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第七章 天竜国編

第38話 子猫の名前 

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 俺は、竜人国から天竜国に帰ってきた後は、「光る森」の仕事や真竜廟「宝の湯」のメンテナンスに時間をかけていた。

 先日、竜人国の隠しポータルを開放した後、俺は獣人世界グレイルへのポータルを渡っている。出た場所は、「時の島」南部、元猿人族領にある山岳地帯だった。
 そして、それだけ確認すると、すぐに再びポータルを潜り、竜人国のポータル部屋に戻った。
 そのため、点魔法で作ったものが、きちんと動いているかどうか確認する作業が必要なのだ。

 結果は、「付与 時間」を施したトレインシステムや倉庫のシートは問題なく動いた。試しに作っておいた、「付与 時間」が付いていないトレインは消えていた。
 現場にいた竜人に尋ねると、少し動かしたとたん消えたそうだ。

 点魔法については、まだ分からないことも多いが、ポータルとの関係に限れば、少しずつ分かってきた。

 ◇

 俺は、そろそろこの世界から立ちさるべき時だと考えていた。

 子竜の母親役をしているルル、コルナ、コリーダは、すぐには帰れないだろうが、俺には聖樹様からの招待がある。
 竜王様とリーヴァスさんに後を任せ、一度エルファリアを訪れなければならない。俺のために竜人国に来てくれた加藤も、一旦マスケドニアに帰した方がいいだろう。
 そのためには、天竜国での仕事が順調に進む必要がある。
 だから、俺には珍しく、くつろぎの時間を削ってまで働いている。

『(・ω・)つ それくらい普通ですよ』

 イタタタッ。点ちゃん、それはないよ。

 ポルとミミに「宝の湯」のメンテナンス方法も教えたし、真竜廟滞在中の仲間が食事と飲み物に困らないよう、時限付きの「箱」も用意してある。
 これには、「付与 時間」で腐らないようにした食べ物や飲み物が入れてあり、一定時間が過ぎると、箱が開くようになっている。つまり、箱自体にも「付与 時間」を施してある。
 箱が開くタイミングは、六日ごとにずらしてあるから、俺がいなくても当面食料に困ることはないだろう。

 試しに箱を一つ開いてみると、ミミとポルがすごく喜んだ。なぜなら、中には普段食べられないような高級食材がぎっしり詰まっていたからだ。
 お菓子類も様々な種類が入れてある。リーヴァスさん用に、お酒「フェアリスの涙」も入れている。飽きがこないように、箱ごとに中身の種類を変えてある。
 子竜達の食べ物は、竜王様が魔術で取りだしているから心配はない。

 全ての準備が整ったところで、パーティメンバーのみんなに集まってもらった。かつて「ゆりかご」が置いてあった部屋だ。今は、俺達と子竜の居室、そして宝物置き場となっている。
 点魔法で全員分の椅子を出し、テーブルを置いた。

「お兄ちゃん、今度は何を企んでるの?」

 コルナは、俺が厄介事を招きいれるのを警戒しているようだ。

「心配しないで。
 ちょっと俺だけ出掛けてこようと思うんだ」

「シロー、どこにですか?」

 ルルは、少し不安そうだ。

「ああ、この部屋にいらっしゃった神樹様から言伝(ことづて)を頂いていてね。
 聖樹様からのご招待なんだ」

「まあ! 
 それなら早くお応えしないと」

 ルルは納得してくれたようだ。

「子竜たちのためにも、母親役の三人はあとしばらくは、ここを動けないだろう?」

 ルル、コルナ、コリーダがすぐに頷く。

「そうなると、私もここで待機ですかな」

「ええ、リーヴァスさん、みんなをお願いできますか?」

「任せてください。
 聖樹様のお言葉は大切にしませんと」

「パーパ、どこか行くの?」

 ナルが心配そうだ。

「ああ、少しの間留守にするよ。
 竜王様にいろいろ教えてもらってね。
 パーパが帰ってきたら、それを見せてほしいんだ」

「うん、いっぱい習ってパーパに見せる!」

「見せるー、でもお土産もー」

「ああ、メル、お土産は、沢山持って帰るからね」

「わーい!」

「あと、この二匹の猫だけど……」

 俺は、自分の肩に乗った白猫とルルの膝で丸まっている黒猫を指さした。

「こいつらの名前なんだが……」

 ミミとポルが、なぜか慌てる。

「リーダー! 
 早まらないで!」
「シローさん、待ってください!」

 なんで二人が必死になっているのか分からない。

「二人は、お兄ちゃんのネーミングセンスを恐れているのよ」

 コルナがしなくていい解説をしてくれる。

「二匹の名前だが、「イヤー! やめてー!」……にしようと思う」

 おい、俺の声、ミミの悲鳴で聞こえてないんじゃないか?
 なんで、コリーダと子供たちを除いて耳をふさいでるんだ?

「素敵な名前ね。
 なんでみんなが嫌がっているのか分からないわ」

 コリーダが不思議そうだ。
 まあ、彼女の前で名前をつけたの初めてだから。

「コ、コリーダさん、リーダーが付けた名前って?」

 ミミが、自分の三角耳を手で押さえる準備をして尋ねる。

「白い方がブラン、黒い方がノワールだけど」

 「「「えっ!」」」

 ミミやポルが大きく目を見開いている。
 なんでそこまで驚くの!?

『(・ω・)つ ご主人様だからでしょ』

 ひどいな、点ちゃん。

「シ、シローさん、大丈夫ですか? 
 熱でもあるんでは?」

 ポルが俺の顔を覗きこむ。

「俺、そこまでネーミングセンス無いかな?」

 「「ナイナイ」」
 『(ーωー)ノミノ ナイナイ』

 声を揃えなくてよろしい!

 こうして、史郎出発の前日は、穏やかに(?)過ぎていくのだった。
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