双子獣人と不思議な魔導書

夜色シアン

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第二幕・牙を穿て

グニパヘリル

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 はぁ……

 はぁ……

 息を切らし休みなく走り続ける少年は、自然とローブがはだけていた。が、それでもなお銀河を映しこんだ黒の短髪を揺らし、猪と一冊の本を手に、入り組んだ路地裏を駆ける。

 駆ける。

 駆けるーー

 ふと駆ける先の空を夜空の瞳で見上げれば、黒く濁りきった雲が、白銀の小さな粒が支配していた。

 雪だ。

 そこでは、一粒一粒が小さく、余計な色が抜き取られたように純白の雪が降りしきっていた。

 ーーあともう少し。もう少しでーー

 少年がそう思った矢先。

 上空からのほほんとした少女と、正反対の凛とした女性が降ってきた。

「もう追いついたのかよ!」

「返してもらうぞ私の猪を!」

「ウォンさん~セーフリームニルを取り返しに来たんじゃないよ~」

「ふん!魔導書なんざ知るか!それよりも私のをだなへぶら!」

「猪なんざくれてやるよ獣人。それと残念だったな。ここまで来たら僕の勝ちだ」

 逃がさないようにと、着地の瞬間から同じ速さで駆けていた少女達。しかし少年に気を取られつつ、上空から見た時存在していなかった黒曜の門にたどり着く。まるで少年を迎え入れるかのごとく開かれた門は、先は見えることない暗闇。されども猪をウォンに向け投げ捨てた少年は、門の先へ消えていく。ならばとスコルもと門の中へ一歩踏み出そうとした直後。

「おい、そこの止まれです」

 門の先から少し変で上品ぽい声が聞こえる。しかし誰かの姿があるわけではなく何も無い。故に少女は歩みを止めることは無い。

「そこの。止まれと言っているのがわからねぇですか?」

 再び変で上品ぽい声がスコルの耳を貫く。だが、やはり誰もいない。

「ウォンさんじゃないよね~」

「な、なにがだ?」

「わからないならいいんだ~」

 一度足を引き、改めてウォンに確認する少女。しかしウォンには声は聞こえておらず、ましてやようやくセーフリームニルが戻ってきた感動で話していない。となれば空耳だと勝手に決めつけ、再び脚を今度はしっかりと踏み入れた直後。

「だーかーら!止まれって言ってんだろ!この¥▲§◎ピーー!です!」

「うひゃわっ!?」

「どうした茶人狼!ってお前はーー」

 暗闇の奥から上品な声に似合わぬ下品な言葉が行き交い、何者かがその暗闇に溶けつつ飛び蹴りを食らわせた。

「ここはヘルヘイムの入口。グニパヘリルだ!お前らみたいな◆§§>ピーーみたいなやつは入れねぇんですよ!わかったらお前ら!<<*ピーーはとっとと帰りやがれですよ!」

 直後。もはや上品な言葉はどこへ行ったのか、飛び蹴りをした何者かは、サクッと雪で積もった地面を強く踏みしめ、下品な言葉を何度も使ってくる。

「早く帰らねぇとその面по#*ピーーして×>¥>◆ピーーするぞ!です!」

 天候が荒れ始めそうな、暗めの光で照らされた下品な言葉を言う人物は、背が小さいがその分の栄養が双山に持っていかれている上、これでもかと黒い。漆黒の髪は長く、羽織っているもこもこ衣服も、果てしない宇宙のように黒い。その瞳には何も映ってないようにも見える暗黒の瞳。そして一番特徴的な闇を纏ったかのごとく黒く染っている丸いもこもこな尻尾。彼女はどうやら獣人のようだ。

 ならば何故、同じ獣人である少女達をこんな目に遭わせるのか。それは九尾がやっていたように、獣人と言えど仲間ではなく、個人として見ているからに違いない。

「まだ帰らねぇですか、この€&=÷ピーー!です!」

「おい、。さっきからピーピーピーピーうるさい。少しは発言を慎め」

「誰がお前みたいな◇+☆♪ピーーにしたがうかです!」

「ほう?よくも言ってくれたなこのクソプードルが。この猪と一緒に煮込んで食ってやろうか?」

「あ、それだけは勘弁してくださいです……」

 一向に減ることの無い下品な言葉が、たった一言の脅しで、今までのが嘘だったかのごとく何も言わなくなる。しかしガルムと呼ばれた彼女はスコル達をそこから先には通させようとはしなかった

「ってウォンさん~その人のこと知ってるの~?九尾に並んで物知りだねぇ~」

「いや、知ってるというか、お前が知らないのが異常だと思うんだが……こいつは極寒の地ニヴルヘイムの街の街長にして死国ヘルヘイムの門番。ガルム。又の名を地獄の狼。まぁ、狼じゃなくてプードルだけどな。ちなみに極寒の地ニヴルヘイムの街にこいつの銅像があるぞ」

 ペラペラと説明していくが、少女にはその説明は無意味である。長ったらしい説明など聞きたくないと右から左へ流し、最終的には聴いてないのだから。
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