俺には絶対向いてない!

みなみ ゆうき

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26.予想外の反応です!

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俺の自分勝手ともいえる宣言が余程意外だったのか、八代は無表情のまま固まっている。

しかしすぐに我に返ると今度はぎこちなく視線を逸らしてしまった。


うーん。今日の八代はホントに可愛いな……。

この見た目と普段の不機嫌さとテレビの中で見る大人びた印象のせいで今まであんまり年下だって感じがしなかったけど、今日はちゃんと年下に見える。

なんだか微笑ましい気持ちになりながら八代を見ていたら。
俺の視線に気付いたらしい八代に軽く睨まれてしまった。

俺なんてこの見た目のせいで年相応に見てもらうどころか性別すらも間違われることがあるんだから、完璧なイケメンの普段見られない一面を見て心の中で可愛いと思うくらい許して欲しい。


笑って誤魔化しつつも視線を逸らさずにいると。


「……その顔、反則だろ」


チラリと俺のほうを見た八代が、今度は拗ねたような顔でボソリと呟いた。


やべ。思ってたこと表情に出てた?

どんな顔してたのか自分ではさっぱりわからないけど、反則なんて言われるくらいだから相当ヤバめな顔をしてたに違いない。


「えっと、なんかごめん……」


反則な表情なんて言うならそっちだって負けてないと思うんだけど、と思いつつとりあえず謝っておく。

……まあ、八代の場合は俺と違ってどんな顔しててもイケメンだっていう反則なんだけどさー。


不機嫌な俺様からツンデレに変わった今日の八代は、テレビで見せるような笑顔こそないものの、表情のバリエーションがいつもより豊富で親しみやすい。

だから反則だって言われても、ついニヤニヤしてしまうのをやめられない。


「だから、その顔やめろっての」


再び苛立った口調で咎められ、さすがに調子に乗りすぎたかなと反省した俺は、表情を引き締めてから食事を再開することにした。


相変わらず会話はないけれど、さっきのような気まずさは微塵もないし、ご飯が美味しく感じられる。

最初はどうなるかと思ったけど、ホントに良かった……。
色々気を遣ってくれたであろう碧さんには感謝しないとな。
今日は泊まりだって言ってたから明日会えたらお礼を言おう。


俺は自然と綻んでいく口元をなんとか制御しながら、八代と二人きりの穏やかな時間を堪能した。



◇◆◇◆



「ただいまー!」


後片付けが終わった頃。
ガチャリと玄関が開く音と共に元気な声が聞こえてきた。

いつも以上に声が弾んでいる歩夢君に、何か良いことがあったんだなと思いつつ、ダイニングを出て彼を出迎える。


「歩夢君。おかえりなさい。遅くまでお仕事お疲れ様。先にシャワー浴びる?それともご飯にする?」


ご飯だったらすぐに準備しなきゃななんて思いながらそう聞くと、たった今までご機嫌モードだった筈の歩夢君が固まっていた。

もしかしたら良い気分のところに水を差してしまったんだろうか……?


「どうしたの?」


申し訳なさを感じつつ尋ねた俺に、歩夢君はちょっとだけ目を泳がせると。

「テレビで見る新婚さんみたいな台詞だったからビックリしただけ」

恥ずかしそうに答えてくれた。


確かに……。これベッタベタなやつだな。

『ご飯にする?お風呂にする? ──それとも、あ・た・し?』

とかっていう。


意識すると恥ずかしさが伝染しそうな気がした俺は、あえて気にしない振りで仕切り直すことにした。


「で、どうする?」

「先にご飯にする。お腹空いたー」

「じゃあ準備しておくから、手を洗ってきてね」

「はーい!」


さっきのは何だったのかと思うほどいつもどおりの感じで答えてくれた歩夢君にホッとしながら、俺はご飯を用意するためにそそくさとキッチンへと戻った。


おかずと味噌汁を温めている間に、テーブルに箸と飲み物用のグラスを並べる。

そして冷蔵庫から歩夢君が大好きだと言っていた炭酸飲料を取りだそうとしたところでふと、さっき八代に言われた『歩夢に思わせ振りな態度をとってる』という言葉を思い出し、モヤッとした気持ちにさせられた。


こういうのも思わせ振りとか媚び売ってるとかってことになるのかな……?

さっきみたいな出迎え方をしたり、好きな飲み物を用意したり。

喜んでもらいたいとか、仕事を頑張っている相手への気遣いや感謝の気持ちでしていることが、傍目はためには下心があるように映るなんて考えてもみなかった。


俺ってそんなに媚びた態度とってるかな……?

恋愛とかそういう方向にアンテナが向いていない俺には、そう指摘されてもピンとこない。

俺はこんな見た目のせいもあって同性から告白されることもあり、男同士のアレコレに然程抵抗はない。
でも普通はあんまり良い気はしないっていう話もよく聞く。


とりあえずは自分にそういうつもりがなくても、相手に誤解されるような真似はやめたほうがいいって事だよな?

何がそれに該当するかを考え始めたところで、俺はあることに気が付いた。


もしかして歩夢君がやたらと恋バナしてくるのって、俺への牽制だったんじゃ……! ──誤解されてたらどうしよう……。

その可能性に思い至りひとり青くなっていると。


「うーん、いいにおーい!今日のご飯は何かなー?凛さんのご飯美味しいから毎日楽しみなんだー!」


背後から無邪気に声を掛けられた俺は、心臓が飛び出るかと思うほど驚いてしまい、手に持っていた炭酸飲料のペットボトルをうっかり床に落としてしまった。


「あっ!!」


その様子を見ていた歩夢君が慌てて駆け寄ってくる。


「いきなり声かけてゴメン!もしかして驚かせちゃった!?」

「ちょっと考え事してたからビックリしただけだよ。大丈夫。
──あ、でも!炭酸だからそっちは大丈夫じゃないかも!!」


落としてしまったペットボトルに目をやると、中身が明らかに泡立っている様子が見てとれた。

あーあ、やっちゃった……。
とりあえず違うのと交換しておいて、ちょっと落ち着いたらあけてみよう。


俺はそれを拾うために身を屈める。

ところが手を伸ばしかけたところでガツンという衝撃と共に口元に痛みが走った。

どうやらペットボトルを拾うために身を屈めた俺と、俺より早くペットボトルを拾った歩夢の頭が運悪くバッティングしてしまったらしい。


「……ッ」

「凛さんゴメン!大丈夫!?」


焦ったような歩夢君の呼び掛けに、俺はすぐに頷いた。
下唇が多少ジンジンしているが大したことじゃない。

それよりも。


「歩夢君は!?」


パッと見、傷ついている様子は見当たらないが、もし歩夢君の身に何かあったらと思うと申し訳なさすぎてどうしたらいいのかわからない。


「俺は大丈夫。石頭だし」


笑顔で言われた言葉にホッとする。
歩夢君にケガがなくて本当に良かった。

しかしすぐに歩夢君の表情が険しいものに変わり、俺はギクリとさせられた。


「どうしたの?」

「俺より凛さんが……!」

「え?俺も大丈夫だよ?」

「大丈夫じゃないでしょ!?唇から血が出てるよ?!」


たぶん歯が当たって唇が切れてしまったんだろう。


「大したことないから大丈夫。こんなの舐めときゃ治るから」


舌先でチロリと唇を舐めて見せると。


「凛さん……」


何故か歩夢君が俺の名前を呼んだまま真っ赤になって固まってしまった。

え……?何で……?
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