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本編
26.幼馴染ライフ!颯真の事情 その3
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光希が転入してくることを理事長から聞かされた俺は、中等部の頃の同室者で気のおけない友人のひとりである二階堂 昂介に相談した。
二階堂は神経質そうな見た目に反して面倒見のいいやつで、入学当初、所謂お坊っちゃま学校というものに馴染もうと必死になっていた俺をさりげなくフォローしてくれていた人物だ。
なので今回光希がその二階堂と同じAクラスに入るということを理事長から聞いた俺は、申し訳ないとは思いつつも二階堂に光希のことをそれとなく気にかけてくれるよう頼んでいた。
もちろん俺にそうしてくれたように、光希のことも学園に馴染めるようさりげなくフォローしてくれるのではないかと期待してのことだった。
理事長経由で連絡先を交換した光希のお姉さんである光里さんからの情報によると、目立つ容姿については何かしらの対策をしてくるらしいので心配いらないらしいが、その特別な容姿もさることながら、なかなかの性格をしていることのほうが俺の心配の種だったからだ。
──そんな俺の心配は、案の定、杞憂に終わることはなかった。
光希の転校初日。
俺がいるSクラスは特別棟にあるため、一般生徒の出入りはほとんどないし、一般クラスの噂もほぼ入ってこないため、当然Aクラスに転校生が来たという話題は聞こえてこない。
俺はあらかじめ光希のことを二階堂に話し、どういう様子か連絡してくれるよう頼んでいた。
ところが昼休みになっても、二階堂からの連絡はなく、俺の不安は募っていく。
──まさかとは思うが、直前になってやっぱり転校するのやめたとか……?
ふとそんな考えが頭を過ったが、即座に自分の考えたことを否定した。
それならば同室者の俺に学園側から何かしら説明があるはずだ。
昼休みなので俺が直接光希のところに会いに行って確かめればいいだけの話なのだが、それは俺のほうの事情が許さなかった。
一応親衛隊持ちである俺は、余程のことがない限り自分の親衛隊のメンバーと食事をすることに決めていた。
親衛隊は学園公認の同好会扱いなので、部室代わりの部屋が与えられており、そこで親衛隊の幹部とあらかじめ決められた一般の親衛隊員が日替わりで一緒に昼食を摂っているのだ。
こんな言い方は良くないのかもしれないが、親衛隊には色々と便宜を図ってもらわなければならないことがあるので、良好な関係を築いておくに越したことはない。
俺は光希に会いたいという自分の気持ちよりも、信頼関係を築かなければならない親衛隊との約束を優先した。
光希のことを気にかけつつも親衛隊との昼食会を終わらせ、二階堂と連絡をとるべく足早に教室へと戻った時、俺は信じがたい噂を耳にした。
それはおそらく光希と思われる人物についての話だったのだが……。
"『冴えない見た目の転校生』が、『生徒会役員の皆様』に色目を使ってもめた挙げ句、風紀委員長に連行された。"
およそ光希のことを言ってるとは思えない話に、俺は首を傾げたくなった。
とりあえず事実確認をするために、光希と一緒にいるであろう二階堂に急いで確認をとろうとしたその時、タイミングよくむこうから連絡がきた。
【トラブル発生。詳細は本人に要確認のこと。】
そう書かれたメッセージを見て、噂があながち嘘ではないことを覚った俺が、さりげなく情報収集したのは言うまでもない。
その結果、どういう経緯かはよく分からないが、光希が生徒会長とキスをしたということだけはよくわかった。
それからの俺は午後からの授業が全く身に入らないまま放課後を迎え、これまでの最速記録で寮の部屋に戻り、光希を待った。
待つこと優に三十分。部屋に来客を告げるチャイムが鳴り、漸く光希が現れた。
──三年ぶりに会う光希は、実に個性的な格好をしていた。
黒髪のウィッグに大きな黒縁眼鏡。正しい着方の見本のようにきっちりと身に付けられた制服。
光里さんから事前に聞いていたとはいえ、滅多にお目にかかれないほど野暮ったい変装をした光希に、俺は一瞬絶句した。
必要以上に見た目に気を遣うこの学校で、その格好が悪目立ちしてしまったことは想像に難くなく、生徒会に目をつけられてしまったというのもわからなくはない。
それが何故、生徒会長である竜造寺清雅とのキスという事態になったのかは甚だ疑問ではあったが、こんな格好をしていても光希のモテオーラが消せなかった結果なのではないかと思ってしまった俺は、惚れた欲目というフィルターがかかっているのかもしれない。
ところが当事者である光希ときたら、久しぶりに会う俺がわからなかったのだ。
それを聞いた瞬間、俺の心の中に潜む何かがムクリと起き出したのを感じた。
その後は光希の事情を逆手に取って、自分でも信じられないほど欲望に忠実に行動することができた。
さすがに最後まではさせてもらえなかったが、俺に弄られて気持ち良さそうにしている光希も、俺のモノを口で奉仕している光希も最高に色っぽく、竜造寺清雅とキスしたと聞いてからささくれだっていた俺の気持ちは少しだけ落ち着きを取り戻していた。
ところがその後、光希から詳しい経緯を説明された俺は、またしても気持ちを掻き乱されてしまう。
生徒会に目をつけられたのは、悪目立ちする見た目のせいだけではなかったことがわかったからだ。
生徒会役員達は気紛れに暇潰しの生け贄を選ぶことがある。
おそらく光希に白羽の矢が立ったのは、変装していても隠しきれない何かを感じ取ったからだと思われた。
こうなった以上、面倒な事態は避けられない。
生徒会役員達も厄介だが、その親衛隊はもっと厄介だ。
なんと言っても光希本人に危機感がないことが一番厄介で、このままでは親衛隊の制裁対象になってしまう可能性は避けられない。
「なんかあったらすぐに俺を呼べよ」
心配した俺はかなり本気でそう言ったのだが、光希には俺にも親衛隊いるという理由であっさり断られてしまった。
それどころか、この部屋を出たら他人だとまで言い、それに納得できないでいる俺を視線で牽制してきた。
そんなことで怯むよう俺ではないが、
「いざとなったら颯真に一番に言うから、とりあえず俺の言うとおりしてくれよ。頼む」
と言われ、俺は仕方なく納得した振りをした。
「……わかった」
俺の返事を聞いた光希の反応はある意味反則だった。
「サンキュ。その代わり、この部屋にいる時は今までどおりで頼む。素の俺でいられんのは颯真の前でだけだからさ」
そう言うと、笑顔で俺に軽くウィンクして見せたのだ。
その可愛い仕草を見て赤面しそうになった俺は、咄嗟に光希から視線を逸らしてしまった。
光希は極自然にそういうことをするからたちが悪い。
「天然って最強……」
思わずそう呟かずにはいられなかった。
俺の小さな呟きを聞き取れなかった光希は怪訝そうな表情で俺を見ているが、今言った内容を教えるつもりは毛頭ない。
光希は放っておいて欲しいのだろうが、俺としては黙って見ているだけという選択肢はあり得ない。
俺の初恋は光希だし、今もその気持ちは密かに継続中だ。
せっかく近くにいられるのだ。
このチャンスを逃す手はない。
もう二度と他の人間を光希に触れさせない。
それがずっと俺が比較され続けてきた竜造寺清雅なら尚のこと。
──絶対にあいつよりも先に光希の全てを手に入れてみせる。
俺はそう固く心に誓ったのだった。
二階堂は神経質そうな見た目に反して面倒見のいいやつで、入学当初、所謂お坊っちゃま学校というものに馴染もうと必死になっていた俺をさりげなくフォローしてくれていた人物だ。
なので今回光希がその二階堂と同じAクラスに入るということを理事長から聞いた俺は、申し訳ないとは思いつつも二階堂に光希のことをそれとなく気にかけてくれるよう頼んでいた。
もちろん俺にそうしてくれたように、光希のことも学園に馴染めるようさりげなくフォローしてくれるのではないかと期待してのことだった。
理事長経由で連絡先を交換した光希のお姉さんである光里さんからの情報によると、目立つ容姿については何かしらの対策をしてくるらしいので心配いらないらしいが、その特別な容姿もさることながら、なかなかの性格をしていることのほうが俺の心配の種だったからだ。
──そんな俺の心配は、案の定、杞憂に終わることはなかった。
光希の転校初日。
俺がいるSクラスは特別棟にあるため、一般生徒の出入りはほとんどないし、一般クラスの噂もほぼ入ってこないため、当然Aクラスに転校生が来たという話題は聞こえてこない。
俺はあらかじめ光希のことを二階堂に話し、どういう様子か連絡してくれるよう頼んでいた。
ところが昼休みになっても、二階堂からの連絡はなく、俺の不安は募っていく。
──まさかとは思うが、直前になってやっぱり転校するのやめたとか……?
