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自分だけじゃないんですね

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何やらテンセイビトかどうかを問う強面ギルド長。しかし、千秋は何の事なのかさっぱり分からないし、設定が記憶喪失なので反応はきょとんとする他ない。

「……そうか、記憶が無いんだったな。テンセイビトっつーのは、この世界とは違う記憶を持って生まれた者の事だ」

「はあ……」

曖昧に相槌を打つものの、千秋には合点がいった。テンセイビトとは『転生人』。自分は転移したから異世界人とでもなるのだろうか。それにしても、テンセイビトと名が上がるなら、それなりに人数がいそうだ。

「そのテンセイビトとは、何か特徴があるのですか? 種族名じゃないですよね? 」

とにかく千秋はこの世界での情報が少な過ぎる。近々おさらばするやも知れない人生ではあるが、ゴブリンが相手では死ねない事も分かった今、適切な死に場所が決まらない以上この世界の常識を聞いておくのは大切だ。

「いや、人族だ。だが、テンセイビトっつーのはべらぼうに知識や力があって、昔から歴史に名が挙がる確率が多い。もしテンセイビトを保護なりした場合は、国に申請しないとならねぇからな」

「へえ、凄いんですね。テンセイビトというのは」

どうやら転生人もチートらしい。しかし、千秋は転移で転生ではない。ならば、何故容姿が変わり、魔法が使えるのか。

(……神様に会ったりもしてない筈だし)

転移でやり直しの人生を与えられたのなら(余計なお世話なのだが)、与えた者に会うなりしないのかと千秋は考えたが、そもそも今の事態が有り得ない力で操作されているのだから、考えても無駄だと結論付けた。

「まあな、大陸の西側にはテンセイビトの勇者もいるらしいからな。そんな事より、冒険者ギルドの登録で良いんだな? そのクアールは……従魔っつー事で」

(異世界転生で勇者……大変そう)

千秋は国や世界に興味は無い。魔王が居るのか知らないが、大役を任されているその勇者とやらに慰労の念を送っておいた。
彼女が念を送っている内に、対面しているテーブルには水晶が置かれた。どうやらこれで冒険者登録をするらしい。

「これに触れると魔力を吸われる。それで経歴を調べられる」

「へえ、便利な物もあるんですねぇ……」

千秋は躊躇もせずに水晶を鷲掴みにする。すると、水晶にステータスが映し出された。

チアキ  人族 9歳

レベル17

体力655
魔力940
力6
知力12
俊敏5
技術力25(水魔法D 光魔法D)
幸運3

スキル 危機回避D 物理防御D 魔法防御E

加護 猫(科)の盟友×8

「……犯罪歴は無い様だな。加護のお陰でクアールと契約したのか……? 8というのが気になるが……まあ良い。幸運値は低いが、スキルに恵まれたな。後はこっちのコインに血を垂らしてくれ」

手渡された小型のナイフで指先を刺す。そう言えば、死ぬ時は痛くなくて快適だったのにと千秋は明後日な方向へ思いを巡らせていた。ちくりと痛みが走り、千秋の血が滴となってコインへと落ちると、コインから様々な紋様が浮かび上がった。やがてそれらは輝きと共にコインを包み込み、コインは最初の赤黒い色から青色へと変化した。

「おお……」

不本意ながら異世界へ来て早2日。何の抵抗もなく魔法を使っていた千秋だったが、改めて摩訶不思議な魔法の発動を目の当たりにして、素直に驚嘆した。

「嬢ちゃんは10歳未満だし、本来なら見習いの石級から始めて貰うんだが……クアールを連れて見習いは無理があるだろう。青銅の階級をやるから、それはなるべく肌身離さずに持っておけよ」

「……あの、いきなり階級を渡して大丈夫ですか? 何か試験とか……」

青銅がどの位置かは知らないが、こういうものは力を示しすのが王道だろうと、千秋はギルド長を伺った。

「クアールじゃなく1人でゴブリン30匹以上を無傷で倒せるなら、銅級でも良い所だ。が、全くの素人を銅級以上にするのも難しいしな。これ以上は自力で上がってくれや」

「はあ……」

いまいち選定基準が分からなかったが、千秋は頷いておいた。これが無ければ他の村や町へ入るのも難しいとなれば、受け取らない他ない。

「さて、町長さんよ。経歴には怪しい所は無かったぜ。クアールには後で首輪か何かして貰うとして……他に何か気にかかる事はあるか? 」

今まで黙っていた小柄な細身の男性。髭を蓄えているが、困り眉のせいか威厳は感じられない。

「そうだなぁ、後は町としてはゴブリン調査して貰いたいな。また街道に30匹とか困るし」

「じゃあそれは共同依頼として……ああ、また決まったら呼ぶから、換金所へ行って金貰って来い。誰か付けるか……パウロで良いか。さっきの奴に面倒見て貰え」

「はーい」

千秋は椅子から降りると、扉へ向かい、硬いドアノブを何とか回して部屋を後にした。



✴︎



冒険者としては余りに小さな少女を見送って、ギルド長であるゲオルは溜め息を吐いた。チアキという不思議な響きの名前の少女は、犯罪歴は無いが、歳とスペックが割に合わず不審だ。ならばテンセイビトかと思えば、人族以外に敬称は付いていなかった。

「一体どういった環境で育てば、あんな力が付くんだ? 」

どっかりと座り直したゲオルに、町長であるラトスは困った様に額に手を当てた。

「それこそ、死ぬ程鍛えればああなるのかもねぇ。私はごめん被りたいけど」

千秋のステータスはレベルこそ一般の成人女性よりも強い程度で(年齢を考えれば異常ではあるが)、冒険者としては遜色ない。しかし、体力値と魔力値。そして技術力が魔法レベルに対して高い様に思える。

「……捨てられたというよりは、逃げたんだろうな」

「困ったねぇ、幼い少女に非道を行うそいつらが追いかけて来なければ良いけど」

「……記憶も無いとくれば、誰彼に拐かされてもおかしくないしな」

「……私が拾っちゃおうか? 」

「クアール見て嫁さんぶっ倒れるんじゃねぇか? 」

「あー……それは……説得長引きそう……」


明らかに面倒事を引き受けようとしているラトスに、ゲオルはにやりと笑った。相も変わらずそれは凶悪顔であったが、纏う雰囲気は柔らかいものだった。

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