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アデリーネの場合 1
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「初めまして、ダリウス殿下。私、ハーフル公爵家が長女、アデリーネ・エト・ハーフルと申します」
そう言って私は金髪碧眼のキラキラエフェクトを背負った王子様に頭を下げた。はぁ、これはあれだわ、十歳なのにかなりモテるでしょうね。なんか後ろに花、背負ってるんだもん。
……ところでエフェクトって何だったかしら?
かしら……? 何かこの言葉使いに違和感が……? 私、わたしは……
「顔を上げて、アデリーネ嬢。丁寧な挨拶ありがとう。私はダリウス・ミレネー・アダートラン。この国の第一王子だ。楽にしてくれて構わないよ」
そう言われて、私……は、顔を上げてダリウス王子の顔を真正面から見つめた。ああ、ちきしょう。こんな顔だったらハーレムとか余裕なんだろうなー。てか王子って、生まれも容姿も完璧なんだから、そりゃモテない筈ないもんなぁ。
……何、この感想? 待って、何かがおかしい。
「あらあら、二人共見つめ合っちゃって。そんなに気に入ったのかしら? 」
そう言ってくすくすと扇子の裏で笑うのはダリウス王子の母親のミーシェル王妃。私…は今、王妃主催のお茶会という名のダリウス王子の為のお見合いパーティに招集され、こうして目出度くイケメン王子に挨拶したのだけど……どうにもおかしい。
まず自分の名前に違和感がある。名乗ってからどうにも落ち着かない。そう思いだしたら、このドレスもフリフリ過ぎで邪魔臭い!しかもイケメンって何だ、ん? イケメン……?
「そんなに気に入ったのなら、二人でお庭でも散歩してみる? 」
あまりにお互いが話さないものだから、王妃様が水を向けて来たけれど、今のわたしはそれどころじゃない。
「そんな……まだ沢山の方がご挨拶を今か今かと待たれていますもの。私は今日御目文字出来た事だけでも光栄です。どうぞ、お気になさらず。では、王妃殿下、王子殿下、私はこれで失礼致します。お会い出来た事、誠に嬉しく存じます」
そう言って、なんとか取り繕って礼をしたわたしは、足早に挨拶の列から抜け出した。
勝手に帰る訳には行かないから、適当にお菓子を皿に盛って庭園の目隠しになっている生垣の裏へするりと移動する。大人達はあの挨拶の場の近くで談笑していたし、公爵家である自分が早めに挨拶を済ませたのもあり、庭園の隅には誰も居なかった。
やっべぇ。危なく変な話し方するところだった。
プチシュークリームを口に運んで、俺はぼんやりと視線を目の前の咲き誇る薔薇に向けた。ああーシュークリーム美味しい。こっちの世界で味が向こうと同格なのはなんと幸運な事だろう。
…………てか、何で今思い出すかな?!
そう。俺は前世の記憶らしきものを思い出したのだ。けど、こういうのって生まれた途端に大人の意識があるとか、転んで頭を打ち付けて記憶を思い出すとか色々あるじゃん?? 攻略対象見つけて思い出すとかさぁ! 何で知らない相手に挨拶した瞬間に前世思い出したりとかすんの? 王族相手にポカさせる気なの? いくら子供だからって、親の前で下手打てないからね?!
……ふぅ、一頻り文句を思い浮かべたら落ち着いた。
そうだよ、何転生しちゃってんだよ、俺!
いや、転生は良い。家は金持ちだし、生活水準なんて前の世界と同等かそれ以上だし? その分内政チートやらマヨネーズチートは出来ないだろうけど、いや俺の頭じゃ無理だけど。生活安定してるのは有り難い。
でも、何で美少女転生なの?? そこは美少年とかに転生して普通にハーレムとか一匹狼気取って実はモテモテとか、不遇な悪役令嬢の婚約者を助けていちゃラブとかあるじゃん?! はぁ?? 訳わかんないんですけどぉ??
しかも何? ゲームか知らないけど、もしゲームの世界なら絶対乙女ゲームだよね?? 俺、第一王子の婚約者になる悪役令嬢ポジだよね?? 乙女ゲームはやった事ないけど、なろうで小説は読んだよ? 散々読んだよ! 特に悪役令嬢助けてラブラブする奴!! 大好物だよ、くそう!!
