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ご飯を食べに出掛けよう(異世界転移あるあるが私にも待ってました)

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朝になり、千秋は困っていた。お腹が空いて仕方ないのだ。

(登山道具、売るんじゃ無かった……)

愛用していた登山道具にはナイフにガスに雨具も入っていて、サバイバルには持ってこいだったのだ。しかし、飼っていたチーの体調が悪くなり、対処も無理だと決まった時、そのまま自分も死ぬと決めて早々に売ってしまった。というか、自殺に行くのにアウトドア完全装備の人はそういないと思う。

(お腹空いた……)

植物に詳しい訳ではないので、木の身程度なら判別がつくかと思ったのだが、生憎木が大き過ぎて届かないし、見渡しても落ちているものもない。

(こうなったらチュルリを食べるしか……)

ここまで来たらチーの弔いの為のおやつを食べるしかない。チュルリは猫の為の自然派食品だ。生臭くても食べる分には大丈夫だろう。袋に入ったチュルリの小分けを開くと、音も無くネッロが目の前に降ってきた。いや、正確には降りて来たのだが、何せ跳躍が凄過ぎる。空から降ってきた様にしか見えない。

「…………」

「ネッロ、欲しいの? 」

「グルゥ……」

(可愛いっ!)

「ちょっとしかないから、一袋だけね? ねえネッロ、これ食べたらご飯探しに行かない? 私お腹空いちゃった」

千秋が話している間も、ネッロはベロベロと一心不乱にチュルリを舐めている。ネッロの舌ならひと舐めなのだが、空の袋を執拗に舐めていた。

「これは何処でも共通で美味しいんだねぇ?材料が有れば似たようなのは作れると思うんだけど……えっと何々、肉と? 野菜と出汁? 」

「!! 」

千秋が呟くと、ネッロは顔を上げた。

「期待してる所申し訳ないんだけど、鍋とか道具が無いと難しいよ~? でも、私町とか場所分かんないし。こっちのお金も無いし」

ネッロはじっとビニール袋を見つめた。

「あ、あれ? 売って良いの? ちょっと待っててね」

慌てて水場へ行き手を洗う。髪もポーチに入っていた櫛で何とか整えて、大量の石が詰まったビニール袋をリュックへ詰めた。

「途中、食べられる木の実が有れば欲しいなぁ。あ、近くの村じゃなくて大きな町にしてね? 分かるかな? 」

(きっとあの子達って閉鎖的な村から出された生贄だと思うんだよねぇ……。ネッロ連れて行ったらどうなるか……)

大人しく待っているネッロを見上げると、分かったのか分かってないのか千秋に背を向けた。

「さ、行こうか」

「ギャウ」

「ん? どうしたの? 」

「ギャウ」

ネッロがちらちらと自身の背中を気にしている。

「まさか、乗って良いの?! 」

「ギャウ」

「マジかよ死ねる……」

「…………」

感動に悶える千秋を、ネッロはジト目で見つめていたが、余りにも長い為かその内、早くしろと言わんばかりに前脚で千秋を潰すのだった。






✴︎






縄を大きく八の字にして前脚に通し、簡易的な手綱を作ったものの、千秋は後悔していた。

「お尻……お尻が割れちゃう……」

馬も乗った事のない千秋である。猫科の走り方がそもそも激しいし、何より障害物があると軽々跳躍するネッロの背中は、お世辞にも乗り心地が良いとは言えない。捕まっているのもやっとの有り様なのに、これでは木の実を食べても体力が持たない。

「ステータスに魔法の欄があったよね……。お尻を正常な状態を思い出して……回復! っなーんて……」

その途端、千秋の臀部はじんわりと暖かくなり……

「嘘でしょ、痛くない……」


どうやら随分とハイスペックな身になったらしい。



その後千秋は、(身体強化~! 筋肉~! もりもり~! )と念じながらネッロの背中にしがみ付き、町まで急ぐのだった。


……そうして、途中にあの緑色野郎に囲まれる馬車を見かけて、(異世界転移の醍醐味だわぁ……)としみじみするのは、もう少し先である。



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