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【1-9】勇者に狙われる理由
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カルハたちの住む洋館は二階建てだった。
体育館ほどの広さの大広間がある一階を抜け、階段を上がった先の二階の応接間に通された。
カルハの話では、二階には各自の部屋もあるらしい。
俺は促されるまま席に座り、対面に腰かけているカルハに質問した。
「さっきの話。なんで勇者が俺を倒しに来るんだ? 俺は今日この世界に来たばっかりで、倒されるようなことなんて何もしてないのに――」
「――それはね、私たちが勇者の敵である魔王軍の一員だからよ。つまり正確には、貴方をではなく、貴方を含めた私たちを倒しに勇者が来るというのが正解ね」
当然でしょっといった様子で、紅茶を飲みながらカルハが答えた。
「魔王軍って……えっ、なんで?」
「色々と事情があるのよ」
紅茶を飲む手を止め、彼女は遠くを見つめてボソッと呟くように言った。
彼女の言葉からは、追及を一切許さないという重みを感じる。
……ほうほう……。カルハたちは魔王軍で、一緒にいたら俺も勇者に狙われると……。
「――ちなみに逃げようとしても無駄よ。召喚された者は、召喚者と一定の距離以上離れることができない制約で縛られている。つまり貴方には何とかして勇者との戦闘を避けるか、勇者を倒すかの二つしか選択肢がないの」
出入り口の扉をチラリと見て、少し腰を浮かした俺にカルハは言い放った。
ちょっと彼女たちから距離を置こうと思っただけで、別に逃げようとしたわけではなかったが、カルハは何か勘違いしたんだろうな。
「魔王軍か、そりゃあ勇者に狙われるわな……」
「まあ魔王軍とは言っても、私たちはそこまでの悪事はしていないから、そのことがわかれば見逃してもらえるかもしれないけどね」
「そうなのか?」
魔王軍だからといって全員倒されるわけではないのか、少し希望が見えた気がする。
戦闘を回避できるのなら、それに越したことはない。
「ちなみにカルハたちって、何か悪いことしたのか?」
俺から質問を受け、カルハは顎に手を置き少し考えた。
「そうね。悪事といえば……、町の城壁を破壊したり――」
「――おおっ、リュウがやったことじゃな。あがな強度で町は守れんぞというメッセージ性を込めた破壊じゃった」
カルハの言葉に、どこからかひょっこりと現れたリュウが答えた。
「馬車から積み荷を奪ったり――」
「――それもリュウのことじゃな。笑顔で近寄ったら色々くれた」
「城に竜魔族って書いた旗を立てたり――」
「――そがなこともあったのう。それもリュウのことじゃ」
腕を組み、うんうんと頷きながら懐かしむようにリュウが言った。
「――カルハ、剣とか持ってない? こいつの首、勇者に差し出して許してもらおうぜ」
カルハが例に出した悪事は、全てリュウが起こしたことらしい。
こいつの首を差し出せば、俺たちは見逃してもらえるかもしれない。
「残念じゃったのう。リュウはゾンビじゃけえ、首を落とそうが死にゃあせんぞ」
リュウは舌を出し、両手を顔の横に広げて指をピコピコと動かし煽ってきた。
「確かに死ぬことはないけれど自然とくっついたりもしないから、私が力を使わない限りは切られたらずっと首のままよ」
カルハに言われ、リュウは煽った表情のままカルハの方を見て固まった。
その後、ゆっくりと俺の方を向いたかと思うと一目散に部屋を出て行った。
「あっ、ちょっと待て、ドラゴンゾンビ!」
「まあ、見逃してもらえるかもってだけで、作戦もないし可能性はかなり低いわ。戦って追い返すのが現実的ね」
確かにリュウだけに罪があるとはいえ、仲間の俺たちを勇者が見逃すとは考えにくいか。
リュウが部屋から出て行ったので、二人で勇者を倒す方法について考える。
「なあ、ネクロマンサーならゾンビを大量に呼び出して、勇者を数で圧倒すればいいんじゃないか?」
「死者の蘇生はそんなに簡単なことじゃないの。蘇生には、死者の体の一部と私の血、それに死者が生前、何かに強い恨みを持っているとか色々条件があるのよ。リュウほどの成功例は稀で、失敗したゾンビなんて……。とにかくその案は難しいわ」
かなり良い案だと思ったが、話を聞く限り難しいみたいだ。
この世界に来たばかりでよくわからないが、おそらくカルハのネクロマンサーは強力な能力だと思う。
だからこそ制約も大きいのかもしれない。
「そもそも勇者と戦うって言われてもなー。俺は無能力者みたいだし、どうやって戦えば良いか全然わかんねえー」
半ば投げ出すように天井を見ながら頭を抱えると、カルハは待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。
「それなら大丈夫よ。大量のゾンビ召喚は無理だけど、私と貴方以外にも私たちには仲間がいる。この洋館の四天王が共に戦うわ」
「し、四天王?」
