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第二章

初仕事と再会2 ルイス視点

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「アイザックが営んでいる精肉店の常連がルイスさんで、顔見知りだった、と。全く……。叫び声が聞こえて何事かと来てみれば………。」
 ファーリーさんがやれやれといった風に肩を竦める。
 そんなこんなで始まった俺の初仕事であったが……。


 比較的、上手くいっている、と思う……。
 初日以降、何があるでもなく、時々グレイに他の人の手伝いを伝えられるくらいである。
「おい新人、暇なら爺さんとこに手伝いに行くぞ。」
 そう、こんな感じに……。
「あ、はい、承知しました。」
「また、『あ、』って出てるぞ新人。」
 あ、またやってしまった……。
「…ご指摘有り難うございます。」
「フン。」
 それだけ言うとさっさと踵を返すグレイ。
 さっきのように、急に話しかけられると『あ、』と言ってしまう癖が俺にはあるらしい。ファーリーさんから直すようにと言われている。
 未だに何を考えているかわからないグレイだが、初日程は嫌われてないように思う。…いつもキレ気味な気がするけど…。
 …初日といえば、あのあとクリストファーさんに色々と説明を受けた。
 呪いの件は秘匿されるらしく、俺の失踪は誘拐された事になっているらしい。
 俺がここで働く成り行きとしては、誘拐されたところをラインハルトに助けてもらい、その恩を返すため、という感じにされている。
『ま、ラインハルトを恩人って事にしておけば色々と説明しやすいでしょ。』
 とはクリストファーさんの言葉である。
 まあ、俺も何故ここで働いているか聞かれると困るからいいんだが……。
「ジョセフさん、手伝いに来ました。」
「おお、ルイスくんか。ちょっと薪を取ってきてほしいんだ。頼めるかい。」
 ジョセフさんは、柔らかい金髪のおじさんである。グレイには爺さんと呼ばれているが、正確な年齢は知らない。
「はい。どれくらい必要ですか?」
「薪置き場に置けるだけ頼むよ。」
「承知しました。」
 すっ、と頭を下げてから薪割り場に走る。
 さっき薪置き場を見た限りだと残り少ないから、急いだほうがいいよな……。
 こんな感じで、仕事内容は出来そうではある。……迷わなければ。
 薪割り場と薪置き場は、比較的近くて迷わないから安心だがな。
 

 その後、無事薪を補充した俺は、薪割り場で減った分の薪を割る為また薪割り場に向かっていた。
 途中、道すがらに見える本邸を見上げた。
 初日、ラインハルトにはあったが直接話す事なく仕事に入った。
『………………。』
 何を言えばいいのかわからない、というような顔に、長い無言。
 その時から、ラインハルトには会えて居ない。
 ……まあ、そうだよな、と思う。
 いきなり動物が人間だったと言われたら距離をおきたくなる人だって大勢いるだろう。
 これが普通の距離だ。雇用主と労働者の距離感だってこんなものだ。
 そう自分に言い聞かせながらも、もっと近づきたいと思っている自分が強い。
 ……会いたいから、傍に居たいから執事になりたいなんて口が裂けても言えないな。
 そんな事を考えながら本邸を見ていれば、2階の窓が開いた。
「____え、………」
 開いた窓から顔を出したのは_____
「___ルイス?」
 _____ラインハルトだった___。
 え、は、そ、そこってラインハルトの部屋だったのか……!?
 俺は盛大に動揺してその場に固まった。
 いや、だ、だって急に好きな人が出てきたら誰だって固まるだろ…!?
「……?…ちょっとそこに居てくれ。」  
 どこかぼやっとしたラインハルトは、そう言ったと思えば、窓から飛び降りた。
「え、ちょ、はぁ!?」
 ……飛び降りたァァ!!?
 おいおいおいおい、2階とはいえ何してるんだラインハルト!?
 少し離れた所から見ていた俺は咄嗟にラインハルトを受け止める事に成功した。
「び、びっくりした……。何やってるんだ、危ないぞラインハルト……!」
 お姫様抱っこのような姿勢のまま、ラインハルトに文句を言う。…敬語忘れた。
「…………、るいす……。」
 よく見れば隈の出来ているラインハルト。すり、と俺の首元に頭を寄せてきた。
「………っ!……!?!?」
 俺はといえば心中穏やかではない。
 ふ、フェンリルの時だったならわかるが……!!お、俺がフェンリルだったときと勘違いしてるのか……!?徹夜か!?徹夜明けか!?
「…………すまなかった。」
 ぽつり、ラインハルトが呟く。
「……何がですか。」
 少し、冷静になった頭で敬語を使う。依然として心臓の音は煩いし、耳やら顔やらはあついので、冷静とは程遠い気がするが。
「………うまく、話せずに、無視したようになってしまう……。」
 ゆっくりと、今にも寝そうなラインハルトが、俯いて俺を見ないまま話す。
 ……せっかく、目が見えるようになったのに、前のようには見てくれないのか……。
「…急に、獣が人になったのですから、それぐらい普通だと思いますが。」
 寂しいと思いながらも、それが普通だろうとラインハルトに告げる。ラインハルトが罪悪感で苦しまないように。
 すると、むっとしたような顔のラインハルトがこちらを見た。
 ……かわいいな。自分よりでかい男前を可愛いと思う日が来るとは、恋とは恐ろしい。
「………違う。そうじゃない。」
 かわいいなと思っていれば、何か違うらしい。
 ……違くてもいいから、そろそろ離れて欲しい。ドキドキしすぎて心臓がもたない。
 思わず目を逸らして冷静になろうとすれば、グイッと両手で目線を戻された。
 そのせいで、鼻と鼻が触れてしまうほど顔が近くなる。思わず息を呑んだ。
「…………っ…!」
 そんな俺に構わず、最近禄に合わせてくれなかった目でしっかりと見つめてくるラインハルト。ぷんぷん、といった効果音でもつきそうである。
「…るいすが、美人すぎて、話すのに緊張するんだ!」
 ………っ!!?!?
 傍から見れば、俺はたぶん金魚のようになっていることだろう。さっきまでも十分顔があつかったのに、今はもう熱湯でも頭から被ったようにあつい。
 はくはくと、口を意味もなく閉口する。何か言いたいのか、どうしたいのか、自分でも全くわからない混乱状態。
 そんな俺を見て嬉しそうに笑ったラインハルトが___
「ふっ……、かわいいな、るいす。」
 といって目を閉じた。
 途端に重みの増すラインハルトの体。
「すぅ……すぅ……。」
「……っ?……な、は????……?」
 ラインハルトを横抱きにしたまま固まる俺。
 ……やばい、所構わず叫びたい。恥ずかしい、顔があつい。というか全身あつい。
 規則的な寝息を立て始めたラインハルトと反対に、盛大に心臓がばくばくと波打っている俺。
 そして俺は__________考えるのをやめた。
 がっ、とラインハルトをお姫様抱っこで持ち上げ、ファーリーさんを探して走り出した。
 因みに、顔も耳もあついままである。

 ……取り敢えず!!ファーリーさん、いやクリストファーさんでもいい、なんならグレイでもいいから、ラインハルト引き取ってくれ!!!
 
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