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第八章 地球訪問編

第39話 大統領との会見

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 ハーディ卿からの情報で仕事が大幅に減った俺は、予定の五日前には会見に向けた準備を終え、異世界に残してきた家族へのお土産を買ったり、一度行きたかったジャズの名店を訪れたりしていた。
 ニューヨークは、おもちゃ箱のような街で、興味があることをしていると、時間があっという間に過ぎていく。

 いつの間にかハーディ卿が大統領と会見する日がやってきた。
 俺はいつも通り早く起き、エルファリアのお茶、ポンポコ商会ドラゴニア支店のクッキーと蜂蜜で朝食を終えると、セントラルパークを散策した。

 会見は今日の夕食として行われる。
 本当は、ハーディ卿と大統領の会見なんだけどね。

 昼は、カキが有名な店で舌鼓を打った。値段は驚くほど高かったけど。

 昼食後は、身を整えるため入浴する。
 点ちゃん1号の風呂は温泉風呂だから、外が寒いときの入浴は特に気持ちがいい。
 入浴の後、コケットで少しまどろむと、すでに夕暮れが迫っていた。

 昼間、既に配置しておいた点に瞬間移動する。
 点は会見が予定されているホテルの屋上に設置しておいた。
 ハーディ卿によると、最上階のスイートルームが会見の場所だそうだ。

 最上階の各部屋に点を送り、調べていく。
 明らかに他と様子が違う部屋を見つけた。

 おそらくSPだろう。手にハンドワイパーのようなものを持った男が数人、それで壁や床を撫でている。
 きっと盗聴器や爆発物を調べているのだろう。

 目的の部屋が分かったので、点ちゃん1号に戻りゴロゴロする。
 白猫と遊んでいると、点ちゃんから連絡が来た。

『(・ω・)ノ ご主人様ー、ハーディさんが来たよー』

 ありがとう、点ちゃん。

 設置した点からはハーディ卿がドアから入ってきた映像が送られてくる。彼は、SPに案内され、奥の部屋に入る。
 その部屋は、中央に丸テーブルが備えつけられており、白いテーブルクロスの上には、ナイフやフォークが準備されていた。
 入り口から見て奥側の席にハーディ卿を座らせると、そのSPは壁際に控えた。

 それほど時間をおかず、四人のSPに囲まれた人物が部屋に入ってくる。
 それは紛れもなく、アメリカ大統領トーマスだった。

 ハーディ卿が立ちあがり、テーブル越しに二人が握手する。
 SPは二名が部屋にとどまり、残る二名が部屋の入り口を固めた。

「ジョン、久しぶりだな。
 今日は、政党への寄付金の件という事だが……」

 大統領が、いきなり用件から入る。
 分刻みのスケジュールをこなすことで、自然に身につけたスタイルなのだろう。
 二人はファーストネームで呼びあう仲らしい。

 お互いが座ったところで、ハーディ卿が口を開く。

「サム、久しぶりです。 
 その寄付金ですが、取りやめようかと考えています」

 大統領の顔色が変わる。

「おい! 
 忙しい私を、そんなことで呼びだしたのか!?」

「そんなことが、何を原因としているかによりますな」

 ハーディ卿は、アメリカ人が議会で宣誓するように片手を上げる。
 これは二つ決めておいた合図の一つだ。

 落ちついた暗めの色で統一されていた壁の一面が白く変わる。
 そこには、五人の若者が道を歩く映像が映しだされた。

「これは何だっ!」

「大統領、お国の大事ですぞ。
 落ちつきなさい」

「なんでこんなものが、国の……」

 そこで画面に変化が現れた、静止画面になったかと思うと、画面の端から破線が点々と引かれ、一人の少女の側頭部辺りで止まった。

「この少女は、このホテルからほど近い路上で、十日前に狙撃されました」

「なっ! 
 しかし、そのことがどうして国の事と関係してくる」

「この五人をよく見てください」

「うーん、見たところ東洋系のようだが、ああ、この一人だけいる白人の少女は見覚えがある気がするぞ」

「娘のエミリーですよ」

「そ、そうか。
 で、残りの四人は?」

「最近、国の上層部がおこなった極秘会議があったはずですが」

「お前、なぜそれを知ってる!」

「そんなことは、今はよろしい。
 そこでの議題は?」

「トップシークレットをこんな所で話すと思うか?」

「では、私が話してさしあげましょう。
 異世界からの帰還者に関することですな」

「ど、どうやって、それを!」

「こういう立場にいますと、自分から何もしなくても、情報は集まってくるものでしてな。
 もう一度、画面をよく見てごらんなさい」

 ハーディ卿は、席を立ち、スクリーンの前に行くと、茶色い布を巻いた俺の頭を指した。

「変わった帽子……いや、布か。
 ま、待てよ、もしかして、この四人……」

「やっと気づきましたね、大統領。
 そう、異世界からの帰還者ですよ」

「それにしても、一体誰が、彼らを狙撃など……」

「それは、すぐに分かりますよ」

 ハーディ卿が両手を上げると、二人の前に俺が現れた。

「お、お前は、帰還者!」

「初めまして大統領閣下。
 シローと言います」

 大統領が、四方を見回す。四人いるSPは、なぜかピクリとも動かない。
 ただ、全員がまっ青な顔で脂汗を流していた。

「どうやって……」

「それは、能力に関することなので、お話しできません。
 それより、ここに映っている狙撃をおこなった犯人が知りたくはありませんか?」

「なにっ!? 
 犯人が分かっているのか?」

「ええ、俺が確保しています」

「一体誰がこんなことをした?」

「お国の兵隊さんですよ」

「なっ、なにっ!? 
 そんなはずはない!
 軍部には不干渉を徹底してあるはずだぞ」

「まあ、それでも起きてしまったのが今回の事件です」

「な、なんということだ……。 
 しかし、実行犯が軍部の人間だという証拠でもあるのか?」

 俺が指を鳴らすと、部屋の片隅に裸の男たちが積みあげられた。
 彼らは、意識はあるが動けないようにしてある。
 見苦しいので、腰に布を巻かせている。

「この一番上の男、カーティス中佐が、事件の首謀者です。
 愛国者として、今回の行動をとったらしいですよ」

「そ、そうか。
 こいつらは、こちらに引きわたしてもらえるんだろうな?」

「ええ、ご自由に。
 ところで、俺たちを攻撃したらどうなるかは、ご存知ですよね」

「ま、待てっ! 
 それは知っている! 
 希望は何でもかなえるっ!
 頼むから考えなおしてくれっ!」

 トーマス大統領が、まっ青になり、ぶるぶる震えだした。
 日本の首相官邸で何が起きたか、彼が知っているのは明らかだね。

「まあ、今回はそれなりの代償をもらいますから、あなたには何もしませんがね」

 俺が手をゆっくり上げる。 
 指を鳴らすと、大統領がビクッと震えた。

「今回は、この程度にしておきましょう。
 次はありませんよ」

「一体何をした?」

 大統領の懐にある通信機が振動する。
 それは、緊急時にのみ使用する、特別な無線機だ。

「なんだ」

 大統領は、通信機から聞こえる声を途中まで聞いて息をのむ。

「そ、そんな馬鹿な……」

 ハーディ卿が問いかける。

「大統領、一体何があったのです」

「我が国の核兵器が……」

 動転している大統領は、思わず機密を口にしてしまい、慌てて黙りこんだ。

「なぜだ……。
 いったい、どうやって……」

「日本政府に伝えたことを、あなたにも伝えますよ。
 我々並びにその関係者への調査、攻撃が行われた場合、あなた方を消去します。
 何かするなら、その覚悟で。
 政府関係者以外の者が、そういう行動を取っても同様です。
 よくよく、自称『愛国者』を見張ることです」

 俺は、部屋の隅に放りだされている軍人に近づいた。全員の顔が青くなる。

「お前らは、殺さないでおく。
 その方が、苦しむからな。
 自分が何を引きおこしたか、大統領の口から直接聞くがいい」

 俺は、それだけ言うと、大統領に向きなおった。

「大統領、くれぐれも言っておきますが、ハーディ卿はもちろん、彼の関係者も俺の友人です。
 彼らに何かあっても同様の結果になりますよ」

 大統領は、首をガクガク縦に振った。

「そうそう、この映像の後、エミリーも狙撃を受けました。
 これは、貸しにしておきますから」

「な、なんという事だ」

「じゃ、我々は、これにて失礼します」

 俺は、ハーディ卿を連れ、彼の家に瞬間移動した。

 動けるようになると、SPが裸の男たちを拘束にかかった。
 しかし、彼らがそうする前に、忌々し気に吐きすてながら、大統領が裸の男たちを蹴りとばしていた。

「お前ら、どうしてくれる! 
 何が愛国者だ! 
 この最悪の国賊どもめっ。 
 お前らの軽はずみな行動で、この国の核兵器の八割が消えうせたんだぞ! 
 この〇〇〇〇野郎!」

 大統領らしからぬ四文字言葉で罵られた男たちは、すでに動けるようになっているのに一言も発することができなかった。

 ◇

 俺が、核兵器の配置場所を知った方法?

 ハーディ卿から教えてもらったのは、陸空海三軍のトップの名前と住所だった。
 俺は、彼らの所を訪れ、彼らが寝ている間に白猫に頼んで頭の中の記憶をコピーしてもらった。
 その記憶から核兵器の配置場所を読み取ったというわけ。

 後は、その場所の上空から点をばらまくだけだった。

『(?ω?) どうして、こんな役にも立たない、危ないモノ作ったのー?』

 まあ、点ちゃんが言う通りなんだよね。
 人間って、愚かな生き物なんだよ。

『(?ω?) うーん、よく分かんない』

 点ちゃん、分からなくていいんだよ。それが、当たり前の思考だから。
 こうして、ハーディ卿からの招待状に端を発した一連の出来事は幕を閉じた。

 俺は、日本に帰るのに、まだ飛んでない太平洋の上を西回りに帰ることにした。

「太平洋を見下ろしながら入る風呂は、きっと最高だろうなあ」

 世界一二の大国を揺るがせた当人は、至ってのんびりしたものだった。
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