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第八章 地球訪問編

第50話 栄誉と別れ

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 一週間後、ニューヨークのコロンビア大学で、ピューリッツァー賞の授与式が行われた。

 この賞は、ジャーナリズム部門、文学部門、音楽部門と分かれており、基本的にはアメリカ人だけが対象となる。

 ただ、ジャーナリズム部門は、記事がアメリカの新聞に載れば、それで評価されるから、外国人でも受賞可能だ。
 俺たちは、かなり後ろの席でその受与式の様子を眺めていた。

 ここでいう俺たちとは、『初めの四人』と翔太君、加藤の両親、舞子の両親、そして翔太君の『騎士』五人、柳井さん、後藤さん、遠藤、ヒロ姉だ。
 会場には、『ポンポコ商会地球支店』、『異世界通信社』がみんな来ている。
 俺たちから少し離れた場所には、ハーディ卿とエミリーが座っており、その隣には白神と小西、そして林先生の姿も見える。

 俺は、柳井さんと後藤さんがニューヨークに来てから、とても忙しく働いていた。
 この授与式が始まるまで、くつろげる時間が無かったほどだ。

 主に、俺が目を通さなければならない書類や報告のチェックが多かった。
 まあ、明日からは、支店も通信社も完全に彼らに委ねるから、俺が出る幕はなくなるのだが。

 そうそう、報告の中にあった二件が、俺の目を引いた。
 例のダメダメアナウンサーとそのおじの局長が、テレビ局を去ったそうだ。
 また、柳井さんをクビにしようとした彼女の元上司は、田舎の地方局に飛ばされた。
 この件に関し、俺たちは何もしていない。
 どうも、テレビ局側が、『異世界通信社』や俺たちとの関係をおもんばかって行ったことらしい。
 いわゆる日本式「忖度」というヤツだ。

 会場では、いよいよジャーナリズム部門の発表があった。
 ジャーナリズムに関した様々な賞が次々に発表されていく。

 そして、柳井さんと後藤さんの名前が挙がった。
 異世界について世界で最初の通信社という事であり、また、ここ最近のニュース配信が高く評価された。

 俺たちは、特別に空けてあるひな壇前のスペースに呼ばれ、二人に拍手した。
 そのスペースは、ある理由からぐるりとSPが取りまいている。

 進行役が、マイクを持つ。

「実は、今日我々は、この目で歴史的瞬間を目にすることになります」

 会場の人々は、キョトンとした顔をしている。
 それはそうだろう。進行役すら、これから始まることが知らされたのは、三十分ほど前だからね。

 柳井さんが、マイクを渡される。

「皆さんの中には、いまだ異世界についてその存在を疑っている方も多いと聞きます。
 そして、私はそれをジャーナリストの端くれとして誇らしく思います。
 なぜなら、疑う事こそ我々ジャーナリズムの仕事だからです」

 彼女は、ここで言葉を切り、会場を見渡した。
 拍手が沸きおこる。

「今、私の前にいる『初めの四人』は、紛れもなく異世界から戻ってきました。
 そして、多くの恩恵を我々に与えてくれました。
 時が満ち、彼らはここから異世界に帰ります。
 どうか、彼らに温かい拍手を」

 柳井さんの声に応じる反応は無い。
 観客席はシーンと静まりかえっている。

 観客が、こういう反応をするのは予想されていた。
 柳井さんと後藤さんがひな壇から降り、代わりに俺たちが上がる。
 すなわち、『初めの四人』、翔太君を含むその家族関係者、そしてエミリーだ。
 肩に白猫を乗せた俺が指を鳴らすと、スーツを着た大柄な男性が突然現れた。

「だ、大統領! 
 おい、トーマス大統領だ!」
「ど、どういうことだ! 
 突然現れたように見えたぞ」
「ニュースになるぞ、これはっ!」

 大統領がマイクを握ると、会場のざわめきは次第に消えた。

「合衆国国民の諸君、今日は我々にとって記念すべき日である。
 かつて月に第一歩を印して以来の快挙が行われるからだ」

 彼は、手に提げていたレイをエミリーの首に掛ける。

「皆さん、わが国から最初に異世界に向かう彼女に拍手を!」

 大統領の拍手に続き、物凄い拍手が起こった。
 その割れるような拍手の中で、俺達は、先生や『騎士』と別れの挨拶を交わしていた。

 後藤さんと柳井さんが並んで俺の所に来る。

「最高の栄誉をもらえたのは、シローさんのおかげです」

 後藤さんが、周囲の音に負けないよう大声で言う。

「いえ、自腹を切ってまで俺たちを取材しようとした心意気が、ここにあなたを連れてきたんですよ」

 俺は本音で答える。後藤さんは、充実したとてもいい顔をしていた。

「柳井さんも。
 この賞をとったのは、あなたの実力です」

 彼女は、言葉を失ったように見えたが、にっこり微笑むと俺に抱きついた。

「今だけは、こうさせて」

 柳井さんのハグは、強く温かかった。

 彼女が離れると、俺は念話で合図を送った。
 異世界転移するメンバーが、俺の周囲に集まる。
 その周りに円筒形のシールドを張り、それを広げていく。

 比較的近くにいた進行役や大統領、一部のSPが、透明な壁に押され、俺たちから離れていく。
 無関係な人が転移に巻きこまれると面倒だからね。

「帰ってきたら、俺の授業手伝えよ」

 シールドの外から声を掛けてくれるのは、林先生。

「おい、『フェアリスの涙』頼むぞ」

 これは白神。ここに来て、商売ですか。

「プリンスをよろしくね。
 翔太様に何かあったら、たぁ~だじゃ済まさないんだから」

 これは白騎士。

「安全第一」

 黒騎士。

「「お土産、いっぱいお願いねー」」

 これは、黄騎士、緑騎士。

「魔法の愛は世界を越える、プリプリどーん♪」

 あなた、ここでそれやりますか、桃騎士。

「エミリー!」
「お父さん!」

 別れはこういう風にやりたまえ、諸君。

 最後に、見送りの皆が声を合わせる

「「「よい風を!」」」

 転移組が手を振り、それに答える。

 じゃ、点ちゃん、そろそろいいかな。

『(・ω・)ノ 準備できたよー』

 俺は、アリストがあるパンゲア世界に照準を合わせ、セルフポータルを発動した。

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「地球訪問編」終了 「異世界訪問編」に続く
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