セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

65.友人ライフ!1 Side 二階堂昂介 その1

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他人からよく委員長体質だって言われる俺だけど、それって要するに貧乏くじを引かされる人生だって言われてるのと同じなのだということを最近よく実感する。

面倒見がいい=面倒事を押し付けられる

一概にそうとは言い切れないのかもしれないが、そういう傾向は往々にしてあると思うのだ。

小さい頃から自然とそういう役割が回ってくるほうではあったものの、この学園に入学してからはそれがより一層顕著になった気がする。

──原因は主に友人である神崎颯真。

この学園で上から数えたほうが早い程のスーパー御曹司でありながら、自称中身は庶民の神崎に、どれ程面倒事を押し付けられてきたことか……。

『二階堂、頼む』

その一言と、それをお願いしてくる時の心底困り果てたような表情に騙され、それとなくフォローを引き受けるようになったのが運の尽き。

……でも、どんな無茶そうなことでも、絶対に何とかしてやるという気持ちにさせてしまうところは、流石は強力な求心力を持った生粋の御曹司ならではの技だと俺は思う。


しかしながら、アイツの幼馴染で幼い頃からの想い人である中里光希がこの学園に来てからは、その頼み事の面倒さ加減がレベルアップしてきているのは決して気のせいじゃないだろう。

まあ、今まで神崎の頼みを悉く聞いてきた俺にも問題はあるんだろうけどな……。


神崎と出会ってからの俺は、神崎の気の置けない友人という立場である自分のプライドにかけて、アイツのフォローを続けてきたのだが──。

──でもな、今度ばかりは流石にフォローしきれねぇよ……。


どうやら神崎というヤツは、普段は大企業の御曹司らしく皆の理想どおり完璧な行動を心掛けているが、ひと度光希が絡むと、とことんタイミングの悪い愚かな男になってしまう傾向にあるらしい。

今回のことにしても、最悪なタイミングで光希に告った挙げ句、最悪の行動をとる辺り、最早この恋は潔く諦めて別のヤツのところへ行ったほうが良いんじゃないかと思うレベルだ。

まあ、光希も光希であんな感じのヤツだから、神崎だけが悪いとは言えないんだろうけどさ……。

正直光希は神崎とはまた違った感じの方向で問題があるのは言うまでもない。




◇◆◇◆




光希は神崎の長年の想い人だ。

この学園に入ってすぐの頃、神崎に好きな子がいることを知った俺は、それまで神崎が共学の小学校に通っていたと聞いていたこともあり、当然のことながらその人物が女の子であると思い込んでいた。

ところが、神崎のスマホに保存されている光希の画像を見せられ、俺は仰天した。

金茶の髪にブルーグレイの瞳を持つその人物は、美形が多いこの学園でも滅多にお目に掛かれないほどの美少年であることは間違いないが、それと同時に、神崎の恋愛対象が既に男であったことに、当時この学園の特異な恋愛事情にまだ染まっていなかった俺はかなり驚いた覚えがある。


この時の神崎は、自分がちゃんと恋愛対象として認識してもらえるレベルになるまで会わないとかカッコつけていたのだが、ほぼ毎日連絡してる時点で既に格好がついていなかったと俺は思うし、ここと違って自由な場所でリア充を満喫している人間にとって、遠くにいるただの友達はいつまで経っても恋愛対象になど昇格しないのだということにも全く気付けていなかった。

その後、結局多忙を極めることになった神崎は、中等部の三年間光希に会うことは出来ず、漸く高等部に入ってすぐの連休に会いに行くことを決意した途端、連絡自体取れなくなっていたらしい。

やっぱり一度ズレた歯車は元には戻らないんだなと密かに思っていたところ。

そんな俺の予想に反して光希は何故か中途半端な時期にこの学園に転入してくることになったのだ。





「え?お前がいつも話してる光希がここに来るのか?」

「ああ、さっき理事長に呼ばれてそう言われた」

「それ、大丈夫なのか?」


何が、とはあえて言わなかったが、明らかに浮わついた様子の神崎と、以前見せてもらった光希の容姿を思い出し、俺は不安しか感じなかった。


「まあ、俺も正直心配だけど、見た目は何か対策してくるって言ってたし、寮の部屋は俺と同室だから何とかなるんじゃないかとは思ってるけど」


いや、それの方が心配だから!