けれど現実はどうだ、これ。実際には俺が悪役令嬢ってか? そんで? ざまぁされんの? それとも誰か助けてくれんのか?
…………。
いやだあぁぁ!!
転生するならハーレム作れるぐらいのイケメンとかチートで人類最強とかになりたかったのにぃ!! 美少女とかぁ!! 公爵令嬢はかれこれ十年やって来たから別に出来るけどぉ! 美少年になりたいよおぉぉ!!
俺は手元に生えている草をぶちぶちと引き千切った。顔は苦渋に満ちている事だろう。
ああ、あの王子が羨まし過ぎる。ちょっとなよってるが、あれはまごう事なき美少年だ。間違いなく攻略対象だ。このまま行けば悪役令嬢でもヒロインでもどちらからも好かれる運命が待っている。
あ、俺が悪役令嬢だから俺からの愛はあげられないね、ってどうでも良いんだよ。
「憎い……美少年が憎いっ! 」
「何が憎いの? 大丈夫? 」
草を引き千切る動作に夢中になっていて、俺は背後に人がいるのに全く気付かなかった。慌てて後ろを振り向くと、そこには先程挨拶したダリウス王子が生垣からひょっこりと顔を出していた。あざとい! くっそ可愛いな?! これだから美少年って奴はよぅ! 己の魅せ方知ってるってか?
「ほほほ、憎いだなんてそんな事、言ってませんわ」
「そう? おかしいなぁ。聞き間違えたかな」
ダリウス王子はそう言いながら、俺の隣に座ってしまった。……ええっと、何か用?
「……殿下は何故此方へ? 挨拶はお済みになりましたの? 」
「挨拶は滞りなく終わったよ。その後ご令嬢方に囲まれてしまったから、ちょっと休みたくて人目が付かない隅へ逃げて来たんだ。そうしたら、君が居た」
自慢? 今さらっとモテ自慢した? ああん?! しかし俺も前世では二十歳を過ぎた大人の男。子供の自慢話ぐらいさらりと受け止めてやらぁ。
「 まあ、流石におモテになりますのね。けれど、せっかくの交流の場を辞しては令嬢方は悲しんでしまいますでしょう? 程々にしてお戻り頂かねば」
「……君こそ、戻らなくて良いの? 話したそうにしていた令息も居たように見えたけど」
「まぁ、そんなまさか」
マジかよ。流石美少女だな、俺。言い寄られるのは面倒だけど、友達は作るべきか?
「君みたいに美しいご令嬢のお眼鏡に叶う子が居ると良いけどね」
強気? 自分より良い男は居ないとかそういう奴? これが王子って奴なの? 知らんけど。てかさらりと美しいとか言った? これが攻略対象者の実力か!
「うふふ、見た目だけでは真のイケメンとは呼べませんものね。中身も素敵な方なら嬉しいですけれど」
「そうかな? とりあえず見た目がイケメンであれば多少の事には目を瞑れるんじゃない? よく言うでしょ、」
「「只し、イケメンに限る」」
「って言葉もあったぐらいだし……え? 」
王子はその大きな瞳を更に大きく見開いた。溢れる、落ちそう! が、それどころじゃない。イケメンはこの世界の言葉じゃない。
「………殿下、壁ドンってご存知? 」
「………アデリーネ嬢こそ、顎クイって知ってる? 」
「………俺、東京に住んでたんだけど、そっちは? 」
「えっ? 私は北海道……って、え?! 俺?? 」
「そう、俺、元男」
「うっぁぁぁやめてぇぇ、そんな美少女捕まえて中身おっさんとか一番救えないからぁぁぁっ」
「誰がおっさんだコラ。前途ある若者だったわ」
「ひ、酷いよぅぅっ!! お人形みたいに可愛い子だと思ってたのにぃぃ!! 返せ! 私のときめきを返せ!! 」
「ああん? どっからどう見ても完璧可愛い美少女じゃん? 何を泣く程……」
「いや、中身無理だから。有り得ないから。自重して。演技必須。地を出すな」
ダリウス王子が睨んで来る。滲んだ涙もまぁ可愛いらしい事で。全然怖くないからね。
「そんな事言われても、さっき思い出してこっちも混乱気味なんだよ。令嬢として生きて来たのと、前世が鬩ぎ合ってる。とりあえず帰りたい」
「ええ?! 帰っちゃうの?? せっかくの転生仲間見つけたのに! もう少し話したい! 」
「えぇ……ダリウス……王子ってば、挨拶の時と全然違うんだけど?! それが素? 」
ダリウス王子はぷくっと頬を膨らませて拗ねている。何これ? 本当は女の子なの? あざと過ぎない? あ、変な扉開きそうだからやめて? いや、俺今は女だけど!
