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第二章

初仕事と再会 ルイス視点

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「以上で屋敷の案内は一通りできましたね。まだ案内するところはありますが、一先ずこれで宜しいでしょう。ですが、気になったことがあればその都度聞くように。」
「はい。わかりました。」
 ……今のだけでも、まったく覚えられる気がしない……。慣れれば大丈夫なんだろうか……?
「今の返事も、できれば『承知致しました。』の方が宜しいですね。」
「は…、承知いたしました。」
「では、今日出勤中の者達を紹介します。今日居ない者に関してはまた後日。」
「…宜しくお願い致します。」
 せめて、同僚の人だけでもちゃんと覚えようと気を持ち直し、ファーリーさんについていく。
 そう、俺の初仕事は、伯爵家の屋敷の中を覚える事から始まった。
 いや……、もう、な……。広いし、どこもかしこも同じような扉だからどれがどれだか……。
 フェンリルの時も邪魔にならないように、と思って屋敷とか見てまわらなかったから、全くわからない。
 ファーリーさんも、慣れれば大丈夫としか言ってくれないし……。
 ……ほんとに、同僚の人は覚えられるようがんばろう……。
 正直、一度に十人以上紹介されても覚えられる気はしないが、ここまでデカい屋敷を維持するのは十人以上いるよなぁ……。

 
「え、エミリーって、い、言います……!ヨ、よよろしくおねがいしますぅ……!」
「グレイ、庭師だ。仲良くする気はねえ。」
 ………二人?
 …………、どうやって屋敷まわしてるんだろう……。
「…ルイスです。ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。エミリーさん、グレイさん。」
 ペコリと頭を下げながらの挨拶、約1名に睨まれながらである。
「アイザックはどうしたんです?今日は新入りが居るので集まるように、と言っておいた筈ですが。」
「その新入りに会いたくねぇだけじゃねぇの。」
 う~~ん……、なんでこんなに嫌われてるんだ。
 グレイと言う青年は、恐らく肩ぐらいまでの長さをした髪をポニーテールにしている。そして目つきが悪い。…俺を睨んでいるからか。もしかしたら睨んでなければきゅるきゅるの目なのかもしれない。
「あ、あああの!えと、たぶん、か、解体場に居ると、おも、思います!」
 エミリーさんは、身長の高い女性だ。たぶん170近くあるんじゃないだろうか。…俺もあれくらい伸びるかな……。
 しかし、身長に対して性格は臆病なのか先程から吃りまくっている。
「き、きょうの朝に、えと、穫りたての、えとぉ……、」
「………イエローボアが三体入ったって言って解体場籠もってから出てきてねぇだけだ。」
 吃り続けるエミリーさんを見かねたようでグレイさんが説明する。同僚には流石に優しいらしい。
「そうですか…。エミリー、グレイ、教えて頂き有り難うございます。では、先に業務の説明を……「じゃあ、俺が解体場まで連れてってやるよ。」…グレイ、どういうおつもりで?」
 じゃあってなんだ、じゃあって。
 にやりと笑ったグレイは、ファーリーさんの話を遮り俺を案内すると言い出した。
「ファーリーさんはそろそろ辺境伯様の兄君が来っから忙しいだろ?エミリーに初対面のヤツの案内は無理だし、俺が適任だろ?」
「ご到着の時間には準備時間も含めて余裕がありますよ。」
「んだよ。いつも準備は万全にって言ってるのはファーリーさんだろ?」
 口は笑っているが目は笑っていないグレイ、淡々と返すファーリーさん、おろおろと成り行きを見守るエミリーさん、真顔の俺。
 ……いや、この状況でにこにこしてるのもなって…。  
「はぁ……、わかりました。グレイはエミリーと一緒にルイスさんを案内してください。」
「おう。任しとけ。」
「し、承知しましたぁ……!」  
 満足そうなグレイと緊張気味のエミリーさん。
「___そして、解体場に行ったあとは客間に連れてくるように!業務については私が説明しますので。」
 反対に厳しい顔をしたファーリーさんは、そう言った。
「へいへい。じゃ、ついて来い新人。」
「あ、え、ま、待ってよグレイ…!」
 グレイさっさと背を向けて歩いていく。エミリーさんは困惑しながらも小走りでグレイを追っていった。
「えと、また後程宜しくお願い致します、ファーリーさん。」
「はい。……アイザックは癖の強い人ですが、悪い方ではないので。何かあったら頼ると良いでしょう。では後程。」
「有り難うございます。って、足早……。」
 お礼を言い終わる前にファーリーさんも足早に去っていった。
 ……グレイを追わないと。
 少々遠くに見えるグレイとエミリーさんを走って追う。
 ……なんだか、前より足が早くなった気がするんだよな……。
 まあ、気のせいか。



「おし、ついたぞ、ここが解体場。」
「…うぅ……。やっぱり今日も血まみれだ……。」
 相変わらず何故かニヤニヤしているグレイと、おろおろし続けているエミリーさんだ。
 ファーリーさんからは案内されなかった解体場。
 俺より三倍ほどの高さがありそうな扉。木製で濃い茶色の扉は、よく見ると下の方が赤黒い。たぶん血だなぁ。
 ……フェンリルになってから色々あったせいでグロ耐性が出来ている気がする。
「おお~い!!アイザック!出てこい!」
 ぼや~っと考えている間に、グレイが大きな扉の横、小さい方の扉をガンガンと叩く。
「おい!おめえが早くこねえから俺等が新入り連れてきたぞ!」
 ダン!ダン!
 …出てこない。
「ぐ、グレイ…も、もしかしたら、すれ違っちゃったのかも…、」
 誰も出てこないのに扉を叩き続けるグレイをエミリーさんが止めようとしたとき、すぅ、とグレイが息を吸った。
  な、何する気だ…?
「___おい!!!おっさん!!!!」
「__だぁれがおっさんですって!!!!?」
 ダァァン!!!
 グレイが叫んだ瞬間、大きい扉の方が思いっきり開けられた。
 デカい扉の方を物凄い勢いで開けただけあって、出てきた人物は大柄でいかにも力が強そうな弾性だった。……ん?
「いつもお姉さまって呼びなさいっていってるで……
「アイちゃん?」え?」
 そう、見覚えのある顔の名前を読んだ瞬間。
「___ルーちゃんじゃない!!!!」  
 バッ、とこちらを向いたその人は大声をだしてこちらに向かってきた。
「なぁに、新入りってルーちゃんのことだったの!?なにそれ早く言いなさいよね!!」
「久しぶりアイちゃん。というかここで働いてたんだな。」
 ぎゅむぎゅむと俺を抱き締めだすアイちゃんに、慣れきっている俺はそのまま話を続ける。
「出張よ出張~!ていうかルーちゃんこそなんでここで働くことになってるの!?アタシ聞いてないわよ?」
「言おうと思ったけど、お店にアイちゃん居なかったから。」
「タイミングが悪かったのねぇ…。ま、久しぶりに会えて嬉しいわぁ。」
 少し緩んでいた両腕を再度締めながらアイちゃんがそう言う。
「俺も嬉しいけど、アイちゃん取り敢えず服着たら?」
「?………あらやだアタシったら、着替えてる途中で出てきたから半裸じゃない。」
 相変わらず半裸癖あるなアイちゃん。 
 因みに白髪長髪の美形である。
「___いや、アイちゃんってなんだよ!!!!」
 グレイの渾身の叫びが屋敷に響き渡るのであった。
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