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第九章 異世界訪問編

第3話 アドバイス

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 俺が瞬間移動した先は、自宅の広いリビングだった。

 目の前には、三人の少年少女がいる。
 ギルドでキャロから頼まれた、『星の卵』の三人だ。
 彼らは、何が起きたか分からないという顔で、キョロキョロ周囲を見まわしている。

「初めまして、俺は、シローです」

 三人が、ギョッとした顔をしてこちらを見る。

「さあ、そこに座って」

 俺が大テーブルの片側を指さすと、彼らはノロノロとそこに座った。

「ボク、夢を見てるのかな」
「お前も同じ夢を見てるのか、リンド」
「お兄ちゃん、ここどこ?」

 彼らは、何が起こっているか、よく呑みこめていないようだ。

「ギルドは、人が沢山いたでしょ。
 あそこでは、ゆっくり話もできないから、俺が魔法でこっちに送ったんだ」

 俺の説明に、背が高い少年の目が輝きだす。

「凄いっ! 
 ということは、本物の転移魔術、本物のシローさんだ!」

「え? 
 スタン君、これ、夢じゃないの!?」

「ああ、リンド、テーブルにも、こうして触れるぞ」

「あっ、ホントだ! 
 ていうことは、本物のシローさん!?」

「うん、俺がシローだよ。
 君たちも、自己紹介してくれよ」

「は、はいっ! 
 ボク、リンド十五歳です。
 少し前に、冒険者になりました」

「俺は、スタンです。
 パーティ『星の卵』のリーダーです。
 こっちが……」

「ま、待ってお兄ちゃん。
 自己紹介くらい、自分でできるわ。
 私は、スノーです。
 よろしくお願いします」

「スタン、リンド、スノーだね。
 よろしくね」

「シ、シローさん、ゴブリンキング倒したって本当ですか?」

 リンド君が、勢いこんで尋ねる。

「ああ、ブレットのパーティと一緒にだけどね」

「うわー! 
 やっぱり、本当だったんだ。
 凄いなあ」

「シローさん、最初の依頼が、白雪草採集だったって本当ですか?」

 これは、スタン君からの質問だ。

「ああ、懐かしいね。 
 本当だよ。
 ルルっていう先輩に、連れていってもらったんだ」

「えっ!? 
 金ランクのルルさんですか?」

 これは、スノーちゃん。

「そうだよ」

「すごいなあー、金ランクと黒鉄ランクで採集依頼なんて」

「ははは、その時は、まだルルが銀ランク、俺が鉄ランクだったよ」

「ひゃー、それって、いつの事です?」

「そうだね、一年と少し前かな」

「「「い、一年……」」」

 三人が、絶句している。

「実は、俺は異世界人でね。
 覚醒したとき、凄い魔法が、俺の所に来てくれたんだ」

 三人は目を輝かせ、俺の話を聞いている。

「その魔法やルル、ブレット、マック、他の冒険者に助けられてここまできたんだ」

 俺は、そこで一度、言葉を切った。

「冒険者として上に行くコツは、とにかく無理をしない事。
 いつも周囲をよく見て、慎重に行動することだね。
 死んでしまえば、上手くなろうにも、もう無理だろう?」

 三人が、深く頷く。

「そのためには、ここがすごく大切なんだ」

 俺は、自分の頭を指さした。

「冒険者をしてると、自分の命がとっさの判断力にかかってくることは、よくあるからね。
 君らが、本当に一流になりたいなら、それぞれ自分が興味ある分野の勉強をすることを勧めるよ」

