上 下
29 / 51
第二章

初仕事と再会 ルイス視点

しおりを挟む
「以上で屋敷の案内は一通りできましたね。まだ案内するところはありますが、一先ずこれで宜しいでしょう。ですが、気になったことがあればその都度聞くように。」
「はい。わかりました。」
 ……今のだけでも、まったく覚えられる気がしない……。慣れれば大丈夫なんだろうか……?
「今の返事も、できれば『承知致しました。』の方が宜しいですね。」
「は…、承知いたしました。」
「では、今日出勤中の者達を紹介します。今日居ない者に関してはまた後日。」
「…宜しくお願い致します。」
 せめて、同僚の人だけでもちゃんと覚えようと気を持ち直し、ファーリーさんについていく。
 そう、俺の初仕事は、伯爵家の屋敷の中を覚える事から始まった。
 いや……、もう、な……。広いし、どこもかしこも同じような扉だからどれがどれだか……。
 フェンリルの時も邪魔にならないように、と思って屋敷とか見てまわらなかったから、全くわからない。
 ファーリーさんも、慣れれば大丈夫としか言ってくれないし……。
 ……ほんとに、同僚の人は覚えられるようがんばろう……。
 正直、一度に十人以上紹介されても覚えられる気はしないが、ここまでデカい屋敷を維持するのは十人以上いるよなぁ……。

 
「え、エミリーって、い、言います……!ヨ、よよろしくおねがいしますぅ……!」
「グレイ、庭師だ。仲良くする気はねえ。」
 ………二人?
 …………、どうやって屋敷まわしてるんだろう……。
「…ルイスです。ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。エミリーさん、グレイさん。」
 ペコリと頭を下げながらの挨拶、約1名に睨まれながらである。
「アイザックはどうしたんです?今日は新入りが居るので集まるように、と言っておいた筈ですが。」
「その新入りに会いたくねぇだけじゃねぇの。」
 う~~ん……、なんでこんなに嫌われてるんだ。
 グレイと言う青年は、恐らく肩ぐらいまでの長さをした髪をポニーテールにしている。そして目つきが悪い。…俺を睨んでいるからか。もしかしたら睨んでなければきゅるきゅるの目なのかもしれない。
「あ、あああの!えと、たぶん、か、解体場に居ると、おも、思います!」
 エミリーさんは、身長の高い女性だ。たぶん170近くあるんじゃないだろうか。…俺もあれくらい伸びるかな……。
 しかし、身長に対して性格は臆病なのか先程から吃りまくっている。
「き、きょうの朝に、えと、穫りたての、えとぉ……、」
「………イエローボアが三体入ったって言って解体場籠もってから出てきてねぇだけだ。」
 吃り続けるエミリーさんを見かねたようでグレイさんが説明する。同僚には流石に優しいらしい。
「そうですか…。エミリー、グレイ、教えて頂き有り難うございます。では、先に業務の説明を……「じゃあ、俺が解体場まで連れてってやるよ。」…グレイ、どういうおつもりで?」
 じゃあってなんだ、じゃあって。
 にやりと笑ったグレイは、ファーリーさんの話を遮り俺を案内すると言い出した。
「ファーリーさんはそろそろ辺境伯様の兄君が来っから忙しいだろ?エミリーに初対面のヤツの案内は無理だし、俺が適任だろ?」
「ご到着の時間には準備時間も含めて余裕がありますよ。」
「んだよ。いつも準備は万全にって言ってるのはファーリーさんだろ?」
 口は笑っているが目は笑っていないグレイ、淡々と返すファーリーさん、おろおろと成り行きを見守るエミリーさん、真顔の俺。
 ……いや、この状況でにこにこしてるのもなって…。  
「はぁ……、わかりました。グレイはエミリーと一緒にルイスさんを案内してください。」
「おう。任しとけ。」
「し、承知しましたぁ……!」  
 満足そうなグレイと緊張気味のエミリーさん。
「___そして、解体場に行ったあとは客間に連れてくるように!業務については私が説明しますので。」
 反対に厳しい顔をしたファーリーさんは、そう言った。
「へいへい。じゃ、ついて来い新人。」
「あ、え、ま、待ってよグレイ…!」
 グレイさっさと背を向けて歩いていく。エミリーさんは困惑しながらも小走りでグレイを追っていった。
「えと、また後程宜しくお願い致します、ファーリーさん。」
「はい。……アイザックは癖の強い人ですが、悪い方ではないので。何かあったら頼ると良いでしょう。では後程。」
「有り難うございます。って、足早……。」
 お礼を言い終わる前にファーリーさんも足早に去っていった。
 ……グレイを追わないと。
 少々遠くに見えるグレイとエミリーさんを走って追う。
 ……なんだか、前より足が早くなった気がするんだよな……。
 まあ、気のせいか。



