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「あ、そうだ。秋山に会ったら聞こうと思ってたことがあったんだった」


高野がそう言い出した瞬間。関口が一瞬だけハッとした顔をする。

今度は何だ?


「金曜日の送別会の時にさ、関口が外で話してた秋山の友達って何してる人?」

「ちょっと高野!」

「えー、いいじゃない。職業くらい聞いたって。紹介して欲しいって言ってるわけじゃないんだし。まあ、本人は見るからに色々不自由してなさそうな感じがするから、出来たら本人っていうよりはそのお友達とか、同じ会社の人紹介してもらえたらとは思うけど」


アグレッシブに出会いを求めている高野には悪いが、俺が深見に関して言えることも、そこから縁を繋ぐことも出来そうにない。


「アイツ大学卒業後すぐに渡米しちゃったし、卒業してからずっと連絡とってなかったから、今何やってんのか知らないんだよな。連絡先も知らないし。 役に立てなくてゴメン」


相手が深見じゃなかったらいくらでも協力を惜しまないんだけどなと思いつつ謝ると、高野は少しだけがっかりした表情になった。


「そっかー、残念。見るからに一流企業勤務って感じがしたから、是非お近づきになりたかったんだけどなー」


高野の言うとおり、金曜日に会った深見は見るからに仕立ての良いスーツに身を包み、俺と同じ歳にはちょっと思えない感じのいかにも仕事の出来る社会人といった雰囲気を醸し出していた。


そういえば、アイツの実家の家業を継ぐ関係で渡米するって言ってたけど、実家って何してるんだろう?

あんなにベッタリ一緒にいて、色んな事を知ってるつもりでいたのに、お互いの家の話は全くといっていいほどしなかったことに今更ながらに気付かされる。


「関口は?連絡先とか交換しなかったの?
もし知ってたら合コンのセッティングお願いしてよ~」

「ちょっと、高野!」


関口が語気を荒げると、高野がすぐに焦ったような表情になる。


「ゴメン!無神経なこと言った! 秋山もゴメン! 関口を合コンに連れ出すような真似は絶対にしないから安心して!」


俺と関口が付き合っていると思ってる高野は、軽口の延長とはいえ、彼氏である俺の前で他の男との合コンのセッティングを頼んでしまったという事実に気付き、さすがにマズいと思っているらしい。

当然のことながら関口と付き合ってるわけじゃない俺としては、気になるところはそこじゃない。


「ホントにゴメン!秋山もゴメンね!」


平謝りする高野に、俺は気にしなくていいという旨の返事を返しておいたが、関口は何故か何も言わなかったのが気になった。

その後。
どこか気まずい空気を残したまま俺達三人は食事を終え、社員食堂を後にした。


食堂の入口で高野と別れ、俺は関口と連れ立って歩き出す。


「もしかして俺が帰った後にもアイツと話した?」

「……ほんの少しだけね。彼、私が出てくるの待ってたらしくて、帰り際に呼び止められたのよ」


その話に俺は眉を顰めた。

俺との話が上手くいかなかったからって、関口を待ち伏せするなんて、一体どういうつもりなんだろう?


「何言われたわけ?」


いつもより格段に声が固くなってしまったが、こればかりは仕方がない。

関口はばつの悪そうな表情で少しだけ黙り込むと、躊躇いがちに口を開いた。


「もう一度秋山と話がしたいって頼まれて……」


おそらく一昨日からずっと関口が何か言いたそうにしていたのは、このせいだったのだろう。

やっぱり自分勝手だとしか思えない深見の行動に、あんなにアイツのことを好きだった筈の俺は、嬉しいというより憤りしか感じない。

それと同時に、やたらと深見に肩入れするような発言をしていた関口の態度がどういったものに起因していたのかがわかり、俺は複雑な気持ちにさせられた。


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