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第一章

リアンレーヴ・トリーティアの話

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 灰色の鉄格子の中で、自身の勘違いに気づく。


 僕は昔、母様の不義理で産まれてきたと思われていた。
 母様と父様はいとこで、二人共若草色の髪色だったんだ。
 __その二人の子供の筈の俺は、鮮やかな青色の髪だったけれどね。
 よく、晴天の時の空の色だとか、美しい湖の色だとか言われる僕の髪色は、とてもじゃないけど両親の髪色に似ているとは言えなかった。
 父様も母様も、僕に辛く当たったりしなかったけど、愛されてもいない。
 父様は、愛した母様の不義理の証拠として僕を見ている節がある。
 母様は、不義理なんてしてないのに産まれてきた自分達に似つかない俺を不気味がっている。
 もしこの髪色が黒っぽい青色だったら、僕は捨てられてたんじゃないかな。
 僕はね、多分この容姿が無ければ誰にも愛されないんだ。
 婚約者の彼女も、意中の相手が居るらしい。幼い頃から婚約者だったのに、凄く裏切られた気分だったよ。あんなに僕の事を褒めてくれたのにって。
 それでわかってしまったんだ。皆、僕の実力や容姿しか見てないんだ。性格を褒められた事なんてないんだもの。
 それがわかった途端、自分がとんでもなく価値のない人間のように思えて軽く絶望したよ。
 でも、そんな時に思い出したんだ。昔、父様に連れられて行った教会であったノーネの事を。
 連れられて行った教会で、父様から他の子供と遊んで来なさいと言われた。
 教会に居た子供が興味津々で僕を見ている中、僕はどう誘ったらいいのかわからなかった。
 子供達も、僕に話しかけてもいいのかわからなかったんだと思う。
 全員で無言でいたとき、君が来たんだ。
「皆で一緒に遊びませんか?」
 僕より上手に敬語の使えたノーネ。僕より年下だったのにね。
 僕が皆と遊べるように誘ってくれたノーネは、皆と僕が遊べるようになると、神父様の手伝いで抜けてしまった。
 他の子達は駄々をこねて神父様を手伝わずに僕と一緒に遊びたがったのに、ノーネは走って神父様の元へ行ってしまった。
 まるで、僕に興味なんかない、とでも言うように。
 そんな扱いをされたのは初めてで、僕はとてもノーネに興味を持った。
 僕も神父様の手伝いをすると言って、ノーネに近づいた。ノーネはやり方を丁寧に教えてくれて、できたら笑ってお礼も言ってくれた。
 僕はノーネもやっぱり皆と一緒で僕を特別扱いするのかな、と思って離れた。
 だけど、他の子が手伝った時。
 笑ってノーネはその子にお礼を言った。手伝ってくれてありがとうって、一緒の言葉だったのに、全然違った。笑った顔も、全然違った。
 僕はわかったんだ。ノーネは僕が特別じゃなくて、教会の皆が特別なんだって。
 その時、ノーネは凄く優しいなって思ったよ。
 僕はノーネの特別じゃないのに、あんなに優しくしてくれたんだ。
 その教会に行ったのは一度だけど、凄く覚えてる。僕の淡い初恋の思い出。もしかしたら憧れだっただけかもしれない。
 思い出してから、ノーネが居る教会に行った。
 その時は迷惑になるかも、と思って会わずに帰ったけど、成長したノーネは物凄く可愛くて美人になってた。
 相変わらずノーネは優しくて、色んな人に親切にしてた。
 ノーネを知るたびに好きになって、ずっと一緒にいて欲しいと思った。
 いっぱい手紙を出して、お花も一緒に送った。
 それで、成人前にノーネに告白したんだ。
 僕とずっと一緒にいて欲しいって。妾なんかじゃなくて、奥さんになって欲しいって。
 だけど、断られちゃった。
 その時は、僕の立場を慮ってと思っていたけど、とんだ大馬鹿者だったよ僕は。頭突きされるまでそれがわからないなんて。
 馬鹿だった僕は、婚約者から昔聞いた【呪い】の事を思い出した。
 真実の愛のキスじゃないと解けない術。あれはロマンチックなものなんかじゃないのは知っていた。
 そんな危険を侵してまで一緒になりたいんだとアピールすれば、認めてもらえると思ったんだ。
 それで廃嫡になってもノーネが居てくれるならいいかな、なんて思ってた。
 あーあ、真実の愛なんて、僕に無かったのかなぁ。
 僕はノーネにキスをしたけど、ノーネの呪い解けなかった。
 ああ、そういえば僕、ノーネの髪の色が好きだった。
 もし子供が僕たちに似てない色でも、正反対な僕らの髪色なら混ざったのかな、で済むと思ったから。
 僕も所詮、容姿でしか人を判断できない奴か。
 
 ここまで来てしまったなら、最後まで恋に狂った男になろう。
 婚約者の彼女も、僕が狂った男になれば好きな人と一緒になれると思う。
 母様も父様も、僕を実の子供じゃないって事にすればいい。
 ノーネも、狂った男にならさすがに慈悲をあげないでしょ。罪悪感無く断罪できるよね。
 
 罪を償って、もし外に出れたら、僕を愛してくれる人と一緒に居たいなぁ。
 

 
 ああ、でもそういえば、
「瞳の色は母様にそっくりね。」
「目の形は僕にそっくりだよ。」
「そうね。あなたのかっこいい目にそっくり。」
 すんごく昔、赤ちゃんだった頃に、そんな二人の会話を聞いた気がする。
 僕の都合のいい妄想かな。
 でも、確かに似ている気がする。


 ひんやりとした牢屋の中で、あたたかい記憶が次々に浮かぶ。
 
 僕って案外、愛されて産まれて来たのかもね。
 今更すぎるから、やっぱり僕は大馬鹿者だ。
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