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第一幕・擬態者の核を砕け

ロリコン疑惑のフォルネウス

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「そうだ……もう遅いだろうし家に来ないか?」

「って何堂々と誘拐しようとしてるの!?フォルネウスさん!?」

「熟女は黙ってろ」


 双子の獣人に危機が迫っていると感じた体力不足で黄緑の髪を持つ女騎士、エリスは二人を守るかのようにして話の間に入り、一見危ない青髪のフォルネウスを止める。

 しかし、間に入られた事からか声色を変え、まるで激怒でもしているかの如く低い声で、そしてエリスを睨みその言葉を放った。

 勿論、騎士たるもの、そんな脅しまがいの物には決して屈することはなく。

「おいこら、ロリコン。セクハラで捕まりたい?って私は十八歳だっての!」

「十五歳超えたら熟女だろ」

「よし、捕まりたいってことでちょっと手を出してくれるかな?」

「ふん、熟女に捕まってたまるか!ましてやあの男になんて反吐が出る」


 どちらも引く気はなく口論が始まってしまった。

 セクハラで捕まえようにもフォルネウスはゼウス以外からは捕まることがない程素早く、たとえ捕まえても何故か拘束を解いてしまう。それを経験しているからこそ、余計な事はせず口論になっているという訳だ。

 だが、彼女には秘策がある。それはこの口論から抜け出すことも彼を捕まえることも出来る秘策。

 その秘策は“もう既に始まっていた”


「おらおらぁぁぁ!」

 突如、街中からとてつもなく威勢の良い大きな声が響き渡る。勿論その場にいるエリス、フォルネウス、双子のハティ、スコルも知るあの筋肉が付きまくりガッチリとした身体の男、ゼウスの声だ。

 聞こえてから僅か一分程で彼女達の前に土埃と共に現れるが、それだけの体力を使い息を荒らげていないのは謎に充ちている。

「フォルネウス!またお前か!」

「俺はそこのじゅーー」

「ゼウス先輩!早く捕まえてください!その人セクハラと誘拐の罪があります!」

「おいまて、誘拐はしてないぞ」

「セクハラは認めるんだな!?」

 またもフォルネウスが熟女と言おうとするが、それを隠すかのように女騎士がフォルネウスが犯そうとしていた罪を言葉にして吐き捨てると、青髪の男は過ちを犯してしまい、すぐさまゼウスに拘束されて再び取調べ……いや、彼の場合留置所に連れてかれるのだった。

「な、なんか凄かった~」

「大変なんですね……エリスさんもゼウスさんも……それにしても何故ゼウスさんはここに来たんですか?」

「あ~気になるそれ~」

 秘策があってこそゼウスをここに来させ、フォルネウスを捕まえることはできたものの、ハティ達は勿論その秘策は知ることは無い。
 しかし、エリスが即座に思いついた秘策はとても簡単なものだ。

「ここからあそこの“見張り台にゼウス先輩を見つけた”からね、こんな所で喧嘩してたら来るだろうなって思ってたの」

 と城の近くにある……いや、城の一部に過ぎないであろう辺りを見渡すために作られた見張り台を指さして言うが、街の入口からそこまではかなりの距離がある。ざっと十キロ程。しかしハティ、スコルには見張り台の上に誰かいるとわかっても、人物を特定できる程視力はない。

 普通の人ならば尚更見張り台の上に誰かいることを捉えることはできないだろう。

 だがエリスはそれを可能にしてみせていた。

 元々彼女は人並外れた視力の持ち主、例え二十キロ程距離が離れていようともその先にあるものを見ることができるのだ。

「さてと、それじゃあハティさん達の家に向かおう!」

「は、はい」

 体力不足のエリスにも凄い取り柄がある事を実感し言葉を失っていたが、当初の目的であるミズガルズの家への引越しを果たすべく先頭を歩くエリスについて行く。

 街のことなどを聞かされつつ数分もの時が経った頃、ようやく双子の新しい住宅へたどり着いた。

「ここがハティさん達の家だよ、って結構大きいなぁ……」

 目の前に存在するハティ達の家は周囲にある人の家の二倍はあり、双子の彼女達じゃ手に余るほど、いやその場にいる三人がそこに住んでも余ってしまう程大きく、されども豪邸という雰囲気はない家だった。

「まぁ、暮らすだけじゃ物足りませんから……何かできるようにと色々考えた結果、大きめな家にしたんです」

「なるほどね……あ、魔法結構使うだろうから……とりあえずこれ、基礎魔法一覧。この一覧以外の魔法はこの街じゃ使えないから注意してね」

 と、彼女達の為にかいつも持ち歩いている基礎魔法が書かれたメモ帳を渡す。

 パラッと見れば〈フレイム〉、〈ウォーター〉、〈ウインド〉など、日常生活用に調整された魔法の詠唱文がずらりと書かれていた。

 それに、彼女が書いた字が読みやすい程に綺麗で魔導書と違い古代の文ではない。だからこそなのか魔法を唱えることが出来るハティは、それをありがたく受け取りエリスに別れを告げて家の中へと、入るのだった。
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