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第一章
脅し
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突然部屋の中に入ってた教師たちの姿にハートは当惑した。
「なんで、先生たちが……」
「ちょっと私に協力してもらってるの」とシャルロッテ。
協力──そんな風にはとても見えない。彼らは揃って無表情で、どこか様子がおかしい。
「──お前、この人たちに何をしたっ!」
ハートは声を荒げた。
しかしシャルロッテは飄々とした顔で、
「私の『ヒューマンテイム』をかけただけだよ。──聞いたことはないだろうけど」
と返した。
「ヒューマン…テイム……」
初めて聞く言葉をハートが反芻する。
『テイム』といえば、『ビーストテイマー』という職能が、野生の獣に魔法をかけてそれを使役するように、対象を『操る』能力だ。
それが『ヒューマン』ということは──人を使役する能力とでもいうのだろうか。
「さて、じゃあ行こうか」
シャルロッテが教師たちに囲まれたハートの脇を通って、執務室のドアの前に立った。
シャルロッテが挑発的な微笑みをハートに向けて浮かべる。
「二人に会いに行こうよ」
どこに向かうのだろうか──ハートは、シャルロッテを先頭に教師に囲まれながら執務室を出た。
そのまま廊下を進み、学校の校舎の階段を下りる。
そうして一行は、そのまま校舎の外──校舎に併設された広大な魔法学校の訓練場に出てきた。
夜ではあるが、満月の月明かりに照らされた訓練場は見通しよく見えた。
「あっ!」
ハートが見つけたのは、先に訓練場にいた一団であった。
リルフィリアとウィンクルムがそれぞれ何人もの武器を持った兵士に囲まれている。
「二人とも!」
「ハート!」二人もハートに気が付いてリルフィリアが声を上げる。
しかし、すぐに周りの兵士が二人に剣を突きつけてたため、身動きをとることができなかった。
「さて」役者が揃ったと言わんばかりに、シャルロッテがわざとらしく両手をぱちんと鳴らした。
ハートの前に立ったシャルロッテが彼に告げる。
「今からハートには、この先生たちと戦ってもらうね」
「えっ」
「君が魔物相手にやったこと、私にも見せてよ」
先生と戦う?!──唐突なことを言い出したシャルロッテにハートが戸惑う。
「ま、待ってくれ!」
ハートはシャルロッテに食い下がる。
「なに?」シャルロッテが、きょとんとした顔をした。
「俺は──そんなことできないっ!ほんとは召喚術もまともにできないんだ。あの時は変なことが起きて──」
ハートが赤裸々に釈明する。
今日魔物と遭遇したときに起きたことは自分でも何が起きたかわからなくて、自分自身は本当は魔法学校で落ちぶれていることを説明しようとする。
「ふーん」
そんなハートに、シャルロッテはつまらなそうに唇を尖らせた。
「じゃあ、別にいいけど────『ヘルズバインド』」
シャルロッテが突然そう呟くと、兵士たちに囲まれているリルフィリアの足元に、紫色に光る魔法陣が出現した。
「っ!────きゃあっ!!」
驚く彼女に、地面の紫の魔方陣から無数の黒い影──帯のような細く長い『なにか』が生えてきた。
「やっ───いやっ!」
「リルフィリア!」
起きた異変にハートとウィンクルムが声を上げる。
帯状の黒い影は、リルフィリアの四肢に絡み付き、むりやり彼女の手足を大の字に広げて空中に持ち上げた。
「うっ──ああっ」
空中に磔にされたリルフィリアの華奢な体を、ギリギリと黒い影が締め付けた。
「やめろっ!!」
怒りの表情でシャルロッテに叫ぶハート。
「え?──じゃあ、きみが彼女を助けてあげたら?」と、どこ吹く風とばかりに受け流すシャルロッテ。
「うっ──くっ」
そんな彼女の態度に、ハートがどうしてよいか戸惑う。
召喚術を唱えればよいのか──ハートが考えを巡らす。シャルロッテの要求がそれだというなら、そうするしかない。
「我──天と人とを繋ぐもの」
ハートの前に、白く光る魔方陣が出現した。
「…………」
しかし、ハートは次の言葉を紡げない。
ハートの召喚術は、いつもここから先に進めないのだ。
「……なに?何もでないじゃん」
白く光るだけの魔法陣を見て、シャルロッテが興ざめしたように漏らす。
──なんだ、見当はずれだったかな?
