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一章・追放編

クウフウク食堂

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 五話

「……そ、そうだな……」

 少しの沈黙のあと二人は自身のお腹に手を当てお互いの顔をみて苦笑いします。どうやらグォォォという野獣が吠えたような音は、陸斗とディベント、二人のお腹が大きくなった音だったようです。

「丁度いい、オススメの店あるからそこに連れてってやるよ」

 そう言い放つとついてこいと言わんばかりに、また前をリードして歩き始めました。

 その後、しばらくディベントについて行きたどり着いたのは、日本語でも英語でもなく見たことのない字で、文字が書かれた看板が掲げられた飲食店のようなところでした。そのお店の中から漂ってくる香ばしい匂いでさらに彼らのお腹を空かせてしまいます。

 ただ不思議と見たことのない文字なはずなのに、陸斗は読めました。

「……クウフウク食堂?……え、空腹食堂!?」

「空腹と似た発音だが、そのクウフウクは違うぞ?まあ意味はそっちらしいが、確か理由は「空腹は飯の友だから」だったはずだ……って読めるのか!?この世界の文字を!!」

 さらっとディベントは説明してますが、どうやら店の看板の文字はこの世界の文字のよう。故に陸斗が看板の文字を読めたことに驚きを隠すことができません。

 というか、その理由ならばクウフウクでなくてもクウフクでもいいと思いますが……きっと店主は一捻りした名前にしたかったのでしょう。

 そして「まあ読めるなら色々と楽だ」と彼が言うとすぐに店内に入りますが、店内に入った瞬間、異様な光景を目の当たりにしました。

「……マスター……おかわり、もちろん大盛り」

「本当よく食べるなぁ、まあそうだろうと思ってたぜ、はいよ」

 店内は、まだ昼前なのか、艶のある茶色の髪を後ろで一本に束ね、横顔が可愛い華奢な美少女とカウンターの奥にいるスキンヘッドに鉢巻をした男しかいなく、不思議な口調の見た感じおとなしそうな少女の横には、色々な種類の皿がパッと見ても数えられないほど積まれていました。

 どうやら彼女は華奢な身体に似合わない大食いのようです。

 そして彼女がおかわりと言って、ドンッとカウンターテーブルに置かれたのは、これでもかとはみ出した天ぷらが乗った天丼でした。

「って、食べ過ぎだろ!?」

 と皿の量と、そのおかわりを頼む姿を見て思わずその言葉を口にしてしまいます。

 入店したのが気づいていなかったのか、カウンターの奥にいるスキンヘッドの男と大食いの彼女が彼らのことに気づきました。

「おう、いらっしゃい!カウンターテーブルでいいか?」

「……マスター……モアラ一つ」

「まだ食べるのか!?ってかなにその名前、コアラか、それともモアイか!?」

「天城、ちょっと静かにな?」

 店内が空いてるにも関わらずカウンターテーブルに誘導され、席に座ろうとした瞬間、彼女はいつの間にか特盛天丼をペロリと平らげており、今度はコアラのような、はたまたモアイのような名前の料理を注文していたので、またも驚きの声が口に出てしまいます。

 無論、ここは飲食店。この世界にもマナーがあるためか、驚いて騒ぐ彼をディベントは注意しつつ、やっとの事で彼らは席に着くことができました。

 すると直ぐに店長が目の前にやってきて。

「まあ、美味しく食べてくれれば別に構わねぇよ、でご注文は?」

「俺はツーハンで、天城もツーハンでいいよな?」

「いや、通販って……ここネット繋がってないよな!?」

 お品書きを見てすぐに決めたディベントは陸斗に尋ねました。無論陸斗はお品書きを見ただけでわかるのは料理名のみ。ツーハンという料理や他の料理のことは全く分かるわけもありません。

 ただ、発音が一緒のためか『通販』とツーハンを間違えてしまい、陸斗は通販じゃないのかいいますが、この世界にはネットもなければ、通販もないためディベントは「何を言っているんだい?」と返し、結局ツーハンなるものを二つ頼みました。

 そんな中、注文した料理が来るまでの間、暇なのか大食いの彼女は陸斗の方を向いて話し出します。

「……さっきから、驚いてる、でも、足りない……ここの料理、美味しい、から……」

 横顔もなかなか可愛いのは見て分かりますが、こちらを向いたことで、綺麗に整った顔立ちで色白なのが良くわかります。ただ一つ言うと、ジトっとした目で陸斗達を見ていて、何を考えているのかわからない表情でした。まあ無意識のようなので、生まれつきみたいですが。

「ああ、そいつな、いつだったか店の前でぶっ倒れててな、色々と聞いたら梅坂鈴うめさかりんて名前とニホン?てのしか教えてくれなかったんだ」

「……はあ!?」

 不思議な口調で話す彼女ーー鈴はなんと偶然なのか奇跡なのか陸斗とほぼ同じ境遇の人だったようです。

 そんなことに驚いていたらディベントが注文した料理、ツーハンという料理二つと、それと同時に大食いの彼女が注文していた、モアラという料理がテーブルに置かれました。

「こ、これがツーハン……って炒飯かよっ!」

 ディベントと陸斗の目の前に置かれたツーハン、それは卵を軽くスクランブルエッグの様に炒め、その中に白米を入れてさらに炒めつつ、様々な具材を入れまたも炒めた料理、すなわち炒飯でした。

 そして鈴の目の前に置かれたモアラ。その料理は別にコアラの一部を使っているわけでもなく、モアイの様に石で出来ている訳でもなく、ただ単に麺にスープや大きく二ミリ程にスライスされた肉、ふわっとした柔らかなかまぼこなど、これまた色々な具を使った料理、それはラーメンと瓜二つの料理でした。

「チャーハン?それはツーハンだが?」

「通販は知ってるけど……ここのツーハンて炒飯なのか!?」

 やはり異世界では呼び方が違うようです。その証拠に鈴が注文したモアラを、ラーメンと言うとなんだそれと返されていました。

「……炒飯、知ってる?……君は、日本?……いや中国?」

「いやいや日本でも炒飯知ってる人多いから……まあなんか手違いで召喚されたんだけど、今のところ帰る方法がないらしい」

「……可哀想……今、ご飯食べてる、食べ終わって、色々聞く」

 と急に話を切られ彼女は目の前の料理を食べ始めました。また空腹で、倒れてしまいそうな陸斗もそれが合図だったかの様に炒飯……もといツーハンを食べ始めました。
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