そんな奴らがいるなら、俺の存在価値って……。
「そうよ。下に集めているから会いに行きましょう。みんなを紹介するわ」
体育館ほどの広さの大広間がある一階を抜け、階段を上がった先の二階の応接間に通された。
カルハの話では、二階には各自の部屋もあるらしい。
俺は促されるまま席に座り、対面に腰かけているカルハに質問した。
「さっきの話。なんで勇者が俺を倒しに来るんだ? 俺は今日この世界に来たばっかりで、倒されるようなことなんて何もしてないのに――」
「――それはね、私たちが勇者の敵である魔王軍の一員だからよ。つまり正確には、貴方をではなく、貴方を含めた私たちを倒しに勇者が来るというのが正解ね」
当然でしょっといった様子で、紅茶を飲みながらカルハが答えた。
「魔王軍って……えっ、なんで?」
「色々と事情があるのよ」
紅茶を飲む手を止め、彼女は遠くを見つめてボソッと呟くように言った。
彼女の言葉からは、追及を一切許さないという重みを感じる。
……ほうほう……。カルハたちは魔王軍で、一緒にいたら俺も勇者に狙われると……。
「――ちなみに逃げようとしても無駄よ。召喚された者は、召喚者と一定の距離以上離れることができない制約で縛られている。つまり貴方には何とかして勇者との戦闘を避けるか、勇者を倒すかの二つしか選択肢がないの」
出入り口の扉をチラリと見て、少し腰を浮かした俺にカルハは言い放った。
ちょっと彼女たちから距離を置こうと思っただけで、別に逃げようとしたわけではなかったが、カルハは何か勘違いしたんだろうな。
「魔王軍か、そりゃあ勇者に狙われるわな……」
「まあ魔王軍とは言っても、私たちはそこまでの悪事はしていないから、そのことがわかれば見逃してもらえるかもしれないけどね」
「そうなのか?」
魔王軍だからといって全員倒されるわけではないのか、少し希望が見えた気がする。
戦闘を回避できるのなら、それに越したことはない。
「ちなみにカルハたちって、何か悪いことしたのか?」
俺から質問を受け、カルハは顎に手を置き少し考えた。
「そうね。悪事といえば……、町の城壁を破壊したり――」
「――おおっ、リュウがやったことじゃな。あがな強度で町は守れんぞというメッセージ性を込めた破壊じゃった」
カルハの言葉に、どこからかひょっこりと現れたリュウが答えた。
「馬車から積み荷を奪ったり――」
「――それもリュウのことじゃな。笑顔で近寄ったら色々くれた」
「城に竜魔族って書いた旗を立てたり――」
「――そがなこともあったのう。それもリュウのことじゃ」
腕を組み、うんうんと頷きながら懐かしむようにリュウが言った。
「――カルハ、剣とか持ってない? こいつの首、勇者に差し出して許してもらおうぜ」
カルハが例に出した悪事は、全てリュウが起こしたことらしい。
こいつの首を差し出せば、俺たちは見逃してもらえるかもしれない。
「残念じゃったのう。リュウはゾンビじゃけえ、首を落とそうが死にゃあせんぞ」
リュウは舌を出し、両手を顔の横に広げて指をピコピコと動かし煽ってきた。
「確かに死ぬことはないけれど自然とくっついたりもしないから、私が力を使わない限りは切られたらずっと首のままよ」
カルハに言われ、リュウは煽った表情のままカルハの方を見て固まった。
その後、ゆっくりと俺の方を向いたかと思うと一目散に部屋を出て行った。
「あっ、ちょっと待て、ドラゴンゾンビ!」
「まあ、見逃してもらえるかもってだけで、作戦もないし可能性はかなり低いわ。戦って追い返すのが現実的ね」
確かにリュウだけに罪があるとはいえ、仲間の俺たちを勇者が見逃すとは考えにくいか。
リュウが部屋から出て行ったので、二人で勇者を倒す方法について考える。
「なあ、ネクロマンサーならゾンビを大量に呼び出して、勇者を数で圧倒すればいいんじゃないか?」
「死者の蘇生はそんなに簡単なことじゃないの。蘇生には、死者の体の一部と私の血、それに死者が生前、何かに強い恨みを持っているとか色々条件があるのよ。リュウほどの成功例は稀で、失敗したゾンビなんて……。とにかくその案は難しいわ」
かなり良い案だと思ったが、話を聞く限り難しいみたいだ。
この世界に来たばかりでよくわからないが、おそらくカルハのネクロマンサーは強力な能力だと思う。
だからこそ制約も大きいのかもしれない。
「そもそも勇者と戦うって言われてもなー。俺は無能力者みたいだし、どうやって戦えば良いか全然わかんねえー」
半ば投げ出すように天井を見ながら頭を抱えると、カルハは待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。
「それなら大丈夫よ。大量のゾンビ召喚は無理だけど、私と貴方以外にも私たちには仲間がいる。この洋館の四天王が共に戦うわ」
「し、四天王?」
そんな奴らがいるなら、俺の存在価値って……。
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