「そりゃ、王子だからイメージ戦略ぐらいするよー。本当は刺繍とか料理とかしたいの我慢してるんだよ? まあ、こっちも料理美味しいから自分で作らなくても良いんだけどね」
「んだよ、乙メンかよ」
「乙メン差別良くない。料理出来る男はモテるんだよ? 前世では」
「今世だったら王子ってだけで何もしなくてもモテモテじゃん。くそ羨ましいっ! 」
「いやぁ、私前世女子高生だったから……まぁ思い出すまでは一応男の子として育って来たから熟せるけど、モテモテは心中複雑で……」
「マジか……リアル男の娘かよ」
「誰が男の娘か」
本当、マジか。だからちょっとなよって見えるのか? まあ、それが中性的でもある……って違う違う!! 何だ、お互いに性別あべこべで生まれたって言うのか……神様も上手い事してくれてたら良かったのに……。ん? これ、チャンスなんじゃね?
「ねぇ、殿下。私お願いがありますの」
「え、何怖いんだけど」
この世界は魔法もあるし精霊も居るらしいし、ドラゴンだって実在する。何でもありなんだから、宿った魂も取り替える方法があるんじゃないか?? 俺の笑顔に怯えるダリウス王子の手を両手でしっかりと掴む。こんなお互いの事情知ってて、器は超美少年の優良物件逃してなるものか!
「おい、その美少年の体、俺に寄越せよ」
「ひえ、カツアゲだぁ……」
「良い案じゃんか、魂交換してお互い求める器に収まれば全部解決! 俺は美少年としてモテモテ、お前も美少女としてモテモテ。良い事尽くめでハッピーエンド、大団円だろ? 」
「でもそんな魔法聞いた事無いし、家族が逆になるんだよ? 難しくない? 」
「それはお互いとことん話し合って、記憶を共有するしかないな。まあ、十年分ぐらいどうにかなるだろ」
「えぇ……私王子教育始まってるんだよ? もし魂交換が出来たとして……アデリーネ、突然王子になってやって行ける? 無理じゃない? 」
ふむ。確かに、貴族教育とは別になるのか? そもそも男女でも教育の差があるだろうし……急いでも今日明日で魂の入れ替わりなんて出来ないだろうし、これは長期戦を考えた方が良いか……? 後、気になってる事は……
「あ、そうだ。後聞いておきたい事が……」
俺の話を遮る様に、何やら生垣の方からがさがさと音がする。俺とダリウス王子は手を握り合ってその音から遠ざかる様にじりじりと後退した。何だ? 茶会のお子様達か、はたまた警備の騎士か……? お子様達なら今の所は遠慮したい。モテモテダリウス王子を見たら嫉妬しそうだ。モテっぷりに。
「アデリーネちゃん、この辺に居るぅ? さっきこちらに行ったのを見たのだけど……」
「ダリウスも一緒かしら? って、あら? 」
「まあ! まあまあまあ……」
顔を出したのは、俺の母と王妃様だった。俺達はしっかりと手を繋いでいる所を親に発見されてしまったのだ。
そんな訳で無事に? 順当に? 俺はダリウス王子の婚約者になってしまった。公式な発表は二年後。その時は聖域で神に仕える巫女の前で婚約を誓い合う。
うん、西洋風なのに巫女とか。完璧ゲームのごちゃ混ぜ感だよな。これ、ダリウス王子のこのまま婚約者続けたら、破滅エンドになるのか?? いや、二年後までに魂交換してれば俺は悪役令嬢たるダリウス(アデリーネ)を緋弾するのを回避してみせる! というか、ハーレムが良いからヒロインオンリーとか無理だし!
