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「何、その顔。まさかとは思うけど、上手くいってないとかいう?」
桐生さんとの今の状態を一体どう答えたらいいのかわからず、俺は曖昧に微笑んだ。
初めて関係を持って以来、桐生さん以外の人とそういう事をしていない俺にとっては、特定の相手と言われればそうなるのかもしれないけど、桐生さんにとっての俺はただのセフレでしかないのだ。
そして、その事に限界を感じているのはたぶん俺だけで、そもそも上手くいってるいってないなんていう関係にすらなってない現状をどう答えたらいいのかわからない。
「……別に付き合ってるわけじゃないから」
「は!?どういうこと?そんな話聞いてないけど!そこんとこ詳しく!!」
「え?言ってなかったっけ?あの人とはそんなんじゃないんだよ。ただのセフレ」
前のめりの関口に、俺は何て事ないように答えながら、新しいビールの缶をあけ、ひと口飲んだ。
胸の奥がズキリと痛み、苦々しい気持ちになったものの、これはビールの苦味だと思う事にする。
「もしかしてその相手、結婚してる人?」
「今のところ独身。もうすぐ結婚するんじゃないかなぁ……」
「何、その曖昧情報」
「会っても大抵やることやるだけだし。普段あんまり会話らしい会話もないからよく知らないんだよ。
でも立場のある人だから、そろそろ身を固めないといけない頃だろうってことはわかってる」
俺は出来るだけ平気そうな顔でそう言うと、さっき関口に取り分けてもらったローストビーフに手をつける。
関口はというと、初めて明かした俺の事情を聞いて思うところがあったのか、難しい顔で黙り込んだ。
口調はキツいが性格は優しい関口のことだ。きっと俺のことを心配してくれているに違いない。
「──秋山はそれでいいわけ?」
ほら、やっぱり。
「いいも何も最初からわかってたことだし」
「わかってたって何が?」
「俺との関係はあくまでも一時的なものだってこと」
「……相手の男がそう言ったの?」
「直接言われたわけじゃない。
──でもそういうもんでしょ。男同士なんて」
開き直ったようにあっけらかんと言った俺に、関口はじとっとした視線を向けてくる。
「……何?」
「秋山は押しに弱いけど、割り切った関係を何年も続けられるような性格じゃないでしょ?
本当は男同士ってのを理由に、最初から色んなこと諦めてる振りしてるだけじゃない?」
「そうかな?今の人と関係を持つ前は適当に遊んでた事もあったし、今の人にも何も望んでないけど」
「遊んでたって言っても一時的な事でしょ?
しかもその相手ってその場限りの人ばっかりで、ちゃんと続いてる関係って今の人が初めてなんじゃない?」
俺の性格と行動パターンは完全に見抜かれているらしい。
「あたしの記憶してる限り、その人と秋山って結構な頻度で会ってるよね?」
「結構かどうかはわかんないけど、お互いに都合のつく時には会ってる……かな」
「相手の人、立場のある人なのよね?」
「……うん」
「うちの会社でいうところの桐生専務みたいな人ってこと?」
鋭い指摘に俺は言葉に詰まる。
何か勘づいているのか、それともただ単に秘書室勤務というだけあって身近な例えを出しただけなのか判断つきかねたが、いくら関口相手でも本当の事を話す訳にはいかないことだけはわかる。
「……そうかもね。よく知らないけど」
「だったら週末はパーティーだの会食だのでかなり忙しいと思うのよねぇ。そんな中、時間つくって頻繁に会ってるってことはさ、相手は秋山の事、ただのセフレだって思ってないんじゃないの?」
その時。
『……俺は樹を愛してるからな』
今日の桐生さんの言葉が思い出され、胸の痛みが強くなる。
「……あり得ないでしょ」
自分自身に言い聞かせるようにそう呟くと、関口はまるでその言葉の真意を確かめるかのように、鋭い視線で俺をじっと見つめてきたのだった。
