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第二幕・牙を穿て

フェンリルと蘇る記憶④

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「ーーそれじゃあ気を取り直して行きますよ!海の如く大地を覆い尽くし、そして上昇した水は豪雨のように降り注ぐ!ウォーター爆発ブロア!」

 ハティが閃いた、魔法と魔法の組み合わせ。早速それを駆使しつつ覚えている魔法を組み合わせ、爆発と共に作り出した水が破裂し視界を悪くさせる。

 といえどそれはただの水。破裂したところでフェンリルの視界を奪う以外効果はない。

 ならば、何をしようというのか。水が破裂し疑似雨として降り注ぐ水しぶきが地面に落ちた頃、彼女は異変にすぐ気づく。

「スコルが……いない!?」

 茶人狼のスコルがハティの横から消えていたのだ。しかし、四方八方見渡せどその姿はない。檻の外とも考えられるが、鉄格子で出来た檻は重く、人一人が通れ無い程幅もない。となれば地面を掘ったか、もしくは高く飛んだか。

 答えはすべて否だ。

 空を見たところで鉄格子が中央に集まっているのと、空が紫がかった黒であること以外代わりはない。

 それに黒い地面に穴が掘られた様子はない。となるならば、必然的にスコルはこの檻の中にいることは確かである。

 とその刹那。彼女の視界はぐにゃりと歪み、放物線を描きつつ、檻の端に勢いよく飛んでいく。が例え激しく檻に全身を打ち、打撲や骨折をしても死ぬことはない。流石は死者の身体。不死身といったところだろうか。

「なるほどね……擬態カモフラージュでスコルを消したのか……それで水を……」

 が身体を激しく打ち付けたが故に、フェンリルの全身は、すぐに使い物にならなくなっていた。

 というのも、彼女は不死身といえど肉体の動かし方はそのまま。しかし、筋肉の支えとなっている骨が全て折れていた、いわば全身複雑骨折と一般人ならば絶対死に至る骨折を負ったのだ。

 されどもフェンリルは死者。腕を切り落とされ、骨が折れたとしても決して死ぬことは無い。行動不能とさせるのであれば、首を落とすもしくは脳を破壊する他ない。だが、それは少女達は知ることなく、不死身のフェンリルとの戦闘に苦戦を強いられる。

 何せフェンリルは大魔法使い。その場から動けなくともーー

「……第二十頁……凍えゆく空の彼方。一匹の鳥は白銀世界で餌を貪り続ける……氷獄魔・鳥アイシクルモンスター・バード!」

 魔法がある。

 彼女にとって意識などあったものでは無いが、動けない状況下、その場にいる少女達、九尾、ヘルも知らない新たなの名がその場の空気を支配し、氷塊で出来た大きな鳥が現れる。

 ーーだが、氷の鳥はハティへと羽ばたきつつ飛んでいくが途中でビシっと繊細なガラスにヒビが入ったように大きな音を立て、バリンと砕け散った。

「え……?」

「……あーあ、あと少しだったのに残念。なんてタイミングの悪い魔力切れなんだか……はぁ」

「てことは、私達の勝利!?」

「やったぁ!」と今までにないほど喜ぶハティだったが、この戦闘は少女達の勝利でも、フェンリル……つまりヘルの勝利でもない。

 喜んだのもつかの間、ハティはそのまま地面に倒れ込んでしまったからだ。というのも、緊張しており擬態カモフラージュを使用した時点で魔力切れが起こっていたことに気づいていなかったのだ。

 魔法使いにとって、動くことすらできなくなる魔力切れは最大の天敵。故に考えつつ魔法を使うべきなのだが、フェンリルもハティも白熱しすぎたのだろう。

「ヘル。これでわかったでしょ?私の子は……ヘルより強いって」

「ああ、だがな。私はこの時を待っていたんだ……死霊ども!やれ!」

 双方魔力切れにより、鉄格子の檻も擬態カモフラージュも解除された今。スコル以外は無防備。だが少女一人ではぞろぞろとこちらに向かう死霊の大軍は相手にすることはできなく、万事休す。かと思えば檻が消えるのを待っていた者がもう一人いた。

「死霊ってのはね、光に弱いんだよ。よく覚えておきなハティ!スコル!」

 サッとハティとフェンリル、そして姿を現したスコルの先に立つ金色の尻尾を九つ持つ九尾が、 強く言葉を言い放つと、キセル杖で空に円を描き始めた。

「あたしの取っておき、見せてやるよ!」と九尾が自信満々の顔を浮かべると、

天焦がす収束の光ホライゾン!」

 その言葉と共に、暗闇で満ち溢れた死国ヘルヘイムが強く照らされた
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