セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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番外編

その後10.誕生日を祝いました!【前日】

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山の中に造られている紅鸞学園は、夏といえどもうだるような暑さとは程遠い。
しかも建物内はどこもかしこも空調が完璧に効いていて、暑さで授業に集中出来ないなんてことは絶対にない。

そんな恵まれた環境でも夏休みというものはちゃんとあるらしい。


俺がこの紅鸞学園に転校して来てから三ヶ月。
色んな事がありすぎた感のある一学期も今日で終了。
明日からはついに夏休みに突入する。


そのためか終業式が終わった後の教室の雰囲気はどこかそわそわと落ち着かない。

教壇に立つ東條をぼんやりと眺めながら、俺もちょっとだけ落ち着かない気分を味わっていた。


明日7月23日は俺の誕生日。

一応お付き合いというものをしている俺達は、夏休みに突入するのをいいことに、今日の夜から一週間ほど一緒に過ごす約束をしていたりするのだ。


先日東條から誕生日のリクエストを聞かれ、俺は迷うことなく『たまには家でまったりしたい』と答えた。

誕生日を一緒に過ごすこと自体に異論はない。
付き合って最初のイベントだし、東條が俺のために何かをしてくれるのが嬉しくない訳じゃない。
でも前回の初デートの時みたいにとんでもないサプライズでも仕掛けられたら、絶対に素直に喜べないことは目に見えてる。

だから俺は一番無難そうな『お家デート』を選択し、それが間違ってもセックス漬けの爛れた時間にならないよう、『まったり』という枕詞を強調しておいた。


東條からの夏休みに向けての注意が終わり、ホームルームが終了する。
涼しい顔をして教室から出ていく東條を目で追いながら、俺はこっそりため息を吐いていた。

恋人の時間が嫌な訳じゃない。ただなんとなく気恥ずかしいんだよな。

この日常があるから尚更さ。


明日から夏休み。
ほぼ毎日顔をあわせていた友人達とも暫しのお別れだと思うと名残惜しいのか、やたらとお喋りに華が咲いている同級生達を尻目に、俺は早くここから抜け出したくてひとり静かに席を立った。



◇◆◇◆



生徒会室で黙々と仕事をこなした後、一旦寮の部屋に戻って準備をしてから東條との待ち合わせ場所へと向かった。


相変わらず人気ひとけの全くない旧図書館。
その奥にある駐車場に停まっていた車にゆっくりと歩み寄る。

さすがに校内で待ち合わせをするのはどうかと思ったが、全寮制のこの学校では余程のことがない限り全員が終業式の日に帰省する決まりになっており、夕方近いこの時間はほとんどの生徒が帰路についているため、ここに来るまでの道行きで遭遇した人はいなかった。


運転席にいる東條にヒラヒラと手を振ってから助手席へと乗り込む。
東條は隣に座った俺を見てフッと口許を緩めると、そっと俺の髪に触れてきた。

俺はそんな東條を軽く睨み付ける。


「まだ学園の敷地内ですけど」


学校ではただの教師と生徒。
暗に最初にした約束を持ち出したにもかかわらず、東條は全く悪びれる素振りも見せない。
それどころか尚も言葉を発しようとする俺の口を塞ぐように触れるだけのキスを落とすと。


「悪い。誰かと過ごす予定をこんなに待ち遠しいと思ったのは初めてだし、今から光希を独占出来るんだと思ったら待ちきれなかった」


とんでもなく甘い台詞を吐いてから、車を発進させる始末。

俺はその一連の行動に咄嗟にリアクション出来ず、暫し無言になってしまった。




途中予め東條が予約していた店で食事をし、都内にある東條のマンションへと向かった。

元々学生時代から住んでいたというこの部屋は、都内の一等地にある高層マンションの最上階にあり、そのワンフロアが丸々東條の部屋になっているんだそうだ。

学園から少し離れたところにある部屋も充分豪華で広いと思ったけど、こっちの部屋はより一層セレブ感満載って感じだった。

特にそこから見える夜景は圧巻の一言。
まさに成功者の住む部屋って感じで、あまりに東條らしい部屋に俺はある意味感心してしまった。


普段学校で普通に担任とかしてるから忘れがちだけど、俺の目の前にいる男は東條財閥の御曹司。
普通に暮らしてたらお近づきになるどころか、顔すら見る機会もないような人なんだと改めて実感させられる。

そんな人が十歳も年下でしかも同性の俺の事が好きだって言ってくれて、俺も一応それを受け入れてこうしてお付き合いなんてものをする仲になってるんだから、つくづく人生ってやつはどうなるのかわからないものだ。

ほんの三ヶ月前までの俺なら絶対に考えられない状況に自然と笑いが込み上げてくる。


明日は俺の誕生日。

毎年誕生日は色んな人からお祝いしてもらっていた覚えがあるけれど、誰かひとりだけと過ごすのは初めての経験だ。

その相手が東條で良かったのか悪かったのかはわからない。

でも東條と過ごす時間にどこか気恥ずかしさを感じながらも、ちょっとだけ嬉しいと思う自分がいることも確かなのだ。

だから今はその気持ちを大事にしよう。

十六歳の誕生日は特別だったって言えるように。
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