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第一章
ルイスの傍2 ラインハルト視点
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ルイスが傍に居るだけで、少しも負ける気がしないな!
アスターが魔法防壁のついた剣をキメラに喰われた事で、事態は一気に悪化した。
普通の剣ならば取り込まれる事も無かっただろうが、魔法防壁のかかった剣は常に魔力を帯びている。キメラは魔力を帯びた物なら生き物でなくても融合出来るのだ。
もし今、剣と融合していなくとも時間の問題だ。戦況は悪化していく一方だろう。
___だから、ルイスは置いていくつもりだった。
勿論俺は死ぬ気など無かったが、死ぬことはなくとも多少の怪我はあるだろうと覚悟していた。
ルイスが弱いとは思っていない。多分、ルイスが居たら怪我などせずにキメラを倒すことが出来るだろう。
だがやはり、危険な場所には連れて行きたくなかった。
あの時、俺はルイスが強かったから一緒に来てほしいと言ったのではない。
ルイスと別れるのが惜しかったから、一緒に居たいと思ったからそう言ったんだ。…………こう言うとまるで俺がルイスに恋しているみたいだな……。
まあ、それはそれとして。
ルイスが一緒に来てくれたのは正直嬉しかったりする。肩を並べようとしてくれる相手など居はしなかったからな。
ルイスなら背中も余裕で預けられる。寧ろ安心感が凄い。会って数週間しか経って居ないのにな。……俺はもしかしたらチョロいのかもしれない。
と、そんな事を考えながらルイスに乗っていたが、そんな余裕はそろそろないらしい。キメラが見えてきた。どうやらアスターを追いかけさせた隊員はキメラの足止めを行っていたらしい。
俺は剣を抜いて飛び降りる準備をする。
「ルイス。キメラの頭上を飛べたりするか。」
「ガゥァウ!」
任せろとばかりに力強い咆哮。
「頼もしいな!」
ルイスが頼もし過ぎる、と思いながら背中にしっかりと掴まりなおす。
キメラはもう目前だ。
次の瞬間、ルイスは高く飛び上がる。
知らず口角が上がる。___完璧だルイス。
俺はキメラの頭上でルイスから飛び降りた。
狙うはキメラの主体、リジャースネイクの首だ。一刻も早く倒さなければじり貧はこちら側。
___一度で仕留める!!
「オラァァァァ゛ァ!!!」
ありったけの力を込めて剣を振り下ろす。
リジャースネイクの首が落ちると共に俺も着地した。
ふぅ、流石に魔力強化もなしに首を落とすのはキツいな……。おっと、そういえば隊員が居たんだった。
「3人共無事か!」
「はっ!我々全員毒はうけておりません。ただ一人キメラに吹き飛ばされた者が居りまして咄嗟に防御した腕が折れております!」
「そうか、一先ずキャンプに戻って応急処置してから街に戻れ。キメラは一先ず倒したが警戒で私が残っておく。死体の回収に来るよう通達も頼む。」
「了解しました!」
命に関わるような怪我では無いようでよかった。
隊員達がよろけながらも歩いてキャンプの方に向かっていくのを見て安堵する。
それがいけなかったのか、俺は後ろで動くキメラに気がつかなかった。
______「ガゥ!」
「ルイス!?」
気付けば俺はルイスに首根っこを噛まれて移動していた。首根っこと言っても服の部分だが。
突然の事にびっくりしながら、ルイスが警戒している方を俺も見る。
「…………は?」
首を落とした筈のキメラが動いていた。
___なにが、どうなっている……?
異様な姿に体が震える。何なんだあれは……!指先が震え、手に馴染んでいる筈の剣さえ取り落としそうだ。
そんな、恐怖に支配されそうな俺の視界に赤が映る。
その赤_ルイスは俺を守るように前に立っていた。姿勢を低くして、何時でも飛び出せるように、目の前の敵をじっと、見つめながら。
自然と震えが収まっていく。
___ははっ…。
何故、こんなにも……ルイスの傍は安心するんだろうな………。
眼の前では、首を失ったキメラが相変わらず蠢いている。全身黒いのも相まって見る者すべての足をすくませる。
だが、よく見ると動いているのは狼らしき生物の足だけ。
………あそこを斬り飛ばせば倒せるか…?
「…………ルイス、あの足を片方でいい。食い千切れるか。」
こくりと頷き走り出すルイス。
俺もそれを追って走り出す。ルイスは既に片方の足を噛み千切っていた。
やっと追いついた俺は、もう片方を斬り飛ばす。
「…ハァ…ハァ、…。」
口から荒い息が漏れる。今の姿を見られたら十中八九警邏隊を呼ばれるな……。
「…………ルイス?」
やっと動かなくなったキメラに安心して、辺りを見回す。__俺はルイスの所に走り出した。
ルイスは、噛み千切った足の前で立ちすくんでいた。
その表情が、今にも泣きそうで…………深い絶望で彩られていたのがはっきりとわかった。
いてもいられなくなった俺は、ルイスを抱きしめた。俺なんかに抱きしめられるなんて嫌だろう、などと思っている場合では無い。
何故ルイスが絶望しているのか、俺がわかるすべは無いに等しい。抱きしめるしか俺には出来ない。………俺に抱きしめられても、何も変わらないかもしれないがな……。
___今ほど、お前が人間だったらと思った事はないよ…。
その後、討伐部隊が到着し、キメラの死体の回収が始まった。
______キメラの狼だと思われていた部分は、フェンリルだった事が判明した。
おれは、ルイスに仲間を殺させてしまったのか……?