俺は心の中で即座にツッコミを入れる。

恋愛対象としてみてるヤツと密室に二人きりってかなりヤバい状況だし、そもそもそんな存在の人間が同室だってことが神崎の親衛隊にバレたら大変なことになるのは火を見るより明らかだ。

神崎の親衛隊は、神崎が高等部にあがり、親衛隊発足が解禁になったその日に熱烈な神崎の支持者によって結成された団体で、その構成メンバーの多くが飼い主にはよく尻尾を振るくせに、それ以外の人間にはお高くとまったような態度を崩さない血統書付きの小型犬といった感じの人間で構成されている。

特に親衛隊長の八神さんなんて、その最たるものだと思うのだが、神崎曰く『俺のとこの親衛隊はいい人ばっかりだから』だそうで。

まあ、表面上は神崎の意向を汲むだけ、すぐに過激な制裁を行う生徒会長の親衛隊よりは幾分マシなのかもしれないけど、少なくても俺はいい人だなんて思えない。


そんな事を考えていると。

ちょっとだけ困ったような表情の神崎が俺を見つめていた。


うわー。これって……。


「で、クラスなんだが、二階堂と同じA組なんだ。それとなく気に掛けてやってくれないか? 頼む」


あ、やっぱりそうくるよな……。

俺はまたしても面倒事を引き受ける羽目になったことに半ば辟易しながらも、いつものように了承したのだった。



そして光希が転入してくるという日。

当然朝のホームルームで紹介されるものだと思っていた俺は、全く現れる気配がない光希に早くもうんざりした気分になっていた。

神崎から光希の性格について、『気紛れで少々ケンカっ早く、わりと自己中心的』とは聞いていたけど、転校初日に堂々と遅刻してくるなんて、どうかしてる。

神崎には悪いが、そこそこ距離を置いて付き合ったほうが良さそうだと密かに考えていると。

件の光希は約二時間遅れでやってきた。


三時間目になって漸く担任の東條先生に連れられて教室に姿を現した光希は、黒髪のウィッグに黒縁の眼鏡という超個性的な格好をしていた。

正しい制服の着方の見本のようにきっちり着込まれた制服も、そんな格好をしている人間などこの学園ではそういないせいなのか、何だか異様なものに感じられてならない。

本来の姿を全て隠してしまっているにも関わらず、物凄く悪目立ちしていた光希は、その事に微塵も気付いていないばかりか、他人にもまるで興味がないといった様子で。

──俺はそんな光希に少し興味が沸いた。



それから昼休みになり、自己紹介の後、変装のことを指摘すると、光希は酷く驚いた顔をし、してやったとばかりに俺がネタばらしをしたところ、今度は逆に色んな意味で俺が驚かされる羽目になってしまった。

なんと、光希はこの学園に神崎がいることを知らなかったばかりか、親衛隊を持つほどの人気を誇る神崎をサル呼ばわり……。

今まで想いを募らせてきた神崎が憐れになるほど、光希がアイツを意識してなかったことがよーく分かった。

挙げ句、この学園の特殊な事情を微塵も理解していない様子の光希に、このままじゃすぐに制裁対象になりかねないと感じた俺は、

「神崎のヤツ。厄介なこと押し付けやがって……」

と呟かずにはいられなかった。


そして案の定。

その後の学食での一件で、光希は明日どころかすぐに制裁対象候補として、生徒会役員の親衛隊から目をつけられることになったのだった。




生徒会役員が勝手に始めたゲームのターゲットに選ばれた光希は、友達になった俺達を巻き込まないよう、即座に独りで行動することを選んでしまった。

そうは言われても、『じゃあそうします』という気には到底なれず、俺と有坂ありさか紘斗ひろと高月こうづきかえでの三人は光希に気を遣わせないよう、さりげなくフォローしていくことに決めた。

最初は神崎に頼まれた義務感のようなものからくるものが大きかったが、意外に男らしく豪胆で、この特殊な環境においても自分というものを見失わず、何物にも流されない光希と接していくうちに、俺たちのその気持ちはすぐに、大事な友達を助けたいというものへと変化したのだった。


一方神崎はといえば。

光希が自分を頼らないどころか、生徒会役員達と勝手に取引した挙げ句、役員補佐を引き受けたのが相当気に入らなかったらしく、派手に大喧嘩して部屋を飛び出してくる始末。

事情を聞いた俺は、神崎って本当は光希のこと何にもわかってないんじゃないかと思ったりもしたのだが、その後、思いがけず光希の素顔を見る機会に恵まれたり、まるで神崎を意識していないくせに無意識に煽るような真似をしているらしい光希を目の当たりにして、神崎がちょっとだけ可哀想になったりもした。


そして。

なんだかんだでゲームも膠着状態となり、このまま約束の期間が終了して、何事もなくゲームが終わりそうだと密かに安堵していたその時。

とんでもない噂が学園内を席巻し、俺は……俺たちは愕然とした。



◇◆◇◆



今朝から学園内はある話題で持ちきりだった。

膠着状態に陥っていたゲームにとうとう決着が着いたのだという。

しかも、勝者は生徒会長。

普段光希があの人を苦手にしていて、尚且つ微塵もそういった意味での好意を抱いていないことを知っていただけに、俺は驚きを隠せなかったのと同時に、即座に光希の身に何かとんでもないことが起こったのだと確信した。