期待外れといわんばかりの顔でシャルロッテが首をかしげる。
「──ならもういっか」
シャルロッテがその手をリルフィリアに向けた。
(殺しちゃダメだけど、ちょっと『形』が変になるくらいは大丈夫だよね──)
その唇が禍々しく、にいっと曲がる。
すると今度は魔法陣から紫色の電撃が迸った。
「キャー!!」
稲妻に身を撃たれたリルフィリアから、甲高い悲鳴が響く。
「やめろぉっ!」
「あはは、なら早く何か出しなよ」シャルロッテがハートを嘲笑う。「──可愛いきみの彼女が焦げちゃうよ!!」
きゃっきゃっとハートを煽るシャルロッテ。
その間もリルフィリアは紫の電撃に体を撃たれている。
────くそっ!!
ハートが奥歯をギリっと噛んだ。
早くリルフィリアを助けなければ──その一心でハートは念じる。
(なにか──何でもいいから出てきてくれっ!!)
すると次の瞬間の、ハートの魔方陣が眩い光を放った。
────なんだっ!
それにハート自身も驚く。
(────へえ)
光を放った魔方陣を目にし、シャルロッテが好奇の笑みを浮かべた。
魔方陣から現れたのは、輝くローブを身に纏い、右手に杖を、左手に分厚い本を手にした魔法使いの格好をした男であった。
──────────────
あとがき:ほんとはもっと戸惑いの描写とかするのがリアルなのですが、きついので簡単にしました、スミマセン!
お気に入り登録ありがとうございます!
「なんで、先生たちが……」
「ちょっと私に協力してもらってるの」とシャルロッテ。
協力──そんな風にはとても見えない。彼らは揃って無表情で、どこか様子がおかしい。
「──お前、この人たちに何をしたっ!」
ハートは声を荒げた。
しかしシャルロッテは飄々とした顔で、
「私の『ヒューマンテイム』をかけただけだよ。──聞いたことはないだろうけど」
と返した。
「ヒューマン…テイム……」
初めて聞く言葉をハートが反芻する。
『テイム』といえば、『ビーストテイマー』という職能が、野生の獣に魔法をかけてそれを使役するように、対象を『操る』能力だ。
それが『ヒューマン』ということは──人を使役する能力とでもいうのだろうか。
「さて、じゃあ行こうか」
シャルロッテが教師たちに囲まれたハートの脇を通って、執務室のドアの前に立った。
シャルロッテが挑発的な微笑みをハートに向けて浮かべる。
「二人に会いに行こうよ」
どこに向かうのだろうか──ハートは、シャルロッテを先頭に教師に囲まれながら執務室を出た。
そのまま廊下を進み、学校の校舎の階段を下りる。
そうして一行は、そのまま校舎の外──校舎に併設された広大な魔法学校の訓練場に出てきた。
夜ではあるが、満月の月明かりに照らされた訓練場は見通しよく見えた。
「あっ!」
ハートが見つけたのは、先に訓練場にいた一団であった。
リルフィリアとウィンクルムがそれぞれ何人もの武器を持った兵士に囲まれている。
「二人とも!」
「ハート!」二人もハートに気が付いてリルフィリアが声を上げる。
しかし、すぐに周りの兵士が二人に剣を突きつけてたため、身動きをとることができなかった。
「さて」役者が揃ったと言わんばかりに、シャルロッテがわざとらしく両手をぱちんと鳴らした。
ハートの前に立ったシャルロッテが彼に告げる。
「今からハートには、この先生たちと戦ってもらうね」
「えっ」
「君が魔物相手にやったこと、私にも見せてよ」
先生と戦う?!──唐突なことを言い出したシャルロッテにハートが戸惑う。
「ま、待ってくれ!」
ハートはシャルロッテに食い下がる。
「なに?」シャルロッテが、きょとんとした顔をした。
「俺は──そんなことできないっ!ほんとは召喚術もまともにできないんだ。あの時は変なことが起きて──」
ハートが赤裸々に釈明する。
今日魔物と遭遇したときに起きたことは自分でも何が起きたかわからなくて、自分自身は本当は魔法学校で落ちぶれていることを説明しようとする。
「ふーん」
そんなハートに、シャルロッテはつまらなそうに唇を尖らせた。
「じゃあ、別にいいけど────『ヘルズバインド』」
シャルロッテが突然そう呟くと、兵士たちに囲まれているリルフィリアの足元に、紫色に光る魔法陣が出現した。
「っ!────きゃあっ!!」
驚く彼女に、地面の紫の魔方陣から無数の黒い影──帯のような細く長い『なにか』が生えてきた。
「やっ───いやっ!」
「リルフィリア!」
起きた異変にハートとウィンクルムが声を上げる。
帯状の黒い影は、リルフィリアの四肢に絡み付き、むりやり彼女の手足を大の字に広げて空中に持ち上げた。
「うっ──ああっ」
空中に磔にされたリルフィリアの華奢な体を、ギリギリと黒い影が締め付けた。
「やめろっ!!」
怒りの表情でシャルロッテに叫ぶハート。
「え?──じゃあ、きみが彼女を助けてあげたら?」と、どこ吹く風とばかりに受け流すシャルロッテ。
「うっ──くっ」
そんな彼女の態度に、ハートがどうしてよいか戸惑う。
召喚術を唱えればよいのか──ハートが考えを巡らす。シャルロッテの要求がそれだというなら、そうするしかない。
「我──天と人とを繋ぐもの」
ハートの前に、白く光る魔方陣が出現した。
「…………」
しかし、ハートは次の言葉を紡げない。
ハートの召喚術は、いつもここから先に進めないのだ。
「……なに?何もでないじゃん」
白く光るだけの魔法陣を見て、シャルロッテが興ざめしたように漏らす。
──なんだ、見当はずれだったかな?
期待外れといわんばかりの顔でシャルロッテが首をかしげる。
「──ならもういっか」
シャルロッテがその手をリルフィリアに向けた。
(殺しちゃダメだけど、ちょっと『形』が変になるくらいは大丈夫だよね──)
その唇が禍々しく、にいっと曲がる。
すると今度は魔法陣から紫色の電撃が迸った。
「キャー!!」
稲妻に身を撃たれたリルフィリアから、甲高い悲鳴が響く。
「やめろぉっ!」
「あはは、なら早く何か出しなよ」シャルロッテがハートを嘲笑う。「──可愛いきみの彼女が焦げちゃうよ!!」
きゃっきゃっとハートを煽るシャルロッテ。
その間もリルフィリアは紫の電撃に体を撃たれている。
────くそっ!!
ハートが奥歯をギリっと噛んだ。
早くリルフィリアを助けなければ──その一心でハートは念じる。
(なにか──何でもいいから出てきてくれっ!!)
すると次の瞬間の、ハートの魔方陣が眩い光を放った。
────なんだっ!
それにハート自身も驚く。
(────へえ)
光を放った魔方陣を目にし、シャルロッテが好奇の笑みを浮かべた。
魔方陣から現れたのは、輝くローブを身に纏い、右手に杖を、左手に分厚い本を手にした魔法使いの格好をした男であった。
──────────────
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