343 / 607
第九章 異世界訪問編
第4話 エミリーの覚醒
しおりを挟む俺は、家族を迎えに天竜国へ行く準備をしていた。
天竜の人々にとって役立ちそうなものは、地球で大方手に入れているが、アリストでないと手に入らない素材もある。
午前中にそれを購入しておき、昼食は自宅でキツネたちと一緒に食べる。
ポンポコ商会アリスト支店の運営状況をチェックする。
すでに、『フェアリスの涙』は、在庫が切れており、コケットも、ハンモック部分はあるのだが、緑苔が無くなっていた。
家族を連れかえった後で、大至急エルファリアへ向かおう。
食事の後、俺は仕事に無理やり区切りをつけてお城に来ている。
畑山さんから、翔太たちが『水盤の儀』をとりおこなうという連絡を受けたからだ。
俺が『王の間』に入っていくと、ちょうど加藤のおじさんが水盤に手をかざすところだった。
しかし、加藤夫妻、渡辺夫妻には水盤が反応しなかった。
やはり、異世界人でも一定の年齢を超えると覚醒しなくなるようだ。
翔太が、水盤に手をかざす。水盤は、強い光を発した。
ただ、加藤たちの時に比べると、その光はおとなしいものだった。
ハートンの声が響く。
「魔術師レベル30」
宮廷魔術師が並んでいる一角がどよめく。レベル30は、かなり凄いらしい。
翔太君は、満面に笑みを浮かべている。
次は、エミリーだ。
彼女は、緊張した面持ちで水盤に手を伸ばしたが、なぜか水盤は反応しなかった。
舞子が心配そうにエミリーを見ている。
そのとき、水盤を支えていたハートンが、すとんと床に腰を落とした。
彼は、青くなってブルブル震えている。
これはただ事ではない。
俺は、玉座の畑山さんに手で合図を送ると、ハートンが持つ水盤に近よった。
そこに浮かんだ文字は、今まで見たことがない職業を示していた。
聖樹の巫女
なんだこれは?
コルナがそうである『神樹の巫女』なら俺も知っているが、『聖樹の巫女』など聞いたことも無い。
ハートンが腰を抜かしたのも当たり前だ。
名前に「聖樹」とついているだけで、ただならぬことだ。
俺は、『初めの四人』共通のチャンネルで念話を送った。
『エミリーの職業は、「聖樹の巫女」だったよ』
『えっ? 「神樹の巫女」じゃないの?』
舞子も驚いている。
『名前に、「聖樹」と付いてるなんて、とんでもないことになったわね』
さすがに畑山さんは、事態の深刻さが分かっている。
『えっ?
麗子さん、「聖樹」だと、何かまずいの?』
約一名、なんにも分かっていないのが加藤だ。
『とりあえず、ハートンには厳重に口止めしておいた方がいいね』
『確かに、ボーが言うとおりね。
このことは、外に漏れないよう細心の注意を払いましょう』
俺たちが、そういう念話のやり取りをしていると、のん気な声が『王の間』に響いた。
「あー、この水みたいなのに手をかざすのね」
床に座ったハートンが掲げた水盤の上に手をかざしたのは、誰あろうヒロ姉だ。
「姉ちゃん、何してんの!」
加藤が呆れている。
「おっ!
光った、光った。
面白いわね、これ」
俺が文字を読むと、そこには次の文字が。
聖騎士 レベル30
おいおい、ヒロ姉が聖騎士かよ。
翔太が率いる『騎士』の一人としてなら資格があると思ってたんだけど。
ハートンが目を回しかけたので、ヒロ姉が水盤を代わりに支えた。
「ちょっと、この人どうしちゃったの?」
あなたのせいですよ、あなたの。
こうして、ヒロ姉がひっかき回し、水盤の儀は終わった。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる