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1.新たな一歩を踏み出します!
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人生の岐路っていうのは誰にでも訪れるものだと思う。
そしてその道を選んだ事で思いもよらない方向に人生が進んでいくってこともあると思う。
けどさ。こんな人生が待ち受けているなんて誰も想像出来なかったと思うんだ……。
是枝 凛。十八歳。
──今日新しい扉を開きます。
◇◆◇◆
まだ肌寒さの残る三月下旬。
俺は四月からの大学進学にあわせて上京し、そして今、これから四年間を過ごす予定の新居に到着した。
必要な荷物は先に送ってあるため、新生活を始めるために遠くから訪れたにしてはどう見ても少ないと思われる程度の荷物──ちょっとその辺に買い物に行く時と同様、薄手のコートのポケットに財布を入れただけのほぼ手ぶら状態──で、片手には地図アプリを開いたスマホを持ったまま、指定された住所にある予想を遥かに越えた立派な門構えを前に息を飲んだ。
──デカッ!何ここ!! っていうかここから中が全然見えないのに豪邸だってわかるのすごくね?
人の力では絶対に開けられそうにないとひと目でわかる大きくて頑丈そうな黒い門扉。高く張り巡らされたレンガ造りの白い塀。
どちらも外からは絶対に中の様子が窺えないような構造になっている上に、肝心の建物も塀の内側に植えられている木に隠されているおかげで遠くからですらその全容はわからなかったものの、絶対に豪邸だという雰囲気だけはビシバシ伝わってくる。
きっとこの塀の中には、生粋の庶民で生まれた時から築四十年近く経つ2DKのボロアパートで慎ましやかに暮らしてきた俺には、想像も出来ない世界が広がってるに違いない。
俺はこの先に待ち受けている未知の世界に怖じ気づきそうな自分を鼓舞するように大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせると、立派な門扉の隣にある通用口らしき扉の前に立ち、インターホンを押した。
実はここのロックを解除する方法も教えてもらってはいるが、予め今日この時間に俺がここに来ることは住人達には話してあると聞いているし、今日初めて訪れた俺が既に誰かが暮らしている空間に勝手に入ることにはさすがに抵抗がある。
『……はい』
数秒の間の後、インターフォンの向こう側から応答があった。
ちょっと不機嫌そうな低い声。
もしかしたら寝てたのかもしれない。
俺は起こしてしまったことに罪悪感を覚えつつなるべく柔和な笑みを浮かべると、インターフォンに付いているカメラに向かって話し出した。
「すみません。今日からこちらでお世話になる是枝ですけど」
『……鍵あけた』
「……ありがとうございます」
誰もいなかったら覚悟を決めてそのまま入らなければと思っていただけに、申し訳ないとは思いつつも住人がいたことにホッとする。
しかしながら随分愛想のなさそうな応対に、一抹の不安が過ったことも否めない。
歓迎されていないことはわかってる。でも自分でここに来ることを了承した以上、後戻りする気は更々ない。
あの人は何の心配もせずに大学生活を謳歌すればいいと言ってくれたけど、タダで衣食住を手に入れて自分の好きな事だけをするっていうのは俺の主義に反する。
──それに俺は俺に出来る事で少しでもあの人の役に立ちたい。
三ヶ月前。予期せず訪れた早過ぎる別れ。
唯一の家族だった母が突然亡くなり、天涯孤独になった俺に手を差しのべてくれた人を思い出し決意を新たにする。
俺は初めて彼に会った時に見た、緊張と不安と深い哀しみが入り交じった表情を思い出しながらドアノブを握る手にグッと力を込めると、新しい生活への第一歩を踏み出した。
そしてその道を選んだ事で思いもよらない方向に人生が進んでいくってこともあると思う。
けどさ。こんな人生が待ち受けているなんて誰も想像出来なかったと思うんだ……。
是枝 凛。十八歳。
──今日新しい扉を開きます。
◇◆◇◆
まだ肌寒さの残る三月下旬。
俺は四月からの大学進学にあわせて上京し、そして今、これから四年間を過ごす予定の新居に到着した。
必要な荷物は先に送ってあるため、新生活を始めるために遠くから訪れたにしてはどう見ても少ないと思われる程度の荷物──ちょっとその辺に買い物に行く時と同様、薄手のコートのポケットに財布を入れただけのほぼ手ぶら状態──で、片手には地図アプリを開いたスマホを持ったまま、指定された住所にある予想を遥かに越えた立派な門構えを前に息を飲んだ。
──デカッ!何ここ!! っていうかここから中が全然見えないのに豪邸だってわかるのすごくね?
人の力では絶対に開けられそうにないとひと目でわかる大きくて頑丈そうな黒い門扉。高く張り巡らされたレンガ造りの白い塀。
どちらも外からは絶対に中の様子が窺えないような構造になっている上に、肝心の建物も塀の内側に植えられている木に隠されているおかげで遠くからですらその全容はわからなかったものの、絶対に豪邸だという雰囲気だけはビシバシ伝わってくる。
きっとこの塀の中には、生粋の庶民で生まれた時から築四十年近く経つ2DKのボロアパートで慎ましやかに暮らしてきた俺には、想像も出来ない世界が広がってるに違いない。
俺はこの先に待ち受けている未知の世界に怖じ気づきそうな自分を鼓舞するように大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせると、立派な門扉の隣にある通用口らしき扉の前に立ち、インターホンを押した。
実はここのロックを解除する方法も教えてもらってはいるが、予め今日この時間に俺がここに来ることは住人達には話してあると聞いているし、今日初めて訪れた俺が既に誰かが暮らしている空間に勝手に入ることにはさすがに抵抗がある。
『……はい』
数秒の間の後、インターフォンの向こう側から応答があった。
ちょっと不機嫌そうな低い声。
もしかしたら寝てたのかもしれない。
俺は起こしてしまったことに罪悪感を覚えつつなるべく柔和な笑みを浮かべると、インターフォンに付いているカメラに向かって話し出した。
「すみません。今日からこちらでお世話になる是枝ですけど」
『……鍵あけた』
「……ありがとうございます」
誰もいなかったら覚悟を決めてそのまま入らなければと思っていただけに、申し訳ないとは思いつつも住人がいたことにホッとする。
しかしながら随分愛想のなさそうな応対に、一抹の不安が過ったことも否めない。
歓迎されていないことはわかってる。でも自分でここに来ることを了承した以上、後戻りする気は更々ない。
あの人は何の心配もせずに大学生活を謳歌すればいいと言ってくれたけど、タダで衣食住を手に入れて自分の好きな事だけをするっていうのは俺の主義に反する。
──それに俺は俺に出来る事で少しでもあの人の役に立ちたい。
三ヶ月前。予期せず訪れた早過ぎる別れ。
唯一の家族だった母が突然亡くなり、天涯孤独になった俺に手を差しのべてくれた人を思い出し決意を新たにする。
俺は初めて彼に会った時に見た、緊張と不安と深い哀しみが入り交じった表情を思い出しながらドアノブを握る手にグッと力を込めると、新しい生活への第一歩を踏み出した。
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