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第八章 地球訪問編
第47話 ルート66(中)
しおりを挟む俺は、テキサスの果てで地元の愚連隊から難癖をつけられていた。
相手は、胸毛を見せつけるような服装をしたゴツイ白人、そして、骸骨の様な、おそらくヒスパニック系の男、ニヤニヤ笑いを浮かべた引きしまった体の白人だった。
「俺たちは、日本人だ」
俺の冷静な声が、かえって彼らを刺激したらしい。
「ジャップだと!
中国人以下だぜ。
その女を置いて、てめえらは消えな」
「そうだぜ。
お子様相手より、俺らを相手にした方が楽しめるってもんだ」
畑山さんと舞子を見ると、不快そうな顔はしているが、怯えている様子は全くない。
「へへへっ、俺はこっちをもらうぜ」
引きしまった体つきの男が舞子に手を伸ばそうとした。
その手がピタリと止まる。
「な、なんだ!
う、動かねえ」
「加藤、やっちゃって」
「でも、麗子さん、俺、弱い者いじめって嫌いなんだよね」
「あんた、この状況で何言ってんの!」
「何だと!
もっかい言ってみろ!
血祭りにあげてやる」
痩せたヒスパニックの男性が、腰から大型のナイフを引きぬいた。
尖った刃先がギラリと光る。
次の瞬間、そのナイフが加藤の顔をめがけて突きだされた。
ナイフは加藤の顔まであと三センチくらいのところでピタリと止まっていた。
加藤は、人差し指と中指で、ナイフの中ほどを挟んでいた。
痩せ男が、力任せにそれを振りほどこうとするが、ナイフはピクリともしない。
加藤があくびし終わると、ナイフはピキリと音を立て、先端がチャリーンと床に落ちた。
男たちの顔が青くなる。
「ボー、こいつらどうする?」
「そうだな。
こういうことを繰りかえしてるようだから反省してもらうかな」
「OK」
加藤の姿が一瞬ブレたと思ったら、三人の右手が、肘の辺りから変な方向へ曲がっていた。
「ぐぐあっ」
「あああっ」
「いてえっ!」
三者三様の悲鳴を上げ、奴らが倒れる。
カウンターの後ろにいた中年の白人男性がどこかに電話を掛けている。
俺たちは、倒れた白人をまたぎ、レジに向かった。
俺が財布を出したが、カウンターの男性は首を横に振るだけで、金を受けとろうとしない。
そうこうするうちに、パトカーのサイレン音が近づいてくる。
この音、すでに一度ニューヨークで聞いてるからね。
カウボーイハットをかぶった長身の若い白人警官がカウンターの男と早口で何か話している。
もう一人の警官は目つきの鋭い白人の女性だったが、腰の拳銃に手を当ててこちらを見張っている。
カウンターの男と話しおえた白人警官がこちらを向く。
「お前たち、中国人か?」
さも軽蔑したような表情で聞いてくる。
「いえ、日本人ですが」
「イエローモンキーか。
なんでこんなところをうろついてる?
パスポートを見せろ」
「まず、あなたの警察手帳を見せてくださいよ」
俺が言いかえすと、彼は激昂した。
「何だと!
黄色い猿の分際で、俺に命令するな!」
警棒のようなものを俺に向かって振りおろした。
加藤が動こうとしたので、念話で止めておく。
ガン
ボキッ
「ぐあっ!」
ああ、これは腕の骨がいっちゃいましたね。
うずくまった同僚を見て、女性警官が拳銃を抜こうとする。
しかし、彼女の腰に吊るされていたホルダーの中にそれは無かった。
加藤が、興味深げに手の上に載せた拳銃を眺めている。
「俺、本物の銃、手にしたの初めて」
女性警官がこちらを向いたまま、ゆっくり後ずさりする。
彼女は、戸口の所まで行くと、ダッと駆けだし、あっという間にパトカーに乗りこんだ。
無線を使っているようだ。
俺は、食べた分の金額よりやや多目にカウンターに置くと店を出た。
加藤は、パトカーのボンネットに拳銃を載せていた。
点収納からバイクを出し、全員が乗ると店を後にする。
町を出ると、荒野が広がる大地にまっ直ぐ伸びるルート66を時速三百キロで飛ばす。
このスピードになると、風魔術で風よけをつけておかないと息ができない。
もちろん、加藤にも風魔術を掛けてやった。
途中、後ろの方でパトカーのサイレンが聞こえたような気がしたが、そのまま道を走る。
青い空に、数個の雲がぽっかり浮いている。
バイクで走るには最高の風景だ。
俺たちは、雲と競争するように、荒野を切りさくルート66を北東に向かい突きすすむ。
次の町が見えてきたと思ったら、道いっぱいに複数のパトカーが停まっていた。
バリケードってやつかな。
『ボー、あれ、どうするの?』
畑山さんが念話してくるが、彼女に緊張は全く感じられなかった。
『せっかくお膳立てしてくれたんだから、ここは派手にいきますか』
『史郎君、危ないことはしないでね』
『大丈夫だよ、舞子。
安全に、派手なパフォーマンスするからね』
『ワクワクするなー』
加藤からのん気な念話が聞こえたタイミングで、「付与 重力」で、走行中のバイクを浮かせる。
俺たちは、バイクと共にバリケードと警察官多数を飛びこえた。
念のため周囲にシールドは張っておいたが、銃を撃ってきた者はいなかった。
きっと、彼らが驚いている間に俺たちが通りすぎたのだろう。
道を再び走りだしたが、誰も追いかけてこない。
まあ、時速三百キロは出てるから、追いかけても追いつけないんだけどね。
道も半ばを超え、旅情が高まる俺たちだった。
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