30 / 51
第二章
初仕事と再会2 ルイス視点
しおりを挟む
「アイザックが営んでいる精肉店の常連がルイスさんで、顔見知りだった、と。全く……。叫び声が聞こえて何事かと来てみれば………。」
ファーリーさんがやれやれといった風に肩を竦める。
そんなこんなで始まった俺の初仕事であったが……。
比較的、上手くいっている、と思う……。
初日以降、何があるでもなく、時々グレイに他の人の手伝いを伝えられるくらいである。
「おい新人、暇なら爺さんとこに手伝いに行くぞ。」
そう、こんな感じに……。
「あ、はい、承知しました。」
「また、『あ、』って出てるぞ新人。」
あ、またやってしまった……。
「…ご指摘有り難うございます。」
「フン。」
それだけ言うとさっさと踵を返すグレイ。
さっきのように、急に話しかけられると『あ、』と言ってしまう癖が俺にはあるらしい。ファーリーさんから直すようにと言われている。
未だに何を考えているかわからないグレイだが、初日程は嫌われてないように思う。…いつもキレ気味な気がするけど…。
…初日といえば、あのあとクリストファーさんに色々と説明を受けた。
呪いの件は秘匿されるらしく、俺の失踪は誘拐された事になっているらしい。
俺がここで働く成り行きとしては、誘拐されたところをラインハルトに助けてもらい、その恩を返すため、という感じにされている。
『ま、ラインハルトを恩人って事にしておけば色々と説明しやすいでしょ。』
とはクリストファーさんの言葉である。
まあ、俺も何故ここで働いているか聞かれると困るからいいんだが……。
「ジョセフさん、手伝いに来ました。」
「おお、ルイスくんか。ちょっと薪を取ってきてほしいんだ。頼めるかい。」
ジョセフさんは、柔らかい金髪のおじさんである。グレイには爺さんと呼ばれているが、正確な年齢は知らない。
「はい。どれくらい必要ですか?」
「薪置き場に置けるだけ頼むよ。」
「承知しました。」
すっ、と頭を下げてから薪割り場に走る。
さっき薪置き場を見た限りだと残り少ないから、急いだほうがいいよな……。
こんな感じで、仕事内容は出来そうではある。……迷わなければ。
薪割り場と薪置き場は、比較的近くて迷わないから安心だがな。
その後、無事薪を補充した俺は、薪割り場で減った分の薪を割る為また薪割り場に向かっていた。
途中、道すがらに見える本邸を見上げた。
初日、ラインハルトにはあったが直接話す事なく仕事に入った。
『………………。』
何を言えばいいのかわからない、というような顔に、長い無言。
その時から、ラインハルトには会えて居ない。
……まあ、そうだよな、と思う。
いきなり動物が人間だったと言われたら距離をおきたくなる人だって大勢いるだろう。
これが普通の距離だ。雇用主と労働者の距離感だってこんなものだ。
そう自分に言い聞かせながらも、もっと近づきたいと思っている自分が強い。
……会いたいから、傍に居たいから執事になりたいなんて口が裂けても言えないな。
そんな事を考えながら本邸を見ていれば、2階の窓が開いた。
「____え、………」
開いた窓から顔を出したのは_____
「___ルイス?」
_____ラインハルトだった___。
え、は、そ、そこってラインハルトの部屋だったのか……!?
俺は盛大に動揺してその場に固まった。
いや、だ、だって急に好きな人が出てきたら誰だって固まるだろ…!?
「……?…ちょっとそこに居てくれ。」
どこかぼやっとしたラインハルトは、そう言ったと思えば、窓から飛び降りた。
「え、ちょ、はぁ!?」
……飛び降りたァァ!!?
おいおいおいおい、2階とはいえ何してるんだラインハルト!?
少し離れた所から見ていた俺は咄嗟にラインハルトを受け止める事に成功した。
「び、びっくりした……。何やってるんだ、危ないぞラインハルト……!」
お姫様抱っこのような姿勢のまま、ラインハルトに文句を言う。…敬語忘れた。
「…………、るいす……。」
よく見れば隈の出来ているラインハルト。すり、と俺の首元に頭を寄せてきた。
「………っ!……!?!?」
俺はといえば心中穏やかではない。
ふ、フェンリルの時だったならわかるが……!!お、俺がフェンリルだったときと勘違いしてるのか……!?徹夜か!?徹夜明けか!?
