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【2-3】ドラゴンゾンビの実力
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作戦を思い出そうとしていると、さっきまで天使と揉めていたリュウが戻ってきた。
どうやらリュウだけが戻ってきたようで天使の姿はない。
「そがなことはどうでもいい。勇者よ、ドラゴンの力を思い知るが良い」
言い放つとリュウは、地面に手をつき完璧なクラウチングスタートで走り出し、勇者の方へ突撃していった。
あれ? 作戦は?
「魔物が増えたぞ」
「襲ってきた、構えろ!」
勇者が仮面騎士に声をかけて剣を中段に構えた。突っ込んでくるリュウを迎え撃つ姿勢だ。
「まずは、お前からじゃーーーー、ガハッ!」
勇者に向って正面から突撃していったリュウは、吸い込まれるように勇者が構えた剣の切っ先にぶすりと刺さって、そのまま動かなくなってしまった。
「えっ……、あいつ何してんの?」
目の前の光景がよくわからなかったので、あのゾンビの召喚者に問いかけた。
「刺さったわね」
「刺さりましたね」
カルハとルーリアが声を揃える。言われなくても刺さったことは見ればわかる。
「えっ……」
勇者も目の前の光景が理解できなかったのか、剣を構えたままの姿勢で硬直し、仲間の仮面騎士も棒立ちで勇者の方を見ている。
「なあ二人とも、あれってなんか作戦があるんだよな?」
「そ、そうですよね。走って行って、自分から剣に刺さって終わりなわけないですし」
「そうかしら? なんかぐったりしているし、もうダメそうな気がするわ」
なんで召喚師が一番信用してないんだよ。
俺も若干ダメそうとは思ったけど、召喚師ならもっと召喚獣を信用してやれよ。
「なあ君たち……、彼女はいったい何がしたかったんだ?」
勇者が戸惑いながら俺たちに問いかけてきた。
まずい。このままでは俺たちの印象が、勝手に突っ込んで剣に刺さってやられただけの恥ずかしい奴の仲間ということになってしまう。
「流石はここまで来た勇者、我が四天王を一撃で倒すとはっ!」
「えっ? 倒したっていうか何というか……」
魔王軍っぽい雰囲気を作って誤魔化そうとしてみたが、全然緊張感は演出できなかった。
「油断しとるのう、勇者よ」
気まずい空気が立ち込めていた大広間に、やられたはずのリュウの声が響いたことで全員が驚いて固まった。
その隙にリュウは体をグイッと左に捻り、腹に刺さったままの勇者の剣を奪い取った。
「リュウ、私は信じていたわ」
一番信用してなかったはずの召喚師が白々しく彼女に声をかける。
「剣士といえば剣で攻撃する。じゃけえ、まずはその剣を奪ってやったわ」
リュウは自慢げに腹に刺さった剣を見せびらかして笑っている。
手段はどうあれ、確かに凄い手柄だ。
そんな彼女の姿を見て、俺はふと初めて会った時のことを思い出した。
「もしかして、洋館前で会った時に刀が刺さっていたのも……」
「そうじゃったか? 刺さっとったんならそうかもしれん。剣士と戦う時は、いつもこの作戦で敵の剣を奪っとる。対剣士用のリュウの必勝法じゃ」
誇らしげに語るリュウを見て、カルハは感心したのか少し考えるポーズを取った。
「なるほど……。なぜかいつも体に武器が刺さっているなとは思っていたけど、そういうことだったの」
「カルハも知らなかったのか?」
「だって、彼女ゾンビだし……」
「いや、ゾンビでも頻繁に武器は刺さらないだろ」
「だってほら、ゾンビって弓とか色々刺さっているイメージがあるじゃない?」
「確かにそんなイメージはあるけど」
そもそもネクロマンサーがゾンビをイメージで語るなよ。いつも実物見てるだろ。
「さあさあ、こっからが本番じゃ」
腹に刺さった剣を乱雑に引き抜き、再びリュウは勇者と仮面騎士に突撃していった。
「勇者! ボーっとするな。また来るぞ」
「あっ、ああ、すまない」
放心状態だった勇者は、二本目の剣を抜いて迎え撃つ構えを取った。
流石に二回は刺さらないらしく、突撃したリュウの両手の爪を勇者と仮面騎士がそれぞれの剣で受け止めた。
鍔迫り合いの末、リュウが二人の剣を押し返した。
リュウは体勢を崩した仮面騎士の顔面に右ストレートを放った。
仮面騎士は咄嗟に拳を剣でガードしたが、衝撃で数センチ体が後ろに下がる。その隙に勇者が切りかかるが、リュウは剣を受け止め腹を蹴り飛ばした。
二対一で戦っているが、リュウの方が優勢に見える。
「リュウめっちゃ強いな。このままあいつだけで勝てそうだぞ」
「私のリュウよ。強いに決まっているじゃない」
俺が言うとカルハは得意げに答えた。
リュウがこんなに強いなら、やっぱり俺を召喚する必要なかったんじゃないか?
