311 / 607
第八章 地球訪問編
第22話 勇者の体力測定3
しおりを挟む加藤の体力測定は、垂直飛びの結果待ちまで進んだ。
俺が計測者たちの方を見ると、加藤が最高点で離したヒモの周りに人が集まっている。
近づいて尋ねる。
「何かトラブルでも?」
青い顔をした中年の男性が、弱々しい声で答えた。
「あんなスピードでヒモが引っぱられると思ってなくて……」
彼が指さしたところを見ると、ぐちゃぐちゃになったヒモの塊があった。
きっと、加藤が引くスピードが速すぎたために、その摩擦で引きおこされた結果だろう。
俺は、翔太君に事情を話した。
「垂直飛びの結果が出ました。
計測器の不備により、測定不能」
翔太君のアナウンスが流れても、会場からは不満の声さえ漏れなかった。
◇
いよいよ、最後の測定、百メートル走になった。
アメリカから来た計測者に、黄緑騎士がいろいろ説明しているようだ。
「シローさん、この人が、どうしても映像を撮らせてくれって」
黄騎士が俺に話しかける。
双子の緑騎士と区別できるように、髪に黄色のリボンを結んでもらっている。
俺には多言語理解の指輪があるから、通訳は必要ないんだけどね。
「契約を守る気がないなら、お金は返すからすぐに帰ってください、って伝えてくれる?」
「いいの?
そんなこと言って。
落札金額一億円なんでしょ」
正確には百万ドルなんだけどね。
「構わない。
すぐにそう言ってくれ」
黄騎士が話しかけると、鷲鼻が目立つ白人の男性は、露骨に嫌な顔をした。
正直なところ、俺は全く気にならなかった。
土壇場にきて約束破りをするような相手との関係が悪くなっても、痛くもかゆくもない。
白人男性は、四人のスタッフを連れ、百m走の競技場に向かった。
スタッフの一人が、地面に固定するスターティングブロック、もう一人がピストル、もう一人が白いヒモを持っている。
約束破りをしようとした男がストップウォッチを手にしている。それを見た俺は、思わずニヤリとしてしまった。
『(・ω・)ノ ご主人様が悪い顔ー』
いや、点ちゃん、今のは俺も認めるよ。悪い顔してました。
『つ( ̄д ̄)』(作者注:に、似てる!)
ひどっ! そこまで悪い顔でしたか。反省しよう。
点ちゃんとおしゃべりしている間に用意は整ったようだ。
「それでは、最後の計測、百メートル走です」
肩にブランを乗せた翔太君の声が、会場に響く。
「キャーっ!
猫と王子!
写メ取りたい~」
「猫プリンスー!」
「にゃんにゃんプリプリ~♪」
年齢不詳の変な声も交じっているが、聞かなかったことにしよう。
翔太君が笛を吹いた。
加藤は、スターティングブロックを使わないらしく、力を抜いて立っているだけだ。
ピストルを持った計測者の手が上がる。
「On your mark」(位置について)
「Set」(用意)
パンッ
加藤は、油断していたのか、ピストルの音から一呼吸出遅れた。
しかし、そこからが、さすが勇者だった。
ブウンと彼の体がかすむと、次の瞬間、競技場の向こう端にいた。
ゴールの白いヒモがたなびいているところを見ると、きちんとゴールラインを通ったようだ。
鷲鼻の白人が呆然としている。
俺は傷口に塩をすりこもうと、彼に近づいた。
「記録は取れましたか?」
男はまっ青な顔をしている。
それはそうだろう。
百万ドル掛けた結果が、「記録は取れませんでした」では、言い訳のしようもないだろう。
彼があんな申し出をしなければ、俺は光学式の計測器を使うようにアドバイスしたかもしれない。
今となっては、「たられば」の話だ。
俺が手を上げ、翔太君に合図すると、彼は再び演台に登った。
「百メートル走、計測不能。
これにて全ての測定を終了とします。
今日は、来てくれてありがとう。
みんな気をつけて帰ってね。
D区画に座ってる人はまだ帰っちゃだめだよ」
D区画に座ったピンク白の集団が歓声を上げる。
この後、俺たちを含めて慰労会が予定されている。
ここに来て初めてそのことを知った者もいるようで、狂喜乱舞していた。
本番より打ち上げの方が盛りあがるってどうよ?
俺は、『体力測定』が無事に終わり、ホッとしていた。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる