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買い物に行ってみよう

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千秋がネッロと共に訪れた町はデロイというらしい。大陸の中では中規模である国イムルズの南寄りに位置し、町としてはそれなりの規模だ。ネッロの居た森は更に南側の国境付近ではないかと推測された。

朝食をゲオルに奢って貰い、朝から得したとご機嫌だった千秋は、世間話として国や町の事、魔物の生態を聞いたのだが、魔物に関しては『不思議生物』としか理解出来なかった。

魔物はとても古い生物で、そもそも他の生物とは別の神から生まれている為、死んでしまうと魔石以外はその神の元へ還ってしまうと考えられているらしい。
別の神とはこの世界の原初の神で、今代の愛と生命の神デリアによって封印された存在。なので原初の神によって生まれた存在はこの世界では肉体の存在も制限されていて、死ぬとこの世界を満たす魔力の集合体とも呼べる魔石や、魔力が宿った体の部位以外は消えてしまう……との言い伝えが信じられている。人や他の生命を襲うのも、デリアからもたらされた生命を減らし、原初の神の力を取り戻す為だとも言われているらしい。

結局どうして消えるか分からないから、理由をそれらしく付けたのではないかと千秋は踏んでいるのだが、生きている内に解明される日が来るとは思えなかったし、不思議は不思議でいてくれて良いとも思うのだ。

中々面白い話が聞けて、千秋は大満足に食事を終えた。が、ゲオルがまた片手で抱っこしてくれるので、人が増えて来たギルド内ではちょっとだけ恥ずかしかった。



✴︎



「パウロさん、今日も宜しくお願いします」

「いや、此方こそなんだが……俺で大丈夫か? 女性に頼んだ方が良くないか? 」

「ネッロは置いて行くとは言ったんですが、やはり皆さん怯えてしまうので……」

「……そうか。いや俺が案内出来て嬉しいよ。何処から行こうか? 」

「えっとですねー」

ゲオルとの話が終わり、時間が出来た千秋はパウロと共に買い物に出掛ける事にした。ゲオルが女性職員や冒険者を供に付けようとしてくれたのだが、皆良い顔はしてくれず。ネッロを宿に置いて行くと言っても、微妙な空気は変わらなかったので、面倒だし1人で散策しようかと思っていたのだが、護衛依頼を受けた商人が捕まった事で調書を受けにやって来たパウロに白羽の矢が立ったのだった。

石造りの町をパウロに手を引かれて散策する。幼児ではないので恥ずかしかったのだが、ネッロがいないし今朝方の事件が事件だっのもあり、彼が一歩も引かないので渋々了承した。魔獣用の道具も扱う魔道具屋があると聞き、千秋は真っ先にそこへ向かった。

「……た、高い……」

魔道具屋で千秋が驚愕したのは何よりその値段だった。姿形を変えられる魔道具があるとゲオルに聞き、それがかなり高いとは聞いてはいたのだが……変身の首輪はその従魔に合わせなければいけないらしく、完全オーダーメイドでネッロに作るとすれば、白金貨3枚。一体どれだけの魔物を狩れば良いのか検討もつかない。

千秋の擬態のスキルが上がればもしかしたらネッロを変身させてあげられるかも知れないが、それもいつになるかは分からないし、保証もない。ネッロがレベルを上げてクラスチェンジすれば未知なる力に目覚めて変身出来るかも知れないが、それも以下略。

やはり従魔だと示す首輪を買うしかないらしい。

「うーん、こっちも良いけど……これも可愛い」

「熱心だな」

「だって、ネッロのあの美しい黒には何でも似合うんですもん。赤も良いけど、敢えての白も可愛いし……瞳と合わせた金もゴージャスで捨てがたい……」

散々悩んだ千秋だったが、パウロの「獲物を狙う時に目立つ色だと不味いんじゃないか? 」という的確なアドバイスにより、首輪は鮮やかなコバルトブルーにした。これなら明るい所では目立ちつつ、暗がりなら目立ち難い。ついでにネッロの手綱と鞍も買う事した。クアール用など勿論無いので、何と店主自ら夕飯前に宿に来てサイズを測って調節もしてくれるらしい。クアールを見れる一生に一度あるかないかの機会なので是非、と言われたら断る筈がない。

「パウロさんと来て良かったです! 危なく白とか買っちゃう所でした! 」

オフホワイトに縁が銀糸で刺繍されていた首輪が気になっていたのだが、ネッロの良い所は、音を立てずに身を潜めて敵に近付いて狩る技術なのに、目立つ色なんて与えたら全てを台無しにしてしまう所だ。

「次は着替えと、後は調理道具と……」

「調理道具? 部屋でも借りるのか? 」

「それも良いんですけどねぇ~、野宿する時に必要ですし、ネッロにご飯を作りたいので必要なんです」

「野宿か……それを聞くと心配になるな」

「私も一端の冒険者なので、何でもしますよ。それに、ネッロは大食漢なので、毎回の食事に銀貨を使う訳にはいかないですし……」

「まあ、食費は大変そうだが……生肉でも良いんじゃないか? そうすれば、大分安いだろう」

朝食の出来事を思い出して、千秋は曖昧に頷いた。ゲオルが生肉で良いんじゃないかと厨房に指示して生肉を用意したのだが、ネッロは何となくだが不服そうだったのだ。もしかしたら、生肉は狩りたてのものばかり食べていて、鮮度に拘りがあるのかも知らない。

それか、

(チュルリで舌が肥えちゃったかなぁ……)

一番の懸念はこれに尽きたのだった。

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