桐生さんとの今の状態を一体どう答えたらいいのかわからず、俺は曖昧に微笑んだ。
初めて関係を持って以来、桐生さん以外の人とそういう事をしていない俺にとっては、特定の相手と言われればそうなるのかもしれないけど、桐生さんにとっての俺はただのセフレでしかないのだ。
そして、その事に限界を感じているのはたぶん俺だけで、そもそも上手くいってるいってないなんていう関係にすらなってない現状をどう答えたらいいのかわからない。
「……別に付き合ってるわけじゃないから」
「は!?どういうこと?そんな話聞いてないけど!そこんとこ詳しく!!」
「え?言ってなかったっけ?あの人とはそんなんじゃないんだよ。ただのセフレ」
前のめりの関口に、俺は何て事ないように答えながら、新しいビールの缶をあけ、ひと口飲んだ。
胸の奥がズキリと痛み、苦々しい気持ちになったものの、これはビールの苦味だと思う事にする。
「もしかしてその相手、結婚してる人?」
「今のところ独身。もうすぐ結婚するんじゃないかなぁ……」
「何、その曖昧情報」
「会っても大抵やることやるだけだし。普段あんまり会話らしい会話もないからよく知らないんだよ。
でも立場のある人だから、そろそろ身を固めないといけない頃だろうってことはわかってる」
俺は出来るだけ平気そうな顔でそう言うと、さっき関口に取り分けてもらったローストビーフに手をつける。
関口はというと、初めて明かした俺の事情を聞いて思うところがあったのか、難しい顔で黙り込んだ。
口調はキツいが性格は優しい関口のことだ。きっと俺のことを心配してくれているに違いない。
「──秋山はそれでいいわけ?」
ほら、やっぱり。
「いいも何も最初からわかってたことだし」
「わかってたって何が?」
「俺との関係はあくまでも一時的なものだってこと」
「……相手の男がそう言ったの?」
「直接言われたわけじゃない。
──でもそういうもんでしょ。男同士なんて」
開き直ったようにあっけらかんと言った俺に、関口はじとっとした視線を向けてくる。
「……何?」
「秋山は押しに弱いけど、割り切った関係を何年も続けられるような性格じゃないでしょ?
本当は男同士ってのを理由に、最初から色んなこと諦めてる振りしてるだけじゃない?」
「そうかな?今の人と関係を持つ前は適当に遊んでた事もあったし、今の人にも何も望んでないけど」
「遊んでたって言っても一時的な事でしょ?
しかもその相手ってその場限りの人ばっかりで、ちゃんと続いてる関係って今の人が初めてなんじゃない?」
俺の性格と行動パターンは完全に見抜かれているらしい。
「あたしの記憶してる限り、その人と秋山って結構な頻度で会ってるよね?」
「結構かどうかはわかんないけど、お互いに都合のつく時には会ってる……かな」
「相手の人、立場のある人なのよね?」
「……うん」
「うちの会社でいうところの桐生専務みたいな人ってこと?」
鋭い指摘に俺は言葉に詰まる。
何か勘づいているのか、それともただ単に秘書室勤務というだけあって身近な例えを出しただけなのか判断つきかねたが、いくら関口相手でも本当の事を話す訳にはいかないことだけはわかる。
「……そうかもね。よく知らないけど」
「だったら週末はパーティーだの会食だのでかなり忙しいと思うのよねぇ。そんな中、時間つくって頻繁に会ってるってことはさ、相手は秋山の事、ただのセフレだって思ってないんじゃないの?」
その時。
『……俺は樹を愛してるからな』
今日の桐生さんの言葉が思い出され、胸の痛みが強くなる。
「……あり得ないでしょ」
自分自身に言い聞かせるようにそう呟くと、関口はまるでその言葉の真意を確かめるかのように、鋭い視線で俺をじっと見つめてきたのだった。
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