「…………すまなかった。」
ぽつり、ラインハルトが呟く。
「……何がですか。」
少し、冷静になった頭で敬語を使う。依然として心臓の音は煩いし、耳やら顔やらはあついので、冷静とは程遠い気がするが。
「………うまく、話せずに、無視したようになってしまう……。」
ゆっくりと、今にも寝そうなラインハルトが、俯いて俺を見ないまま話す。
……せっかく、目が見えるようになったのに、前のようには見てくれないのか……。
「…急に、獣が人になったのですから、それぐらい普通だと思いますが。」
寂しいと思いながらも、それが普通だろうとラインハルトに告げる。ラインハルトが罪悪感で苦しまないように。
すると、むっとしたような顔のラインハルトがこちらを見た。
……かわいいな。自分よりでかい男前を可愛いと思う日が来るとは、恋とは恐ろしい。
「………違う。そうじゃない。」
かわいいなと思っていれば、何か違うらしい。
……違くてもいいから、そろそろ離れて欲しい。ドキドキしすぎて心臓がもたない。
思わず目を逸らして冷静になろうとすれば、グイッと両手で目線を戻された。
そのせいで、鼻と鼻が触れてしまうほど顔が近くなる。思わず息を呑んだ。
「…………っ…!」
そんな俺に構わず、最近禄に合わせてくれなかった目でしっかりと見つめてくるラインハルト。ぷんぷん、といった効果音でもつきそうである。
「…るいすが、美人すぎて、話すのに緊張するんだ!」
………っ!!?!?
傍から見れば、俺はたぶん金魚のようになっていることだろう。さっきまでも十分顔があつかったのに、今はもう熱湯でも頭から被ったようにあつい。
はくはくと、口を意味もなく閉口する。何か言いたいのか、どうしたいのか、自分でも全くわからない混乱状態。
そんな俺を見て嬉しそうに笑ったラインハルトが___
「ふっ……、かわいいな、るいす。」
といって目を閉じた。
途端に重みの増すラインハルトの体。
「すぅ……すぅ……。」
「……っ?……な、は????……?」
ラインハルトを横抱きにしたまま固まる俺。
……やばい、所構わず叫びたい。恥ずかしい、顔があつい。というか全身あつい。
規則的な寝息を立て始めたラインハルトと反対に、盛大に心臓がばくばくと波打っている俺。
そして俺は__________考えるのをやめた。
がっ、とラインハルトをお姫様抱っこで持ち上げ、ファーリーさんを探して走り出した。
因みに、顔も耳もあついままである。
……取り敢えず!!ファーリーさん、いやクリストファーさんでもいい、なんならグレイでもいいから、ラインハルト引き取ってくれ!!!
ファーリーさんがやれやれといった風に肩を竦める。
そんなこんなで始まった俺の初仕事であったが……。
比較的、上手くいっている、と思う……。
初日以降、何があるでもなく、時々グレイに他の人の手伝いを伝えられるくらいである。
「おい新人、暇なら爺さんとこに手伝いに行くぞ。」
そう、こんな感じに……。
「あ、はい、承知しました。」
「また、『あ、』って出てるぞ新人。」
あ、またやってしまった……。
「…ご指摘有り難うございます。」
「フン。」
それだけ言うとさっさと踵を返すグレイ。
さっきのように、急に話しかけられると『あ、』と言ってしまう癖が俺にはあるらしい。ファーリーさんから直すようにと言われている。
未だに何を考えているかわからないグレイだが、初日程は嫌われてないように思う。…いつもキレ気味な気がするけど…。
…初日といえば、あのあとクリストファーさんに色々と説明を受けた。
呪いの件は秘匿されるらしく、俺の失踪は誘拐された事になっているらしい。
俺がここで働く成り行きとしては、誘拐されたところをラインハルトに助けてもらい、その恩を返すため、という感じにされている。
『ま、ラインハルトを恩人って事にしておけば色々と説明しやすいでしょ。』
とはクリストファーさんの言葉である。
まあ、俺も何故ここで働いているか聞かれると困るからいいんだが……。
「ジョセフさん、手伝いに来ました。」
「おお、ルイスくんか。ちょっと薪を取ってきてほしいんだ。頼めるかい。」
ジョセフさんは、柔らかい金髪のおじさんである。グレイには爺さんと呼ばれているが、正確な年齢は知らない。
「はい。どれくらい必要ですか?」
「薪置き場に置けるだけ頼むよ。」
「承知しました。」
すっ、と頭を下げてから薪割り場に走る。
さっき薪置き場を見た限りだと残り少ないから、急いだほうがいいよな……。
こんな感じで、仕事内容は出来そうではある。……迷わなければ。
薪割り場と薪置き場は、比較的近くて迷わないから安心だがな。
その後、無事薪を補充した俺は、薪割り場で減った分の薪を割る為また薪割り場に向かっていた。
途中、道すがらに見える本邸を見上げた。
初日、ラインハルトにはあったが直接話す事なく仕事に入った。
『………………。』
何を言えばいいのかわからない、というような顔に、長い無言。
その時から、ラインハルトには会えて居ない。
……まあ、そうだよな、と思う。
いきなり動物が人間だったと言われたら距離をおきたくなる人だって大勢いるだろう。
これが普通の距離だ。雇用主と労働者の距離感だってこんなものだ。
そう自分に言い聞かせながらも、もっと近づきたいと思っている自分が強い。
……会いたいから、傍に居たいから執事になりたいなんて口が裂けても言えないな。
そんな事を考えながら本邸を見ていれば、2階の窓が開いた。
「____え、………」
開いた窓から顔を出したのは_____
「___ルイス?」
_____ラインハルトだった___。
え、は、そ、そこってラインハルトの部屋だったのか……!?
