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坊ちゃんと私

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坊ちゃんのお部屋に入ると、ミリアはお茶の用意をしに行ったのか不在で、坊ちゃんはベッドにごろりと横になっていた。

本来なら侍女の私がするべきだけど、ちょっと要素の違う私と、世話好きのミリアとでいいバランスが取れている。

「父さんは何か言ってた?」

私がベッドの横へ行くと、坊ちゃんは起き上がってその紫の瞳を曇らせて私に様子を伺ってきた。こんなところは子供らしい。

「魔法学園に入学させるとのことです」

「でも学園は10歳からじゃない?」

「坊ちゃん。貴方様が普通の生活を送れるとでも?」

「うっ!」

押し黙ってしまった坊ちゃん。
貴方が普通に年相応に学園に行く日なんて永久に来ません。諦めましょうね?

「レナはいつも動じないよね。全てを受け入れてるというか」

そりゃあ、無双系主人公の侍女ともなると色々と悟るもんです。

「もう慣れましたので」

「レナが慌てるってどんな時だろう…」

うーん、虫が出た時?思わず首を傾げると、坊ちゃんは溜め息をつく。あれ?

「主君の為に動じないよう心がけておりますので」

「絶対主君とか思ってないじゃん??お金の為の方がまだ説得力あるよ?!」

「お金は裏切らないので、全人類の共通認識で良いかと」

「うーん、一貫してる」

「学園には私も通いますので、事件とかなるべく控えめでお願いします」

「人をトラブルメーカーみたいに…」

「そう思われるなら、ご自重下さいませ」

「ぐうの音も出ない……」

ぐぬぬとなる坊ちゃんをいじめるのはこれくらいで。丁度ミリアが戻ってきたし。

ノックがしてからミリアがお茶のセットを持ってきた。

「さあ、お腹が空きましたよね?料理長からシュークリームを頂いたので、坊ちゃん召し上がって下さい」

「みんなも疲れたよね?気にしないでみんなでお茶にしよう」

ベッドから飛び出して、坊ちゃんがミリアからティーセットの乗ったトレーを奪ってテーブルへ促した。
本来なら同じ席へ着くなんて有り得ないけど、緩くて優しい坊ちゃんはこうして度々お茶に誘ってくれる。

これだからここのお仕事はやめられないんだけど、ああ、悩むなぁ……

「何してるのレナ。早く座って」

「ありがとうございます」

とりあえずは目の前のシュークリームの方が大事!坊ちゃんの提案したシュークリーム、カスタードと生クリームのダブルクリームで私好みなの、最高過ぎる。

あー侯爵家最高!益々辞められないけど、ここにいたら絶対巻き込まれるんだよねぇ?どうしよう……
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