ふとそんな考えが頭を過ったが、即座に自分の考えたことを否定した。
それならば同室者の俺に学園側から何かしら説明があるはずだ。
昼休みなので俺が直接光希のところに会いに行って確かめればいいだけの話なのだが、それは俺のほうの事情が許さなかった。
一応親衛隊持ちである俺は、余程のことがない限り自分の親衛隊のメンバーと食事をすることに決めていた。
親衛隊は学園公認の同好会扱いなので、部室代わりの部屋が与えられており、そこで親衛隊の幹部とあらかじめ決められた一般の親衛隊員が日替わりで一緒に昼食を摂っているのだ。
こんな言い方は良くないのかもしれないが、親衛隊には色々と便宜を図ってもらわなければならないことがあるので、良好な関係を築いておくに越したことはない。
俺は光希に会いたいという自分の気持ちよりも、信頼関係を築かなければならない親衛隊との約束を優先した。
光希のことを気にかけつつも親衛隊との昼食会を終わらせ、二階堂と連絡をとるべく足早に教室へと戻った時、俺は信じがたい噂を耳にした。
それはおそらく光希と思われる人物についての話だったのだが……。
"『冴えない見た目の転校生』が、『生徒会役員の皆様』に色目を使ってもめた挙げ句、風紀委員長に連行された。"
およそ光希のことを言ってるとは思えない話に、俺は首を傾げたくなった。
とりあえず事実確認をするために、光希と一緒にいるであろう二階堂に急いで確認をとろうとしたその時、タイミングよくむこうから連絡がきた。
【トラブル発生。詳細は本人に要確認のこと。】
そう書かれたメッセージを見て、噂があながち嘘ではないことを覚った俺が、さりげなく情報収集したのは言うまでもない。
その結果、どういう経緯かはよく分からないが、光希が生徒会長とキスをしたということだけはよくわかった。
それからの俺は午後からの授業が全く身に入らないまま放課後を迎え、これまでの最速記録で寮の部屋に戻り、光希を待った。
待つこと優に三十分。部屋に来客を告げるチャイムが鳴り、漸く光希が現れた。
──三年ぶりに会う光希は、実に個性的な格好をしていた。
黒髪のウィッグに大きな黒縁眼鏡。正しい着方の見本のようにきっちりと身に付けられた制服。
光里さんから事前に聞いていたとはいえ、滅多にお目にかかれないほど野暮ったい変装をした光希に、俺は一瞬絶句した。
必要以上に見た目に気を遣うこの学校で、その格好が悪目立ちしてしまったことは想像に難くなく、生徒会に目をつけられてしまったというのもわからなくはない。
それが何故、生徒会長である竜造寺清雅とのキスという事態になったのかは甚だ疑問ではあったが、こんな格好をしていても光希のモテオーラが消せなかった結果なのではないかと思ってしまった俺は、惚れた欲目というフィルターがかかっているのかもしれない。
ところが当事者である光希ときたら、久しぶりに会う俺がわからなかったのだ。
それを聞いた瞬間、俺の心の中に潜む何かがムクリと起き出したのを感じた。
その後は光希の事情を逆手に取って、自分でも信じられないほど欲望に忠実に行動することができた。
さすがに最後まではさせてもらえなかったが、俺に弄られて気持ち良さそうにしている光希も、俺のモノを口で奉仕している光希も最高に色っぽく、竜造寺清雅とキスしたと聞いてからささくれだっていた俺の気持ちは少しだけ落ち着きを取り戻していた。
ところがその後、光希から詳しい経緯を説明された俺は、またしても気持ちを掻き乱されてしまう。
生徒会に目をつけられたのは、悪目立ちする見た目のせいだけではなかったことがわかったからだ。
生徒会役員達は気紛れに暇潰しの生け贄を選ぶことがある。
おそらく光希に白羽の矢が立ったのは、変装していても隠しきれない何かを感じ取ったからだと思われた。
こうなった以上、面倒な事態は避けられない。
生徒会役員達も厄介だが、その親衛隊はもっと厄介だ。
なんと言っても光希本人に危機感がないことが一番厄介で、このままでは親衛隊の制裁対象になってしまう可能性は避けられない。
「なんかあったらすぐに俺を呼べよ」
心配した俺はかなり本気でそう言ったのだが、光希には俺にも親衛隊いるという理由であっさり断られてしまった。
それどころか、この部屋を出たら他人だとまで言い、それに納得できないでいる俺を視線で牽制してきた。
そんなことで怯むよう俺ではないが、
「いざとなったら颯真に一番に言うから、とりあえず俺の言うとおりしてくれよ。頼む」
と言われ、俺は仕方なく納得した振りをした。
「……わかった」
俺の返事を聞いた光希の反応はある意味反則だった。
「サンキュ。その代わり、この部屋にいる時は今までどおりで頼む。素の俺でいられんのは颯真の前でだけだからさ」
そう言うと、笑顔で俺に軽くウィンクして見せたのだ。
その可愛い仕草を見て赤面しそうになった俺は、咄嗟に光希から視線を逸らしてしまった。
光希は極自然にそういうことをするからたちが悪い。
「天然って最強……」
思わずそう呟かずにはいられなかった。
俺の小さな呟きを聞き取れなかった光希は怪訝そうな表情で俺を見ているが、今言った内容を教えるつもりは毛頭ない。
光希は放っておいて欲しいのだろうが、俺としては黙って見ているだけという選択肢はあり得ない。
俺の初恋は光希だし、今もその気持ちは密かに継続中だ。
せっかく近くにいられるのだ。
このチャンスを逃す手はない。
もう二度と他の人間を光希に触れさせない。
それがずっと俺が比較され続けてきた竜造寺清雅なら尚のこと。
──絶対にあいつよりも先に光希の全てを手に入れてみせる。
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