する。

「あれっ!? 
 やっと森を抜けたの? 
 もう、死ぬほど怖かったー」

 翔太君は、それが笑いのツボにはまってみたいで声を上げて笑いだした。

「プ、プリンスに笑われてる……イヤーッ!」

 しゃがみこんだヒロ姉が恥ずかしさに顔を隠す。
 そして、少しすると、彼女はゾンビのようにむくっと立ちあがった。

「史郎君」

 なんか、声が怖い。

「今、私達、泉からここまで一気に移動したわよね……」

「ええ、しましたが、それが何か?」

「ということは……森を通らなくてもよかった?」

 あちゃー、そこに気づいちゃいましたか。

「どうなの!? 
 どうなのよっ!?」

 ヒロ姉が、ずんずん俺の方に迫ってくる。
 その時、俺が背にした黄金色の大きな扉が音もなく開いた。
 中を覗きこんだとたん、ヒロ姉が気を失い、すとんと地面に落ちた。

『騒がしいので開けてみたが、シローではないか』

 振りむくと、俺を見下ろしている竜王様がいた。

 ◇

 俺は、やっと竜王様の部屋に戻ってきた。
 念話を家族に送ると、すぐに皆が駆けてくる足音がする。

「「パーパ!」」

 ナルとメルが俺に飛びつく。

「ただいま。
 いい子にしてたかい?」

 二人は顔を俺のお腹辺りに擦りつけていて答えない。
 二人の頭を撫でていると、ミミ、ポル、リーヴァスさんが現れる。

「リーダー、お帰りー。
 ずい分、長かったね」

 ミミが、笑っている。
 まあ、三か月近く留守にしたからね。

「シローさん、子竜がずい分大きくなりましたよ」

 ポルが、ニコニコして握手を求めてくる。

「聖樹様のお仕事は、無事終わりましたかな?」

 リーヴァスさんが、微笑んでいる。

「ええ、リーヴァスさん、皆の事、ありがとうございました。 
 聖樹様の導いてくださった事は、片づけてきました」

「そのお二方は?」

「勇者のお姉さんと、女王陛下の弟さんです」

「なんと! 
 では、故郷の世界に帰ったのですな?」

「はい、おかげさまで。
 詳しいことは、また後程」

「三人が待っていますぞ。
 どうぞこちらへ」

 リーヴァスさんが、俺をゆりかごの部屋だった扉の前まで連れていく。
 彼がノックをすると、扉が開いた。

 中から現れたのは、輝くばかりに美しい三人の女性だった。
 いや、「輝くばかり」ではなく、本当に輝いている。

 コルナは金色、コリーダは黒色、ルルが薄紫の薄布を羽織っている。
 頭にも、同色の薄いベールをかぶっていた。
 特別な素材で作られたであろう、その衣装がキラキラ輝いている。

 俺は感動で声が出ない。
 三人がお互いに目で合図すると、俺の周りに集まった。

 「「「シロー、お帰り」」」

 「……」

 『(・ω・)ノ ご主人様ー、ただいまって言わないのー』

 いや、点ちゃん、俺もう、胸がいっぱいいっぱい……。

 俺は、一人ひとりの手をぎゅっと握った。

 ここに帰ってきた。

「ただいま」

 俺と三人は、しばらく黙って立ちつくしていた。

 ◇

「うわっ! 
 何、この綺麗どころ!」

 あー、ヒロ姉のせいで、再会の余韻がぶち壊しだよ。
 もう十匹くらい、蛇に遭わせてもよかったかもね。

「シロー、この方は?」

 三人が、きっとヒロ姉の方を見る。

「ああ、こちら加藤のお姉さん。
 ヒロ姉って呼んであげて」

 三人の視線が緩む。

「ああ、カトーさんのお姉さんでしたか。
 初めまして、コルナです」
「コリーダと言います。
 よろしく」
「初めまして、ルルです。
 よろしくお願いします」

「ところで、お兄ちゃん。
 こちらの可愛い男の子は?」

 コルナのシリアスモードは一瞬で終わったようだ。
 すでにお兄ちゃん呼びになっている。

「彼は、翔太。
 アリスト女王陛下の弟君だよ」

 三人に頭を撫でられて、翔太が照れている。

「シロー、故郷の世界に帰れたんですね」

「ああ、ルル。
 君が予知したとおり、向こうでは大変な事が待ってたよ」

「あなたが無事帰ってきて、本当に嬉しいわ」

「君も元気だったかい、コリーダ」

「ええ、ありがとう。
 最近は、よく子竜達に歌を聞かせてるの」

「いいね! 
 俺も早く君の歌が聞きたいよ」

 ナルとメルが、俺から離れ、ルルに抱きつく。

「ルル、留守中、特に変わりは無かったかい?」

「ええ、子竜たちの世話が忙しく、あっという間でした」

「子竜は?」

 ルルが部屋の片隅を指さす。丸いボールのようなものが九つある。
 大、中、小、それぞれのサイズが三つずつだね。
 生まれた時期で大きさが違うんだろう。

 俺がいない間に六体が生まれたことになる。

「大変だったろう。
 忙しいときに居なくてすまない」

「大変だけど、とても楽しかったですよ。
 おじいさま、ミミちゃん、ポル君も手伝ってくれましたから」

 竜王様の念話が入る。

『シロー、母親役の彼女たち三人と、お前の友人には、本当に世話になったな』

『みんな、お手伝い出来て嬉しかったみたいですよ。
 それより、大変な時に留守にして申しわけありませんでした』

『なんの、聖樹様のお導きは尊きもの。
 またそのようなことがあれば、力をお貸しせよ』

『はい、そうします』

『疲れているようじゃから、風呂に入りすぐ休め』

『お言葉に甘えさせていただきます』

 俺は、久々に家族と会えたことで、心が満たされていた。
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