「おし、ついたぞ、ここが解体場。」
「…うぅ……。やっぱり今日も血まみれだ……。」
 相変わらず何故かニヤニヤしているグレイと、おろおろし続けているエミリーさんだ。
 ファーリーさんからは案内されなかった解体場。
 俺より三倍ほどの高さがありそうな扉。木製で濃い茶色の扉は、よく見ると下の方が赤黒い。たぶん血だなぁ。
 ……フェンリルになってから色々あったせいでグロ耐性が出来ている気がする。
「おお~い!!アイザック!出てこい!」
 ぼや~っと考えている間に、グレイが大きな扉の横、小さい方の扉をガンガンと叩く。
「おい!おめえが早くこねえから俺等が新入り連れてきたぞ!」
 ダン!ダン!
 …出てこない。
「ぐ、グレイ…も、もしかしたら、すれ違っちゃったのかも…、」
 誰も出てこないのに扉を叩き続けるグレイをエミリーさんが止めようとしたとき、すぅ、とグレイが息を吸った。
  な、何する気だ…?
「___おい!!!おっさん!!!!」
「__だぁれがおっさんですって!!!!?」
 ダァァン!!!
 グレイが叫んだ瞬間、大きい扉の方が思いっきり開けられた。
 デカい扉の方を物凄い勢いで開けただけあって、出てきた人物は大柄でいかにも力が強そうな弾性だった。……ん?
「いつもお姉さまって呼びなさいっていってるで……
「アイちゃん?」え?」
 そう、見覚えのある顔の名前を読んだ瞬間。
「___ルーちゃんじゃない!!!!」  
 バッ、とこちらを向いたその人は大声をだしてこちらに向かってきた。
「なぁに、新入りってルーちゃんのことだったの!?なにそれ早く言いなさいよね!!」
「久しぶりアイちゃん。というかここで働いてたんだな。」
 ぎゅむぎゅむと俺を抱き締めだすアイちゃんに、慣れきっている俺はそのまま話を続ける。
「出張よ出張~!ていうかルーちゃんこそなんでここで働くことになってるの!?アタシ聞いてないわよ?」
「言おうと思ったけど、お店にアイちゃん居なかったから。」
「タイミングが悪かったのねぇ…。ま、久しぶりに会えて嬉しいわぁ。」
 少し緩んでいた両腕を再度締めながらアイちゃんがそう言う。
「俺も嬉しいけど、アイちゃん取り敢えず服着たら?」
「?………あらやだアタシったら、着替えてる途中で出てきたから半裸じゃない。」
 相変わらず半裸癖あるなアイちゃん。 
 因みに白髪長髪の美形である。
「___いや、アイちゃんってなんだよ!!!!」
 グレイの渾身の叫びが屋敷に響き渡るのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?

秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。 蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。 絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された 「僕と手を組まない?」 その手をとったことがすべての始まり。 気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。 王子×大学生 ――――――――― ※男性も妊娠できる世界となっています

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。 最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者 R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

処理中です...