アスターが魔法防壁のついた剣をキメラに喰われた事で、事態は一気に悪化した。
普通の剣ならば取り込まれる事も無かっただろうが、魔法防壁のかかった剣は常に魔力を帯びている。キメラは魔力を帯びた物なら生き物でなくても融合出来るのだ。
もし今、剣と融合していなくとも時間の問題だ。戦況は悪化していく一方だろう。
___だから、ルイスは置いていくつもりだった。
勿論俺は死ぬ気など無かったが、死ぬことはなくとも多少の怪我はあるだろうと覚悟していた。
ルイスが弱いとは思っていない。多分、ルイスが居たら怪我などせずにキメラを倒すことが出来るだろう。
だがやはり、危険な場所には連れて行きたくなかった。
あの時、俺はルイスが強かったから一緒に来てほしいと言ったのではない。
ルイスと別れるのが惜しかったから、一緒に居たいと思ったからそう言ったんだ。…………こう言うとまるで俺がルイスに恋しているみたいだな……。
まあ、それはそれとして。
ルイスが一緒に来てくれたのは正直嬉しかったりする。肩を並べようとしてくれる相手など居はしなかったからな。
ルイスなら背中も余裕で預けられる。寧ろ安心感が凄い。会って数週間しか経って居ないのにな。……俺はもしかしたらチョロいのかもしれない。
と、そんな事を考えながらルイスに乗っていたが、そんな余裕はそろそろないらしい。キメラが見えてきた。どうやらアスターを追いかけさせた隊員はキメラの足止めを行っていたらしい。
俺は剣を抜いて飛び降りる準備をする。
「ルイス。キメラの頭上を飛べたりするか。」
「ガゥァウ!」
任せろとばかりに力強い咆哮。
「頼もしいな!」
ルイスが頼もし過ぎる、と思いながら背中にしっかりと掴まりなおす。
キメラはもう目前だ。
次の瞬間、ルイスは高く飛び上がる。
知らず口角が上がる。___完璧だルイス。
俺はキメラの頭上でルイスから飛び降りた。
狙うはキメラの主体、リジャースネイクの首だ。一刻も早く倒さなければじり貧はこちら側。
___一度で仕留める!!
「オラァァァァ゛ァ!!!」
ありったけの力を込めて剣を振り下ろす。
リジャースネイクの首が落ちると共に俺も着地した。
ふぅ、流石に魔力強化もなしに首を落とすのはキツいな……。おっと、そういえば隊員が居たんだった。
「3人共無事か!」
「はっ!我々全員毒はうけておりません。ただ一人キメラに吹き飛ばされた者が居りまして咄嗟に防御した腕が折れております!」
「そうか、一先ずキャンプに戻って応急処置してから街に戻れ。キメラは一先ず倒したが警戒で私が残っておく。死体の回収に来るよう通達も頼む。」
「了解しました!」
命に関わるような怪我では無いようでよかった。
隊員達がよろけながらも歩いてキャンプの方に向かっていくのを見て安堵する。
それがいけなかったのか、俺は後ろで動くキメラに気がつかなかった。
______「ガゥ!」
「ルイス!?」
気付けば俺はルイスに首根っこを噛まれて移動していた。首根っこと言っても服の部分だが。
突然の事にびっくりしながら、ルイスが警戒している方を俺も見る。
「…………は?」
首を落とした筈のキメラが動いていた。
___なにが、どうなっている……?
異様な姿に体が震える。何なんだあれは……!指先が震え、手に馴染んでいる筈の剣さえ取り落としそうだ。
そんな、恐怖に支配されそうな俺の視界に赤が映る。
その赤_ルイスは俺を守るように前に立っていた。姿勢を低くして、何時でも飛び出せるように、目の前の敵をじっと、見つめながら。
自然と震えが収まっていく。
___ははっ…。
何故、こんなにも……ルイスの傍は安心するんだろうな………。
眼の前では、首を失ったキメラが相変わらず蠢いている。全身黒いのも相まって見る者すべての足をすくませる。
だが、よく見ると動いているのは狼らしき生物の足だけ。
………あそこを斬り飛ばせば倒せるか…?
「…………ルイス、あの足を片方でいい。食い千切れるか。」
こくりと頷き走り出すルイス。
俺もそれを追って走り出す。ルイスは既に片方の足を噛み千切っていた。
やっと追いついた俺は、もう片方を斬り飛ばす。
「…ハァ…ハァ、…。」
口から荒い息が漏れる。今の姿を見られたら十中八九警邏隊を呼ばれるな……。
「…………ルイス?」
やっと動かなくなったキメラに安心して、辺りを見回す。__俺はルイスの所に走り出した。
ルイスは、噛み千切った足の前で立ちすくんでいた。
その表情が、今にも泣きそうで…………深い絶望で彩られていたのがはっきりとわかった。
いてもいられなくなった俺は、ルイスを抱きしめた。俺なんかに抱きしめられるなんて嫌だろう、などと思っている場合では無い。
何故ルイスが絶望しているのか、俺がわかるすべは無いに等しい。抱きしめるしか俺には出来ない。………俺に抱きしめられても、何も変わらないかもしれないがな……。
___今ほど、お前が人間だったらと思った事はないよ…。
その後、討伐部隊が到着し、キメラの死体の回収が始まった。
______キメラの狼だと思われていた部分は、フェンリルだった事が判明した。
おれは、ルイスに仲間を殺させてしまったのか……?
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