339 / 607
第八章 地球訪問編
第50話 栄誉と別れ
しおりを挟む一週間後、ニューヨークのコロンビア大学で、ピューリッツァー賞の授与式が行われた。
この賞は、ジャーナリズム部門、文学部門、音楽部門と分かれており、基本的にはアメリカ人だけが対象となる。
ただ、ジャーナリズム部門は、記事がアメリカの新聞に載れば、それで評価されるから、外国人でも受賞可能だ。
俺たちは、かなり後ろの席でその受与式の様子を眺めていた。
ここでいう俺たちとは、『初めの四人』と翔太君、加藤の両親、舞子の両親、そして翔太君の『騎士』五人、柳井さん、後藤さん、遠藤、ヒロ姉だ。
会場には、『ポンポコ商会地球支店』、『異世界通信社』がみんな来ている。
俺たちから少し離れた場所には、ハーディ卿とエミリーが座っており、その隣には白神と小西、そして林先生の姿も見える。
俺は、柳井さんと後藤さんがニューヨークに来てから、とても忙しく働いていた。
この授与式が始まるまで、くつろげる時間が無かったほどだ。
主に、俺が目を通さなければならない書類や報告のチェックが多かった。
まあ、明日からは、支店も通信社も完全に彼らに委ねるから、俺が出る幕はなくなるのだが。
そうそう、報告の中にあった二件が、俺の目を引いた。
例のダメダメアナウンサーとそのおじの局長が、テレビ局を去ったそうだ。
また、柳井さんをクビにしようとした彼女の元上司は、田舎の地方局に飛ばされた。
この件に関し、俺たちは何もしていない。
どうも、テレビ局側が、『異世界通信社』や俺たちとの関係をおもんばかって行ったことらしい。
いわゆる日本式「忖度」というヤツだ。
会場では、いよいよジャーナリズム部門の発表があった。
ジャーナリズムに関した様々な賞が次々に発表されていく。
そして、柳井さんと後藤さんの名前が挙がった。
異世界について世界で最初の通信社という事であり、また、ここ最近のニュース配信が高く評価された。
俺たちは、特別に空けてあるひな壇前のスペースに呼ばれ、二人に拍手した。
そのスペースは、ある理由からぐるりとSPが取りまいている。
進行役が、マイクを持つ。
「実は、今日我々は、この目で歴史的瞬間を目にすることになります」
会場の人々は、キョトンとした顔をしている。
それはそうだろう。進行役すら、これから始まることが知らされたのは、三十分ほど前だからね。
柳井さんが、マイクを渡される。
「皆さんの中には、いまだ異世界についてその存在を疑っている方も多いと聞きます。
そして、私はそれをジャーナリストの端くれとして誇らしく思います。
なぜなら、疑う事こそ我々ジャーナリズムの仕事だからです」
彼女は、ここで言葉を切り、会場を見渡した。
拍手が沸きおこる。
「今、私の前にいる『初めの四人』は、紛れもなく異世界から戻ってきました。
そして、多くの恩恵を我々に与えてくれました。
時が満ち、彼らはここから異世界に帰ります。
どうか、彼らに温かい拍手を」
柳井さんの声に応じる反応は無い。
観客席はシーンと静まりかえっている。
観客が、こういう反応をするのは予想されていた。
柳井さんと後藤さんがひな壇から降り、代わりに俺たちが上がる。
すなわち、『初めの四人』、翔太君を含むその家族関係者、そしてエミリーだ。
肩に白猫を乗せた俺が指を鳴らすと、スーツを着た大柄な男性が突然現れた。
「だ、大統領!
おい、トーマス大統領だ!」
「ど、どういうことだ!
突然現れたように見えたぞ」
「ニュースになるぞ、これはっ!」
大統領がマイクを握ると、会場のざわめきは次第に消えた。
「合衆国国民の諸君、今日は我々にとって記念すべき日である。
かつて月に第一歩を印して以来の快挙が行われるからだ」
彼は、手に提げていたレイをエミリーの首に掛ける。
「皆さん、わが国から最初に異世界に向かう彼女に拍手を!」
大統領の拍手に続き、物凄い拍手が起こった。
その割れるような拍手の中で、俺達は、先生や『騎士』と別れの挨拶を交わしていた。
後藤さんと柳井さんが並んで俺の所に来る。
「最高の栄誉をもらえたのは、シローさんのおかげです」
後藤さんが、周囲の音に負けないよう大声で言う。
「いえ、自腹を切ってまで俺たちを取材しようとした心意気が、ここにあなたを連れてきたんですよ」
俺は本音で答える。後藤さんは、充実したとてもいい顔をしていた。
「柳井さんも。
この賞をとったのは、あなたの実力です」
彼女は、言葉を失ったように見えたが、にっこり微笑むと俺に抱きついた。
「今だけは、こうさせて」
柳井さんのハグは、強く温かかった。
彼女が離れると、俺は念話で合図を送った。
異世界転移するメンバーが、俺の周囲に集まる。
その周りに円筒形のシールドを張り、それを広げていく。
比較的近くにいた進行役や大統領、一部のSPが、透明な壁に押され、俺たちから離れていく。
無関係な人が転移に巻きこまれると面倒だからね。
「帰ってきたら、俺の授業手伝えよ」
シールドの外から声を掛けてくれるのは、林先生。
「おい、『フェアリスの涙』頼むぞ」
これは白神。ここに来て、商売ですか。
「プリンスをよろしくね。
翔太様に何かあったら、たぁ~だじゃ済まさないんだから」
これは白騎士。
「安全第一」
黒騎士。
「「お土産、いっぱいお願いねー」」
これは、黄騎士、緑騎士。
「魔法の愛は世界を越える、プリプリどーん♪」
あなた、ここでそれやりますか、桃騎士。
「エミリー!」
「お父さん!」
別れはこういう風にやりたまえ、諸君。
最後に、見送りの皆が声を合わせる
「「「よい風を!」」」
転移組が手を振り、それに答える。
じゃ、点ちゃん、そろそろいいかな。
『(・ω・)ノ 準備できたよー』
俺は、アリストがあるパンゲア世界に照準を合わせ、セルフポータルを発動した。
-----------------------------------------------------------------------
「地球訪問編」終了 「異世界訪問編」に続く
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる