セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

66.友人ライフ!1 Side 二階堂昂介 その2

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「光希のことで話ってなんだよ」


放課後。有坂達の部屋を訪れるなり、無愛想にそう言ってきた神崎に、俺はかなりムカついた。

授業が終わってすぐに来たのだろうと思われる制服姿の神崎は、この部屋の住人である高月こうづきが席を勧めても、長居する気はないとばかりに入り口付近に立ったままで、じっくり話を聞こうという素振りすら見せない。

俺が送ったメッセージを既読無視し、今もこうして不機嫌さを隠そうともしていない神崎ではあるが、光希のことと言われて渋々でも来るあたり、余程光希のことが気になるのか、それともフラれてもまだ未練タラタラなのか。

だったらあんな状態の光希を放っておくような真似しなきゃいいのに。


「いいから座れよ。すぐ済むような話じゃない」

「……八神先輩を待たせてる」


その言葉に、俺だけじゃなく、有坂と高月もムッとしたような表情になる。

まあ、そりゃそうだろ。この二人には神崎が来る前に光希の状況と神崎のとった行動について包み隠さず話してあるのだ。

──もちろん神崎が最悪なタイミングで告ってフラれたこともな。


その話を聞いた高月は光希の身に起きたことに相当ショックを受けていたし、有坂は八神先輩のところに逃げた神崎に対して静かに怒っていた。
なのに現れた神崎がこんな態度じゃ、ムカつくなってほうが無理だろう。


「八神先輩ね……。 神崎は一体どうしたい訳?光希のことはもう諦めるつもりなのか?」


若干の呆れを滲ませながらそう聞くと、神崎は不快そうに目を眇めた。


「……悪いが、そういう話がしたいだけなら帰る」

「待てよ」


俺は部屋を出ていこうとする神崎の肩をやや乱暴に掴むと、その身体を無理矢理俺のほうに向けさせた。

俺がこんな風に強引な態度をとるのは珍しいことだけに、神崎は酷く驚いたような表情になっている。

まあ、俺だって自分にこんな熱い一面があったなんて、正直ビックリだけどな。


「……何すんだよ」


俺を睨み付けてくる神崎に。


「話があるっていっただろうが」



俺も負けじと睨み返す。

すると、神崎はどこか面倒臭そうにため息を吐くと。


「俺にはない。──なんかこういうの二階堂っぽくねぇぞ」


肩に置いたままになっていた俺の手をやや乱暴に振り払った。

その仕草があまりにも傲慢なものに感じられ、俺は昂った感情に突き動かされるままに、今度は神崎の胸ぐらを掴み上げる。


「「二階堂!!」」


有坂と高月からほぼ同時に諫めるような声が上がったが、残念ながらそれに応える余裕はない。


神崎はといえば──。

俺の目線より僅かに高い位置にあるその瞳に少しだけ苛立ちのようなものを滲ませてはいるものの、俺が手を出す訳がないと高を括っているのか、全く逸らすことなく俺を見据えていた。

その態度が益々俺の感情をヒートアップさせていく。

それでもなるべく感情的にならないようにと自制したつもりだったのだが。

その後、発した声は自分で思うよりもかなり低いものだった。


「俺っぽいってなんだよ。いつでも無条件にお前の味方して、お前のお願い聞いてるのが俺らしいとでも言いたいのか?
言っとくけどな。今俺にこんな行動させてんのお前だからな」


ところが。


「……俺が何だっていうんだよ」


神崎は俺より更に低い声でそう言うと、今度は逆に俺の胸ぐらを掴んできたのだ。

一触即発の状態に、有坂と高月が俺達のすぐ側で固唾を飲んで成り行きを見守ってる様子がその気配で伝わってくる。

心配させて申し訳ないとは思うけど、流石にここまでしといて今更引くわけにもいかないし、なんと言っても。


「俺は今回のお前の行動が許せない」

今の俺の気持ちはその一言に尽きるのだ。


「俺の光希に対する気持ちを知ってるくせに、何でそんなこと言えんだよ」


あからさまに不満たっぷりといった神崎の口調が妙に癇に障る。


「俺が知ってるのはお前の気持ちだけじゃないからだよ」


俺は厳しい口調でそう前置きすると、神崎に対し、今までで一番容赦ない言葉を投げつけてやった。


「今回ばかりはお前の味方をする気はない。
お前は心身ともに傷ついてる光希に対してろくに話も聞かずに一方的に責めた挙げ句、最低最悪な告白をして逃げ出した卑怯者だからな」


神崎は俺の言っている意味がよく理解出来なかったらしく、怪訝そうな顔をしている。


「はぁ……、お前、ホントに何にも聞いてないんだな」


俺はさっきの御返しとばかりに、わざとらしくため息を吐くと、呆れたような視線を神崎に向けてやった。

そして。


「──光希、ヤバいクスリ使われて、レイプされかけたんだ。で、ひとりじゃどうにもならなくて、たまたまその場に駆け付けた生徒会長と仕方なく関係を持ったらしい。 そんな形でも一応合意には違いないから、勝者は生徒会長ということでゲームは終わったことになってる。

……けどな、今回の勝敗にアイツの気持ちは微塵も介在してないんだよッ!」


俺の口から語られた真実に、神崎の目が大きく見開かれ、俺の胸ぐらを掴んでいた手の力が抜けていく。


「……何だよ、それ。……初めて聞いた」

「聞こうともしなかっただろうが。 大体お前は他人の話を聞かなすぎる。それって自分の都合の悪い話は聞きたくないって言ってんのと一緒だよな。
それとも何か?常にお前が正しくて、皆が皆お前の言うこと聞いてりゃいいとでも思ってるからそういう態度なのか!?」


嫌味のつもりでそう指摘してやると、神崎は不貞腐れたような表情で

「……そんなつもりはねぇよ」

と小さく呟いた。

俺は神崎からやや乱暴に手を離すと、今度こそ腰を落ち着けて話をするために、全員に着席するよう促したのだった。

……俺の部屋じゃないけどな。



こうして漸く神崎が大人しくなったところで、俺と神崎、有坂と高月という組み合わせでリビングのソファーへ座る。

そして、ほぼ置物状態になっている神崎を無視する形で今後どう光希の助けになっていくかを話し合うことになったのだが。

俺達の話を聞いて漸く光希が置かれている状況を理解した神崎は、目に見えて落ち込んでいた。


今更遅いよ。


「そういえばさ、ゲームが終わったって知れ渡った途端、あちこちの親衛隊が動き出したらしいじゃん」

「一番に動いたのは神崎のトコだけどな」


高月の指摘に答えながら、俺はすかさず神崎に冷たい視線を送ってやった。

神崎はどういうことか本気でわかってないらしく、眉を顰めている。

仕方ない。ちょっと釘刺しとくか。


「昨日の朝、お前の親衛隊長の八神先輩が光希のとこに現れて、警告していったらしいぞ。 お前、今回は八神先輩のところに行ってんだろ?八神先輩と付き合う気がないんなら、中途半端に気を持たせる真似すんなよ。言っとくけど、お前に光希のこととやかく言う資格ないからな。」

「八神先輩とはそんなんじゃねぇよ。……そりゃ誘われたことはあるけど、丁重にお断りしてるし、ちょっと心配し過ぎだって思う時もあるけど、基本悪い人じゃねぇよ」


心配っていうより、あれ完全に独占欲だろ。神崎の隣にいるのは自分以外認めない的な。

斯く云う俺も八神先輩のお門違いも甚だしい警告の洗練を受けたことがある。神崎には言ったことないけどな。

すると。


「警告って要するに嫌がらせみたいなものだろ? そういうことする人って、本当にいい人なのか? 少なくとも俺にはそうは思えなかったけど」


普段絶対に他人のことを悪く言わない有坂からの指摘に、神崎だけじゃなく、俺も目を丸くした。

え?もしかして俺だけじゃなかった?

チラリと高月のほうを見ると。


「紘斗がこんなこと言うなんて珍しいだろ?でも俺も紘斗も正直、神崎の親衛隊にいい印象ないからさー」


素直すぎる高月がこう前置きをしてから俺も初耳な話をぶっちゃけてくれた。


「実は俺ら、神崎の親衛隊が発足してすぐに勧誘されたんだ。その誘い文句がまたスッゴくムカつく感じでさ、『神崎様とお近づきになりたいのならば、手順を踏め。身の程を弁えろ』とか言ってんの。 あの時は、マジで神崎と友達やめようかと思ったよ」


結構軽い調子で言ってるっぽいけど、高月は相当腹に据えかねているらしい。


「でも、最近漸く俺らがそういう意味で神崎に興味ないってわかったらしくて、今はたまーに嫌味言われるくらいで済んでるよ。ね?紘斗」


同意を求められた有坂が無言で頷く。

神崎に視線をやると、さすがにばつが悪かったのか、それとも友達やめる発言が相当堪えたのか、軽く項垂れていた。


「……迷惑掛けて悪かった。
お前らが俺に対して怒ってるってのはよーくわかったから、もうマジで勘弁してくれ」

「俺らより光希のほうが大変な思いしてると思うけど」

「……だよな。部屋に戻ったら即効謝って、ちゃんと話するよ。皆、大事なことに気付かせてくれてありがとな」


勝手にいい話風に締め括り、すぐにでも光希のところへ飛んでいきそうな神崎に俺はすかさず待ったをかけた。


「いや、お前はしばらく光希と接触禁止な。連絡するのも無し。今回光希に関してお前は役立たずどころか害にしかなってないから何にもしない方向で。
光希からも神崎には言うなって言われてるし」


光希がそういう意味で俺に口止めしたんじゃないことはわかっているが、神崎にその言葉の真意を教えてやる気はない。

神崎にとっての光希が『気紛れで少々ケンカっ早く、わりと自己中心的』というイメージなら、もう暫くはそう思っていてもらったほうが都合がいいからな。

光希が俺達の事を大事に思うあまり、この件に関わらせたくないと思ってるということを知ってしまったら、神崎の性格からして絶対に黙ってられないだろうし、今ここでコイツに動かれたんじゃ、光希が懸念するとおりの面倒なことになりかねない。

神崎の親衛隊の隊長をしている八神先輩は、大人しそうな見た目とは裏腹に、なかなか厄介な性格をしている人物で、自分では絶対に手を下すような真似はしないものの、人を煽って利用する狡猾さは存分に持ち合わせているのだ。

下手すりゃ今度こそ光希が最悪な形で制裁されかねない。


「とにかく、神崎は何もしなくていいからな」


そう念を押すと。

神崎は、「じゃあ、俺何の為に呼ばれたんだよ」とぶつぶつと文句を言っている。

すると、すぐに向かい側にいる高月から「俺らが文句を言うためじゃね?」と容赦ない答えを返され、ガックリと肩を落としてしまった。

俺は二人の微笑ましいやり取りを横目に見ながら、今回皆に集まってもらった本当の目的を切り出したのだった。
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