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第1部

*どうする?どうしたい?

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『ーーー家に行こう、じゃなくて。
家に、帰ろう……』

その言葉が自然と沢海の口から零れた事に、宮原は心の中で何度も反芻してしまう。

一緒にいたい。
ずっと一緒にいたい。

自分勝手な我儘だと分かっていても、沢海の存在以外は何もいらない。
自分勝手な甘えだと分かっていても、沢海の存在を自分だけの唯一として強引に束縛したい。

沢海先輩が欲しい。
沢海先輩の全部が欲しい。

自分が欲しい言葉や自分が欲しい行為を全て与えてくれる沢海は、どんな時でも宮原の傍で何度も救ってくれた。

何が正しくて何が間違っているのかさえ分からない時があっても、一緒に考え、同じ目線で自分が真っ直ぐ前に進む道を教えてくれた。

自分の中で抱え切れずに壊れてしまいそうになっても沢海が支えてくれるから、またゆっくりと歩き始める事が出来る。

どんな事があっても後ろを振り返れば沢海の存在を感じ、その大切な存在があるだけで複雑に絡まった緊張は解放され、安らぎに癒される。

沢海の胸の中に抱き締められるだけで混乱、迷走、狼狽と自分の中に蓄積されていた負の感情は崩れ、霧消していく。

その度に宮原は沢海に甘えてばかりだと実感するのだが、今、自分が素直に甘えられる人は沢海だけしかいない。

離れたくない。
ーーー嫌われたくない。
離したくない。
ーーー沢海先輩の事が、好き。
大好き。

沢海先輩は自分の事を好きなのかな?
ーーー好き。
沢海先輩は自分の事を嫌いなのかな?
ーーーそれでも、沢海先輩の事が、好き。

何度も自分自身に対しても、何度も沢海に対しても、全てに自信を失ってしまい、不安に苛まれてしまう程ーーー沢海先輩の事が好き。

「…うん。
一緒に、先輩の家に行っていいですか?」

泣き笑いのような表情を作る宮原に沢海は一瞬、眉を顰めるが沢海の背中に宮原の腕が回ると、今度は宮原が沢海の身体をギュッと抱き締めた。

縋り付くような身体を受け止め、直ぐに沢海も宮原の背中を掻き抱くように抱き締めてくる。

沢海の口元が宮原の耳朶に触れ、内緒話をするように囁く。

「勿論、いいよ。おいで」

沢海が口を動かす度に唇が宮原の耳の輪郭をなぞり、擽ったさに首を竦めてしまう。
故意に行っているであろう沢海の仕草に、宮原は顔を上げると当然、至近距離で視線が合ってしまう。

目尻を柔らかくした沢海の笑みに吸い込まれ、改めて沢海の姿態を見入ってしまい、宮原は慌てて沢海の身体から手を離した。

「あ、あの……
ーーーオ、オレ…
先輩の作ったパスタが食べたい!」

口付けをするような距離感に宮原は途端に羞恥心を覚え、沢海の肩を両手で押し留め、お互いの身体を離そうとする。

宮原は自分の意思とは関係無しに勝手に跳ね上がってしまう体温と鼓動を感じ、沢海の眼差しから目を外した。

真っ赤になっている宮原の耳朶を沢海は内心、クスッと笑い、呆れるような演技をする。

「オレん家、メシ屋じゃないんだけど。
ーーーあぁ、そうか」

1人で納得をしている沢海は宮原の腰骨を掴み、お互いの下半身を弄り、密着させていく。
引き寄せられた下肢は沢海の両足の間に入り込むような形になり、必然として股間が押し付けられてしまう。

トレーニングゲーム用の練習着でもあるハーフパンツは通気性は良いのだが生地が薄く、ポリエステル地でもある特有の滑らかさも加わり、身体の形状や体温を直に感じてしまう。

宮原の下腹部に沢海のペニスが当たり、陰茎の丸みの形が分かる程、グリグリと擦られると艶のある沢海の声が漏れる。

「ねぇ。
ーーーメシ食べて、テーピングを教えて…
それから、ナニするの?」
「…え?」
「他にナニ、するんだよ?
さっき、ストレッチ中にキスしてって顔していたけど、その続きだけじゃないよな?」

宮原の腰骨を掴んでいた沢海の手はそのまま下に落とすと、ハーフパンツ越しに宮原の双尻を撫で回し、沢海は自分の腰をグッと前に重心を掛けてくる。

やんわりとした手付きで臀部を揉まれ、沢海の指が宮原の練習着の上から明確な意図を持って何度も擦っていく。

反応を示し始めた宮原の陰茎が更なる快感を求めて勃起し、陰嚢が精液を蓄え始め、会陰の筋の先にあるアヌスが収斂を繰り返して震える。

まるで、その行為を待ち望んでいたかのような肢体の素直で従順な答えに、宮原は喉元に甘い吐息が迫り上がってくる。

途端に宮原の体温が上がり、内腿が震え、足元に力が入りにくくなり、立っている事が難しくなってしまう。

宮原の性的な身体の変化を楽しむように沢海は下肢に手を伸ばしては弄り、宮原は勃ち上がる股間を両手で隠した。

「ヤッ…!
…イヤッ…
ーーーダ、ダメだって!
ここ…学校だって!
誰か来るっ!」

宮原は溶けるような吐息混じりの声音で沢海の耳元に掠れた声で訴える。
甘い囁きを口元に乗せながら、宮原の頬を舌でペロリと舐める。

「今日の朝も言ったけど、さ…
ーーーオレはもう一度、宮原とセックス出来るか試してみたいな…」
「オレ…
ーーーそんな、そんな意味で、パスタ食べたいって言った訳じゃ…」
「じゃあ、どんなつもりだよ?」
「あの……だから、その……」
「…ん?」
「ーーー今日、は……」

その様子を沢海は何も言わずに、宮原からの言葉を待つ。

宮原は言いにくそうに押し黙ると途端に難色を示し、下を向いてしまう。

まだ癒えない傷だらけの指を噛み、宮原は自分の感情を押し殺すような仕草を見せる。
沢海は自分の感情の中に入り込んで来て欲しくない、と拒絶をする宮原の癖を目の前で見付けてしまう。

沢海は宮原の顔をそっと覗き込むと、情欲に溺れる表情が既に薄れ、何か考え事をしている宮原は、遠くを見詰めるような強張った表情に様変わりしていた。

何度か言葉を選ぶようにして声も出さずに口唇が動くと、もう一度唇を噛み締め、重苦しい息と共に謝罪の言葉が落ちてしまう。

「ーーーすみません…
今日は、ちょっと……
……ごめんなさい……」

沢海は宮原の黒髪を手で梳くと、宮原が沢海に対して不安にならないように、少しだけ距離を取る。

「……オレこそ、ゴメン。
オレーーー今更、何を焦っているんだろうな…
今日はお互い朝からトレニングゲームで疲れているし、ゆっくりしていよう。
ーーーセックスは明日にお預けな」

沢海の言葉のひとつひとつに、宮原は反応をしてしまい、落ち着いていた筈の股間がズクリと疼いてしまう。

その行為を言葉で拒否したものの、身体は強欲に求めてしまっている事に、自分自身でさえも受け止め切れない。

「ーーーえ……あ、あの…
オ、オレ……
校舎のトイレ行ってきます!」

沢海の視界の柵から振り解くように、宮原はその場から逃げ出した。

「宮原!
校門の所で待っているから!」

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