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「で?話って?」


今更はた迷惑でしかない抱擁から解放されるなり切り出した俺に、深見は複雑そうな表情を見せる。

もしかしたらかつて深見に対して向けていた表情や態度と、今の俺が全く違うことに戸惑っているのかもしれない。

だったらそのほうが好都合だ。

あの頃の俺はもういないのだとちゃんと認識して、話なんかせずにさっさとこの場から立ち去ってくれたほうがありがたい。

これ以上俺の心の傷を掘り起こすような真似はしないでもらいたいのだ。


ところが俺の期待空しく、深見はほんの少しの間、何かを迷っているような表情を見せると、意を決したように口を開いた。


「こんなこというのは虫が良すぎるってわかってるけど……」


深見の前置きに嫌な予感しか感じられなかった俺は、咄嗟にこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。


「俺達もう一度やり直せないか?」


予想通りというか何というか。

無神経すぎる深見の言葉に正直失望させられた。


(まさか本当にそんな話をされるとは……。
これって俺が男だからなのか?)


この発言で深見が俺を恋愛対象としては見ていなかったことが改めてよくわかった。


(時間も経ってるし、せっかく再会したから懐かしいだけなんだろうけど。あんな別れ方したのにまた元の関係に戻りたいなんてよく言えるよな)


そもそもベースにあるお互いの認識が違うのだということがわかっているつもりでも、実際にあの日の事など無かったかのように友情の部分だけを求められるのは腹が立つ。


「お前、女の子相手でもそんな無神経な真似するわけ?」

「え?」

「お前の事好きだって言ってきてフッた相手にも、元の関係に戻りたいとか、その人の気持ちを無かったことにするような自分に都合の良い真似すんのかって聞いてるんだよ」


深見は俺がまさかここまで言うとは思ってなかったのか、驚いたような顔をして立ち尽くしている。


「俺はお前が好きだった。それは確かにもう過去のことだって認識もある。
でもな、あれを全て忘れた振りをしてお前とまた友情ごっこ出来るほど俺の気持ちは軽いものじゃなかったし、その気持ちに目を瞑ってまでお前と関わりたいとは思えない」


俺はハッキリともう関わりたくないという意思表示を伝えると、黙ったまま何も言おうとしない深見に見切りをつけ、さっさと歩き出した。

これだけ言えばさすがに深見はもう追いかけてはこないだろう。


急ぎ足で駅へと向かうと、さっき一度覚めた筈のアルコールが急に回ってきたように感じられ気分が悪くなってきた。

電車に揺られるのが億劫に感じられた俺は、すぐ近くにあったコンビニに立ち寄り、冷えた水と酔いに効くドリンク剤を購入すると、たまたま通りかかった空車のタクシーをひろって桐生さんの所へと向かったのだった。


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