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3章
20/スカウト
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それから暫く。齢十五になったものの、背丈だけが成長したシルヴィは、卒業を目の前にして、大きな問題に直面していた。
「魔術専攻の研究所に入らないか……かぁ」
ルミナから渡された一通の手紙、そこに書かれていたのは魔術専攻のスカウトかつ、卒業式終了後に返事が欲しいという無茶な内容。そこは千年以上も前から続いている研究所で、その名はレイシュトルム家に並ぶほどの有名。一番魔法に長けている人がスカウトされ、中には戦場に立つ研究者もいる危険な研究所。
本来ならば喜ばしいことだが、彼女は険しい顔をしたまま手紙を見つめていた。前世で何も知らずにその研究所に入り、苦しい経験をしているからだ。だからこそ二度もそこに入るという選択肢は持ち合わせてはいない。
また今となっては過去のことなど良き思い出のようなものだが、その思い出を追うように時間が進んでいるのだ。
そしてシルヴィは運命に抗い、魔族を救おうと。人との共存を望んでいる。故に招待は断る選択肢を選ぶことにして、手紙を折りたたもうとすると声が聞こえてきた。
「シルヴィが入らないなら私入ろうかしら?」
「い、いたの!?」
「ええ、もう体育館に集合してるのに、あまりにも遅いから様子を見に来たの」
後ろから手紙を覗くようにして声をかけてきたのは、育つところが育ったフレア・レイシュトルム。シルヴィと同じ十五には見えないほど大人っぽい印象がとても強い。
そんなフレアが言うように教室にはすでに、シルヴィと迎えに来たフレアだけだった。
「というか、フレアにもスカウト来てるの?」
「来てないわよ。でも、一人が辞退したら次に有力な人が選ばれるのが、妥当じゃないかしら? まあ選ばれなくても金をチラつかせればイチコロよ」
「うわぁ……」
急いで体育館に向かいつつ、スカウトの話をすると自慢げに金で解決しようとしているのが目に入り、改めてフレアがお嬢様であることが呆れるほどに実感できる。だが、どう考えても有望な人を集める研究所に賄賂は効くわけもないのはフレアだってわかっているはず。となれば彼女の言葉など単なる冗談にしかすぎず、だからこそわざとらしく声を出してシルヴィは反応していた。
――無事卒業式を終えたのち、スカウトをもらい受けたシルヴィはたった一人で……いや、結局フレアも同行し教室に戻り、ルミナ先生と研究所の所長に値する人を待つことに。
緊張で口の中を支配する生唾をごくりと飲みつつ、教室で待機すること数分、教室のドアが開かれると、二つの聞き覚えのある声が静かに、されどしっかりと耳を包む。
「いるわねシルヴィさ……ってなんでフレアさんがいるの!?」
「まぁまぁ、いいですよ。別に聞かれても困ることじゃないですし」
先に入ってきた先生が、呼んでもいないフレアが教室にいることに驚き、今すぐにでもつまみ出さんとする。しかし後に入ってきた白衣の男が馬をなだめるように、先生の肩に手を置いて抑え込む。
その男は普通ではぶつかることもない、高さ三メートルの扉の枠に茶髪頭をこする程とても背が大きい。だが巨人の種族ならば平均であり、割と見受けられる種族のためそこまで珍しくは無い。
けれどシルヴィはそれよりも彼の顔と、耳に残るほど重く渋い声に対して驚きを隠せていなかった。
「僕はローラッド・ヴネトガ。君がシルヴィさんだね。で君が……フレアさんだね」
「ええ、そうよ」
ヴネトガ。その性は今でも忘れられない性。名前こそ違ったが、優しそうな笑顔で放たれるはっきりとした声が、当時の仲間だった魔族嫌いのアロック・ヴネトガの声と瓜二つだった。
だが声だけでなく容姿もアロックに似てる。それだけの理由で手に汗をかくほど緊張が増す。心臓もこれでもかというほどに高く唸る。その人ではないと心に言い聞かせても、魔族を残虐に殺し笑っていた光景が蘇り、今にも逃げてしまいたいくらいに身震いする。
そんなことは知らない巨人は、彼女たちの前に行くと、目線を合わせて笑みを浮かべて。
「それでスカウトの返事は決まったかな?」
「は、はい……! え、えっと、その……わ、私はその話は受けません!」
「その心は?」
「ぇあ!? えーと、その、け、研究には興味ないですし……」
緊張のせいでまともにローラッドを見れないうえ、上手く喋れていないが、それでも何とかスカウトを断る旨を話すシルヴィ。それを見計らったかのように、今度は隣で話を聞いていたフレアの口が動く。
「シルヴィもこう言ってるし、諦めなさい。ローラッドさん。でもこれでそちらのスカウト枠は一つ空いた。そこで私! レイシュトルム家である、フレア・レイシュトルムはどうかしら? こんないい魔法使いはそこらへんに転がってなくてよ?」
「フレアさん! 口を慎みなさい!」
「まぁまぁいいですよ。事実、スカウト枠が一枠空いてしまったのは確かなことです。そこに付け込まんとするその心意気もすばらしいものです」
「なら……!?」
ローラッドの期待が持てる言葉を聞いて目を輝かせるフレア。口調自体は、ルミナにいつも注意される彼女だが、魔法の成績はシルヴィに次ぐほどの悦材。だからといって選ばれた人材しか入れない研究所が、スカウト枠一つ空いても入ることは本来難しいものだが。
