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死に場所見っけ!

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町まで後少しなのか、整備された街道にネッロと千秋は辿り着いた。いくらハイスペックな体になったとしても、慣れない乗馬……ならぬ乗豹と魔法の使用で、途中ネッロが桃に似た果物を教えてくれて食べたのだとしても、疲労困憊である。

ネッロから降りてゆっくりと歩いていると、何やら大きな怒鳴り声が聞こえる。様子を伺えば、どうやらあの緑色のあいつらが馬車を囲んでいた。馬車なんてテーマパークでしか見た事がない千秋は、内心文化の違いに感動しつつネッロを見上げるが、ネッロといえば鼻をひくひくするだけで駆け付けるつもりは無い様だ。

(ネッロにご飯を作りたい所だけど……)

家猫と違って、ネッロは元々野生であるし、森の主だ。自分がご飯をあげなくても自力で生きて行ける。ならば困っている人を助けて死んでみるのも一興かも知れない。千秋はネッロに嫌ならば森へ帰るよう伝えると、馬車へと駆け出した。

(ええっとどうしたら? 瓶で殴るのは良いとして……被害が少ない魔法ってなんだ?)

土……では街道がぼこぼこになってしまうし、火は論外。風で切ってしまったら危ないし、残りは水だろうか? (水……水……と)ぶつぶつと呟いていた千秋だったが、人差し指を緑色野郎に向けると、狙い撃つかの様に力を込めた。

「ウォーターガン……わ、思ったよりかなり恥ずかしい! ええっと、無心で無詠唱!! 」

そそっかしい見た目に反して、人差し指からは水の弾が出現し、高速移動で次々と奴等に穴を開けて行く。

護衛なのだろうか奴等と相対していた男性は、次々と倒れる敵に困惑したようだった。

「ん? いなくなったかな? 」

無心で撃っていたら、どうやら全滅させたらしい。 死ぬ機会ではなかったようで、千秋は何とも複雑な面持ちで立ち尽くす男性に近付いた。

「大丈夫でしたか? 」

「あ、ああ……助かったよ……その、強いんだな、お嬢ちゃん……」

(お嬢ちゃん? )

お嬢ちゃんと言われるにはかなり無理がある。千秋は50に片足突っ込んだ43歳。いくらお世辞にしてもやり過ぎだ。

「お嬢ちゃんなんて……。あの、怪我をしてませんか? ここには貴方だけ? 」

「ああ、相方は雇い主を連れて町へ知らせに行って……怪我は擦り傷だ、問題ない」

「擦り傷でも傷から菌が入ったら最悪死にますよ。こいつら臭いし……って、あら? 」

気付けば死体は消え去り、あの石や牙や爪っぽいものだけ残っている。

(へえ、便利~! でも肉とか取りたい時はどうするんだろう? )

などと思いながら、千秋は男性の傷口を見せて貰う。爪痕がくっきりと残り、既に菌が入ったのか赤黒く腫れている。

(うわ、痛そう……元の正常な状態へ戻れ戻れ~)

「!! 」

男性の怪我はすっかりと治ったようで、千秋は一息吐く。そう言えば、自分には回復をかけていたが、他人には初めてだった。上手くいって何よりだ。

「お嬢ちゃん……今のは回復魔法か?! 」

「え、多分……? 」

「……あんまりほいほいと使わない方が良い。教会ならまだしも、貴族に拐われたら大変だ」

「ほほう、貴族……あるあるですね」

「え? 」

「いや、何でもないです。それに、大丈夫ですよ! 誰かから搾取されるくらいなら、舌噛んで死にますから」

自分の求める労働でないなら、逃げて逃げて駄目なら死ねば良いのだ。千秋の思考は常にそれに締められている。だから、その屈託の無い笑顔に、男性が若干後退っているのも気付かない。

「いやいや、隷属の首輪なんかされたら、自殺も出来ないぞ?! それに、簡単に死ぬなんて言っちゃ駄目だ」

(成る程そうなんだ、良い事聞いた)

「あはは、言葉の綾ですって。大丈夫、貴方が内緒にしてくれてれば良いんですから」

「ひっ……」

「あれ? 」

可愛く笑った筈が怯えられて、千秋はきょとんとしてしまう。すると、背中にもっふりした感触を受けて、千秋は後ろへ振り向きがばりとそのもふもふへ抱き付いた。

「ネッロ~! ごめんね、私あなたにご飯作れるみたいっ」

「ンナウ」

「ごめんてー! でも私が死ねば、チュルリはネッロのものだよ? 」

「グルルルッ」

(もっと沢山作れ)と聞こえた気がして、千秋は苦笑いした。

「……お嬢ちゃん、そいつから離れなさい」


背後から低い声で言われ、ゆっくりと振り向き様子を伺えば……男性が此方に剣を向けていた。



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