セカンドライフ!

みなみ ゆうき

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本編

31.忘れてました!

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壬生先輩と週一回水曜日にお昼ご飯の交換をすることになった俺は、そのまま会話の流れで先輩と連絡先の交換もした。

壬生先輩は結構忙しい人らしく、昼休み直前になって急に旧図書館に来れなくなることもあるらしいので、その連絡のためだ。


若武者風の容貌の先輩から無料通話アプリのIDを交換しようと言われた時、先輩とスマホという組み合わせがあまりにミスマッチ過ぎて、思わず、

「……先輩って、スマホとか使えるんですね」

と、馬鹿正直に言ってしまった。


しかし失礼過ぎる俺の発言に対して先輩は特に気を悪くした様子もなく、

「俺だって文明の利器くらい使える」

と大真面目に答えてくれたのだ。


『文明の利器』という言葉のチョイスに俺は大笑いし、先輩も一緒に笑ってくれたことで、心の距離がかなり近付いた俺達は、それからラウンジで少しだけ話をしてから別々に旧図書館を後にした。


壬生先輩は本人の申告どおり『文明の利器』をしっかり使いこなせているらしく、その日のうちに弁当の礼と次回のおかずのリクエストを送ってくれたのを皮切りに、一日に一回はメールを送ってくれるようになった。

壬生先輩とのやり取りは日常の他愛もないような事を報告しあうようなものが多いが、どんな内容のメールでも最後は決まって、『何かあったらすぐに連絡して欲しい』という言葉で締め括られている。

おそらく先輩は俺の事情をわかっていて、心配してくれているのだろうということが伝わってきた。



◇◆◇◆



紅鸞学園に転校してきてから約一ヶ月が過ぎた。


俺は相変わらず周りから遠巻きにされたり、生徒会役員の親衛隊らしき人物から嫌味を言われたりしているが、今のところ大きなトラブルにまではなっていない。


初日に出来た友達である二階堂や絋斗や楓とも友人関係は継続中だ。

とはいっても、一緒に行動することで三人に迷惑がかかることを避けるため、人目に付きそうな場所や時間帯では行動を共にはせず、俺はなるべく独りで行動するようにしていた。

三人は俺の事情をわかった上で、気にしなくていいと言ってくれているのだが、迷惑がかかるのがわかっていながら好意に甘えるわけにもいかないので、心配してくれる気持ちだけ貰っておくと言ってある。

しかし三人は本当に心配してくれているらしく、何かあったら独りで考え込まずに必ず相談するようにと、生徒会に目を付けられた翌日に、半ば強引に連絡先の交換をさせられた。

そんな優しい友人たちのお陰で、俺はこんな状況の割には楽しい学校生活を送れている。


ちなみに颯真の連絡先は、いつの間にか本人が登録しておいてくれたらしく、ちゃっかり短縮設定にまでされていて驚いた。


そんなこんなで新しい番号にしてから家族と圭吾さんの連絡先しか登録されていなかった俺のスマホの中の連絡先登録数は、一ヶ月前より少し増えている。

以前のものと比べたら格段に少ないが、本当に必要な番号しか登録されていない今のスマホのほうが、ある意味限られたデータ容量を有意義に使えているかもしれない。


ここに来る前の俺は、スマホを肌身離さず持ち歩き、頻繁に使用していた。

女の子達との連絡手段という役割が大きかったかつての俺のスマホは、今考えると本当によく働いてくれたと思う。

寝てる時と女の子と会っている時はマナーモードにしていたため、俺自身がずっと画面と向き合いっぱなしということはなかったが、その俺が見ていない時間も続々と来るお誘いメールでほぼ24時間フル稼働状態だったはずだ。

データの容量もさぞ多かったことだろう。


そんな状態をすっかり忘れてしまえるほど、今の俺のスマホ事情は激変していた。

俺の新しいスマホは、相変わらず暇潰しにゲームをするか、壬生先輩と連絡を取る時以外は、ほぼ使われていない状態だ。

そのゲームにさえ、最近前ほど時間を費やすことはない。

旧図書館に通うようになってから、新たに本を読むという習慣ができたからだ。


本好きだという壬生先輩から紹介してもらった本はどれも面白く、ゲームにログインすることをうっかり忘れてしまう日もあるほど夢中になって読んでいる。


──その結果、スマホを持ち歩くという意識が段々と希薄になってきているらしい俺は、最近は使った後、最後にどこに置いたのか忘れてしまうということが多くなってきていた。



今日も無事に授業が終わり、真っ直ぐ寮の自室へと戻ってきた俺は、夕飯のおかずのレシピをスマホで検索しようとしていたのだが、案の定、どこかに置き忘れたらしく、目につく範囲には見当たらなかった。

こういう場合は、自室のベッドの上に置きっぱなしということが多いのだが、今回はそうではなかったらしく、いくら探しても見つからなかった。

散々部屋中を探した後で、今日昼休みに旧図書館に行った時に、壬生先輩に今やっているゲームの説明をするためにズボンのポケットから取り出した事を思い出した。

壬生先輩が俺のやっているゲームアプリに興味を示し、自分もダウンロードすると言ったので、試しに俺のスマホでやってみてから決めたらどうかと言ったのだ。

どうやらその説明をした後、そのままあそこに置き忘れてしまったらしい。


「うわー。どーしよ。面倒くせぇ……」


旧図書館と学生寮はこの学園の敷地の反対側の端と端に位置しているため、取りに行くとなるとかなりの時間がかかる。

寮に戻って寛ぎモードに変わっていた俺は、もう一度変装して取りに行くのが非常に億劫だったのだ。


唯一連絡がくるであろう壬生先輩とは、今日三回目の昼休みを一緒に過ごしたばかりなので、予定変更などの重要な連絡がきている可能性はない。

正直取りに行くのが面倒だった俺は、特に焦る必要はないと自分に言い訳をし、わざわざ旧図書館まで取りに行くことはしなかった。


──その判断が更なる厄介事を引き起こすことになるとは知らずに。

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