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第二幕・牙を穿て

ライラプスの手紙

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「あんたらあのクソお……フェンリルの子供だろう?」

「ど、どうしてお母さんの名前を!?」

 九尾狐が発した驚きの言葉というのは、双子の獣人、ハティとスコルの親の名前。更にその話からするに彼女達のことも、少なからず何か知っているようだ。

 だがそんな事よりも、まさかここで母親の名を聞くなど想定していなく、彼女達は驚きの声をあげる他できない。

「まぁ、ウチによく遊びに来たからね。それとあんたらのことはライラ……ライラプスのことだけど、そいつから手紙をもらって知ってね。ほらこれ」

 女将のような、されども若々しい声で言う九尾狐は、ポンっと小さな手で地面を叩く。その刹那、ひとつの手紙が彼女達の目の前に現れた。

 だが、直ぐに手紙の話をするのではなく、手紙を出した方法についての話が始まった。

 というのも、手紙を出した方法は魔法によるもの。しかしここ、ミズガルズは魔法が使えないと言っていいほど魔法が規制されている。一度使えば牢屋行きになる程だ。

 それなのにも関わらず、九尾狐はなんの躊躇も無しに魔法を使っていた。

 無論九尾狐は魔法使いの証を持っていない。

 つまりは完全に“禁忌”を犯した。

 いや、禁忌を犯した“はずだった”というのが正しいだろうか。

「い、今の魔法ですよね!?ここは魔法使ったらダメなところなんじゃ!?」

「はっ、まだ気づいてないのかい?全く魔法関連ど素人にも程があるね。ここは外からの干渉は受けない秘密の場所さ」

 どうやら彼女たちが導かれた地下の部屋は、外からの影響を受けないらしい。故にどんな魔法を使っても外からは感知されない場所のようだが、逆に不便な点も幾つかある。外からの干渉を受けないからこそ〈転移魔法テレポート〉でこの地下に来ることができない点と、〈疎通魔法テレパシー〉でこの地下にいる人と連絡を取ることができない点など様々だ。

 だからこそこの地下は完全に孤立した空間と言えるだろう。

 しかし国家騎士であるゼウスに捕まり、同じく国家騎士のエリスに注意された彼女達は未だに魔法を使えるのが信じれていない様子だ。

「まぁ、あのクソお……フェンリルも最初はわからなかったから気にする事はないよ。さて、折角あんたらの知り合いの手紙を出したんだ。読むだろう?」

「そ、そうですね」

 九尾狐は明らかに彼女たちの親フェンリルに強い敵対意識に似たようなものを抱いている。しかし完全に“クソ女”といっていないためか、はたまた双子達が未だにこの地下空間で魔法が使える点が気に気を取られているのか、双子達はその事に気にすることなく手紙を読み始めた。

『キュウさんへ
 人狼のハティとスコルがミズガルズに行くことになったので、もしかしたらビーストハウスに来るかもしれません。その時は色々教えてあげてください。
 あの子達戦闘とか魔法なんて無縁ですが、言われたことはやる良い子なので。
 あ、あと近々ツケのお酒の料金を請求しますので、ちゃんと払ってくださいね?
 追伸
 双子を傷つけたらツケを倍にします。
 ライラより』

 と手紙には丁寧かつ読みやすい字で文が書かれている。

 しかし、一時的に面倒を見られていた双子達にとってはライラプスの敬語は怒りの印らしく、この手紙は自分達よりツケのことを伝えたいのだと、彼女達は見て取れていた。

「キュウさん~ライラプス怒ってるよ~?多分ツケ払わないと相手してくれなくなるよ~」

「な、なんだって……とでも言うと思ったかい?残念だったね、私はライラの怒りには慣れているのさ。それと私はキュウさんじゃなくて九尾だよ、言わなかったかい?」

 今まで名乗ったことがないのにも関わらず、あたかも名乗るのは二回目だと言わんばかりに、コテっと口調に似合わないほど可愛く首をかしげ、その言葉を放つ。

「今初めて聞きました」

「それは失礼したよ。で、話がかなり脱線したけど本題だ。その手紙に書いてあるとおり、ライラから信用してくれって言われてるけど、私から一つ“頼み事”がある。それを達成したら信用してやるよ。あとちょいとその鞄と魔導書貸しな」

「あ、どうぞ」

 目の前で信用できないと言っているようなものだが、ライラプスのことや母親のことを知っているとなると、信用しないわけもいかず双子達は九尾を信じることにする。

 故か肩からさげている魔導書ホルダー型の鞄を、なんの躊躇もなしに魔導書が入った状態で九尾渡した。

 一体鞄がどうしたのか。その答えは九尾がフェンリルの名を知っていたのと同じ、いやそれ以上に驚く内容だった。

「ーーやっぱりね。あんたらエリスに騙されかけてるね」
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