「はいっ! 
 ボク、討伐に興味があります!」

 リンドが、元気に手を挙げる。

「リンド、討伐っていっても、近接なのか遠距離なのか、短剣なのか魔術なのか、その内容は様々だろう。 
 君は、そのどれに興味があるの?」

「そ、それは……」

「分かったかい。
 その中のどれを極めるか、どれが自分に向いているかって考えることも、判断力で決まるんだ。 
 自分に合わないものを選ぶと、命を落とすぞ」

 俺は、最後の所を少し声を落として言った。
 三人は、それだけで震えあがった。

「特に、スタンは、パーティの運営もしないといけないから、最初は、いろんなパーティの荷物持ちをして、よくリーダーを観察するといいよ」

「アドバイス、ありがとうございます!」

「スノーは、何か得意なものがあるかい?」

「わ、私、魔術が少し……」

「魔術のレベルは?」

「は、恥ずかしいけど、まだレベル2なんです」

「俺も、冒険者になったとき、レベル2だったよ」

「「「えええっ!」」」

「自分の魔術を大切にして、それを育てていけば、きっと君に応えてくれる。
 頑張ってごらん」

 スノーは、しっかり頷いた。

「ああ、それから、この机や椅子、この建物。
 なかなかいいだろ?」

「ええ、こんな素敵なお家、初めて見ました」

「これ、全部、俺が土魔術で作ったんだよ」

「「「えーっ!」」」

「魔術って、すごいんだぞ。
 君も、自分が得意な魔術を鍛えてごらん」

 そこで、パントリーのドアが開き、チョイスが出てくる。
 足元では、猪っ子コリンが、チョロチョロしている。

「あっ、シローさん! 
 お帰りなさい。
 おーい、デロちゃん」

「なんだよ、騒がしいな。
 あっ、シローさん!」

「二人とも、元気だった?」

「ええ、元気でしたよ」

「シローさん、デロちゃんなんて、キンベラって国が攻めてくるって聞いて、腰抜かしたんですよ」

「ははは、俺でも腰抜かすかもね」

「また、ご冗談を」

「それより、この三人にご飯を食べさせてやってくれる?
 お風呂にも、入れてやってね。
 あ、そうか。
 風呂沸かすのは、俺がやっとくよ」

「はい、分かりました」

 チョイスは、さっと、奥に駆けこんだ。大方、湯船を洗いに行ったのだろう。

「デロリン、食事は俺たちとこの子たちのに加えて、もう一つ作ってもらえる?
 これから、マックさんが来るんだ」

「へい、あの人が来るなら、多めに作らねえと」

 そう言うと、彼はキビキビした動きでキッチンへ向かった。
 スタンが、立ちあがると、俺の所まで来る。

「シローさん、さっきの耳が長い人って、もしかして……」

「そう、エルフだね」

「うわーっ、俺、エルフ見たの初めてです。
 おい、あの人、やっぱりエルフだって」
「凄い」
「エルフだわ」

 それから、マックがやってくるまで、三人に冒険の話をしてやった。
 派手な出来事は省き、地味なところだけだが。

「おう、来たぜ。
 さっそく、面倒見てるな」

 部屋に入ってきたマックは、少し赤い顔をしていた。
 この人、さっそくブランデーに手をつけたな。

 スタンたち三人は、デロリンの料理が余りに美味しかったらしく、のどに詰まらせ、マックに叱られていた。
 食事が終わると、俺は、風呂にあった水の魔道具を真竜廟で手に入れた温泉アーティファクトと交換し、湯を入れた。

 マック、スタン、リンドにまとめて入ってもらう。ウチの風呂は広いからね。
 スノーは、三人が出てきてから一人で入った。

「おい、シローよ。
 あの風呂は、一体なんだ。
 普通の湯じゃねえだろ」

「ああ、マックさん、あれは、俺が天竜国で手に入れたアーティファクトで入れた温泉風呂ですよ」

「アーティファクトって、おめえ気軽に言ってるが、秘宝だろうが」

「ええ、まあそうですが。
 沢山あるから、ギルドの浴室にもつけておきますね」

「まったく、お前さんにゃ、呆れるぜ」

 スノーが、お風呂から出たので、三人には、地球のお菓子を持たせて帰らせる。

「また、冒険の話を聞かせてください」
「今度来るときは、黒鉄のギルド章、見せてください」
「私、魔術がんばります!」

 パーティ『星の卵』の三人は、振りむき振りむき去っていった。

 マックさんと俺だけになると、席をソファーの方に移した。
 俺がいれた香草茶を間に、向かいあって座る。

「では、竜人世界であった事を、大まかに話しますよ」

 俺は、竜人国、天竜国と続いた冒険をかいつまんで話した。地球帰還時の事は話していない。
 地球の事は、こちらでは原則話さないというのが、『初めの四人』の約束事だからだ。

「じゃ、リーヴァスの兄貴は、まだその真竜廟って所にいるのかい」

「ええ、真竜様と一緒に、卵と生まれた子竜を守っています」

「で、お前はなんで、兄貴やルルを放っておいて、こんなところにいるんだ?」

 地球の事は話せないしなあ、どうしよう。

「実は、聖樹様から、極秘でお話がありまして」

「おい、早くそれを言わねえか。
 聖樹様の任務なら、仕方ねえな」

「明日、みんなを迎えに行くつもりなんですが、一緒に行きますか?」

「うーん、そうだな……竜が相手となると、俺じゃ力不足だ。
 今回は、遠慮するぜ。
 ワシは、さっきの三人の面倒でも見てるよ」

「分かりました」

「それから、これは老婆心からの忠告だがな」

「何でしょう」

「お前んところにゃ、これから国からの指名依頼が殺到するぜ。
 大体、さっきのアーティファクト一つとっても、それだけで国同士の争いが起きるようなしろもんだ。
 この前、キンベラって国が、アリストに攻めこみそうになったのも、お前たちを狙ったってのもあると思ってる。
 とにかく、以後は、くれぐれも行動に注意を払えよ」

 マックさんは、俺が鉄ランクの頃から、いつも適切なアドバイスをくれている。

「ありがとうございます」

 俺は、深々と頭を下げた。

「まあ、その謙虚さがある限り、心配ねえだろうがな、ガハハハ」

 その夜、俺は自宅で寝たが、家族がいないそこは、ことさらがらんと感じられた。
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