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討伐報酬、これ合ってます?

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ゴブリンクイーンの魔石を預けて、ゲオルとユーリヤとお茶をする千秋。
暫くしてギルド長室の扉がノックされ、換金所の職員が戻って来た。手元のトレーには、いつもの麻袋が乗っている。

「ゴブリンクイーン討伐の報酬と、捕まえた商人と冒険者の謝礼金だ」

言いながら、ゲオルが袋を摘まんで千秋の前に雑に置く。

「ゴブリンクイーンの魔石が金貨5枚。探査依頼料銀貨3枚、元商人デーレの謝礼金が銀貨2枚に元冒険者ノオルの謝礼金が銀貨1枚、同じく元冒険者のタオ、ネラド両名の謝礼金が銅貨5枚ずつ、締めて金貨5枚銀貨7枚になります。お確かめ下さい」

「はい?」

「ご納得頂けませんか?」

そう言って、職員は困った様に眉を寄せた。

千秋は驚きで声にならない。ゴブリンクイーン一匹に、前の感覚としては50万円がぽんと出されたのだ。ゴブリンを50匹倒しても届かない額に、思わず魔石を握った時を思い出し、手を握ったり開いたりする。

「あのゴブリンクイーンは闇魔法と土魔法の使い手だった。魔法の強さランクはD、もしくはCだ。防御魔法を見たか? あれはそこらの銅級じゃ歯が立たねぇぞ。それと、ゴブリンクイーンは多産出来るから元々普通より高めの設定だ。気にせず受け取れ」

千秋はじっと袋を見つめる。が、直ぐにゲオルに向かって口を開いた。

「あの、謝礼金って何ですか……?」

「あん? そういや言ってなかったな……犯罪者を突き出したら謝礼が出るんだよ。商人は前から他の町でも難癖付けて依頼料の支払いを渋りやがるし、この前の街道の件でもチアキや冒険者ギルドに責任擦り付けようとしたりで、元から目を付けてたんだよ。今回誘拐未遂と来れば言い逃れ出来ない程悪質だ。財産取り上げの上、暫く炭鉱だろう。誘拐の片棒担いで実行した奴も同じ。後は鞭打ちと保釈金支払いぐらいか?」

刑が重いのかどうか分からないが、チアキは有り難く受け取る事にした。リュックに慌てて押し込む。職員はチアキからサインを貰うと、部屋を後にした。

「チアキ、その物入れはマジックバッグか?」

「はい、そうですけど……」

「金が心配なら銀行に預けるか? マジックバッグつっても、いつも持ち歩けるワケじゃねぇからな」

まさか銀行まであるとはこれもまた転生人の仕業だろうか? 皆かなり仕事熱心である。

「うーん、ちょっと考えます」

「そうか? 商人ギルドに銀行窓口があるから、不安なら口座を作れよ? 誰か案内を付けてやっから」

「はーい」

こっちの銀行も気になるが、千秋は空間魔法があるので特に問題は無い。

「ゲオルさん、話は終わりました?」

「おう」

ずっと黙っていたユーリヤが、すっと千秋の後ろに回った。そして千秋の両肩を掴む。

「ひぇ?!」

「さて、報酬も受け取った事だし、お姉さんはチアキに言いたい事たーくさんあるの。聞いてくれる?」

肩にぐぐぐと力を入れられて、千秋は冷や汗を流す。ユーリヤの冷ややかな雰囲気に、「ひゃい……」と間抜けな返事しか出来なかった。



✴︎



改めて同じソファーへ座り直し、ユーリヤは腕組みして指先で自身の腕をとんとんと叩く。

「んー、ゴブリンクイーンに1人で突っ込むなとか色々あるんだけど……」

「色々ですか……」
 
「一番は、チアキちゃん、貴女……」

「は、はい……」

「魔法を限界までぶっ放すなんて、なんて危ない事するの! 最悪その場で倒れるんだからね?! 死ぬ気?!」

「は……すみません」

「はい」と言いそうになり、千秋は慌てて謝罪の言葉を口にした。

「どれだけ魔力を込めたのか知らないけど、光魔法がこっちまで届いてたからね?! あの森を覆うなんて、相当力を込めたでしょ!」

「えっ?! ええぇぇっ!」

川辺だけかと思いきや、まさかの広域に千秋は慌てる。擬態ステータスには光魔法が無いのだ。案の定、「チアキに光魔法の素質あったか……?」とゲオルが首を傾げている。

(あわわわっ)

「ゲオルさん、例えステータスに現れなくても、多少練習すれば低位で習得する可能性はゼロでは無いの。大抵はモノにならないだけでね? ライトとかは使える人も多いし。もし、この2、3日でチアキちゃんが光魔法を会得したとしてもよ?」

「は、はい……(ほっ、セーフ!)」

「魔力総数が多いとしても、あんなに全力でやる人がありますか!! そりゃゴブリンクイーンが掛けた防御魔法も打ち消すわよ!!」

(あ、あれ私が消したんだ……いや怖いわ。何この力)

「魔力切れは大抵は卒倒するの。もの凄く眠かったでしょ? 倒れてゴブリンクイーンに逆に追い詰められたかも知れないんだよ?」

「でもネッロもいたし……」

「ネッロちゃんがAランクでもSランクでも関係ないの! 自身の管理が出来てこその信頼関係でしょ!!チアキちゃんが倒れたら、ネッロちゃんが心配して戦えないかも知れないんだよ? 倒してもその後は? ネッロちゃんじゃあマナポーションは使えないんだよ?」

「あっ……」

ネッロは圧倒的に強かった。けれど、今回は千秋が倒れなかったからかも知れない。万が一、倒れた時にどうなるのかは千秋にだって分からない。

「ごめんなさい、やり過ぎました」

「うん。私も怒ってごめんね? けど、チアキちゃんとネッロちゃんは相棒でしょう? 思い合って行かないと、ね!」

(思い合って……)

それは千秋の苦手とする事だ。けれど、ネッロなら。ネッロなら助けたり、心配したりするのは苦じゃない。仮にネッロに食べられても殺されても本望だ。でもそれは千秋の一方通行な思いだと思っていた。
だが実際はどうだろう。ネッロは何度も千秋を助けてくれたではないか。そんなネッロを、千秋は孤独にさせる所だった。

「はい。もっとちゃんと自分の事を考えます」

「うんうん、私だってゲオルさんだって心配するんだからね! パウロくんも心配してたよ?」

「パウロさん……」

「今回は逃した俺らが全面的に悪かったからな、あんまり言えねえが……チアキ、独りよがりは冒険者としては半人前だな。まあ、本当に新人で半人前だけどよ。これからしっかりと学んで行け」

「はい」

「まったー、そう言って魔力切れで眠ってるチアキちゃんを一番心配してたのゲオルさんでしょ」

「心配ぐらいするわ、期待の新人だぞ」

「素直じゃないなー、これだからおっさんは」

「ユーリヤ、お前歳はあんまり俺と」

「ん? 聞こえなーい」

「……ふふっ」

和ませてくれようとするユーリヤとゲオルに、千秋は何だか温かなものを感じて、自然と笑みが溢れた。

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