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お酒と睡眠不足というものは。
──ある意味相性抜群の組み合わせだってことがよくわかった。
関口が予約しておいてくれたのは、全席個室となっている洋風居酒屋。
平日の夜だからかそれほど混雑している様子もなく、他の客と顔を合わせることなく席に案内してもらえた。しかも適度にガヤガヤしているおかげで、大声で話したりしなければ誰かに聞かれる心配もなさそうだ。
関口の気遣いに感謝しながら、まずは備え付けのタッチパネルで注文を決める。込み入った話をしてる最中に店員が料理を運んで来るなんてことがないように、最初に目ぼしいものをあらかた頼んでおこう思ったのだ。
タッチパネルの画面に表示されたメニューを見ていると。
「……なに?」
何故か深見の視線がメニューじゃなく俺の方に向けられていることに気付き、つい訝しむような視線を向けてしまう。
深見はそれを柔和な笑顔で受け止めた。
そして。
「いや。なんか一生懸命選んでる樹も可愛いなと思って」
「は?」
金曜日に再会した時と同様に、微妙な感じの台詞を恥ずかしげもなく吐いてきたのだ。
俺はそれをあえてスルーすると、なんだかじっくり選ぶのも面倒になり、目についたものを適当に選んで深見にタッチパネルを渡した。
──この行動が後でマズい結果に繋がるなんて微塵も思わずに。
それほど時間も置かずに頼んだ飲み物が運ばれてきた。
深見は生ビール。俺はグラスワイン。
料理が来る前にまずはひと口飲んで喉を潤す。
「樹とワインってなんかイメージなかったな……。大学ん時はサワー系ばっか頼んでた記憶があるし」
「……そうだっけ?」
自分のことだからもちろん覚えているが、わざと惚けてみせる。
俺は飲めないほうじゃない。でも大学時代はあえて度数の高めなものは避けるようにしていた。
それは万が一酔ってしまった時、ついうっかり深見に対し、自分が抱いている気持ちを告げてしまわないようにという自分なりの予防策だった。
今はワインくらいで正体無くすほどアルコールに弱くないということがわかっているため、わりと躊躇なく何でも飲んでいる。
(そういえば、ワインを飲むようになったのは桐生さんに勧められてからだよな……)
もう関わらないと決めたばかりなのに、あっさり思い出している自分に呆れてしまう。
ふとした拍子に彼と過ごした時間を思い出してしまうのは、それだけ自分の中に彼の存在が浸透していたからなんだろうけど。
そんな自分が滑稽に思えて、妙に惨めな気持ちになった。
「樹?」
目の前にいる深見が、窺うように俺を見ている。
本題以外特に話すこともない俺は、今のぐちゃぐちゃになりそうな自分の気持ちも、深見と個室に二人きりでいることも、沈黙が続くことにも気詰まりなものを感じてしまい、それを誤魔化すようについグラスに手を伸ばしてしまっていた。
その結果。
注文した料理が全部揃い、食べ始めたのは覚えてる。
グラスワインはすぐに飲み終わってしまうから、二杯目はそれなりに量のあるサワー系にしたのも記憶にはある。
でもそこから先。
今日わざわざ深見と直接会って言おうと思っていたことが、ちゃんと切り出せたのか──。
──残念なことに、その肝心な部分の記憶は全く残っていなかった。
──ある意味相性抜群の組み合わせだってことがよくわかった。
関口が予約しておいてくれたのは、全席個室となっている洋風居酒屋。
平日の夜だからかそれほど混雑している様子もなく、他の客と顔を合わせることなく席に案内してもらえた。しかも適度にガヤガヤしているおかげで、大声で話したりしなければ誰かに聞かれる心配もなさそうだ。
関口の気遣いに感謝しながら、まずは備え付けのタッチパネルで注文を決める。込み入った話をしてる最中に店員が料理を運んで来るなんてことがないように、最初に目ぼしいものをあらかた頼んでおこう思ったのだ。
タッチパネルの画面に表示されたメニューを見ていると。
「……なに?」
何故か深見の視線がメニューじゃなく俺の方に向けられていることに気付き、つい訝しむような視線を向けてしまう。
深見はそれを柔和な笑顔で受け止めた。
そして。
「いや。なんか一生懸命選んでる樹も可愛いなと思って」
「は?」
金曜日に再会した時と同様に、微妙な感じの台詞を恥ずかしげもなく吐いてきたのだ。
俺はそれをあえてスルーすると、なんだかじっくり選ぶのも面倒になり、目についたものを適当に選んで深見にタッチパネルを渡した。
──この行動が後でマズい結果に繋がるなんて微塵も思わずに。
それほど時間も置かずに頼んだ飲み物が運ばれてきた。
深見は生ビール。俺はグラスワイン。
料理が来る前にまずはひと口飲んで喉を潤す。
「樹とワインってなんかイメージなかったな……。大学ん時はサワー系ばっか頼んでた記憶があるし」
「……そうだっけ?」
自分のことだからもちろん覚えているが、わざと惚けてみせる。
俺は飲めないほうじゃない。でも大学時代はあえて度数の高めなものは避けるようにしていた。
それは万が一酔ってしまった時、ついうっかり深見に対し、自分が抱いている気持ちを告げてしまわないようにという自分なりの予防策だった。
今はワインくらいで正体無くすほどアルコールに弱くないということがわかっているため、わりと躊躇なく何でも飲んでいる。
(そういえば、ワインを飲むようになったのは桐生さんに勧められてからだよな……)
もう関わらないと決めたばかりなのに、あっさり思い出している自分に呆れてしまう。
ふとした拍子に彼と過ごした時間を思い出してしまうのは、それだけ自分の中に彼の存在が浸透していたからなんだろうけど。
そんな自分が滑稽に思えて、妙に惨めな気持ちになった。
「樹?」
目の前にいる深見が、窺うように俺を見ている。
本題以外特に話すこともない俺は、今のぐちゃぐちゃになりそうな自分の気持ちも、深見と個室に二人きりでいることも、沈黙が続くことにも気詰まりなものを感じてしまい、それを誤魔化すようについグラスに手を伸ばしてしまっていた。
その結果。
注文した料理が全部揃い、食べ始めたのは覚えてる。
グラスワインはすぐに飲み終わってしまうから、二杯目はそれなりに量のあるサワー系にしたのも記憶にはある。
でもそこから先。
今日わざわざ深見と直接会って言おうと思っていたことが、ちゃんと切り出せたのか──。
──残念なことに、その肝心な部分の記憶は全く残っていなかった。
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