上 下
21 / 26
3章

20/スカウト

しおりを挟む
 それから暫く。齢十五になったものの、背丈だけが成長したシルヴィは、卒業を目の前にして、大きな問題に直面していた。

「魔術専攻の研究所に入らないか……かぁ」

 ルミナから渡された一通の手紙、そこに書かれていたのは魔術専攻のスカウトかつ、卒業式終了後に返事が欲しいという無茶な内容。そこは千年以上も前から続いている研究所で、その名はレイシュトルム家に並ぶほどの有名。一番魔法に長けている人がスカウトされ、中には戦場に立つ研究者もいる危険な研究所。

 本来ならば喜ばしいことだが、彼女は険しい顔をしたまま手紙を見つめていた。前世で何も知らずにその研究所に入り、苦しい経験をしているからだ。だからこそ二度もそこに入るという選択肢は持ち合わせてはいない。

 また今となっては過去のことなど良き思い出のようなものだが、その思い出うんめいを追うように時間が進んでいるのだ。

 そしてシルヴィは運命に抗い、魔族を救おうと。人との共存を望んでいる。故に招待は断る選択肢を選ぶことにして、手紙を折りたたもうとすると声が聞こえてきた。

「シルヴィが入らないなら私入ろうかしら?」

「い、いたの!?」

「ええ、もう体育館に集合してるのに、あまりにも遅いから様子を見に来たの」

 後ろから手紙を覗くようにして声をかけてきたのは、育つところが育ったフレア・レイシュトルム。シルヴィと同じ十五には見えないほど大人っぽい印象がとても強い。

 そんなフレアが言うように教室にはすでに、シルヴィと迎えに来たフレアだけだった。

「というか、フレアにもスカウト来てるの?」

「来てないわよ。でも、一人が辞退したら次に有力な人が選ばれるのが、妥当じゃないかしら? まあ選ばれなくても金をチラつかせればイチコロよ」

「うわぁ……」

 急いで体育館に向かいつつ、スカウトの話をすると自慢げに金で解決しようとしているのが目に入り、改めてフレアがお嬢様であることが呆れるほどに実感できる。だが、どう考えても有望な人を集める研究所に賄賂は効くわけもないのはフレアだってわかっているはず。となれば彼女の言葉など単なる冗談にしかすぎず、だからこそわざとらしく声を出してシルヴィは反応していた。


 
 ――無事卒業式を終えたのち、スカウトをもらい受けたシルヴィはたった一人で……いや、結局フレアも同行し教室に戻り、ルミナ先生と研究所の所長に値する人を待つことに。

 緊張で口の中を支配する生唾をごくりと飲みつつ、教室で待機すること数分、教室のドアが開かれると、聞き覚えのある声が静かに、されどしっかりと耳を包む。

「いるわねシルヴィさ……ってなんでフレアさんがいるの!?」

「まぁまぁ、いいですよ。別に聞かれても困ることじゃないですし」

 先に入ってきた先生が、呼んでもいないフレアが教室にいることに驚き、今すぐにでもつまみ出さんとする。しかし後に入ってきた白衣の男が馬をなだめるように、先生の肩に手を置いて抑え込む。 

 その男は普通ではぶつかることもない、高さ三メートルの扉の枠に茶髪頭をこする程とても背が大きい。だが巨人の種族ならば平均であり、割と見受けられる種族のためそこまで珍しくは無い。

 けれどシルヴィはそれよりも彼の顔と、耳に残るほど重く渋い声に対して驚きを隠せていなかった。

「僕はローラッド・ヴネトガ。君がシルヴィさんだね。で君が……フレアさんだね」

「ええ、そうよ」

 ヴネトガ。その性は今でも忘れられない性。名前こそ違ったが、優しそうな笑顔で放たれるはっきりとした声が、当時の仲間だった魔族嫌いのアロック・ヴネトガの声と瓜二つだった。

 だが声だけでなく容姿もアロックに似てる。それだけの理由で手に汗をかくほど緊張が増す。心臓もこれでもかというほどに高く唸る。その人ではないと心に言い聞かせても、魔族を残虐に殺し笑っていた光景が蘇り、今にも逃げてしまいたいくらいに身震いする。

 そんなことは知らない巨人は、彼女たちの前に行くと、目線を合わせて笑みを浮かべて。

「それでスカウトの返事は決まったかな?」

「は、はい……! え、えっと、その……わ、私はその話は受けません!」

「その心は?」

「ぇあ!? えーと、その、け、研究には興味ないですし……」

 緊張のせいでまともにローラッドを見れないうえ、上手く喋れていないが、それでも何とかスカウトを断る旨を話すシルヴィ。それを見計らったかのように、今度は隣で話を聞いていたフレアの口が動く。

「シルヴィもこう言ってるし、諦めなさい。ローラッドさん。でもこれでそちらのスカウト枠は一つ空いた。そこで私! レイシュトルム家である、フレア・レイシュトルムはどうかしら? こんないい魔法使いはそこらへんに転がってなくてよ?」

「フレアさん! 口を慎みなさい!」

「まぁまぁいいですよ。事実、スカウト枠が一枠空いてしまったのは確かなことです。そこに付け込まんとするその心意気もすばらしいものです」

「なら……!?」

 ローラッドの期待が持てる言葉を聞いて目を輝かせるフレア。口調自体は、ルミナにいつも注意される彼女だが、魔法の成績はシルヴィに次ぐほどの悦材。だからといって選ばれた人材しか入れない研究所が、スカウト枠一つ空いても入ることは本来難しいものだが。

「まぁいいでしょう。フレアさんをスカウトします。ただし、フレアさん。自分から申し出たのならしっかりと成果を残してくださいね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

処理中です...