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キングとクイーン

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ゴブリンクイーンと相対した千秋は、深い眠りから目が覚めた。

目を開ければ、視界には落ち着く漆黒が広がる。ネッロがまたベッドを占領しているのだ。艶々とした毛をゆっくり撫でる。

(本当によく寝たぁ)

それにしてもいつ宿の部屋へ来たのか分からない。わざわざゲオルが送ってくれたのかと思うと、その光景を思い浮かべて笑いが込み上げる。こう言っちゃなんだが、強面なので似合わないのだ。

「ナアウ」

「おはようネッロ。お腹空いたね、ご飯食べに行こうよ」  

千秋は身支度すると、リュックを背負って部屋を出た。
宿を出ようとすると、女将から伝言を受け取った。何やらゲオルが話があるからギルド長室へ来いと。了承の返事をして、千秋はギルドのギルド長室……ではなく、食事処へ真っ先に向かった。宿の食事は基本的に前の日から頼んでおかないといけないので、突然注文が出来ない。食事処でハムチーズトーストとサラダのセットを頼み、ネッロには今日だけ特別にステーキを10枚と生肉を頼んだ。



✴︎



お腹一杯で満足してギルド長室へ伺うと、ゲオルがやや怒り気味に出迎えた。

「呼び出しに呑気に飯食ってから来るとは良い度胸してるじゃねえか」  

「だってあんなに疲れたのに昨日の夜ご飯を食べてないんですもん。我慢出来ないですよ」 

「チアキちゃん、ゲオルさんはご飯を一緒に食べれなかったから拗ねてるだけだよ。気にしないで」

元より気にしてない千秋だったが、ユーリヤの言葉に目を丸くする。

「え? 」

「ユーリヤの冗談だ、本気にすんじゃねぇ」

「ですよね」

「ゲオルさん……可哀想な人ね」

ユーリヤが哀れみの目でゲオルを見る。一方ゲオルは眉間の皺を深くした。

「はー、もう良い。チアキ、ゴブリンクイーンの魔石を持ってるな? 見せてみろ」

言われてチアキはリュックから魔石を取り出して、ことりとテーブルの上に置いた。

「……マジでゴブリンクイーン倒しやがった」

「倒したのはネッロですよ、美味しい所を持ってかれました。でも、すっごいカッコ良かったです! こう、一撃必殺!! って感じで」

「そうか。まあ、どっちが倒したのかは関係ねぇ。どっちにしてもこれはチアキのもんだからな。換金しとくか? 」

「お願いします! 」

食い気味にお願いすると、ゲオルが魔石を職員へ渡した。職員は頭を下げて部屋を後にする。

「後は、経緯を知りたい。こっちもゴブリンクイーンが何故移動したか説明する」

それから、千秋はユーリヤが用意したお茶とお菓子を堪能しながら、説明を聞いた。
見張りのゴブリンを討伐しながら巣へ辿り着いた討伐隊は、こっそりと巣穴を調べた。
巣は巨木から地下に掘られた空洞に作られており、規模は侵入しないと分からない。周囲の抜け道がないか調べた後、取り敢えず痺れ薬を藁と混ぜて燃やし、その煙を穴に行き渡る様に風魔法で送り込んだ。 

そうして、暫くすると中で倒れたゴブリンと、耐性が強くて飛び出して来るゴブリンとが出て来る。飛び出したのはゴブリンナイトとゴブリンクイーン。そして幼体80匹だった。どうやら幼体は防御魔法で無事だったらしい。しかし一箇所だけならまだしも、数が多い幼体全部に強い魔法はかけられない。幼体を次々討伐し、ゴブリンナイトを囲って留めを刺して、次はいざゴブリンクイーンとなったら、土の中からゴブリンキングが手下と共に出て来た。

その時点で中々混戦状態だったのに、弱っているとはいえ怪力のゴブリンキングだ。連携を取ってゴブリンクイーンを囲むとなった所を邪魔された上に、手下をゴブリンクイーンに差し出してゴブリンキングはなんと盾になったのだそうだ。

その後ゴブリンクイーンを追う班とゴブリンキングを討伐する班に分かれたのだが、ゴブリンクイーンの幻影魔法で探索があやふやになり、手分けして探す事になった。そうして、ゴブリンクイーンは千秋の元へやって来たのである。

「そうなんですか……なんか、ゴブリンキング凄いですね。女性を体張って守るとか……」

「一体何処に目を付けてんだ? 」

「いや、これ人間に例えたら演劇一本出来ませんか? 」

「……そうか? 」

「ゴブリンて所で感情移入し辛いかもね? 」

「えー、まあ、そうですよね」

千秋も自分で何でそんな事を言ったのか首を傾げる。多分、まだ異世界の感覚が馴染んでないのだろう。大した被害を受けていないので、敵味方の判別が曖昧なのかも知れないと、1人納得する。襲われている時点でかなり被害を受けているのだが、千秋は相変わらずだった。

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