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2章

15/魔族語Ⅱ

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「――これである程度のことはお互いわかったね」
 
「そうですね。おかげで卒業後にどうするかの計画も組めそう」

 一週間のうちの昼と放課後を使って屋上のベンチに腰を掛けて話しあっていた二人。今日でお互いの知りたいことは知れたらしく、これにて情報交換は終わりなのだが。

「卒業後の計画って何よ!?」

 突然の叫び声にはっと顔を上げるとフレアが頬を膨らませて睨んでいた。シルヴィたちの話は聞かれると面倒な事ばかりで、だからこそ少女は魔力探知を怠ってはいない。なのに今の今までフレアがそこにいたことを知らずにいた。一体いつから聞いていたのかと背筋が凍り付く。
 
 だがそんなことなど知りもせずに、怒っているフレアはさらに質問を続ける。

「ていうか、この一週間付き合い悪かったのってその先輩のせいなの!? シルヴィは私のことどうでもいいっていうの!?」
 
「まぁ色々と聞きたいことあったからねってなにめんどくさい彼女みたいなセリフを言ってるのさ……」
 
「一番の友人は大切にしたいじゃない! あ、あと魔族がどうのこうのって」
 
「あー、そこまで聞かれてたか……」

 フレアの話からいつから聞かれていたかは定かではないが、魔族のことを聞かれていたことに思わず息を吐くシルヴィ。それもほっとした時に出る溜息ではなく、諦めたときの物だ。
 
 ベンチの隣に座るように手で招き、フレアが座ったところで確認のためにどこから聞いていたのかを尋ねる。

「今日の話全部聞いてた感じ?」
 
「え? ええまあ」
 
「じゃあ魔族語のこともちょこっと聞かれてたかぁ……」
 
「よくわからない単語が少し聞こえてたのはその魔族語っていうやつなのね。でもそれって魔族でしか聞かれないものじゃあ」
 
「そこまで知ってるんだ。よく勉強しているね」

 一応魔族のことに関しては授業でも習うもの。だが魔族語については習うことはない。魔族語には不思議な力があり、人が理解しようとすると体調を崩すからだ。と言っても話として聞くだけなら個人差があるがそこまで悪化はしない。
 
 しかしフレアはどうだろう、内心ではどう思っているかシルヴィにはわからないが一見して体調が悪いようには見えない。むしろいつもよりも若干元気にも思える。
 
 その様子にハベルは思い切って魔族語を書いた紙切れを渡した。

「あ、ちょ! 魔族語は人に有害なんですよ!?」
 
「知ってる知ってる。でもちょっと試してみたくてね……フレア君そんな目で見られても困るんだけど、まあいいや。それでどうだい? それ読んで体調壊したりしない?」

 先輩なのにまるで汚物でも見ているような目つきで、嫌そうに紙切れを受け取るフレア。扱いの酷さに悲しんでいるハベルを放っておいて紙に書かれた文字を見つめる。本来ならこの時点で体調が悪くなり最悪の場合気絶するのだが、どうにも平然としている。それどころか――。

「……ヴァッサー、シュヴェールト……? 水の剣……?」
 
「……思った通りだね」
 
「一体何なのよこれ。これで何がわかったって言うのよ」
 
「いや、魔族語に耐性があるなぁって。あ、それ返してね」

 読めた上に意味もわかっている様子だった。シルヴィでも完全に耐性が付いて読めるようになるまで五年程はかかっていたというのに、フレアはなんの苦労なく読めていたのだ。
 
 そして、それが意味することは彼女は人間ではなく魔族の可能性が高いということ。しかし本人は自覚しておらず何よりも魔族特有の魔力を感じない。
 
 だが、ハベルには原因がわかっていた。
 
「ふーん……よくわからないわね……」
 
「まぁそんなものだと思うよ。それよりこの後フレア委員会かなにかじゃなかった?」
 
「あ……すっかり忘れてたわ! 私は先に失礼するけど変な気を起こしてシルヴィを穢したらいくら先輩でも許さないから!」
 
「だからなにメンヘラみたいな……」

 シルヴィの一言で嵐のように去るフレアの背中を見届けて、をハベルから話始める。

「今の子、魔人だよ。正確にはフレアっていう人格が宿主の魔人。ただなんの魔人かまではさすがに分からないね」
 
「そっか、道理で……でもこの前フレアに触れてたけどその時からわかってたんですか?」
 
「まぁね。ただ確証はなかったからなんとも言えなくて。で、今試したってわけさ」

  魔人。それは魔族が人同様に知恵を持ち、人を欺むくために人の姿へと変化し人を喰らう種族。要するには人の天敵である。だがフレアのように人を宿主として中で成長するタイプは稀。発見数も数が少なくどのような影響をもたらすのかこの千年がたった今でも不明である。
 
 ただ一つ解明されているのは体の中で寝ている魔族が覚醒すると、人の意識は魔人に支配されもう人には戻れないということだ。

「ともかく変に刺激して覚醒させないようにしないとだから今後も一緒にいてあげなよ? 恋人なら特に」
 
「先輩までそのいじりやるんですか……私としては友人のままなんですけどね」
 
「それ本人が聞いたら絶対悲しむやつだよ……」

 シルヴィの辛辣さに苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべて笑うハベル。冗談でもいいから相手の気持ちを考えなよと言って彼もその場を去っていった。
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