「まぁいいでしょう。フレアさんをスカウトします。ただし、フレアさん。自分から申し出たのならしっかりと成果を残してくださいね」
「魔術専攻の研究所に入らないか……かぁ」
ルミナから渡された一通の手紙、そこに書かれていたのは魔術専攻のスカウトかつ、卒業式終了後に返事が欲しいという無茶な内容。そこは千年以上も前から続いている研究所で、その名はレイシュトルム家に並ぶほどの有名。一番魔法に長けている人がスカウトされ、中には戦場に立つ研究者もいる危険な研究所。
本来ならば喜ばしいことだが、彼女は険しい顔をしたまま手紙を見つめていた。前世で何も知らずにその研究所に入り、苦しい経験をしているからだ。だからこそ二度もそこに入るという選択肢は持ち合わせてはいない。
また今となっては過去のことなど良き思い出のようなものだが、その思い出を追うように時間が進んでいるのだ。
そしてシルヴィは運命に抗い、魔族を救おうと。人との共存を望んでいる。故に招待は断る選択肢を選ぶことにして、手紙を折りたたもうとすると声が聞こえてきた。
「シルヴィが入らないなら私入ろうかしら?」
「い、いたの!?」
「ええ、もう体育館に集合してるのに、あまりにも遅いから様子を見に来たの」
後ろから手紙を覗くようにして声をかけてきたのは、育つところが育ったフレア・レイシュトルム。シルヴィと同じ十五には見えないほど大人っぽい印象がとても強い。
そんなフレアが言うように教室にはすでに、シルヴィと迎えに来たフレアだけだった。
「というか、フレアにもスカウト来てるの?」
「来てないわよ。でも、一人が辞退したら次に有力な人が選ばれるのが、妥当じゃないかしら? まあ選ばれなくても金をチラつかせればイチコロよ」
「うわぁ……」
急いで体育館に向かいつつ、スカウトの話をすると自慢げに金で解決しようとしているのが目に入り、改めてフレアがお嬢様であることが呆れるほどに実感できる。だが、どう考えても有望な人を集める研究所に賄賂は効くわけもないのはフレアだってわかっているはず。となれば彼女の言葉など単なる冗談にしかすぎず、だからこそわざとらしく声を出してシルヴィは反応していた。
――無事卒業式を終えたのち、スカウトをもらい受けたシルヴィはたった一人で……いや、結局フレアも同行し教室に戻り、ルミナ先生と研究所の所長に値する人を待つことに。
緊張で口の中を支配する生唾をごくりと飲みつつ、教室で待機すること数分、教室のドアが開かれると、二つの聞き覚えのある声が静かに、されどしっかりと耳を包む。
「いるわねシルヴィさ……ってなんでフレアさんがいるの!?」
「まぁまぁ、いいですよ。別に聞かれても困ることじゃないですし」
先に入ってきた先生が、呼んでもいないフレアが教室にいることに驚き、今すぐにでもつまみ出さんとする。しかし後に入ってきた白衣の男が馬をなだめるように、先生の肩に手を置いて抑え込む。
その男は普通ではぶつかることもない、高さ三メートルの扉の枠に茶髪頭をこする程とても背が大きい。だが巨人の種族ならば平均であり、割と見受けられる種族のためそこまで珍しくは無い。
けれどシルヴィはそれよりも彼の顔と、耳に残るほど重く渋い声に対して驚きを隠せていなかった。
「僕はローラッド・ヴネトガ。君がシルヴィさんだね。で君が……フレアさんだね」
「ええ、そうよ」
ヴネトガ。その性は今でも忘れられない性。名前こそ違ったが、優しそうな笑顔で放たれるはっきりとした声が、当時の仲間だった魔族嫌いのアロック・ヴネトガの声と瓜二つだった。
だが声だけでなく容姿もアロックに似てる。それだけの理由で手に汗をかくほど緊張が増す。心臓もこれでもかというほどに高く唸る。その人ではないと心に言い聞かせても、魔族を残虐に殺し笑っていた光景が蘇り、今にも逃げてしまいたいくらいに身震いする。
そんなことは知らない巨人は、彼女たちの前に行くと、目線を合わせて笑みを浮かべて。
「それでスカウトの返事は決まったかな?」
「は、はい……! え、えっと、その……わ、私はその話は受けません!」
「その心は?」
「ぇあ!? えーと、その、け、研究には興味ないですし……」
緊張のせいでまともにローラッドを見れないうえ、上手く喋れていないが、それでも何とかスカウトを断る旨を話すシルヴィ。それを見計らったかのように、今度は隣で話を聞いていたフレアの口が動く。
「シルヴィもこう言ってるし、諦めなさい。ローラッドさん。でもこれでそちらのスカウト枠は一つ空いた。そこで私! レイシュトルム家である、フレア・レイシュトルムはどうかしら? こんないい魔法使いはそこらへんに転がってなくてよ?」
「フレアさん! 口を慎みなさい!」
「まぁまぁいいですよ。事実、スカウト枠が一枠空いてしまったのは確かなことです。そこに付け込まんとするその心意気もすばらしいものです」
「なら……!?」
ローラッドの期待が持てる言葉を聞いて目を輝かせるフレア。口調自体は、ルミナにいつも注意される彼女だが、魔法の成績はシルヴィに次ぐほどの悦材。だからといって選ばれた人材しか入れない研究所が、スカウト枠一つ空いても入ることは本来難しいものだが。
「まぁいいでしょう。フレアさんをスカウトします。ただし、フレアさん。自分から申し出たのならしっかりと成果を残してくださいね」
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