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23.意外な質問にビックリです!
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うん。こうなるんだろうなって事くらいわかってた。
わかってたけど!
──やっぱり気まずい……。
俺は今、八代と向かい合い、二人きりで夕食を食べている。
一緒に食事をするのは俺がここに来た初日以来のことで。
あの時も相当気まずい思いをした覚えがあるが、今の気まずさときたらその時の比ではない。
あの時は碧さんも歩夢君も一緒だったから二人きりじゃなかったしな……。
気まずさに耐え兼ね、つけっぱなしになっているテレビに視線を移すと、ちょうど八代が起用されている清涼飲料水のCMが流れ始めた。
目の前にいる人物と本当に同じ人かと思うほど、画面の中では優しい笑顔を見せている八代に、何だか見てはいけないものを見た気がして思わず目を逸らしてしまった。
たとえあの笑顔が作られたものだったとしても、それすら俺には向けられることはないんだろうなと思うと、ほんの少しだけ胸が痛む。
別に笑いかけてほしいわけじゃないし、話がしたいわけじゃない。
けど、せめてもうちょっと普通にしてくれればいいのにと思わずにいられない。
まあ、ここまで拗れたのも大半は自分のせいだってわかってるけどさ……。
さっきの遭遇後、シャワーを終えた俺は急いで食事の支度を済ませると、食事の準備が整ったことを知らせるために八代の部屋へと向かった。
そして初日のことを含めて、もう一度謝罪をしたのだが。
八代からの反応は「……必要以上に俺に関わろうとしなければそれでいい」の一言で終了。
夕食を食べるためにダイニングには来てくれたものの、最初に『いただきます』と言ったきり、ずっと沈黙が続いている。
いただきますと言われただけまだ良かったと考えるべきなのか……。
でも無言で食べる八代の表情はどう見ても不機嫌そのもので、そんな顔で食べられるとまるで俺の料理が口に合わないって言われてるようでいたたまれない。
合わないのは俺らの性格で、料理の味じゃないってのは箸が進んでいることからもわかるけど、せめてもうちょっとくらいは普通の顔で食べてもらえたら、と思わずにはいられない。
碧さんや歩夢君はいつもにこやかに美味しいと言いながら食べてくれるからすっかり忘れそうになっていたけど、誰かにそう言ってもらえることって実はすごくありがたいことだったんだなって改めて実感させられる。
褒めてほしいわけじゃないけど、せめて表情くらいは普通にして食べて欲しいと思うのは贅沢なことなのか。
あれこれ考えていたら一気に食欲が減退した気がして、俺は思わず吐きそうになったため息を、味噌汁と一緒に飲み込んだ。
再びテレビの画面に目を向けると、歩夢君がゲストで出たと言っていたクイズ番組が始まっていた。
普段ここにいる時とあまり変わらないような屈託のない笑みを見せながらも珍回答を連発している歩夢君に、無意識に頬が緩んでいく。
やっぱり歩夢君はすごい……。
正解率は極端に低いようだけど、さすがはトップアイドル。人の目をひく華はダントツにある。
これで性格も良いんだから絶対モテないはずないんだけどな……。
歩夢君は所謂『恋バナ』というのが大好きで、俺にもよくそういう話を振ってくる。
年上だけど、何も助言できることなどない俺は専ら当たり障りのない言葉を返しながら微笑ましくその話を聞いてるだけだ。
歩夢君が付き合うんならやっぱり芸能人とかかな?
なんて思いつつ、ちょうど画面に映っていた女性タレントをぼんやり見ていると。
「アンタ、こういうのが好きなわけ?」
険しい表情の八代に声を掛けられ、俺は一瞬何を言われたのかわからずキョトンとしてしまった。
「歩夢君が出てるなと思って見てただけで、好きでも嫌いでもないけど」
テレビの事を聞かれてるのかと思いそう答えると、八代は苛立たしげに「そういうことじゃなくて」と返してきた。
だったら何だ?
「もしかして料理のほうだった? 和食が好みだって聞いてたから作ってみたんだけど、俺の味付けじゃ口に合わなかったかな?」
だったら不機嫌そうに食べていたことも納得出来る。
「……いや、料理は美味い。メニューも俺の好きなものばっかだし」
「それは良かった」
思いがけない言葉を聞けてホッとしていると、八代がばつの悪そうな顔をした。
ん?この表情はどういう事だ?
八代の言いたいことがさっぱりわからない。
結構短気な性格の俺は、こういう回りくどいやり取りには向いていない。
友人達からは、俺が鈍過ぎるんだって言われてたけど。
「ゴメンね。俺色々鈍いからハッキリ言ってくれないと八代君が何を聞きたいのかわからないんだけど」
すると、八代は大きくため息を吐いてから酷く面倒臭そうに口を開いた。
「……こういう女と付き合いたいのかって聞いてんだよ」
「え?」
思いもよらない質問に俺はどう答えていいのか迷ってしまう。
確かに芸能人だとこういう人と付き合ったりするのかなとか、ちょっと下世話なことを考えてしまったことは間違いない。
でも自分が付き合いたいかって言われると……。
うーん。無いかな?
この女性タレントが正直どこの誰かは知らないけど、似たような見た目の女の子を大学や街中でもよく見かけるため、今の流行りはこういう感じなのかな、としか思えない。
取り繕うのも面倒になり正直にそう答えると、八代には呆れたような顔をされてしまった。
……悪かったな。色々鈍くて。
俺の鈍さが露呈したところでこの会話が終わるのかと思いきや。
「もしかしてアンタ、男のほうが好きだとか?」
もっとあり得ない質問に。
俺は悔しいほどにカッコいい八代の顔をまじまじと凝視してしまったのだった。
わかってたけど!
──やっぱり気まずい……。
俺は今、八代と向かい合い、二人きりで夕食を食べている。
一緒に食事をするのは俺がここに来た初日以来のことで。
あの時も相当気まずい思いをした覚えがあるが、今の気まずさときたらその時の比ではない。
あの時は碧さんも歩夢君も一緒だったから二人きりじゃなかったしな……。
気まずさに耐え兼ね、つけっぱなしになっているテレビに視線を移すと、ちょうど八代が起用されている清涼飲料水のCMが流れ始めた。
目の前にいる人物と本当に同じ人かと思うほど、画面の中では優しい笑顔を見せている八代に、何だか見てはいけないものを見た気がして思わず目を逸らしてしまった。
たとえあの笑顔が作られたものだったとしても、それすら俺には向けられることはないんだろうなと思うと、ほんの少しだけ胸が痛む。
別に笑いかけてほしいわけじゃないし、話がしたいわけじゃない。
けど、せめてもうちょっと普通にしてくれればいいのにと思わずにいられない。
まあ、ここまで拗れたのも大半は自分のせいだってわかってるけどさ……。
さっきの遭遇後、シャワーを終えた俺は急いで食事の支度を済ませると、食事の準備が整ったことを知らせるために八代の部屋へと向かった。
そして初日のことを含めて、もう一度謝罪をしたのだが。
八代からの反応は「……必要以上に俺に関わろうとしなければそれでいい」の一言で終了。
夕食を食べるためにダイニングには来てくれたものの、最初に『いただきます』と言ったきり、ずっと沈黙が続いている。
いただきますと言われただけまだ良かったと考えるべきなのか……。
でも無言で食べる八代の表情はどう見ても不機嫌そのもので、そんな顔で食べられるとまるで俺の料理が口に合わないって言われてるようでいたたまれない。
合わないのは俺らの性格で、料理の味じゃないってのは箸が進んでいることからもわかるけど、せめてもうちょっとくらいは普通の顔で食べてもらえたら、と思わずにはいられない。
碧さんや歩夢君はいつもにこやかに美味しいと言いながら食べてくれるからすっかり忘れそうになっていたけど、誰かにそう言ってもらえることって実はすごくありがたいことだったんだなって改めて実感させられる。
褒めてほしいわけじゃないけど、せめて表情くらいは普通にして食べて欲しいと思うのは贅沢なことなのか。
あれこれ考えていたら一気に食欲が減退した気がして、俺は思わず吐きそうになったため息を、味噌汁と一緒に飲み込んだ。
再びテレビの画面に目を向けると、歩夢君がゲストで出たと言っていたクイズ番組が始まっていた。
普段ここにいる時とあまり変わらないような屈託のない笑みを見せながらも珍回答を連発している歩夢君に、無意識に頬が緩んでいく。
やっぱり歩夢君はすごい……。
正解率は極端に低いようだけど、さすがはトップアイドル。人の目をひく華はダントツにある。
これで性格も良いんだから絶対モテないはずないんだけどな……。
歩夢君は所謂『恋バナ』というのが大好きで、俺にもよくそういう話を振ってくる。
年上だけど、何も助言できることなどない俺は専ら当たり障りのない言葉を返しながら微笑ましくその話を聞いてるだけだ。
歩夢君が付き合うんならやっぱり芸能人とかかな?
なんて思いつつ、ちょうど画面に映っていた女性タレントをぼんやり見ていると。
「アンタ、こういうのが好きなわけ?」
険しい表情の八代に声を掛けられ、俺は一瞬何を言われたのかわからずキョトンとしてしまった。
「歩夢君が出てるなと思って見てただけで、好きでも嫌いでもないけど」
テレビの事を聞かれてるのかと思いそう答えると、八代は苛立たしげに「そういうことじゃなくて」と返してきた。
だったら何だ?
「もしかして料理のほうだった? 和食が好みだって聞いてたから作ってみたんだけど、俺の味付けじゃ口に合わなかったかな?」
だったら不機嫌そうに食べていたことも納得出来る。
「……いや、料理は美味い。メニューも俺の好きなものばっかだし」
「それは良かった」
思いがけない言葉を聞けてホッとしていると、八代がばつの悪そうな顔をした。
ん?この表情はどういう事だ?
八代の言いたいことがさっぱりわからない。
結構短気な性格の俺は、こういう回りくどいやり取りには向いていない。
友人達からは、俺が鈍過ぎるんだって言われてたけど。
「ゴメンね。俺色々鈍いからハッキリ言ってくれないと八代君が何を聞きたいのかわからないんだけど」
すると、八代は大きくため息を吐いてから酷く面倒臭そうに口を開いた。
「……こういう女と付き合いたいのかって聞いてんだよ」
「え?」
思いもよらない質問に俺はどう答えていいのか迷ってしまう。
確かに芸能人だとこういう人と付き合ったりするのかなとか、ちょっと下世話なことを考えてしまったことは間違いない。
でも自分が付き合いたいかって言われると……。
うーん。無いかな?
この女性タレントが正直どこの誰かは知らないけど、似たような見た目の女の子を大学や街中でもよく見かけるため、今の流行りはこういう感じなのかな、としか思えない。
取り繕うのも面倒になり正直にそう答えると、八代には呆れたような顔をされてしまった。
……悪かったな。色々鈍くて。
俺の鈍さが露呈したところでこの会話が終わるのかと思いきや。
「もしかしてアンタ、男のほうが好きだとか?」
もっとあり得ない質問に。
俺は悔しいほどにカッコいい八代の顔をまじまじと凝視してしまったのだった。
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