「なんだこいつ! 切っても倒れるどころかそのまま攻撃してくる」
「不死身か?」
勇者たちの言う通り、リュウは圧倒しているように見えるが実際は何度か切られている。
どんなに攻撃されても彼女は意に介さず、ただ全力で攻撃している。これが死なないゾンビの戦い方なのだろうか。
「……凄く綺麗ですね」
「ああ、そうだな」
ルーリアはリュウの戦いに見惚れていた。
ルーリアの気持ちもわかる。
自分を犠牲にするリュウの戦い方は、一見野蛮な印象を受けるが、目の前の彼女からは、戦っているというより舞っているような美しさを感じる。
勇者たちは、リュウの防御を捨てた全力の攻撃を受けきるので精一杯といった感じだ。
俺たちが援護すると逆にリュウの邪魔になってしまうとの思いから、俺たち三人はただただリュウと勇者たちの戦闘を見ていた。
リュウの蹴りを剣で受け止めた勇者は、そのまま力一杯剣を振って彼女を吹き飛ばした。
「勇者じゃろうとやはり人間。竜魔族のゾンビには手も足も出んと見える」
難なく着地したリュウは、カハッと得意げに笑った。
そんな彼女に対して、勇者たちは苦悶の表情を浮かべている。
「ゾンビだと……噂には聞いたことがあるが、こいつが……」
勇者はたじろぎリュウをまじまじと見ている。
どうやら勇者はゾンビを初めて見たようだ。
「相手はゾンビだ! 主さえ倒せば奴も戦闘不能になるはずだ。奴の主を捜せ!」
仮面騎士が勇者に指示を送った。
流石は勇者パーティーだ。仲間はゾンビとの戦い方を心得ている。
「流石ね。ゾンビを倒す術を知っているなんて」
カルハも感心しているのか、一歩前に出て勇者たちに語りかけ始めた。
「でも、どうかしら? そのゾンビは今見たようにかなり強いわよ。ゾンビの攻撃を防ぎながら、隙を見て私を倒すことなんてできると思う?」
「…………」
勇者たちは信じられないといった表情を浮かべ、絶望したように口を開けて放心状態になっている。
そりゃあ絶望するだろう。
二対一でもギリギリの状態で、リュウの隙を見て主であるカルハを倒さなければならない。……ゾンビの主であるカルハを、……カルハを……私を?
「えっと、あの、カルハさん?」
「何かしら?」
俺が話しかけると、カルハはいつもより元気に返事をした。
リュウが勇者を圧倒しているのがよっぽど嬉しいのだろうか。
そんな上機嫌な彼女に向って、俺は現在の状況をわかりやすく説明した。
「今勇者たちが、ゾンビを倒すために主を捜して先に倒すって話をしてたじゃないですかー」
「そうね。だから私を――」
「私を倒すことができるかしらって言ったら、誰が主かバレバレじゃないですかねー」
そう、勇者は絶望から放心状態になっているわけではなく、軽率に喋って自分からゾンビの主だとバラしたカルハに唖然としていたのだ。
「……あっ! 確かにそうね。うわっ……どうしよう……。まあ、これからは気を付けるわ」
「だから、今言っちゃったの! もう次はないんだって。前もこんなやり取りしたよな」
取り乱しているカルハを落ち着かせるため、俺は勇者たちから庇うように彼女の前に立った。
もしかしたら彼女の浮世離れした雰囲気は、天然で少しズレているだけなのかもしれない。
「焦るなレンマ。カルハが主じゃとバレたところで、リュウを止められん以上カルハがやられることもなかろう」
勇者を蹴りで吹き飛ばしながら、リュウは言葉で俺を制した。
「……なるほど。あえて主が誰かを明かすことで注意を惹き、相手の集中力を削ぐ作戦か……。危うく私もカウンターを食らうところだった」
吹き飛んだ勇者を一瞥した仮面騎士が、気を引き締めた態度でこちらに剣を向けて構え直した。……えっ、今そんな心理戦あった?
どうやらリュウだけが戻ってきたようで天使の姿はない。
「そがなことはどうでもいい。勇者よ、ドラゴンの力を思い知るが良い」
言い放つとリュウは、地面に手をつき完璧なクラウチングスタートで走り出し、勇者の方へ突撃していった。
あれ? 作戦は?
「魔物が増えたぞ」
「襲ってきた、構えろ!」
勇者が仮面騎士に声をかけて剣を中段に構えた。突っ込んでくるリュウを迎え撃つ姿勢だ。
「まずは、お前からじゃーーーー、ガハッ!」
勇者に向って正面から突撃していったリュウは、吸い込まれるように勇者が構えた剣の切っ先にぶすりと刺さって、そのまま動かなくなってしまった。
「えっ……、あいつ何してんの?」
目の前の光景がよくわからなかったので、あのゾンビの召喚者に問いかけた。
「刺さったわね」
「刺さりましたね」
カルハとルーリアが声を揃える。言われなくても刺さったことは見ればわかる。
「えっ……」
勇者も目の前の光景が理解できなかったのか、剣を構えたままの姿勢で硬直し、仲間の仮面騎士も棒立ちで勇者の方を見ている。
「なあ二人とも、あれってなんか作戦があるんだよな?」
「そ、そうですよね。走って行って、自分から剣に刺さって終わりなわけないですし」
「そうかしら? なんかぐったりしているし、もうダメそうな気がするわ」
なんで召喚師が一番信用してないんだよ。
俺も若干ダメそうとは思ったけど、召喚師ならもっと召喚獣を信用してやれよ。
「なあ君たち……、彼女はいったい何がしたかったんだ?」
勇者が戸惑いながら俺たちに問いかけてきた。
まずい。このままでは俺たちの印象が、勝手に突っ込んで剣に刺さってやられただけの恥ずかしい奴の仲間ということになってしまう。
「流石はここまで来た勇者、我が四天王を一撃で倒すとはっ!」
「えっ? 倒したっていうか何というか……」
魔王軍っぽい雰囲気を作って誤魔化そうとしてみたが、全然緊張感は演出できなかった。
「油断しとるのう、勇者よ」
気まずい空気が立ち込めていた大広間に、やられたはずのリュウの声が響いたことで全員が驚いて固まった。
その隙にリュウは体をグイッと左に捻り、腹に刺さったままの勇者の剣を奪い取った。
「リュウ、私は信じていたわ」
一番信用してなかったはずの召喚師が白々しく彼女に声をかける。
「剣士といえば剣で攻撃する。じゃけえ、まずはその剣を奪ってやったわ」
リュウは自慢げに腹に刺さった剣を見せびらかして笑っている。
手段はどうあれ、確かに凄い手柄だ。
そんな彼女の姿を見て、俺はふと初めて会った時のことを思い出した。
「もしかして、洋館前で会った時に刀が刺さっていたのも……」
「そうじゃったか? 刺さっとったんならそうかもしれん。剣士と戦う時は、いつもこの作戦で敵の剣を奪っとる。対剣士用のリュウの必勝法じゃ」
誇らしげに語るリュウを見て、カルハは感心したのか少し考えるポーズを取った。
「なるほど……。なぜかいつも体に武器が刺さっているなとは思っていたけど、そういうことだったの」
「カルハも知らなかったのか?」
「だって、彼女ゾンビだし……」
「いや、ゾンビでも頻繁に武器は刺さらないだろ」
「だってほら、ゾンビって弓とか色々刺さっているイメージがあるじゃない?」
「確かにそんなイメージはあるけど」
そもそもネクロマンサーがゾンビをイメージで語るなよ。いつも実物見てるだろ。
「さあさあ、こっからが本番じゃ」
腹に刺さった剣を乱雑に引き抜き、再びリュウは勇者と仮面騎士に突撃していった。
「勇者! ボーっとするな。また来るぞ」
「あっ、ああ、すまない」
放心状態だった勇者は、二本目の剣を抜いて迎え撃つ構えを取った。
流石に二回は刺さらないらしく、突撃したリュウの両手の爪を勇者と仮面騎士がそれぞれの剣で受け止めた。
鍔迫り合いの末、リュウが二人の剣を押し返した。
リュウは体勢を崩した仮面騎士の顔面に右ストレートを放った。
仮面騎士は咄嗟に拳を剣でガードしたが、衝撃で数センチ体が後ろに下がる。その隙に勇者が切りかかるが、リュウは剣を受け止め腹を蹴り飛ばした。
二対一で戦っているが、リュウの方が優勢に見える。
「リュウめっちゃ強いな。このままあいつだけで勝てそうだぞ」
「私のリュウよ。強いに決まっているじゃない」
俺が言うとカルハは得意げに答えた。
リュウがこんなに強いなら、やっぱり俺を召喚する必要なかったんじゃないか?
