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小話〜カーベニオン夫妻の思うこと〜
しおりを挟む深夜、寝室で本を読んでいたら、夫がやっと戻ってきた。
カーベニオンは魔物が涌く黒の森に近く、しかし森の下に広がった平野は肥沃の大地で作物に富み、広大で、領地経営に毎日夫は忙しい。
その上、愛する息子1人は婚約適齢期、もう1人は少々……うーん、かなり?のやんちゃ振り。
日々レナから報告される悪戯騒ぎで夫のみならず私も百面相の毎日だ。
「今日は如何でした?」
「ああ、執事から聞いたか?テオンが温泉を掘り当てたらしい……」
あらまあ。
「レナはなんて?」
「テオンに土魔法で穴掘りをさせたら思いの外深く掘れた……らしい」
「まあまあ。これから整備したりと大忙しですね」
「……レナが岩を細工して大きな甕を作ったから、いつでも温泉経営が出来るとか言い出して……」
「……そうなの」
止めないけど、後処理は完璧なのよね、あの子ったら。
「こう毎日…というか毎月何かしら事業がはじまると正直忙しくて敵わん…」
「本来なら喜ばしいことなんですけどねぇ、もう少しゆっくりして欲しいというかなんというか」
疲れ果てた夫の背中を撫でて慰める。
確かに新しい料理に新種のゴーレムを作ったり、魔物を狩ったり……可愛い我が子は何をそんなに生き急ぐのか。
「レナは確かに実力のある娘だ。しかし、もう少しテオンの手綱を引いてくれると有難いんだが……」
「そう言いつつ、テオンを褒めてレナにボーナスをあげたり?」
「した……」
「やっぱり」
そういうと、夫は大きな体を縮こませて両手で顔を覆った。
「だってなんなんだあの子らは!天才に天才とかどうやって止めたら良い??エイルにまで、慰めの肩を叩かれたぞ、私は……」
「エイルったら、すっかり大人びて……全く、うちの子たちったら」
「最高過ぎる!」
「本当にね」
泣きまねをやめて抱きつく夫の柔らかな髪を撫でる。
「どうにかお嫁さんに欲しいんだけどねぇ」
レナと出会ったのは、私が王宮へお邪魔した帰りに街道で魔物に襲われたのを助けて貰った時。
小さな身なりにボロボロの服の子が、えげつない手腕で魔物を倒していく様は、黒の森を管理するカーベニオン家でも見たことがない程だった。
その時私は確信した。
幼いテオンがこのまま成長して手がつけられなくなった場合、この子がしっかり止めてくれるのだと。
早速お礼にと連れ帰り、ある程度落ち着いてから侯爵家に留まるよう促した際、契約書を交わすと答えた少女に、私の確信が間違ってなかったと思ったのも、今は良い思い出だ。
「にべなく断られるからな…」
「まあ、まだ恋愛や結婚に意識がいかないのでしょう」
「あの口調。ちゃんと考えて断ってる気もするが?」
「うふふ、テオンには何故かそうだけれどね。けれど何故か近付く女性には厳しいし…」
「親の目線な気もするが、そうだな…最早レナ無しでテオンの世話は骨が折れるだろう」
「その為にはお給金を弾まないとですね?」
「まあ、そこはテオンの事業で賄えるから問題ない」
「面白いですよね、レナに面倒見られつつ、テオンがレナの面倒を見てるようなものですもの」
「本当に不思議な縁だな」
「そうですねぇ」
テオンが生まれて、レナに出会い。
まるで神が導いてくれたような采配に感謝しつつ、もう少しお手柔らかにして欲しいと明日祈ろと決めて、私達はまた非日常の日常を終えるのだった。
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