想いの先にあるものは

みなみ ゆうき

文字の大きさ
上 下
15 / 50

15

しおりを挟む
この気まずい状況をどうするべきかと考えていると。


「あ、秋山!いた! 大丈夫なの!?あんなに飲んで」


店から出てきた人物に名前を呼ばれ、俺は天の助けとばかりに振り返る。

その声の主は秘書室に勤務している関口愛子。

いかにも物をハッキリと言いそうな感じのキツめの美人だが、性格は男の俺から見ても男前だと言いたくなるほどカッコいい。

仕事終わりやお昼休みに一緒に食事をしたりする機会が多いことから同期の中では一番仲が良く、お互いにプライベートな話も割りと踏み込んだところまで出来る仲で、俺が同性しか愛せない人間だということも知っていることから、意識して『普通』を取り繕わなくて済む貴重な友人でもある。

元々男女の垣根を越えた付き合いをしている相手だが、以前飲み会で酔いつぶれた俺を介抱してくれた挙げ句、部屋に泊めてくれたことがきっかけで、俺と関口が付き合うことになったのだと社内では認識されている。

当然の事ながらそんな事実は微塵もない。


今日の飲み会の幹事でもある関口は、どうやら俺が普段飲まない種類の酒を飲んだことを心配して探しにきてくれたらしい。

関口は俺のすぐ側に立っていた深見を見て一瞬驚いたような顔をしたものの、すぐにニヤニヤしながら俺のすぐ横にやってきた。


俺の髪に触れていた手は既に離れてはいたものの、ただの知り合いというには近い位置にいた深見。

勘のいい関口ならば何か察するものがあったに違いなく、後でどういう流れでああなっていたのか根掘り葉掘り聞かれることは間違いなさそうだ。


「知り合い?」


極自然な流れとばかりにそう聞いてくるが、興味津々という表情は隠せておらず、更にさっさと紹介しろとばかりに、深見からは見えないように肘で俺の脇腹を突いてくるのが地味に痛い。


「えーと……」


実は関口には大学時代にずっと好きな人がいて卒業式にフラれたという一連の出来事は暴露済みだ。

ここで下手に大学時代の友人という紹介をすれば、深見がその相手かもしれないと勘繰るに違いない。


どう言おうか迷っていると。


「はじめまして。樹の大学時代の友人で深見と言います」


深見が勝手に自己紹介を始めてしまい、内心超焦る。

ふと横を見ると、関口の目が獲物を見つけたかのような光を帯びているのがわかり、うんざりとした気持ちにさせられた。

この後、どっちかの部屋で飲み直しすること決定だな……。



「関口愛子です。秋山とは会社の同期でして」


関口は即座に完璧な他所行きモードで挨拶を返すと、深見に微笑みかけている。

深見も笑顔でそれに応じる。

俺はそんな二人を見て、一刻も早くこの気まずい時間が終わりを告げることだけを願っていた。


一見和やかに見える二人のやり取り。

普通だったらここから新たな出会いが生まれるかもしれないと微笑ましく見守るところかもしれないが、とてもそんな心境にはなれそうにない。

思いがけない再会にすっかり酔いも醒めた俺は、二人の会話に加わる気には毛頭なれず、どうにかしてこの場を離れるいい言い訳はないかと模索していた。


すると。

タイミング良くスーツの内ポケットに入れていたスマホが震え出す。


俺は天の助けとばかりにスマホを取り出しながら、さりげなく二人から距離を置いた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...