「なんだこいつ! 切っても倒れるどころかそのまま攻撃してくる」
「不死身か?」
勇者たちの言う通り、リュウは圧倒しているように見えるが実際は何度か切られている。
どんなに攻撃されても彼女は意に介さず、ただ全力で攻撃している。これが死なないゾンビの戦い方なのだろうか。
「……凄く綺麗ですね」
「ああ、そうだな」
ルーリアはリュウの戦いに見惚れていた。
ルーリアの気持ちもわかる。
自分を犠牲にするリュウの戦い方は、一見野蛮な印象を受けるが、目の前の彼女からは、戦っているというより舞っているような美しさを感じる。
勇者たちは、リュウの防御を捨てた全力の攻撃を受けきるので精一杯といった感じだ。
俺たちが援護すると逆にリュウの邪魔になってしまうとの思いから、俺たち三人はただただリュウと勇者たちの戦闘を見ていた。
リュウの蹴りを剣で受け止めた勇者は、そのまま力一杯剣を振って彼女を吹き飛ばした。
「勇者じゃろうとやはり人間。竜魔族のゾンビには手も足も出んと見える」
難なく着地したリュウは、カハッと得意げに笑った。
そんな彼女に対して、勇者たちは苦悶の表情を浮かべている。
「ゾンビだと……噂には聞いたことがあるが、こいつが……」
勇者はたじろぎリュウをまじまじと見ている。
どうやら勇者はゾンビを初めて見たようだ。
「相手はゾンビだ! 主さえ倒せば奴も戦闘不能になるはずだ。奴の主を捜せ!」
仮面騎士が勇者に指示を送った。
流石は勇者パーティーだ。仲間はゾンビとの戦い方を心得ている。
「流石ね。ゾンビを倒す術を知っているなんて」
カルハも感心しているのか、一歩前に出て勇者たちに語りかけ始めた。
「でも、どうかしら? そのゾンビは今見たようにかなり強いわよ。ゾンビの攻撃を防ぎながら、隙を見て私を倒すことなんてできると思う?」
「…………」
勇者たちは信じられないといった表情を浮かべ、絶望したように口を開けて放心状態になっている。
そりゃあ絶望するだろう。
二対一でもギリギリの状態で、リュウの隙を見て主であるカルハを倒さなければならない。……ゾンビの主であるカルハを、……カルハを……私を?
「えっと、あの、カルハさん?」
「何かしら?」
俺が話しかけると、カルハはいつもより元気に返事をした。
リュウが勇者を圧倒しているのがよっぽど嬉しいのだろうか。
そんな上機嫌な彼女に向って、俺は現在の状況をわかりやすく説明した。
「今勇者たちが、ゾンビを倒すために主を捜して先に倒すって話をしてたじゃないですかー」
「そうね。だから私を――」
「私を倒すことができるかしらって言ったら、誰が主かバレバレじゃないですかねー」
そう、勇者は絶望から放心状態になっているわけではなく、軽率に喋って自分からゾンビの主だとバラしたカルハに唖然としていたのだ。
「……あっ! 確かにそうね。うわっ……どうしよう……。まあ、これからは気を付けるわ」
「だから、今言っちゃったの! もう次はないんだって。前もこんなやり取りしたよな」
取り乱しているカルハを落ち着かせるため、俺は勇者たちから庇うように彼女の前に立った。
もしかしたら彼女の浮世離れした雰囲気は、天然で少しズレているだけなのかもしれない。
「焦るなレンマ。カルハが主じゃとバレたところで、リュウを止められん以上カルハがやられることもなかろう」
勇者を蹴りで吹き飛ばしながら、リュウは言葉で俺を制した。
「……なるほど。あえて主が誰かを明かすことで注意を惹き、相手の集中力を削ぐ作戦か……。危うく私もカウンターを食らうところだった」
吹き飛んだ勇者を一瞥した仮面騎士が、気を引き締めた態度でこちらに剣を向けて構え直した。……えっ、今そんな心理戦あった?
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