これから一緒に居れば、俺とダリウス王子のお互いの話もよく出来る訳だし! そう考えると、婚約は願ったり叶ったりじゃないか??
そう言って私は金髪碧眼のキラキラエフェクトを背負った王子様に頭を下げた。はぁ、これはあれだわ、十歳なのにかなりモテるでしょうね。なんか後ろに花、背負ってるんだもん。
……ところでエフェクトって何だったかしら?
かしら……? 何かこの言葉使いに違和感が……? 私、わたしは……
「顔を上げて、アデリーネ嬢。丁寧な挨拶ありがとう。私はダリウス・ミレネー・アダートラン。この国の第一王子だ。楽にしてくれて構わないよ」
そう言われて、私……は、顔を上げてダリウス王子の顔を真正面から見つめた。ああ、ちきしょう。こんな顔だったらハーレムとか余裕なんだろうなー。てか王子って、生まれも容姿も完璧なんだから、そりゃモテない筈ないもんなぁ。
……何、この感想? 待って、何かがおかしい。
「あらあら、二人共見つめ合っちゃって。そんなに気に入ったのかしら? 」
そう言ってくすくすと扇子の裏で笑うのはダリウス王子の母親のミーシェル王妃。私…は今、王妃主催のお茶会という名のダリウス王子の為のお見合いパーティに招集され、こうして目出度くイケメン王子に挨拶したのだけど……どうにもおかしい。
まず自分の名前に違和感がある。名乗ってからどうにも落ち着かない。そう思いだしたら、このドレスもフリフリ過ぎで邪魔臭い!しかもイケメンって何だ、ん? イケメン……?
「そんなに気に入ったのなら、二人でお庭でも散歩してみる? 」
あまりにお互いが話さないものだから、王妃様が水を向けて来たけれど、今のわたしはそれどころじゃない。
「そんな……まだ沢山の方がご挨拶を今か今かと待たれていますもの。私は今日御目文字出来た事だけでも光栄です。どうぞ、お気になさらず。では、王妃殿下、王子殿下、私はこれで失礼致します。お会い出来た事、誠に嬉しく存じます」
そう言って、なんとか取り繕って礼をしたわたしは、足早に挨拶の列から抜け出した。
勝手に帰る訳には行かないから、適当にお菓子を皿に盛って庭園の目隠しになっている生垣の裏へするりと移動する。大人達はあの挨拶の場の近くで談笑していたし、公爵家である自分が早めに挨拶を済ませたのもあり、庭園の隅には誰も居なかった。
やっべぇ。危なく変な話し方するところだった。
プチシュークリームを口に運んで、俺はぼんやりと視線を目の前の咲き誇る薔薇に向けた。ああーシュークリーム美味しい。こっちの世界で味が向こうと同格なのはなんと幸運な事だろう。
…………てか、何で今思い出すかな?!
そう。俺は前世の記憶らしきものを思い出したのだ。けど、こういうのって生まれた途端に大人の意識があるとか、転んで頭を打ち付けて記憶を思い出すとか色々あるじゃん?? 攻略対象見つけて思い出すとかさぁ! 何で知らない相手に挨拶した瞬間に前世思い出したりとかすんの? 王族相手にポカさせる気なの? いくら子供だからって、親の前で下手打てないからね?!
……ふぅ、一頻り文句を思い浮かべたら落ち着いた。
そうだよ、何転生しちゃってんだよ、俺!
いや、転生は良い。家は金持ちだし、生活水準なんて前の世界と同等かそれ以上だし? その分内政チートやらマヨネーズチートは出来ないだろうけど、いや俺の頭じゃ無理だけど。生活安定してるのは有り難い。
でも、何で美少女転生なの?? そこは美少年とかに転生して普通にハーレムとか一匹狼気取って実はモテモテとか、不遇な悪役令嬢の婚約者を助けていちゃラブとかあるじゃん?! はぁ?? 訳わかんないんですけどぉ??
しかも何? ゲームか知らないけど、もしゲームの世界なら絶対乙女ゲームだよね?? 俺、第一王子の婚約者になる悪役令嬢ポジだよね?? 乙女ゲームはやった事ないけど、なろうで小説は読んだよ? 散々読んだよ! 特に悪役令嬢助けてラブラブする奴!! 大好物だよ、くそう!!
けれど現実はどうだ、これ。実際には俺が悪役令嬢ってか? そんで? ざまぁされんの? それとも誰か助けてくれんのか?
…………。
いやだあぁぁ!!
転生するならハーレム作れるぐらいのイケメンとかチートで人類最強とかになりたかったのにぃ!! 美少女とかぁ!! 公爵令嬢はかれこれ十年やって来たから別に出来るけどぉ! 美少年になりたいよおぉぉ!!
俺は手元に生えている草をぶちぶちと引き千切った。顔は苦渋に満ちている事だろう。
ああ、あの王子が羨まし過ぎる。ちょっとなよってるが、あれはまごう事なき美少年だ。間違いなく攻略対象だ。このまま行けば悪役令嬢でもヒロインでもどちらからも好かれる運命が待っている。
あ、俺が悪役令嬢だから俺からの愛はあげられないね、ってどうでも良いんだよ。
「憎い……美少年が憎いっ! 」
「何が憎いの? 大丈夫? 」
草を引き千切る動作に夢中になっていて、俺は背後に人がいるのに全く気付かなかった。慌てて後ろを振り向くと、そこには先程挨拶したダリウス王子が生垣からひょっこりと顔を出していた。あざとい! くっそ可愛いな?! これだから美少年って奴はよぅ! 己の魅せ方知ってるってか?
「ほほほ、憎いだなんてそんな事、言ってませんわ」
「そう? おかしいなぁ。聞き間違えたかな」
ダリウス王子はそう言いながら、俺の隣に座ってしまった。……ええっと、何か用?
「……殿下は何故此方へ? 挨拶はお済みになりましたの? 」
「挨拶は滞りなく終わったよ。その後ご令嬢方に囲まれてしまったから、ちょっと休みたくて人目が付かない隅へ逃げて来たんだ。そうしたら、君が居た」
自慢? 今さらっとモテ自慢した? ああん?! しかし俺も前世では二十歳を過ぎた大人の男。子供の自慢話ぐらいさらりと受け止めてやらぁ。
「 まあ、流石におモテになりますのね。けれど、せっかくの交流の場を辞しては令嬢方は悲しんでしまいますでしょう? 程々にしてお戻り頂かねば」
「……君こそ、戻らなくて良いの? 話したそうにしていた令息も居たように見えたけど」
「まぁ、そんなまさか」
マジかよ。流石美少女だな、俺。言い寄られるのは面倒だけど、友達は作るべきか?
「君みたいに美しいご令嬢のお眼鏡に叶う子が居ると良いけどね」
強気? 自分より良い男は居ないとかそういう奴? これが王子って奴なの? 知らんけど。てかさらりと美しいとか言った? これが攻略対象者の実力か!
「うふふ、見た目だけでは真のイケメンとは呼べませんものね。中身も素敵な方なら嬉しいですけれど」
「そうかな? とりあえず見た目がイケメンであれば多少の事には目を瞑れるんじゃない? よく言うでしょ、」
「「只し、イケメンに限る」」
「って言葉もあったぐらいだし……え? 」
王子はその大きな瞳を更に大きく見開いた。溢れる、落ちそう! が、それどころじゃない。イケメンはこの世界の言葉じゃない。
「………殿下、壁ドンってご存知? 」
「………アデリーネ嬢こそ、顎クイって知ってる? 」
「………俺、東京に住んでたんだけど、そっちは? 」
「えっ? 私は北海道……って、え?! 俺?? 」
「そう、俺、元男」
「うっぁぁぁやめてぇぇ、そんな美少女捕まえて中身おっさんとか一番救えないからぁぁぁっ」
「誰がおっさんだコラ。前途ある若者だったわ」
「ひ、酷いよぅぅっ!! お人形みたいに可愛い子だと思ってたのにぃぃ!! 返せ! 私のときめきを返せ!! 」
「ああん? どっからどう見ても完璧可愛い美少女じゃん? 何を泣く程……」
「いや、中身無理だから。有り得ないから。自重して。演技必須。地を出すな」
ダリウス王子が睨んで来る。滲んだ涙もまぁ可愛いらしい事で。全然怖くないからね。
「そんな事言われても、さっき思い出してこっちも混乱気味なんだよ。令嬢として生きて来たのと、前世が鬩ぎ合ってる。とりあえず帰りたい」
「ええ?! 帰っちゃうの?? せっかくの転生仲間見つけたのに! もう少し話したい! 」
「えぇ……ダリウス……王子ってば、挨拶の時と全然違うんだけど?! それが素? 」
ダリウス王子はぷくっと頬を膨らませて拗ねている。何これ? 本当は女の子なの? あざと過ぎない? あ、変な扉開きそうだからやめて? いや、俺今は女だけど!
「そりゃ、王子だからイメージ戦略ぐらいするよー。本当は刺繍とか料理とかしたいの我慢してるんだよ? まあ、こっちも料理美味しいから自分で作らなくても良いんだけどね」
「んだよ、乙メンかよ」
「乙メン差別良くない。料理出来る男はモテるんだよ? 前世では」
「今世だったら王子ってだけで何もしなくてもモテモテじゃん。くそ羨ましいっ! 」
「いやぁ、私前世女子高生だったから……まぁ思い出すまでは一応男の子として育って来たから熟せるけど、モテモテは心中複雑で……」
「マジか……リアル男の娘かよ」
「誰が男の娘か」
本当、マジか。だからちょっとなよって見えるのか? まあ、それが中性的でもある……って違う違う!! 何だ、お互いに性別あべこべで生まれたって言うのか……神様も上手い事してくれてたら良かったのに……。ん? これ、チャンスなんじゃね?
「ねぇ、殿下。私お願いがありますの」
「え、何怖いんだけど」
この世界は魔法もあるし精霊も居るらしいし、ドラゴンだって実在する。何でもありなんだから、宿った魂も取り替える方法があるんじゃないか?? 俺の笑顔に怯えるダリウス王子の手を両手でしっかりと掴む。こんなお互いの事情知ってて、器は超美少年の優良物件逃してなるものか!
「おい、その美少年の体、俺に寄越せよ」
「ひえ、カツアゲだぁ……」
「良い案じゃんか、魂交換してお互い求める器に収まれば全部解決! 俺は美少年としてモテモテ、お前も美少女としてモテモテ。良い事尽くめでハッピーエンド、大団円だろ? 」
「でもそんな魔法聞いた事無いし、家族が逆になるんだよ? 難しくない? 」
「それはお互いとことん話し合って、記憶を共有するしかないな。まあ、十年分ぐらいどうにかなるだろ」
「えぇ……私王子教育始まってるんだよ? もし魂交換が出来たとして……アデリーネ、突然王子になってやって行ける? 無理じゃない? 」
ふむ。確かに、貴族教育とは別になるのか? そもそも男女でも教育の差があるだろうし……急いでも今日明日で魂の入れ替わりなんて出来ないだろうし、これは長期戦を考えた方が良いか……? 後、気になってる事は……
「あ、そうだ。後聞いておきたい事が……」
俺の話を遮る様に、何やら生垣の方からがさがさと音がする。俺とダリウス王子は手を握り合ってその音から遠ざかる様にじりじりと後退した。何だ? 茶会のお子様達か、はたまた警備の騎士か……? お子様達なら今の所は遠慮したい。モテモテダリウス王子を見たら嫉妬しそうだ。モテっぷりに。
「アデリーネちゃん、この辺に居るぅ? さっきこちらに行ったのを見たのだけど……」
「ダリウスも一緒かしら? って、あら? 」
「まあ! まあまあまあ……」
顔を出したのは、俺の母と王妃様だった。俺達はしっかりと手を繋いでいる所を親に発見されてしまったのだ。
そんな訳で無事に? 順当に? 俺はダリウス王子の婚約者になってしまった。公式な発表は二年後。その時は聖域で神に仕える巫女の前で婚約を誓い合う。
うん、西洋風なのに巫女とか。完璧ゲームのごちゃ混ぜ感だよな。これ、ダリウス王子のこのまま婚約者続けたら、破滅エンドになるのか?? いや、二年後までに魂交換してれば俺は悪役令嬢たるダリウス(アデリーネ)を緋弾するのを回避してみせる! というか、ハーレムが良いからヒロインオンリーとか無理だし!
これから一緒に居れば、俺とダリウス王子のお互いの話もよく出来る訳だし! そう考えると、婚約は願ったり叶ったりじゃないか??
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