俺は盛大に動揺してその場に固まった。
いや、だ、だって急に好きな人が出てきたら誰だって固まるだろ…!?
「……?…ちょっとそこに居てくれ。」
どこかぼやっとしたラインハルトは、そう言ったと思えば、窓から飛び降りた。
「え、ちょ、はぁ!?」
……飛び降りたァァ!!?
おいおいおいおい、2階とはいえ何してるんだラインハルト!?
少し離れた所から見ていた俺は咄嗟にラインハルトを受け止める事に成功した。
「び、びっくりした……。何やってるんだ、危ないぞラインハルト……!」
お姫様抱っこのような姿勢のまま、ラインハルトに文句を言う。…敬語忘れた。
「…………、るいす……。」
よく見れば隈の出来ているラインハルト。すり、と俺の首元に頭を寄せてきた。
「………っ!……!?!?」
俺はといえば心中穏やかではない。
ふ、フェンリルの時だったならわかるが……!!お、俺がフェンリルだったときと勘違いしてるのか……!?徹夜か!?徹夜明けか!?
「…………すまなかった。」
ぽつり、ラインハルトが呟く。
「……何がですか。」
少し、冷静になった頭で敬語を使う。依然として心臓の音は煩いし、耳やら顔やらはあついので、冷静とは程遠い気がするが。
「………うまく、話せずに、無視したようになってしまう……。」
ゆっくりと、今にも寝そうなラインハルトが、俯いて俺を見ないまま話す。
……せっかく、目が見えるようになったのに、前のようには見てくれないのか……。
「…急に、獣が人になったのですから、それぐらい普通だと思いますが。」
寂しいと思いながらも、それが普通だろうとラインハルトに告げる。ラインハルトが罪悪感で苦しまないように。
すると、むっとしたような顔のラインハルトがこちらを見た。
……かわいいな。自分よりでかい男前を可愛いと思う日が来るとは、恋とは恐ろしい。
「………違う。そうじゃない。」
かわいいなと思っていれば、何か違うらしい。
……違くてもいいから、そろそろ離れて欲しい。ドキドキしすぎて心臓がもたない。
思わず目を逸らして冷静になろうとすれば、グイッと両手で目線を戻された。
そのせいで、鼻と鼻が触れてしまうほど顔が近くなる。思わず息を呑んだ。
「…………っ…!」
そんな俺に構わず、最近禄に合わせてくれなかった目でしっかりと見つめてくるラインハルト。ぷんぷん、といった効果音でもつきそうである。
「…るいすが、美人すぎて、話すのに緊張するんだ!」
………っ!!?!?
傍から見れば、俺はたぶん金魚のようになっていることだろう。さっきまでも十分顔があつかったのに、今はもう熱湯でも頭から被ったようにあつい。
はくはくと、口を意味もなく閉口する。何か言いたいのか、どうしたいのか、自分でも全くわからない混乱状態。
そんな俺を見て嬉しそうに笑ったラインハルトが___
「ふっ……、かわいいな、るいす。」
といって目を閉じた。
途端に重みの増すラインハルトの体。
「すぅ……すぅ……。」
「……っ?……な、は????……?」
ラインハルトを横抱きにしたまま固まる俺。
……やばい、所構わず叫びたい。恥ずかしい、顔があつい。というか全身あつい。
規則的な寝息を立て始めたラインハルトと反対に、盛大に心臓がばくばくと波打っている俺。
そして俺は__________考えるのをやめた。
がっ、とラインハルトをお姫様抱っこで持ち上げ、ファーリーさんを探して走り出した。
因みに、顔も耳もあついままである。
……取り敢えず!!ファーリーさん、いやクリストファーさんでもいい、なんならグレイでもいいから、ラインハルト引き取ってくれ!!!
62
お気に入りに追加
1,279
あなたにおすすめの小説
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします
muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。
非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。
両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。
そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。
非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。
※全年齢向け作品です。
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?
秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。
蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。
絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された
「僕と手を組まない?」
その手をとったことがすべての始まり。
気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。
王子×大学生
―――――――――
※男性も妊娠できる世界となっています
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
【完結】王子に婚約破棄され故郷に帰った僕は、成長した美形の愛弟子に愛される事になりました。──BL短編集──
櫻坂 真紀
BL
【王子に婚約破棄され故郷に帰った僕は、成長した美形の愛弟子に愛される事になりました。】
元ショタの美形愛弟子×婚約破棄された出戻り魔法使いのお話、完結しました。
1万文字前後のBL短編集です。
規約の改定に伴い、過去の作品をまとめました。
暫く作品を書く予定はないので、ここで一旦完結します。
(もしまた書くなら、新しく短編集を作ると思います。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる