31 / 43
【4-5】生きる価値のない腰抜け
しおりを挟む
「おい、ボーっと突っ立てんじゃねえよ」
野蛮な声に顔をあげると、派手な赤いモヒカントとリーゼントをバッチリ決めた、いかにもチンピラといった風貌の二人組がガンを飛ばして立っていた。
「なんだこいつ、ボケッとしやがって見ねえ顔だなー。余所者には、ちょっくらこの町の厳しさとルールってもんを教えてやらねえといけねえなー」
「いたたー、さっきぶつかった腕が折れちまったかもしれねー。こりゃあ、たっぷり慰謝料がいるなー」
俺にぶつかったモヒカン男は、自分の腕を押さえてわざとらしく痛がる演技をしている。
元の世界では絶滅した、コテコテの当たり屋のようなチンピラに絡まれてしまった。
こんな奴らに構っている暇はないので、とりあえず謝って穏便に済まそう。
「すみません……」
「一言謝っただけで済むわけねえだろ!」
俺の態度が気に食わなかったのか、はたまた元々金目的で絡んできたのかはわからないが、リーゼント男が俺の顔をグーで殴った。
拳を振り切るほど思いっきり殴られたが、不思議と痛みは感じなかった。
それどころか、寧ろ殴られたことで妙に頭がスッキリした気がした。
「すみませんでした……」
殴って気が済んだだろうと判断して、先程より丁寧な口調で謝罪した。
だが、下手に出たのは逆効果だったようで、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながら二人は近づいてきた。
「殴られても謝罪だけって情けねえ奴だなー。慰謝料払えって言ってんだろ? 死にたくなけりゃあ有り金全部出せよ。早くしねえと手が滑って、うっかり殺しちゃうかもなー」
モヒカン男が折れたと主張していたはずの腕で、懐からナイフを取り出し俺の腹に突きつけてきた。
命を奪う凶器を突きつけられたが、普通なら生じるはずの恐怖心は感じない。その代わり、目の前のこいつが気軽に放った『殺す』と『死』という言葉によって、俺の心の中に溜まっていたドロドロとした別の感情が沸き上がってきた。
「……やってみろよ……」
「は? 何か言ったか?」
モヒカン男は、俯いて呟いた俺の顔を覗き込んでくる。
俺は勢いよく顔をあげ、モヒカン男の服の襟を掴んだ。
「やってみろって言ったんだよ! 俺は心も腐っちまったゾンビなんだ、殺せるもんなら殺してくれよ。俺が死ねば、ハルカは鬱陶しい幼馴染から解放される。俺なんかが生きてるからハルカはずっと苦しむんだ。できるんなら、俺の存在ごと全てを殺してくれよ!」
自分への不満をぶつけるかのように怒気を強めて叫んだ。
自分の存在を消す方法がないことなんて、頭ではわかっているのに……。
「な、なんなんだ? お前……」
モヒカン男は俺の剣幕に押され、数歩後ろにたじろいだ。
勢いよく詰め寄ったことでナイフが腹に突き刺さったが、それに一切構わず叫んだ。
「おい! 離れろよ!」
呆気にとられて立ち尽くしていたモヒカン男の代わりに、リーゼント男が強引に俺を引きはがしにかかってくる。
その勢いで、俺の体は地面に倒れた。
「こ、こいつ、頭おかしいのか? あれ? 俺のナイフって今刺さったよな?」
モヒカン男は状況が飲み込めないていないようで、手に持った血の滴っているナイフを凝視している。
俺は惨めに地面に倒れ、砂や泥、血で汚れた自分を見て自虐的に笑った。これぐらいが、今の俺にはちょうどいい。
そんな自己嫌悪から少し冷静になって辺りを見渡してみると、全員が俺たちを奇異の目で見ている。
それは目の前で起きている喧嘩に対してだろうが、俺には店主の時と同様に、幼馴染を助けに行く勇気が出ない腰抜けを蔑むような目に感じた。
「レンマさんダメです! レンマさんが死んでもカルハ様は余計悲しむだけで――」
「ガキが、邪魔すんじゃねえよ!」
止めに入ろうと慌てて近づいてきたルーリアを、リーゼント男が突き飛ばした。
押されて尻もちをついたことで、彼女の赤いフードがめくれて素顔が露わになってしまった。
「お前! 俺の仲間に何して……」
ルーリアが突き飛ばされたことで頭に血が上り、目の前のリーゼント男に掴みかかった。しかし、男は俺ではなくルーリアを見て、口を開け固まっている。
明らかに周りの雰囲気が変わった。さっきまで和気あいあいと活気があって騒がしかった町が静まり返っており、全員の視線はルーリアに注がれていた。
「……無幻の魔女……」
人ごみの中で誰かが呟いた。
野蛮な声に顔をあげると、派手な赤いモヒカントとリーゼントをバッチリ決めた、いかにもチンピラといった風貌の二人組がガンを飛ばして立っていた。
「なんだこいつ、ボケッとしやがって見ねえ顔だなー。余所者には、ちょっくらこの町の厳しさとルールってもんを教えてやらねえといけねえなー」
「いたたー、さっきぶつかった腕が折れちまったかもしれねー。こりゃあ、たっぷり慰謝料がいるなー」
俺にぶつかったモヒカン男は、自分の腕を押さえてわざとらしく痛がる演技をしている。
元の世界では絶滅した、コテコテの当たり屋のようなチンピラに絡まれてしまった。
こんな奴らに構っている暇はないので、とりあえず謝って穏便に済まそう。
「すみません……」
「一言謝っただけで済むわけねえだろ!」
俺の態度が気に食わなかったのか、はたまた元々金目的で絡んできたのかはわからないが、リーゼント男が俺の顔をグーで殴った。
拳を振り切るほど思いっきり殴られたが、不思議と痛みは感じなかった。
それどころか、寧ろ殴られたことで妙に頭がスッキリした気がした。
「すみませんでした……」
殴って気が済んだだろうと判断して、先程より丁寧な口調で謝罪した。
だが、下手に出たのは逆効果だったようで、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながら二人は近づいてきた。
「殴られても謝罪だけって情けねえ奴だなー。慰謝料払えって言ってんだろ? 死にたくなけりゃあ有り金全部出せよ。早くしねえと手が滑って、うっかり殺しちゃうかもなー」
モヒカン男が折れたと主張していたはずの腕で、懐からナイフを取り出し俺の腹に突きつけてきた。
命を奪う凶器を突きつけられたが、普通なら生じるはずの恐怖心は感じない。その代わり、目の前のこいつが気軽に放った『殺す』と『死』という言葉によって、俺の心の中に溜まっていたドロドロとした別の感情が沸き上がってきた。
「……やってみろよ……」
「は? 何か言ったか?」
モヒカン男は、俯いて呟いた俺の顔を覗き込んでくる。
俺は勢いよく顔をあげ、モヒカン男の服の襟を掴んだ。
「やってみろって言ったんだよ! 俺は心も腐っちまったゾンビなんだ、殺せるもんなら殺してくれよ。俺が死ねば、ハルカは鬱陶しい幼馴染から解放される。俺なんかが生きてるからハルカはずっと苦しむんだ。できるんなら、俺の存在ごと全てを殺してくれよ!」
自分への不満をぶつけるかのように怒気を強めて叫んだ。
自分の存在を消す方法がないことなんて、頭ではわかっているのに……。
「な、なんなんだ? お前……」
モヒカン男は俺の剣幕に押され、数歩後ろにたじろいだ。
勢いよく詰め寄ったことでナイフが腹に突き刺さったが、それに一切構わず叫んだ。
「おい! 離れろよ!」
呆気にとられて立ち尽くしていたモヒカン男の代わりに、リーゼント男が強引に俺を引きはがしにかかってくる。
その勢いで、俺の体は地面に倒れた。
「こ、こいつ、頭おかしいのか? あれ? 俺のナイフって今刺さったよな?」
モヒカン男は状況が飲み込めないていないようで、手に持った血の滴っているナイフを凝視している。
俺は惨めに地面に倒れ、砂や泥、血で汚れた自分を見て自虐的に笑った。これぐらいが、今の俺にはちょうどいい。
そんな自己嫌悪から少し冷静になって辺りを見渡してみると、全員が俺たちを奇異の目で見ている。
それは目の前で起きている喧嘩に対してだろうが、俺には店主の時と同様に、幼馴染を助けに行く勇気が出ない腰抜けを蔑むような目に感じた。
「レンマさんダメです! レンマさんが死んでもカルハ様は余計悲しむだけで――」
「ガキが、邪魔すんじゃねえよ!」
止めに入ろうと慌てて近づいてきたルーリアを、リーゼント男が突き飛ばした。
押されて尻もちをついたことで、彼女の赤いフードがめくれて素顔が露わになってしまった。
「お前! 俺の仲間に何して……」
ルーリアが突き飛ばされたことで頭に血が上り、目の前のリーゼント男に掴みかかった。しかし、男は俺ではなくルーリアを見て、口を開け固まっている。
明らかに周りの雰囲気が変わった。さっきまで和気あいあいと活気があって騒がしかった町が静まり返っており、全員の視線はルーリアに注がれていた。
「……無幻の魔女……」
人ごみの中で誰かが呟いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜
KeyBow
ファンタジー
主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。
そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。
転生した先は侯爵家の子息。
妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。
女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。
ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。
理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。
メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。
しかしそう簡単な話ではない。
女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。
2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・
多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。
しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。
信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。
いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。
孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。
また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。
果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる