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5.少し前の話です!その2
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「夜分遅くに申し訳ありません。是枝さんのお宅でしょうか?」
「……はい」
「私は相楽 遥斗と申します。この度は急な事で何と申しあげたらよいか、言葉も見つかりません。心よりお悔やみ申し上げます」
母の葬儀の後、突然家に訪ねてきた人はそう言った。
俺は全く聞き覚えのない名前に首を傾げながらも、とりあえず玄関先で立ち話するわけにもいかず室内へと招き入れる。
相楽さんは葬儀屋が作っていった急拵えの祭壇の前に座ると、母の遺影に向かって手を合わせ、暫く無言でお参りしていた。
俺はこの部屋に俺と母以外の人がいるのを不思議に思いながらぼんやりとその様子を見つめることしか出来なかった。
名前だけでなく相楽さんの姿にもやっぱり見覚えはない。
──仕事関係の人だろうか?
母の仕事は昼間は配送業。夜はビルの夜間警備。
しかし洗練された都会の雰囲気を持つこの人は、こんな田舎での仕事関係の人としては些か違和感を感じる。
ただお参りするには少し長い時間が経った後、相楽さん沈痛な面持ちで俺の方へと向き直った。
「新城真奈美さんという方から連絡をいただいて、大急ぎでこちらに来たのだけれど、葬儀にすら間に合わず本当にすまなかった」
何でこの人が謝るんだろうとか、急に砕けた口調になったのは何でだろうと思いつつも、わからない事だらけで既に何かを考える事が億劫になり始めていた俺はただ「いえ」とだけ答えておいた。
すると相楽さんは切なそうに目を眇め、泣きすぎで腫れぼったくなっている俺の目をそっと親指で拭ったのだ。
まさかそんな風に触れられるとは夢にも思っていなかった俺は、驚きのままに相楽さんを見つめた。
「君は是枝京子さんの息子さんの凛君だね?」
「……はい」
「俺は相楽 奏介の息子だ」
改めてそう説明されても、俺には『相楽奏介』という人物に心当たりはない。
「相楽奏介は君の父親で、俺は君の腹違いの兄になる」
俺はその驚きの告白を俄には信じられず、目の前の人物を改めてまじまじと見てしまった。
──腹違いの兄って……? この人が?
突然のことでパッと見の雰囲気にしか目がいってなかったが、目の前にいるこの人はテレビや雑誌に出ていてもおかしくないほどの男らしいイケメンだ。
正直この人と半分血が繋がっていると確信出来る要素はどこにもない。
「君は自分の父親について何も聞かされてなかったんだな……」
「……俺には父親がいないとだけ。……父親が誰かとかそういうのは全く。……すみません」
落胆が感じられるような声の響きに、俺はつい謝罪の言葉を口にしてしまっていた。
「君が謝る必要はないよ。俺のほうこそすまない。こんな大変な時に突然現れて、力になるどころか混乱させるような事を言ってしまって。
でも君はひとりじゃない、俺という兄がいるって事を知って欲しかったんだ」
回らなくなった頭に一気に色んな情報が流れ込んできて、正直処理出来てる気が全くしないが、俺はとりあえず頷いておくことにした。
真奈美さんが連絡したってことは、真奈美さんは俺の父親が誰かって事を知ってたってことで。
でもって、この人がこうしてわざわざ家まで来てくれたってことは、父親である相楽奏介という人も俺の存在を認識してたって事だよな?
未婚のまま俺を生んだ母。腹違いの兄。
そこから導かれる答えは……。
「不倫だったんですね……」
俺の呟きに遥斗さんはその端正な顔を僅かに歪めた。
「……はい」
「私は相楽 遥斗と申します。この度は急な事で何と申しあげたらよいか、言葉も見つかりません。心よりお悔やみ申し上げます」
母の葬儀の後、突然家に訪ねてきた人はそう言った。
俺は全く聞き覚えのない名前に首を傾げながらも、とりあえず玄関先で立ち話するわけにもいかず室内へと招き入れる。
相楽さんは葬儀屋が作っていった急拵えの祭壇の前に座ると、母の遺影に向かって手を合わせ、暫く無言でお参りしていた。
俺はこの部屋に俺と母以外の人がいるのを不思議に思いながらぼんやりとその様子を見つめることしか出来なかった。
名前だけでなく相楽さんの姿にもやっぱり見覚えはない。
──仕事関係の人だろうか?
母の仕事は昼間は配送業。夜はビルの夜間警備。
しかし洗練された都会の雰囲気を持つこの人は、こんな田舎での仕事関係の人としては些か違和感を感じる。
ただお参りするには少し長い時間が経った後、相楽さん沈痛な面持ちで俺の方へと向き直った。
「新城真奈美さんという方から連絡をいただいて、大急ぎでこちらに来たのだけれど、葬儀にすら間に合わず本当にすまなかった」
何でこの人が謝るんだろうとか、急に砕けた口調になったのは何でだろうと思いつつも、わからない事だらけで既に何かを考える事が億劫になり始めていた俺はただ「いえ」とだけ答えておいた。
すると相楽さんは切なそうに目を眇め、泣きすぎで腫れぼったくなっている俺の目をそっと親指で拭ったのだ。
まさかそんな風に触れられるとは夢にも思っていなかった俺は、驚きのままに相楽さんを見つめた。
「君は是枝京子さんの息子さんの凛君だね?」
「……はい」
「俺は相楽 奏介の息子だ」
改めてそう説明されても、俺には『相楽奏介』という人物に心当たりはない。
「相楽奏介は君の父親で、俺は君の腹違いの兄になる」
俺はその驚きの告白を俄には信じられず、目の前の人物を改めてまじまじと見てしまった。
──腹違いの兄って……? この人が?
突然のことでパッと見の雰囲気にしか目がいってなかったが、目の前にいるこの人はテレビや雑誌に出ていてもおかしくないほどの男らしいイケメンだ。
正直この人と半分血が繋がっていると確信出来る要素はどこにもない。
「君は自分の父親について何も聞かされてなかったんだな……」
「……俺には父親がいないとだけ。……父親が誰かとかそういうのは全く。……すみません」
落胆が感じられるような声の響きに、俺はつい謝罪の言葉を口にしてしまっていた。
「君が謝る必要はないよ。俺のほうこそすまない。こんな大変な時に突然現れて、力になるどころか混乱させるような事を言ってしまって。
でも君はひとりじゃない、俺という兄がいるって事を知って欲しかったんだ」
回らなくなった頭に一気に色んな情報が流れ込んできて、正直処理出来てる気が全くしないが、俺はとりあえず頷いておくことにした。
真奈美さんが連絡したってことは、真奈美さんは俺の父親が誰かって事を知ってたってことで。
でもって、この人がこうしてわざわざ家まで来てくれたってことは、父親である相楽奏介という人も俺の存在を認識してたって事だよな?
未婚のまま俺を生んだ母。腹違いの兄。
そこから導かれる答えは……。
「不倫だったんですね……」
俺の呟きに遥斗さんはその端正な顔を僅かに歪めた。
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