セカンドライフ!

みなみ ゆうき

文字の大きさ
上 下
92 / 107
番外編

その後3.話をしました!【朝比奈】

しおりを挟む
『光希を乗せた東條先生の車が東條先生のマンションに入っていくところを』


その言葉がどういった事を意味するのか理解するのに多少の時間を要してしまった俺は、完全に返事をするタイミングを失っていた。


「すみません。光希を困らせようとか、これをネタに脅迫しようとか思っているわけではないんです。ただ、真実というか、現実を知っておきたいだけでして」


朝比奈が自嘲気味に笑う。

そして消え入りそうな声で。


「──そうでもしないと、この想いを簡単には諦められそうになくて……」


ボソリと呟くと、覚悟を決めたように俺をじっと見据えた。


東條との事を知られてしまったのは偶然だが、どのみち朝比奈には何かしらの話をしようと思っていたところだ。

これは下手な誤魔化しとかしないで、潔くホントの事を話しておいたほうがいいかもな。


「……東條先生とは一応そういう関係です」


教師と生徒っていう立場上、あんまり公にするべきことじゃないが、知られたところで本業のほうで充分成功している東條が困るってこともなさそうだし、俺も今更新しい噂のひとつやふたつたてられたところで痛くも痒くもない。

──散々女の子と付き合ってきた俺が、男と付き合うことになってるっていう現実のほうが、よっぽどダメージでかいしな……。


俺が若干遠い目になっていると、朝比奈は一瞬切なそうに表情歪めた後、深く息を吐き出した。


「いつから、とお聞きしても?」


いつから付き合ってるのかと聞かれてるのかわかってはいるが、付き合い始めたのはつい昨日からとはちょっと言いづらい。


「……初めて会ったのはこの学園に来る前のことです」

「もしかして、御堂理事長の紹介で?」

「いえ、違います。あくまでも偶然で」

「──運命の出会いというやつですか……」

「……………」


あれは確かに運命だとしか言い様のないシチュエーションではあったが、自分でそれを認めてしまうのは抵抗がある。

俺が沈黙で答えると。


「なるほど。これで漸く東條先生がああいう態度をされていたことに納得が出来ました」


朝比奈はそれまでとは打って変わって晴れやかな表情でそう言った。

俺はというと、朝比奈とは逆に完全に訝しむような渋い表情をしてしまった。


──ああいう態度って?

この学園に転校してきて以来、俺には終始嫌な態度だった東條。

俺だって気付いたのがいつなのかはわからないが、少なくともあの病院での告白まで、そんな素振りは全くなかったと思うんだけど。


「光希は気付いていなかったのかもしれませんが、今思うと東條先生がいかに光希を特別に思っていたのかという事がよくわかります」


はい。全く気付いてませんでしたとは言えないから、ここはとりあえず何も言わないでおくのがベストだろう。


「転入させるのにわざわざあんな変装させたりして。余程心配だったのでしょうね……」


いやいや。その時は全く気付いてないし。そもそも変装して転入したことに東條は全く関係ないから。


「その証拠に、自分がどうしても迎えに行けなくなったからと言って、わざわざ私に代わりに行って欲しい連絡してきたほどですし」


それ、全くの誤解です。何よりあの時点で既に一時間半待ちぼうけ喰らってるからさー。
あの日は完全に俺のこと忘れてたと思うし、思い出しても自分で行くのが面倒くさかったから頼んだだけだったと思う。


「役員補佐の話をした時も、いつもの東條先生なら好きにすればいいと仰るのに、光希の時だけ本人の意思を尊重することを条件にされてましたから」


ん?その辺りだともう知ってた可能性もあるな……。でもあの時の東條、ものすっごく嫌味ったらしくて態度悪かった気がしたんだけど。


「そしたら案の定、私が東條先生の部屋に行った時、当の本人である光希が偶然その場にいたにもかかわらず、私とは話をさせないようにさっさと帰そうとしてましたし。
今から考えると、あれは嫉妬だったのかなと思いましてね」


朝比奈の言葉に俺は完全に微妙な表情をしてしまった。

だってさ。こんな話。どういう顔して聞いてたらいいかわかんないじゃん。
底はかとない居心地の悪さしか感じないんだけど……。


「そんな顔しないで下さい。この事は私の胸だけに秘めておくと約束します。言いづらい事を正直に答えて下さってありがとうございました」

「いえ……」


正直にっていうか、勝手に朝比奈がひとりで喋って納得してだけで、むしろ俺、ほとんど答えてない。
心の中ではひたすらひとりツッコミしてたけど。


「光希の事は変わらず好きです。でもこうして真実がわかった以上、もう以前のように自分の気持ちを素直に告げて光希を求める真似は出来ません。さすがに今は胸が痛みますけど、これからは同じ生徒会のメンバーとして信頼されるよう努力していくつもりです。
──光希、一緒に頑張りましょうね」

「……はい。よろしくお願いします」


真摯な表情で自分の気持ちを伝えてくれた朝比奈に対し、とんでもない話を聞かされごっそり気力を削られていた俺は、言われた言葉の意味を深く考えることなく頷いてしまっていた。

途端にそれまで切なそうな表情をしていた朝比奈に笑顔が戻る。

俺はその笑顔にどことなく違和感を覚えながらも、気まずい空気が無くなったことにホッとしていた。


それから二か月後、またしても二階堂にチョロいと言われることになるとは夢にも思わず、俺は何事もなかったかのように振る舞ってくれる朝比奈と一緒に生徒会室へと向かったのだった。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...