急いで光希に連絡するが繋がらない。

だったら、同室の神崎に、と思ったところで、アイツがまだ実家の用事から戻ってきていないことを思い出し、舌打ちした。

すぐに光希の部屋を訪ねてみたものの、既に登校した後だったらしく返事はない。

焦った俺は、大急ぎで準備をし、光希がいるであろう教室へと向かったのだが──。


そこで目にしたのは、小鳥遊に掴みかかられている光希と、それを何も言わずに眺めている同級生達。

そして、無惨に落書きされた光希の机だった。


「何やってんだ!」


ここで今、何が起こっているのかということをひと目で理解した俺は、今まで感じたことがないほどに頭に血が昇っていた。

ゲームが終了し、実質、光希への手出しが解禁されたのだと踏んだ愚かな連中が光希に対する制裁を開始したのだろう。

中でも過激なことで有名な生徒会長の親衛隊がこのチャンスを見逃す訳がなく、俺に咎められても少しも悪びれた様子も見せない小鳥遊の態度は、自分達が正しいのだと信じて疑わない親衛隊の歪んだ正義が透けて見えるようだった。


チラリと光希に視線を送ると、大して気にした様子もないようで。

俺はその光希にも若干イラつきながらも、そのまま視線だけで教室の外に出るよう促した。

やたらと気持ちが急いていた俺は、苦笑いしながらのんびり腰を上げた光希を待っていられず、やや強引にその腕を掴むと、じっくり話が聞ける場所へと連れ出したのだった。



で、それから俺は図書館に併設されている自習室で、光希の口から諸々の事情を聞き出した訳だが……。

……光希の平気そうな態度とはかけ離れた、耳を疑いたくなるような出来事に絶句した。


媚薬を使って無理矢理関係を持とうとするなんて、それはレイプと同じことで。

しかも切羽詰まって仕方なく生徒会長に助けを求めなきゃならなかったなんて余程の事であり、光希にとってかなりのダメージだったに違いない。


大体の事情を聞き終わった俺は、静かに怒り狂っていた。

やったヤツも、それに便乗するように勝者になった生徒会長にも怒りが沸くが、それ以上に、ろくに光希の事情を聞きもせず、会長と関係を持ったことを責めた挙げ句、自分の気持ちを押し付けるように最悪なタイミングで告白した神崎の自分勝手さに腹が立つ。


そりゃ光希はちょっと他人の心の機敏に鈍いところもあるし、話を聞けば聞くほど恋愛に関する考え方や、貞操観念がおかしいところがあるということが嫌というほどよくわかるが、最初に神崎から聞かされた『気紛れで、ケンカっ早く、わりと自己中心的』というイメージからは程遠い。


現にここに来てからの光希は俺たちを巻き込まないように気遣うあまり、頼ろうともしないし、詳しい事情すら話そうとはしない。

これのどこが自己中だって!?


「俺さ、今までこんな風に話せる男友達って颯真くらいしかいなかったんだよな。だから、ここに来て友達になってくれた二階堂や紘斗や楓には感謝してるし、颯真も含めて皆のことが大事なんだ」


その光希のいじらしさすら感じる言葉に、俺は今まで光希の気持ちに沿うつもりで、強引に関わってこなかったことを激しく後悔した。

おそらく光希に今まで頼れる男友達がいなかったのは、幼い頃から神崎が自分以外の人間が光希に近付いたりしないよう牽制してきたせいだろう。

アイツならそれくらいのことやりかねない。

そして。


「前もお願いしてたけど、今回もある程度周りが落ち着くまで俺には構わないで欲しい。だから颯真にも連絡しなくていい。下手にアイツが関わってくると面倒なことになりかねないし、俺は大丈夫だから、暫く独りにしてくれ」


それが当然のようにそう決断する光希にも苛立ちが募る。


俺は根っからの委員長体質だからさ、誰かが困るのがわかってて、見て見ぬふりとか出来ないんだわー。 例えそれが面倒な事だったとしてもな。

でもって、それが自分の友達なら尚更のこと。


「……お前の言い分はとりあえずわかった」


そう答えたのは、あくまでも光希の言い分はわかったというだけのことで、了承したとは言っていない。


それから俺は光希が席を外した隙にポケットに入れていたスマホを取り出すと、素早く気の置けない友人である有坂絋斗と高月楓にメッセージを送った。


【緊急ミーティングするから、部屋貸してくれ】


二人は同室なので、内密な話をするにはうってつけだ。

いくら自習とはいっても一応今は授業中だというのにも関わらず、すぐに楓から了承の返事をもらった俺は、続けて光希の憂いになっている元凶のひとりでもある神崎にもメッセージを送る。


【光希のことで話がある。放課後、有坂達の部屋に来てくれ】


当然のことながら、神崎からの返事はすぐには返ってこなかったが、了承の返事以外認める気はないので計画に変更はない。

俺は再びポケットにスマホをしまいこむと、何食わぬ顔で、他人に頼るということを知らない不器用な友人を待った。
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